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マジで普通の異世界転生 〜転生モノの王道を外れたら即死w〜  作者: へぐ(hoeg)
第七章 悪役令嬢と誰でもない男神
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フィウの拐引


 カフェインは強烈に効いていて、徹夜したのに未だ眠れない。


 ベッドサイドの窓から青空を見上げる。聖地の空はどこを探してもレファラドの惑星が見えず、わたしはふとカオスシェイドから聞いた産みの父の訃報を思い出して感傷的な気分になった。


 ドアの向こうからカオスシェイドの父親が三毛猫の父ラヴァナと話す声が聞こえる。2人はチョコがうますぎると笑い、今度の冒険では大量に収穫しようと相談していたが……。


 最初の義理の父親は自分の嫁に毒を盛られて死んだ。その次の父も、その次の父もまた戦争で亡くしている。


 わたしの新しい人生は父親とあまり縁がないようだ。正直なところ、生まれてすぐから目まぐるしく「親」が変わったせいでわたしのそれへの感情は薄いのだが、たまに寂しく感じることはある。



  ◇



 裏切り者の乳母に抱かれ、わたしは乳母とマガウルと一緒に王宮の最上階にある広間へ通された。この10日ほど歩き回っていたが、一度も行ったことのない部屋だ。


 そこは、まさしく「玉座」というべき部屋で、床には赤い絨毯が敷かれ、部屋の奥、一段上がった場所には金で装飾された長椅子が置かれている。


 玉座の両サイドにはたくさんの貴族や家臣が整列していて、中には怪我をした者もいたし、得意げな顔で敵の首を抱えた者もいた。


 そして玉座には、切断された黒い竜の首が置かれていた。


「マガウル! 子供を回収してくれましたか」


 生首の置かれた玉座の脇には金髪の美しい女が立っていて、人の形をしてはいたが、背中には巨大な竜の羽があった。


 女は片腕に青髪の幼児を抱いていて、もう片方の手を5歳くらいの小さな少年と繋いでいた。金髪の少年もまた竜の羽を持ち、頭には血のついた王冠を被っている。少年は目を見開き、感情を失った顔で玉座に置かれた父親の首を見つめていた。座面から床へ血がぽとりと垂れた。


「その青髪の子は?」


 マガウルが鋭く尋ねた。


「わが国のロスルーコ子爵——いえ、もう伯爵だったわね。そこにいるロスルーコ伯爵の娘よ。ロスルーコは有能な竜だし、母親のほうも有力な鬼族……竜と鬼の間の種族は、こちらでは夜刀(やと)と呼ばれてる。Aランク冒険者の娘との交換には充分すぎるでしょう?」

「考えたのぅ……ニョキシーは竜と鬼のハーフと交換されたのであるから、純粋な竜たるその少年よりも価値として“格下”としたいのじゃな?」


 返り血でどす黒く染まった老人は楽しそうに笑い、第一夫人は肩をすくめるだけで返事を誤魔化した。


 わたしは横目でロスルーコと呼ばれた伯爵を見た。実直そうなその男もまた人の形で、赤い髪と口ひげを持ち、背中に赤い羽を生やしている。


〈竜族は人の形を取れるし、普段はああした見た目をしている〉


 ノー・ワンがそっと教えてくれて、


「さあ、()()を持っていきなさいマガウル。そうねぇ、これを差し出したのと引き換えに、ロスルーコにはニョキシーを与えましょうか。ニョキシーは今からロスルーコの子よ。伯爵だから王位継承権は永遠に無いし、我がダラサ王国に忠誠を誓う貴族として、新たな国王陛下のために働く……! 素敵でしょう?」


 夫人はマガウルに青い髪の女の子を渡し、乳母はわたしをロスルーコという男に差し出した。


 ロスルーコは困惑した顔でわたしを受け取り、横目でそっと自分の隣で泣く女を見やった。


「要らない……酷い……私の娘を返して……」


 美しい赤毛の女性が床に伏せて泣いている。頭からは二本の長い角が伸びていて、周りの誰もがその泣き声を聞かないよう目線をそらしていた。


 ……いや、ただひとりだけ女性を見つめている騎士がいる。


 わたしは貴族たちの政治的なやりとりに心底呆れていたのだが、その騎士もわたしと同感のようだ。


 マガウルと同じか、少し若いくらいだろう。極めて整った顔をした初老の男は髪の毛と瞳を真紅に変え、赤い角を長く伸ばし、激情を抑え込もうと必死に見えた。全身を黒い鎧で覆っていて、背中には赤いマントをかけている。


