第5話 『Second, listen to me』
「私たちは、十分戦いました。しかし、かの者を滅するには至りませんでした。どうか、お願いします……
――私たちの希望を、未来を、あなたがたに託します」
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二度寝。
それは、神聖にして侵すべからざる
ピピピピピピピピピピ!!!!
――ちくしょう、もう6時か。昨日はスマホで動画も見ずに、早めに10時に寝たのだが、やはり昨日の疲れは尋常じゃなかった。今日は部活の朝練があるから、これ以上布団に入っている訳にもいかない。俺は、昨日より量が多い目やにを取るために目を擦った。
ふと、自分のモノが硬くなっているのに気づいた。こりゃあ夢で、エロいことでも見たのだろうか。全く思い出せないところが辛い。
では、想像するか。美人で巨乳で、優しいお姉さんが俺の上に乗っかってきて、手コキをして……ぐへへ。あれ、心なしか、アソコにゴソゴソ何かが触れるような感触が……
……見ると、黄色いリスが俺のモノのところにしがみ付いているのが見えた。
俺はそっとレンタを引き剥がし布団をかぶせて寝かせ、幸せそうな寝顔をしているレンタを置き去りにして部屋を出て、扉を閉めた。
部屋から離れると、何やら扉がガタガタ言っている。何だか面白くなってきた反面、このまま行けば扉が壊れるか、レンタが潰されて黄色い体が赤く染まってしまうだろう。それはさすがにカワイソーだと思った心の優しい俺は、レンタを部屋の外側に出し、階段を降りていくと、レンタは寝たまま、ずるずると引きずられている。
俺は階段を一気に駆け下りた。すると、レンタが俺に引っ張られ階段を転げ落ちていった。
「ぐ、がっ、ぶ、ば、げ!」
転げ落ちた衝撃と痛みで、さすがにレンタは目を覚ましたようだ。
「おはよう、クソリス」
「……流星、どういう状況か説明してくれないかな?」
「そっちこそ、俺のチ○コにしがみ付いていた理由を説明してくれないかな?」
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朝食を済まし、俺は肩にレンタを乗せて家を出た。今日は忘れずに、アイツのことを連れていかなければ。
俺は自分の家と同じ大きさぐらいの、簡素な一軒家の前にたどり着いた。「秋山」の表札の横にあるインターホンを押し、自分だけでは学校にも辿り着けないような方向音痴女を呼んだ。
「すみません、長谷川です。ハルカはいますか?」
すると、男の声がして、今呼んでくると返した。この声はハルカのお父さんのものであり、ハルカが幼い頃に病気で亡くなった母親の代わりに男手一つで娘を育ててきた人だ。
秋山家の玄関が開くと、そこには髪が無造作に跳ね、目の下にクマを伺わせながら、口にジャムパンを加えるハルカの姿が。
お前は平成か。いや、平成でもこんな光景は見ない。お前は昭和か。
その奥には、娘を見送る父親、秋山幸一の姿が。彼はプロレスラーであり、筋肉質な体がシャツのつっぱりからも窺える。この人なら、昨日出会ったライオン頭と戦えるんじゃね?
「ハ、ハルカのお父さん、おはようございます、き、昨日は、申し訳ございませんでした」
「ははは、気にしないでもらいたい。うっかりなんて、誰にでもあることなんだから」
血管を浮き上がらせた顔で、そんなこと言われましても。この人は端的に言って、親バカなのだ。父親なら娘を愛するのは当然なのだが、俺が単に「お父さん」と呼んだ時に、チョークスリーパーをかけてくる狂ったオヤジだ。昨日の件は、俺が悪いのかもしれないが、そもそもこの娘が一人で学校に行けるようになれば良い話で……
「おはよう、もぐもぐ、流星、もぐもぐ、行きましょ」
「お前は食べながら喋る天才か」
「ごっくん。あんたが私を迎えるのも中学までね、高校に行ったら、パパにスマホを買ってもらえるから、ナビで一人で道を歩けるようになるわ!」
それは、歩きスマホになるだろ。というか、こいつはナビ付きでも、道に迷いそうな気がしてならない。こいつが一人で学校に行けるようになるのは無理かもしれない。
「それで……ちゃんと『ミリス』のことは秘密にしたんだろうな?」
「あっ、いけない、喋っちゃった!」
「バカ、喋ったら、お前が痛い子扱いになるし、何より俺の評判が地に落ちるだろ!」
