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マジで普通の異世界転生 〜転生モノの王道を外れたら即死w〜  作者: へぐ(hoeg)
第六章 スリー・オン・スリー
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騎士の任務


 仕立屋に鎧が届けられてから4日も経った。


 ラーナボルカ伯爵はアクシノの命令でミケを騎士にしなければならないはずだが、鎧だけ届けていつまでも三毛猫を回収しに来ない。


 俺はこの4日パーティから外されていて、バイトを終えるとすぐ自宅に戻り、リーダーのための鎧を補修しまくる生活をしていた。


 ステータス画面で〈再起動〉を選べば即座に眠れるので作業は連日深夜に及び、地球じゃまるで縁の無かった「社畜」という言葉が脳裏に浮かぶ。


 そんな調子で4日目の朝、再起動(きぜつ)から目を覚ました俺は父さんが作った謎の炒めもの(ナンダカは回鍋肉だと主張したが魚料理で、しかも味噌バター味だった)を無理に食べ、リュックを背負い、さらに両腕に重金属Ag製のクソ重い銀鎧を持ってお隣さんをノックした。


 ドアを開いたのはポコニャさんだった。


「にゃ……カッシェか。また職員が報告に来たと思った」

「それじゃ、今朝は出なかったんですか?」

「どうかにゃ。このあと報告に来るかも——いや、来やがった」


 話しているとギルド職員のウラルさんが来て、ため息をついて言った。


「また人狼です。今回はパン屋が襲われました。煩わせたくないので先に現場を見てきましたが、今回は死体が2つ——例によって、鑑定結果はいずれも外国人でした」

「なあウラル。そろそろ迷宮に行かねえと、あちしや仲間が破産しそうにゃのだが」

「しかし連日の強盗事件ですし、毎回外国人の死体ですから、報告書は出さないと。それに街の商人がカネを出し合って、ギルドに高額の討伐依頼を出す相談を始めています」

「にゃ……それは朗報だにゃ。剣閃が引き受けて忌々しい泥棒野郎をぶっ殺して良いか?」


 ポコニャさんは不穏な相談をしながら去っていき、旦那のヒゲと寝起きのミケが背中を見送る。


「にゃ……ドロボーがうちの店を襲いに来たらミケが倒すのに」

「いや待て娘よ。懸賞金が出そうだから俺たちに殺らせてくれ。泥棒が無きゃ5層にあるって噂のゴブリン村を潰しに行く予定だったのによ……」


 お隣さんの朝食はうちよりマトモで、こんがり焼いた白身魚のソテーとトーストだった。子猫が食べ終えるのを待った俺は補修した銀の鎧を着せ、配られた当初よりずいぶん体にフィットした鎧に、子猫はグッと親指を立てた。


「にゃ☆ 子猫はパルテを見直した! テンチョーのゆうとうり、服は最高。鎧は最悪。最低のクソ」

「……褒めてくれてありがとう。今日も徹夜したかいがあるぜ」

「褒めた覚えはない。相変わらず制服より脆いくせに重くて動きにくい。それに、音がする……」


 皮肉は通じず、ミケはラヴァナ家のリビングで腕を振ったりジャンプした。銀の板を張り合わせたスケイルメイルは動くたびにガシャガシャと鳴り、子猫は音が鳴るたびに舌打ちした。


「おいカオス……この数日何度教えたかわかりませんが、こんな鎧では『怪盗術』が使えないのだが? 無駄に足音を立てるアホは怪盗になれません」

「知ってるって。だから最近は、母さんの鎧は皮で作ってるし」

「どうせ着るならナサティヤおばさんの鎧が良い。あれは軽くて丈夫だし、全然音がしない。歌様に取られたチェインメイルも悪くなかった。あれはサラサラですごく軽いし、音もほとんどしなかった……騎士はどうしてこんなものを着る?」

「俺に聞かれてもな……まあ性能はともかく、見た目はかっこいいぞ?」


 ミケはぶつくさ文句を言いながら火鼠の皮衣を鎧の上に羽織った。兜は猫耳を畳む必要があるので着用しない。


 ヒゲのラヴァナさんが退屈そうに言った。


「今日もバイトか、娘よ」

「にゃ。ママのせいで1金貨を稼がねば迷宮で冒険できません——昨日めっさ服を買った奴がいたから、来月までは大丈夫そうだが」

「そうか。その迷宮なんだが……おまえこの数日はムサを入れて攻略してるだろ。昨日あいつと飲んだ時に聞いたぜ。いつもダメだぞと言い聞かせてるのに、こっそり5層まで行ったとか」

「……にゃ?」


 ミケは激しく目を泳がせたが、ラヴァナさんは大らかに笑った。


「怒ってるわけじゃねえよ。確かに5層と聞いた時は驚いた。危ねえだろってムサに怒鳴っちまったが、まあ、よく考えればムサがいれば大丈夫だもんな。それよりママはギルドで忙しいから、俺ら〈剣閃〉と組まねえか。パパは退屈で死にそうだし、俺らと組むなら6層まで行って良いぜ」

「にゃ……にゃ……」


 ミケは受け答えに窮した。階層が問題なのではない。俺たちはムサと密かな契約を交わしていて、だから迷宮にムサを連れて行っているのだが、それを打ち明けるわけにはいかなかった。


