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皆さんこんにちは。
「水色の瞳を持った私は聖女になるらしいけどそんなの関係なく好きなことして生きていく!」
…という漫画の世界に転生してしまいました、普通の社会人に擬態したオタクです。
転生した経緯は普通。よくある感じ。
転生に普通もクソもあるのかって感じなのだが本当によくある話過ぎて語る必要もないくらい。…なのだが少し聞いてほしい。
トラックに轢かれて気が付いたらここに居ました。以上。
転生なんて、そういう小説や漫画が流行っている現代でこそよく聞く単語なのだが、まさか自分の身に起こるとは思うまい。
それに私は家族にも、生活にも特に不満なんてなかった。…いや、強いて言うならお姉ちゃんが欲しいなぁと、本当にほんとーに少し思ったくらいだ!
…それがいけなかったのだろうか…
「私の可愛い妹?どうしたの?」
「…何でもないよ。お姉ちゃん」
今の私の姉であるリーラが心配そうに私の顔を除いてくる。
…美人だ。
嬉しいけどなんか違う。
馬車の荷台に揺られながら考える。
これからどうするべきなのかと。
元の世界に戻る方法があるのか、それともないのか今の私にはまったくわからない。
転生小説でよくある、チート能力とかをくれる神様とやらにも会っていない。
受け入れがたい現実ではあるのだが、これが現実となってしまったためもう受け入れるしかない。
美人の姉をGETできたわけだし万々歳だと前向きに生きよう…
…ただね、さっきから頭痛と寒気が止まらないんですよ。
この子の身体になってからこの子の過去が一斉に記憶として流れ込んできたんだけど、やばい!!この子やばいよ!!!
この子ルートで漫画一冊描けるくらい壮絶な人生送ってるって!!!!
お姉ちゃんの事大好きなんだな!麗しき姉妹愛ってやつ?とか考えてた過去の自分の事殴りたい。
リーラと別れてからの彼女の人生はそれはそれは悲惨なものだった。
漫画でも彼女がリーラを庇って怪我をするシーンがよくあったのだが、彼女はそれが当たり前であるように育てられた。
「リーラのために生き、リーラのために死ぬ。自分の命よりリーラの命のほうが大事」両親には常にそう言われてきた。
リーラを守れるように子どものころから厳しい訓練、勉学を強いられ彼女に自由は無かった。
彼女の食事には常に毒が少量混ぜられていた。
「リーラが他所で食事をする際、あなたは必ず先に食べ、毒見をするの」と教えられて生きてきた。
少量とは言え毒である以上彼女は食事の旅に発熱や嘔吐等様々な症状に苦しめれていた。
「食事に毒を混ぜるのは、万が一の時にあなたの負担を少しでも減らすためなのよ。今慣れておけばあなたが死ぬ確率は少しでも減るし、これはあなたの為を思ってやっていることなの」とか言っていた母親の顔を殴ってやりたい。あの時既に中身が私だったのなら多分殴っていた。
彼女はそんな生活に不満を持っていなかった。なぜならそれが当たり前で普通の事だと思っていたから。
ずっと屋敷に閉じ込められていた彼女は教師や屋敷の使用人としか接点がなく、この生活は決して普通の事ではなく間違っているのだと彼女に教えてくれる人は誰もいなかったのだ。
それから、転生してからこの子の名前は何だっただろうかってずっと考えていた。
…でも思い出せない。
そして気付いてしまった。彼女には名前が無い!…と。
漫画で彼女は一度も名前を呼ばれていなかったのだ。
リーラからは「私の妹」、「可愛い妹」などと呼ばれていたし、周りも「リーラの妹」、「あなた」、「キミ」、「お前」…などとしか呼んでいなかったのである。
なんか悲しくて涙が出そう…。
彼女の事幸せにしてあげたい。
「お嬢さんたち、もうそろそろ着きますよ」
「おじさんありがとう~!!乗せてくれてありがとうね!歩いていこうと思ってたから本当に助かっちゃった!」
「ついでだし、このくらいなんともねぇよ!かわいいお嬢さん達に出会えただけで神に感謝ってな!」
「もう~!そんな褒めたって何もでないんだからね!」
私たちを荷台に乗せて運んでくれたおじさんと、リーラが笑いながら話しているのを聞きながら考える。
今は原作のどのあたりなのだろうか…