「プライドはないくせに、評判は気にするのね。安心して、あんたのことは喋っちゃいないから。それに、パパに話した時、私の言葉を否定しないで、『夢を持つのは良いことだ』と褒めてくれたわ!」
ハルカのお父さんは、この点ではマトモだな。
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テニス部の朝練は、7時15分から始まる。まずは、ストレッチをして、それから全体でランニングをするのだが……
脚が痛い。昨日の傷がまだ癒えてない。さっき顧問の小宮山先生に「かすり傷なんで大丈夫ですよーあはは」と言った手前、休むことは許されないが。
対してハルカは、昨日の戦いの影響などどこ吹く風、軽快に走っている。興奮しすぎて寝付けなくなりクマが出ていたはずだが、何だか薄くなってる気がする。どういう体質だ。
ハルカは方向音痴から俺と一緒に登校するため、同じテニス部に所属している。
「おい流星、もっと女のヒトの近くに寄れよ!ボクが調べられないじゃないか!」
できるか!テニス部の練習は、男と女で別れてるんだよ!練習時間が同じなのは、俺とハルカに取っては救いだが……
その上、俺はのぞき魔として、テニス部女子から敬遠されている。正確には、女子更衣室前にテニスボールを拾いに行って、見えたら良いなーぐらいの気持ちが、見る前にのぞき認定という冤罪を着せられてしまった。普段の態度からという理由で、先生にも潔白を信じてもらえず、説教を食らった。俺は、確かに卑怯な手を使ったり、女の子の乳房に興味があったりするが、それで決めつけるのは酷すぎる、うん。
ランニングの後、球を打つ練習に入った。左肩にまとわりつくリスが鬱陶しい。普段からテニスの腕は他の人と比べて少し悪い程度だが、今日はそれに輪をかけて精彩を欠いた。ちなみにハルカは運動神経が抜群で、シングルスで県大会に行けるほどの実力を持つ、弱小なうちの中学のホープだ。その運動神経が、戦いに活かされているのはありがたいが。
――練習が終わり、俺は外で水を飲んでいると、突然女子テニス部員が大勢俺に近づいてきた。隣にいた男子テニス部員の西岡がドキドキしている。こいつに用か……?
「ちょっと、長谷川君に相談があるの」
「おお長谷川、お前にもモテ期到来か?のぞき魔からよく頑張ったな」
黙れ西岡。人の好感度というものは、そう簡単に変わるもんじゃない。大方、また俺に謂れのない罪を着せに来たのだろう。だが俺はあの濡れ衣事件から、一度も女子更衣室に近づいていないし、本当に身に覚えがないことなどわかるはずがない。
ふと、左肩が軽くなったのに気づいた。レンタがテニス部の女子の『ミリス』適正を調べている。よかったな、女子に近づけて。俺は全然嬉しくないが。
俺は決して友好的でない態度の女子達に、物怖じしないようにこちらから開口した。
「ああ、良いぜ。話ってなんだ」
「秋山さんが、『ミリス』だとか『アトマ』だとか訳のわからないことを言っていたけど、あんたのせいでしょ!」
「あのバカ女ああああああああ!!!」
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ハルカが最近ネット小説にハマりすぎていて現実との区別がつかなくなっているという嘘を、彼女達は受け入れてくれた。
女子には、ハルカの美人っぷりに嫉妬心を抱いている人も少なくない。また、そうでなくても外見だけで見惚れて中身を見ないというアホな男子のような人は少ない。これが「ハルカ派」だったら、俺は問答無用でタコ殴りにされていただろう。
「昼休みになったわ、流星!さあ、『ミリス』になれる子を探しに行きましょう!」
「お前、全然反省してないだろ。大体適性を判定できるのはこのリスだけなんだから、お前がどうこうしたところで見つからねえんだよ!」
「そ、それは、悪かったと思っているわよ、ごめんなさい。……でもでも、私のおかげで、嫌われていたテニス部の女の子達に近づけたと思わない?」
こいつ反省してねえ。俺は基本的にこいつの「ごめんなさい」は信用しない。ハルカが謝ったところでさらに責めたら、他の男子に「秋山さんは、謝っているじゃないか」と、「俺が」責められるので、一応は謝罪を受け入れているのだが。
「でも……ハルカ、ボクが調べたところによると、『テニス部』という集団の中には、君以外一人も適性者がいなかったよ」
「そう……でもでも、失敗は成功の元って言うじゃない!?あの中に適性のある人がいなかったと分かっただけでも、収穫よ!」