「残念ですが、お断りします。ミケはリーダーですから、お父さんと一緒に冒険なんて仲間に笑われてしまいますよ」

「……! それ! カッシェのゆう()()()! 三毛猫はリーダーなので、仲間に示しがつきません」

「別にそんなの笑う冒険者は居ないだろ。俺らと組めば有利だぜ? 三本尾の他のメンツはともかく、俺たちとおまえら2人が組めば前人未到の第10層だって夢じゃねえ。噂じゃそこが最下層だ」

「にゃにゃ、バイトに遅刻する! テンチョーに怒()()()ので!」


 ラヴァナさんは娘の拒否にショックを受けた様子だったが、すぐに首を振ってミケを送り出した。


「……ムサにも言ったが、探検は5層までだぞ。それより先に行きたいならパパたちに声をかけるんだ」

「にゃ」


 ミケは適当な返事を返し、銀の鎧をガシャつかせながら俺の自転車の荷台に跨った。


 店に着くと、そこには4日前に男用の鎧を置いて逃げやがった初老の従者がいて、黒い燕尾服を着たそいつはミケに深々と礼をした。吸血鬼のパルテは盛大に舌打ちしたし、子狐と子狸は心配そうな顔をしている。


「事前に通知してくれよ。さんざん待たせた挙げ句、朝一番に突然来やがって」


 従者は店長の文句が聞こえていないふりをした。


「騎士様、叡智アクシノ様の下したご命令を果たさねばなりません」

「にゃ……それじゃ今日から?」

「本日より3日間、ミケ様には泊まり込みで“騎士”の任務を務めていただきます」



  ◇



 ハッセは門番用に支給された銀の鎧を装備し、ラーナボルカ様のお屋敷の広間を無意味に右往左往して、落ち着かない気分を誤魔化そうとしていた。


 ダラサ語で部下に叫ぶ。


「いいか、しくじるなよバラキ! 鬼族としては口惜しいだろうが、馬鹿猫には常にエサをくれてやれ。良いものを食わせて、猫が寝たいなら寝させて、我らのことをなにも知らせるな」

「心得ております」


 年老いた鬼はハッセに頭を下げ、騎士団長は次に義妹を睨みつけた。義妹はずっとシェイクを吸っていて、目線に気づくとアホな笑みを浮かべた。


「ニョキシー! ジビカ様は、敵の狙いはお前だ。街ではこのところ人狼による強盗事件が多発しているそうだし——」


 最初の強盗はともかく、そのあとの強盗は騎士団と無関係だった。犯行グループに人狼がいて、それが毎日続いているというのが実に薄気味悪い。どこの誰だが知らないが、我ら騎士団への当てつけか……?


「お前は屋敷の自室に隠れていろ。仮にミケと会うことがあっても会話してはいけない。子猫になにを言われても無視しろ。お前には抜けたところがあるから、会話しないのが一番だ——当然だが、我らの故郷の言葉は禁止だぞ。ダラサ語を禁じる! お前は元々鑑定不能だが、念のためコインは常に持ち歩け。それに、運良く手に入れた火を阻害する首輪も外すな」

『必ずそう致します、兄上』


 ニョキシーは平伏しタスパ語で答え、ハッセは妹の態度に満足した。


「——団長、どうも来たようですぞ」


 副団長のバラキが鋭く報告し、ハッセは髪を赤く染め、すべての部下を睨みつけた。ラーナボルカ様は4日かけて全員分の銀の鎧を用意してくださり、騎士団は今、この街の騎士たちと同じ姿をしている。


「子猫の前ではタスパ語を——レテアリタ語を話せ。あの子猫は佞智アクシノの命令で来たのだから、無駄な情報を与えたくない。言葉に自信の無い者はニョキシーと同様に沈黙で通せ」


 騎士団の全員がハッセの言葉に頭を下げた。騎士の中にはシレーナもいて、銀の兜で顔を覆った。



 窓際で、そんな騎士団の様子を一羽の火頭雉(かとうきじ)が見守っていた。羽の音がして、すぐ隣に白い鳩が降り立つ。


「珍しいね、ニケ。まだ〈天罰〉はしないよ? 勝手に動くとアクシノがうるさいし、これはカオス()との契約にも関わることだし」

「それでもさすがに今日は見張るよ……ますよ。ミケが来るし、今はフォーコを名乗ってるあいつも頑張ってる。それに見守らないのは契約違反だ……です」

「契約か……あの子はほんとに死んだのかな」

「アクシノのアホが夢中のアレすか? あれはシュコニじゃありません。ロボだかなんだか知らねえけど、叡智の神がわたしの前で“夢中”になるなんて……」


 ラーナボルカの屋敷に子猫が侵入した。女性用に打ち直された銀の鎧を身に付けたミケは堂々とした態度で広間に通され、引きつった笑みを浮かべる「半月の騎士団」と相対した。


「にゃ……仕方ないので来てやったが、騎士の任務とは?」


 副団長のバラキが誰より早く前に出て言った。


「本日より3日、貴殿には貴族街の門番の任務を行ってもらう。かかる任務は叡智様による神託であるので、天罰を怖れるなら逆らわぬように」

「にゃ。そうしてやってもよい」


 少し大きい銀鎧を身に付けた子猫は火鼠のマントを翻し、偉そうにあくびした。


 そのすぐ隣には、老いた殺人鬼がいる。




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