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三本の尾


 ラーナボルカ市で最も若い冒険者パーティ「スリー・テイルズ」は、3本尾という名称に反して5名のメンバーを有している。


 うち3匹の少女は名前の通りしっぽを持つが、残り2人はしっぽ無しだ。


 2年前、バイト先で2人の親友を得たリーダーがパーティ名を変更すると宣言したとき店長パルテは激しく抗議したのだが、子猫は決して聞き入れなかった。


『にゃ? テンチョーはクソ雑魚なのでリーダーに従うべき。それに今まで名乗ってた「ザ・ウユギワーズ」は、よく考えるとダサい……。三毛猫はバイトを始めて学習したのです。仕立屋(テーラー)パルテ・スレヴェルに比べると、今のパーティ名には品格が感じられない』


 自分の店名を引き合いに出された店長は「ぐぬぬ」と黙り、通名が混沌の影()たる俺も別に反対しなかった。結果、店長と俺はパーティ名から存在を抹消され、ラーナボルカの新人パーティ「スリー・テイルズ」を名乗ることになった。



 そんな俺たちにとって、ノモヒノジア迷宮の第1層は歩き慣れた庭だ。


 元は天然の洞窟だったと聞く第1層の壁は長い歴史の中で整備され、全面をレンガに覆われて探索しやすい。落書きだらけの壁には数メートルごとにランプが輝いていて、新米冒険者が毎日油を補充している。面倒な割に160銅貨(カウド)しかもらえないので俺たちはやらないけど。


 各階につき7つある階段の先は浅層であればマッピングされていて、鬼猫(ギルマス)は娘であろうと容赦なく情報料を取ったが、続く3層の先まで——累計343フロアについては完全な地図が出来上がっている。


 加えて言えば「三本尾」には3名もの鑑定持ちがいるので、第1層に出現しうるあらゆるモンスターは「既知の敵」だった。


「にゃ。敵」

「「 鑑定 」」

「——!」

〈——絡新婦(じょろうぐも)が8匹とスコールが15匹、さらに奥からアピスが来ます。オススメの戦略は……〉


 俺の脳内で叡智アクシノが警告を発すると同時にパルテ店長と子狸ノールが神託を受け、鑑定レベルの差によって多少は内容が異なるだろうが、俺たちは概ね同じ神託に従って敵の相手をした。


〈——結界術・濁流:間欠泉——〉


 赤黒い蜘蛛は俺の担当だ。この5年で覚えた結界魔法陣をダンジョンの床に〈印刷〉し、蜘蛛8匹が壁や床に現れた魔法陣を踏み抜いて水圧に潰された。衣服に使える糸を撒き散らして果てる。火を使うと糸がダメになるので俺がやるべき相手だ。


 残る15匹はスコールという灰色の狼で、肉は臭くて食べられないし、毛皮も固くて衣服に向いていない。つまり手加減無用だった。


〈——血界術・血判:鋼鉄の処女——〉


 吸血鬼のパルテは指先を針で突いて自分の前の空中に血で簡単な図形を描き、トゲだらけの棺桶を召喚して狼を閉じ込めた。棺桶の隙間から串刺しされた敵の血が滲む。


 パルテは3匹の狼を前に2匹を潰したが、1匹は棺桶を逃げ出して店長に噛み付いた。これは()()()で、店長は2、3回足を噛まれたあとタヌキのほうへ狼を蹴飛ばした。


〈——無詠唱・落雷:10万ボルト——〉


 魔法使いそのままの三角帽をかぶった子狸ノールは白紙の魔導書を無意味に開き、右手をクワっと突き出して、まったく無意味ながら、いかにも魔法を使っているというポーズを取っていた。


 足元にはなんの意味も無い魔法陣が青白く輝いている。俺がわざわざ印刷してやったもので、つい昨日、仲間内の賭けで負けたため描かないといけない。ノールが筆談で言うには「かっこいいからやれ」とのことだ。