「お前のポジティブさだけは羨ましいよ。……ところで、リス、お前はどうやって適正を判断しているんだ?」
「ボク達アトマはね、生物のミリム保有量を鼻で嗅いで判断することができるんだ。学園でその能力を鍛えても来た。ボクは首席だったから、近づかなきゃわからないけど、かなり正確に判断できるね、えっへん!」
何やら自慢しているのが鼻につくが、正確に診断できることに越したことはない。ちなみにこいつの言う『学園』と言うのは、一般教養や『ミリスシステム』について大勢で学ぶ場所で、まあ早い話が学校と大体同じであるらしい。
俺達は昇降口から降りて、校庭へと向かう。女子に一番自然に近づけるのは、やはり校庭で遊んでいる時だろう。……こう言うと、やはりエロ男子になってしまうかも知れない。
――すると、昇降口から校庭に向かう道の途中で、叫び声が聞こえてきた。
「……待ってくださあああああああああい!そこのお二人、お話宜しいですかああああああああ!」
……身長の低いショートカットの女子が、こちらに向かって叫びながら走ってきた。
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「私は、1年6組10番、新聞部所属の、桐谷楓と申します!取材に協力していただき、ありがとうございます!」
「どうもー。元気があって良いわね。私は2年1組2番、秋山春火よ。こっちの男は私と同じクラスの長谷川流星で、こちらの可愛いリスはむぐっ!?」
「ははは、何でもないよー。……おいハルカ、レンタは他の人には見えねえって説明しただろうが。今度バカな真似したら口を縫い合わすぞ。……それで、カエデちゃんはお兄さん達に何が聞きたいのかなー?」
「あーっ、先輩も私を子供扱いするんですね、ちゃん付けはやめてください!私だって13歳、もうすぐ大人ですから!」
5年はもうすぐと言うには長い気がする。しかし、自分が大人だと背伸びする姿は、なんだか妹のキララに似ていて、可愛らしく思えてくるな……
少しばかりの怒りを抑えてから、カエデちゃんはメモ帳を片手に俺達に近寄ってきて、その距離わずか50センチ。近すぎるって。
「それでですね、聞きたいことというのは、この白木二中で1番のラブラブカップル、長谷川先輩と秋山先輩の馴れ初めについてです!私、気になります!」
「えっちょちょちょ、カップルだなんて、そんな……」
「はあ!?お前ふざけんなよ、こいつと俺のどこがラブラブなんだよ、ああ!?こいつはな、外見と運動神経以外は、何の取り柄もないダメ女だ!最初は自信満々な割に、いざ仕事をすると上手く出来なくて俺に泣きついて、挙句の果てに失敗したら何とか自分の責任から逃れようとする甲斐性なしだぞ!去年の文化祭だってな、ハルカが手伝いをしたところは全部不器用のせいでダメになって、それでいてあいつがちょっと謝っただけでバカな男どもは許して、なぜか俺が悪いことになったんだぞ!そんなサゲマンを、俺が好きになるわけいてててててて!!!何すんだハルカ、耳ひっぱんな!」
「ふん!」
割と早口でいったハルカへの悪口を本人はしっかり聞いていたようで、割と強めに、千切れるかと思うぐらいの強さで俺の耳を引っ張った。お前が悪いんだよ。
「そうなんですか……でも、お二人はいつも一緒にいるじゃないですか」
「それはな、こいつが超絶方向音痴だから、俺を道標にくっついているだけ……」
「方向音痴!方向音痴とは、どんな感じなのですか!?私、気になります!」
……………………あれ?何かがおかしい。
「あのね、方向音痴って言うのはね、歩いていたら、どっちに進めば良いのかふとわからなくなっちゃうのよ」
「なるほど、ありがとうございます!それと、去年の文化祭はどんなことをしたんですか!?私、気になります!」
「……おい、俺とハルカの出会いを聞きたかったんじゃなかったのかよ」
「そんなことは、どうでも良いんです!さあ、教えてください!」
ああ、分かった。こいつはダメだ。ダメな人種だ。
質問がしつこい上に脈絡も無くて、関わってたら日が暮れる人種だ。
「去年の文化祭は、クラスでピタゴラ装置を作ったな。じゃあ、俺達は用があるから、これで」
「ああっ、待ってください!もう少し詳しくお話を……」
俺がこのめんどくさい女子から立ち去ろうとした瞬間、レンタが興奮した様子で俺の左肩に乗ってきた。
「聞いてくれ、流星!このヒトには、『ミリス』の適正がある!ミリム保有量が基準値の8.5倍だ!」
……マジかよ。こんなヤツが?
