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計画

 クルドのくれた包みの中には、おいしそうなサンドイッチにクッキー、干し肉にピクルスが入っていた。

 叔父の目を盗んで私に食料を渡すのはそう頻繁にはできないだろうから、保存がきくもので、しかもそれなりに栄養バランスまで考えてくれたのだろう。

 もちろん、ブルックス医師のようにクルドも叔父に脅されている可能性もゼロじゃない。

 けれど。

 疑いだしたらきりがないし、何より食欲に勝てず、私はサンドイッチをむさぼるように食べた。

 少しおなかが満たされると、脳が冴えてくる。

 考えるのは、もちろんこれからのことだ。

 クルドの話が確かなら、マリアはアーサーを誘惑しようと試みているだろう。

 簡単に篭絡されるような人ではないとは思うものの。

 マリアは、派手めな顔立ちだが、美少女だ。

 同性から見れば鼻持ちならないわがままも、男性から見れば、愛らしく見えるらしく、かなりモテる。

 私とアーサーの縁談は、親同士が決めたものだ。

 ラドリス侯爵家としては、アーサーがミンゼン伯爵家の子女と結婚し、入り婿になれれば、それが私でなくても良いと考えるなら。

 アーサーは誠実な人だから、そんなことはないと思いつつも、冷静に考えて、私とマリアを比べたらマリアの方が可愛い。

 もし、アーサーが私でなくマリアを選んだら、私はどうなるのだろう。

 少なくともブルックス医師を脅し、毒を盛ろうとしたのだ。

 私はミンゼン伯爵家を着の身着のまま追い出される可能性だってある。

 もちろん、アーサーを信じているけれど。

 このまま、アーサーが助けてくれるのを待っているだけでは駄目だ。

 何か手を打つ必要がある。

 クルドの話が本当なら、ワンソンはファナックに対して、傷害の罪がある。

 それに、リサを解雇した叔父は、後見人の規定違反だ。

 その二つでも、叔父を後見人の座から引きずりおとすことは可能だけれど、もう一つ何かが欲しい。

 その時、ふと思い出す。

 父はあまりに金をせびる叔父に呆れ、数か月前に、叔父と男爵家の調査をした。

 内容ははっきり全部読んだことはないけれど、ずさんな領地経営でただでさえ傾きかけた財政だというのに、叔父は賭博を、男爵夫人とマリアはドレスや宝石を買いあさっているという結果だった。

 父の話では、交友関係にも問題があったらしい。

 その調査報告を見て、金を貸さないことに決めたと言っていた。

 あれがあれば、少なくとも後見人にふさわしくないという証拠にもなる。

 それを持って役所に飛び込めば、さすがに役所も叔父の規定違反をきちんと調べざるを得ないだろう。

 問題はその書類は父の書斎の裏の隠し部屋にあるということだ。

 隠し部屋と言っても、私の祖父が作ったものだから、叔父も知っていて、秘密でも何でもない。

 そもそも誰にも気づかれず、そこまで侵入することが今の私に可能だろうか。

 離れから脱出するのは、そこまで難しくはない。

 骨折した私が窓から脱出する可能性はあまりないとみて、窓には鍵がかけられていない。

 窓は、私の胸より高い。出れなくはないけれど、右足が思うように動かないので、かなり苦労することが予想されるけれど、やってやれないことはないだろう。

 問題は本邸に行ってからだ。

 食糧庫の扉は開いていることが多いので、そこから侵入することはできるだろう。

 父の書斎は二階。

 距離はそれほどないけれど、階段を上る必要がある。

 人目を忍び、足音を忍ばせ進むことは、松葉杖が必要な私に可能だろうか。

 そして、その書類を手に入れた後、屋敷を出て、役所に行くとして。

 ここから役所まで、徒歩で行くのは難しい。辻馬車を拾うとしても、それなりに資金がいる。

 私は、クローゼットを開いて、動きやすそうな服を選ぶ──といっても、選択肢はあまりない。

「トランク?」

 今まで気にも留めていなかったけれど、クローゼットの奥に古びたトランクが置いてあった。

 このトランクは、母が使っていたものだ。荷物を運ぶために使ったのだろうか?

 私はトランクを引っ張り出して、開いた。

 中身は空だ。

 だけど。

 このトランクは二重底になっている。わざわざ古いこのトランクを、リサが使ったとしたら──。

 私は丁寧に底板を外す。

『レティシアさま。念のため、ここに入れておきます』

 そこには、見慣れたリサのメモとともにアーサーからもらったネックレスと、母の形見の指輪が入っていた。

 


 



 


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