 初老の鬼は赤い両目に涙を浮かべ、腰に下げた剣を抜きたくてたまらない顔をしていた。


「……では、この鬼の子は預かる。ようやく国へ帰れるの。〈月〉はなかなかワクワクじゃったが、やはりわしには〈聖地〉での暮らしが良い」

「迷宮の帰り道には追加の〈月の眷属〉を派遣してありますから護衛に使いなさい。新しい国王陛下は約束を守るわ」

「助かる」


 夫人とマガウルはそんな会話を続け、わたしを抱いたロスルーコは、おそらく青髪の母と思われる女性に優しく言った。


「……おい、いい加減にしろ。泣くな。良いじゃないか。我が家は伯爵になったし、この子は〈聖地〉生まれの子……あの子より遥かに強い無敵の貴族になるだろう。これをあの子の代わりだと思え」


 ロスルーコがささやいた瞬間、女性は角を2倍に伸ばして立ち上がった。


「——ふざけるなッ! 娘を返せ!」


 そこからのことは一瞬だった。


 女性は信じられない速さでマガウルに詰め寄ったが、マガウルも負けていなかった。


「今さらなんじゃ?」

〈——○×◇:××——〉


 老人は赤子を抱えたままその場でくるりと回転し、女性の背後に瞬間移動する。彼は手刀で女性を打とうとしたが、


「姫様ッ! 私が取り戻します!」


 老騎士が剣を抜き放ち間に入った。


「ロコック、やめろ! 手を出すな!」


 ロスルーコ伯爵が怒鳴ったが老騎士は止まらず、


「黙れ、私はお前の騎士(ぶか)ではない! ——いつも、いつまでもあの御方の剣だ!」


 ロコックという名の老騎士は剣を振り回し、女性は両手に顔を埋めて泣いた。第一夫人が「殺せ」とわめき、わたしは自分を抱くロスルーコのアホに抵抗しながら全力で老人を応援した。


「ふあっ、そくー!(ファック、超かっこいい☆) きぅひー!!(殺ってしまえ!)」


 わたしがずっと憧れていた「正義の騎士」の姿がそこにあった。


 老騎士ロコックの赤いマントには白抜きで「+)」というクールな紋章があり、ロコックは吠えながら殺人鬼に挑んだ。


「ほほう! 貴様“死”を覚悟しておるな? ——常世様が迎えの準備をなさっておるぞ!」

「ぬかせ外道が!」


 殺人鬼は騎士をあざ笑い、卑劣な手に出た。マガウルは平然と青髪の赤子を盾に使い、その母が悲鳴を上げ、ロコックは慌てて剣を止めた。


「卑怯な……」

「隙ありじゃのうw」

〈——○●◇×◇:♂☆×△——〉


 殺人鬼の蹴りが鳩尾に決まり、老騎士の鎧が砕けた。ロコックは血を吐きながら飛ばされたがすぐに立ち上がり、息子なのか、似た顔立ちの青年が叫ぶ。


「だめです、父上……!」

「いいやアクラ、私は騎士なのだ——いつかハッセに、お前が同じ背中を見せてやれ!」


 ロコックは剣を構えて再びマガウルに突撃した。殺人鬼は赤子を盾にして残酷な笑みを浮かべたが、


「む?」


 鬼の老騎士は殺人鬼の眼前で一瞬かがみ、ふっと髪の毛を青くした。マガウルは不思議そうに眉を上げ、直後、老騎士の狙いを知って顔を歪めた。


〈——鬼術:走牛の黙礼(オラ・デ・ベルダ)——〉


 老騎士ロコックはあえて怒りを鎮めることで自分の頭から角を消し、再び激怒することで老人の脇腹に2本の赤い角を突き刺した。ロコックはそのまま頭を前に突き出し、胴を貫通した角が殺人鬼の背から伸びる。


「うぬ……! 面白い技じゃ!」

「死ね……! 私の命に変えてもその子は返してもらう!」


 ロコックは首ごと角を捻り、ワニがデスロールするように傷口を広げようとしたが、


「素晴らしい覚悟じゃ。常世様もわしも、貴様のようなのは嫌いじゃないぞ?」

〈——○×◇:××——〉


 殺人鬼はくるりと回ると老騎士の背中にワープし、手刀でトン、とその首を落とした。ロコックの首がボールのように転がり、アクラと呼ばれた息子が絶叫する。ロスルーコ夫人も涙を散らして叫んだ。


「では、わしは〈聖地〉に帰らせてもらう」

〈——○×◇:××——〉


 殺人鬼はまたくるりと回転し、青髪の赤子を連れたままどこかへ消えてしまった。




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