 地球なら中学生になる子狸は一言も喋らなかったが、青い魔法陣に照らされてずっと得意げな顔だった。


「——!!」


 くらえ! とばかり子狸が右手を突き上げると、そこから電気鼠先輩を思わせる雷撃がほとばしる。狸は丸い耳を持つので、パモ●トとかデ●ンネのほうが適切か。ノールは無詠唱の魔法を連打し、空気が電離する激しい爆音とオゾン臭がした。すべての狼が感電死する。


「!! ——♪」


 子狸は自分が全滅させたスコールの群れを前にピョンピョン跳ねて嬉しそうに笑い、2本の三つ編みと、黒の制服に包まれた歳の割にたわわな双丘を上下させた。


「にゃ……子猫の活躍の機会が」


 ミケがつまらなそうに唇を尖らせて革製の指ぬき手袋をいじくった。斥候のミケは一応モンスターを撃破していたが、霊爪で切り裂いたのは「アピス」という魔物1匹だけだった。アピスはゴツい牛系の魔物で、肉は牛肉そのままなので食用になる。


「ミケはまだ良いわ。わたしは詠唱が必要なのに、他のやつらは唱えないでドーンよ? 弓を装備して来れば良かった」


 出遅れたスーサイドアップの子狐は不満顔で舌打ちしてふわふわのしっぽを体の前に丸めていて、その後ろでは、よせば良いのに俺たち「スリー・テイルズ」を見学しに来た老人が腰を抜かしていた。


「パ、パルテ、お前スコールに噛まれて——」

「わざとだよ。あんな雑魚に負けるか」

「なんと!? しかしお前、この前わたしが見に行った時は狼に怯えて……」

「それって去年の春じゃねえか。おれはまだレベル6だったし、あの頃はまあ、油断したら死んでただろうけど」

「騎士っ……! わたしの孫はまさしく騎士だ! お前の父は『おやつ』すら怖がったと言うのに……どれ、無理をせず怪我を見せてみろ!」

「なっ!? やめろ、くっつくな! マジで怪我なんてしてないから!」


 爺さんは酒もあってか涙を浮かべて孫に抱きついた。孫と老人は楽しそうだが、魔物の出る迷宮で大騒ぎするのは控えてもらいたい。


 パルテは爺さんを「説教ばかりする」と嫌がっているが、単に孫好きの祖父から可愛がられているだけだよねというのが全社員共通の理解だった。


 リーダーのミケがため息をついて仲間に指示を出す。


「……にゃ。とにかくカッシェは全員の残りMPをミケに報告。他は糸と牛肉、それに魔石の回収をやれ。エプノメがいるし、今日の探索はここまでとする。ミケの倉庫で少し休憩したら引き返す」


 リーダーの簡潔な指示を受け、俺はステータス画面を開いた。〈大本営アプリ〉によって、鑑定阻害を持つノールを含め、全員の状況が詳らかにされる。


 7歳のときアクシノから聞いた思い出話によるとシュコニも実は使えていたという〈大本営〉は、互いが仲間と認定した人間すべてのステータスをノーコストで鑑定できる割とチートな能力だ。


 このアプリは俺が生まれ持ったステータス画面と同様に鑑定レベルに比例した情報(つまりレベル9の鑑定結果だ)を通知してくれるし、今の所はしていないが、鑑定結果を偽装することもできる。


 メンバーの中で最もMPを消費しているのは丸一日地球召喚でカメラを呼び出し電子レンジを使った俺だったが、消費は微々たるものだった。



——————————————


名前:カオスシェイド〈通常〉

SP:0

年齢:12

職業:仕立屋パルテ・スレヴェルのバイト

出身:レテアリタ帝国シラガウト伯爵領ウユギワ村(滅亡)


加護:星辰の加護Lv∞ 叡智の加護Lvi


前科:なし


称号:

 豆少年 

 Gランク冒険者(未成年の冒険者はGランクに固定される)


所属1:スリー・テイルズ

 ミケ/ユエフー/ノール/パルテ


所属2:剣閃の風

 ナンダカ/ナサティヤ/ラヴァナ/ポコニャ/ムサ



スキル:

 鑑定Lv9 翻訳Lv3

 教師Lv2

  ポコニャ/ナンダカ

 無詠唱Lv4

  鑑定/調速/火炎/濁流


 倉庫Lv1 ※停止中

 鍛冶Lv9 裁縫Lv4


 小刀Lv9 木工Lv3 骸細剣術Lv3 解体Lv3

 体術Lv1 印地Lv5 邪鬼心夢想流Lv3


 結界Lv4(取得済の詠唱系スキルを図形から発動させる)

 水滴Lv9 濁流Lv4

 火炎Lv9


 調速Lv3

 拝聴Lv4

 演奏Lv6 ※歌様の伝言で「もっと披露しなさい」とのことです

 歌唱Lv0 ※歌様の伝言で「あなたも歌いなさい」とのことです


固有スキル:極大魔法 地球科学


レベル :27(5,723/27,901)

HP  :3/3

MP ◎:15,109/23,371

腕力 ○:1,706(709+997:武器1)

知性 ◎:4,003

防御 △:1,273(223+1,050:防具1)

特防 △:773(223+550:防具1)

敏捷 ○:573(409△4%+180:防具2)


武器1:

 シルフの懐刀(+747)

 試作の安全靴ver3(+250)


防具1:

 試作のパーカー(+450、+150)

 試作のジーパン(+350、+150)

 試作の安全靴ver3(+250、+250)


防具2:

 試作の安全靴ver3(+150)

 シルフの懐刀(+30)


特殊防御:

 安全靴に仕込まれた鍛冶の陣により、MPと引き換えに着地の衝撃を緩和。

 また同様に、レベル3までの火と水の魔法を軽減。



——————————————


名前:ミケ〈寝不足〉


所属:スリー・テイルズ(リーダー)

 カオス/ユエフー/ノール/パルテ


加護:冒険の加護Lv9 剣神の加護Lv9 拳神の加護Lv9 


前科:

 食い逃げ 3,218回

 小遣い泥棒 279回

 反則行為 997回


称号:

 泥棒猫(怪盗術の成功率を3%上昇)

 股旅者(怪盗術の成功率を2%上昇)

 Gランク冒険者


スキル:

 望剣Lv5

  豚氏太極剣 骸細剣術 邪鬼心示現流

  邪牛新陰流 天然理心流


 望拳Lv4

  豚氏太極拳 豚氏長拳 豚氏八極拳


 冒険術Lv3

  解体 罠感知 罠設置 地図 冒険


 怪盗Lv7

 倉庫Lv2


 拝聴Lv3 ※停止中

 演奏Lv2 ※歌様の伝言で「もっと練習しなさい」とのことです

 歌唱Lv2 ※歌様の伝言で「歌詞を忘れないで!」とのことです


レベル :21(5,703/23,741)

HP  :2/2

MP ○:580/582(727△20%:常世の倉庫)

腕力 ◎:6,000(2087+3913:武器1)

知性 △:137(107+30:侘助(わびすけ)のヘアピン)

防御 ○:3,031(353+2,678:防具1)

特防 △:3,052(151+2,901:防具1)

敏捷 ◎:2,276(1,217+1,059:防具2)


特殊防御:

 火鼠の皮衣により、1秒につき1MPで火属性無効。

 パルテ31により、MPと引き換えにLv3までの火・水・土・風・雷・毒・鑑定を軽減。

 さらにLv1までを無効化。

 侘助のヘアピンによりLv1までの鑑定を感知。


武器1:

 霊爪シュコニ(+3,333) ※3本使う時。最大20本。

 パルテNo29:猫の手グローブ(+500)

 試作の安全靴ver2(+80)


防具1:

 火鼠の皮衣(+1,777、+1,999)

 パルテNo31:ジャパンの学生服(+780、+780)

 試作の安全靴ver2(+60、+60)

 パルテNo4:絡新婦の“寄せて上げる”下着(+50、+50)

 パルテNo7:混沌の化粧水(+3、+7)

 パルテNo18:混沌の口紅(+1、+2)

 試作のチーク(+7、+3)


防具2:

 霊爪シュコニ(+999) ※3本使う時

 試作の安全靴ver2(+60)



——————————————


名前:パルテ・スレヴェル〈通常〉

所属:スリー・テイルズ


加護:

 叡智の加護Lv1

 血脈の加護Lv7(血液について特異な技を獲得)


称号:

 Gランク冒険者

 レテアリタ帝国子爵 ※喪失


スキル:

 鑑定Lv5 翻訳Lv5


 血界Lv3(血液をコストに魔法陣を描く)

 血脈Lv2(血属性魔法を使う)

 吸血Lv1(敵の血を力に変える)


 裁断Lv6 裁縫Lv2 調合Lv1


 罠感知Lv2 地図Lv1 解体Lv3


 倉庫Lv2

 拝聴Lv6(ヒトの可聴域を遥かに超えた聴力を得る)


レベル :12(12,053/13,297)

MP ○:321/321(401△20%:倉庫)

腕力 △:344(89+255:チタンの縫い針)

知性 ◎:1,213(1,013+200:試作のネクタイ)

防御 △:1,337(103+1,234:試作の紳士服)

特防 △:1,090(103+987:試作の紳士服)

敏捷 △:157(109△2%+50:試作の革靴)


特殊防御:

 試作の紳士服により、MPと引き換えにLv4までの火・土・風・雷・毒・鑑定を軽減。

 Lv1まで無効化。

 水についてはLv5まで軽減。Lv2まで無効。



——————————————


名前:エアクスパウンプ——中略——ムドノール〈通常〉

出身:レテアリタ帝国ルーコ・ルア自治区

年齢:13

加護:叡智の加護Lv7


称号:

 叡智との契約者(喋ったら天罰)

 Dランク冒険者


スキル:

 鑑定Lv6 翻訳Lv5

 無詠唱Lv7

  鑑定/雷鳴/落雷/草木/森林/小石/回復


 雷鳴Lv9 落雷Lv3

 草木Lv9 森林Lv1

 小石Lv5 回復Lv4


 腹鼓Lv4(体が敵に打たれたときその鼓動を詠唱に変える)


レベル :18(9,558/18,329)

MP ◎:1,203/1,759

腕力 △:103(97+6:アブラメリンの日記帳)

知性 ◎:2,236(2,113+123:アブラメリンの日記帳)

防御 △:1,718(97+1,621:防具1+防具A)

特防 △:1,723(97+1,626:防具1+防具A)

俊敏 △:122(97+25:パルテNo30)


防具1:

 蛟竜(こうりゅう)のローブと帽子(+666、+666)

 アブラメリンの日記帳(+66、+66)

 いずれの防具も鑑定を阻害する


防具A:

 パルテNo31:ジャパンの学生服(+780、+780)

 さらに上記の特殊防御

 パルテNo30:ジャパンの学生靴(+50、+50)

 パルテNo4:絡新婦の“寄せて上げる”下着(+50、+50)

 パルテNo7:混沌の化粧水(+3、+7)

 パルテNo18:混沌の口紅(+1、+2)

 パルテNo11:混沌のチーク(+5、+5)



——————————————


名前:ユエフー・コン・フォーコ〈通常〉

出身:ツイウス王国ツナウド諸島アラールク市


加護:

 ■■の加護Lv■ ※特例により表示できません

 吹雪の加護Lv5

 黄昏の加護Lv3


称号:

 Eランク冒険者

 ※■■の加護を持つため、月の眷属ではありません


スキル:

 影Lv7

 微風Lv9 暴風Lv2 粉雪Lv9 豪雪Lv2

 解体Lv4 地図Lv3 罠感知Lv2 罠設置Lv1


 エルフ弓術Lv5 小刀Lv5 裁縫Lv2


 拝聴Lv5(後天的に絶対音感が得られる)

 演奏Lv1 ※歌様の伝言で「もっと練習しなさい」とのことです

 歌唱Lv2 ※歌様の伝言で「もっと歌いなさい」とのことです


 変化(へんげ)Lv3(知人に化ける)


レベル :18(8,007/18,329)

MP ○:607/607

腕力 △:413(113+300:チタンの杖)

知性 ○:893(733+60+100:パルテNo27のマント+チタンの杖)

防御 △:1,190(101+1,089:パルテNo27のマント+防具A)

特防 ○:1,502(463+1,039:パルテNo27のマント+防具A)

俊敏 ◎:643(631△2%+25:パルテNo30の学生靴)



——————————————



 重複をカットしたステータスはこんな感じで、全員のステータスのうち、ぶっちぎりでどうかしているのはミケの腕力6,000だ。歌の邪神が俺たちに寄越した〈演奏〉や〈歌唱〉、それにユエフーの「■■の加護」なんてどうでもいい。


 冒険のニケから爪をもらった子猫は平常時で父さんの倍以上の攻撃力を持つし、全開なら〈ひのきのぼう〉を装備したラヴァナさんを超える。


 しかも三毛猫は防御も異常で、火鼠の皮衣を持ち、仕立屋パルテ・スレヴェルでも最高級の「学生服」まで装備している少女を傷つけられるモンスターは少ないだろう。


 あの学生服は俺が地球の学生服の概要を店長に伝えて作ったドレス・アーマーで、店のスタッフが総力を結集して作り上げた最高級の装備品だ。ラーナボルカ市で入手できる最高の生地を使い、店の〈調合〉持ちが全力で作った薬剤で丁寧に漂白し、黒く染め上げ、店長が裁断したあとは俺がアホみてぇなMPを込めて裁縫しているから、この時点でオーク・キングの打撃にすら耐える。


 しかし守りはそれだけではない。


 あの学生服の裏地には俺を含めた〈結界〉スキルを持つ職人が魔法陣を刺繍していて、装備者のMPと引き換えにLv3までの各種魔法攻撃を軽減できるし、Lv1の魔法攻撃であれば無効化する。


 こうした技術はどれも俺と店長が「火鼠の皮衣」を鑑定しまくって覚えたものなのだが、本家の再現に至っていないのは俺達の裁縫や裁断スキルのレベルが足りていないからだ。シュコニが対ダンジョン・マスター戦に持ち出した理由がよくわかる。職人としては悔しいが、あれを作ったシュコニの母はドーフーシでも屈指の実力を持つ凄腕の職人だったに違いない。


 しかし剣閃の風で盾をしているムサでさえ防御力は2千程度なので、我ら仕立屋パルテの制服を装備している獣人3匹の防御ステータスは充分だろう。ミケなんて、術者が「死ぬかも」と感じなければ発動しない〈冒険術:冒険〉をここ数年発動できなくなっているくらいだ。


 少女らの装備を超えているのはパルテが試着中の紳士服くらいだが、あれは素材だけで10金貨(ドルゴ)を超えるので販売するのは現実的じゃない。原価だけで200万円の服なんて滅多に売れないだろう。


「いいから離せって! 見ろ、怪我なんて無い。うちの店の最高級品だぜ!?」


 パルテが祖父を振り払い、狼に噛まれたはずの足を見せて言った。


「おれやみんなの服には店の全職人の手が入ってるんだ。服屋ならわかるだろ? 今日もできるだけピンチになって、服に守ってもらって、職人たちのレベルを上げなきゃいけない」

「なんと……しかしお前、自分で着て、わざとピンチでレベル上げってずるくないか」

「どこがだ。命を張るんだぞ? ようやく慣れてきたけど最初は怖くて——」

「にゃ。テンチョーも冒険者らしくなってきたとゆうことで」


 リーダーが孫と老人の会話に割って入った。常世の倉庫を詠唱し、迷宮の壁際に細い入り口を開く。


「しかしエプノメには良いことを聞いた。お店でゆってた話、信じて良い? ラーナボルカ主催の美男・美女コンテスト——最強の服を作って、最強の男女に着せて、優勝すればそれぞれ100金貨(ドルゴ)!」


 ギルマスに毎月1金貨を上納している子猫は男女合計200金貨——4千万円という大金を夢見るように眠たげな目を閉じた。エプノメじいさんが頷く。


「うむ。しかしわたしの警告を忘れないでくれ——あの領主は〈月の眷属〉のはずだ。我が孫と同じ血脈の眷属として、わたしはあの独特な臭いをはっきりと覚えている……」


 俺たちはミケの倉庫に入り、少し休憩を取ることにした。




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