「このカエデというヒトも、すごい『ミリス』になる才能がある!しかし、ここまで連続して適性者に会えるだけでも奇跡なのに、ミリム保有量が多いヒトが二日連続で……」
「本当、レンタ!?キャー、すごいわ!もう2人目が見つかったわね!よし、カエデを『ミリス』に勧誘しましょう!」
「秋山先輩、誰と喋っているんですか……?ハッ、もしかして、私の目には見えない超常生物とかですか!?その辺の話を詳しく!私、気になります!」
ああ、場が拗れてきた……
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その場は昼休みが終わりに近いということで収まったが、放課後、テニス部の午後練の時にネットの裏側からこちらを凝視する小学生女子のような人影が。あいつ、終わるまでここにいるつもりなんだろうか……その予想通り、午後練が終わる午後5時まで、カエデは俺達を待っていた。こいつ、ずっと俺を興奮した目で見ていたな、ほとんどストーカーだ。俺を避けるヤツはたくさんいるが、ハルカ以外で俺にまとわりつくヤツは珍しい。
予想通り、カエデは俺がハルカと一緒に帰ろうとする時を待ち構えて、昼休みに起こった興味深い話題について聞いてきた。
……こいつは『ミリス』になるかも知れないし、このまま打ち明けてしまっても良いだろう。もちろん、秘密厳守という条件付きで。
「――それで、私には見えないけど、ここに妖精がいるってことですか!?わあ、いろいろ話を聞きたい気分になってきました!」
「正確には、違うけどな。俺達は、こいつに出会って、成り行きで地球を守る戦いに巻き込まれたのさ」
「なるほど、そんな大事な話、打ち明けてくださってありがとうございます!私、秘密は守る女です!」
聞き分けが良くてよかった。だがそんな約束を破る女がいるので、素直に信じられなくなっている俺は病気かもしれない。
「それでそれで、カエデ、あなたにも『ミリス』の才能があるのよ!どう、私たちと一緒に、世界を救ってみない?」
俺達から話を聞くために、俺達のいつもの帰り道をついてきたカエデに、ハルカが勧誘をする。するとカエデは、意外にも神妙な面持ちで考え込んだ。
「その戦いって、危険なんですか?私、死ぬのは怖いのですが……」
おお、マトモな感覚だ。どこぞの怖いもの知らずのバカとは違うな。
死ぬのが怖い。うん、真っ当だ。
「……ですが、先輩方と一緒にいれば、どんどん新しいことに出会えるかもしれません!私、やります!やらせてください!」
前言撤回。何楽しもうとしてんだよ。
しかし、彼女が『ミリス』になるというのなら、俺はやらなければならないことがあるな。
「それじゃあ、カエデ、俺とキスしようか」
「はい!……え、え!?」
「ちょっとちょっと、なーにを言っているのよ!昨日、キスは関係ないって話になったじゃない!」
「そうなんですか!?ひどいです、私を騙そうとしましたね!」
チッ、どうしてハルカはこういう時だけ記憶力が良いんだ。仕方がない、諦めて正規の方法でやるか。
「じゃあ、右手を出して、心の中で『ミリス』になりたいとか、俺達と一緒に戦いたいとかを思うんだ」
「わ、わかりました……」
そう言って、カエデはギュッと目を瞑り、右手を突き出す。俺は、こいつを『ミリス』にするんだと心の中で思い、『起動器』を出現させて左手を突き出し、カエデの右手と合わせた。ちょうど、体育館の用具室で俺とレンタがやったように。
――しかし『起動器』は光らない。
「あ、あれ、何も起こりませんね。もう終わったんですか?」
「やはりキスを……」
「ま、待ってください!おそらくこれは、私がモヤモヤして、集中して考えることができなくなっているからだと思います!」
「モヤモヤ?」
「はい。私、気になることがあると、すごく知りたくなるんです。知識欲とかいうヤツですよ。気になることをそのままにしておくと、胸にモヤモヤが残って、体がムズムズして、夜も眠れなくなるぐらいなんです」
「なるほど、そのまな板にモヤモヤが」
「!!い、今、言ってはいけないことを言いましたね!……私だって、後2、3年もすれば、ハルカ先輩みたいに大きく……」
気にしてたのか。しかし、モヤモヤか。こいつのは知識欲と言うより、知りたがりが拗れに拗れたのかもしれん。そうするとハルカの方向音痴と同じで、簡単には治らない、どうしようもないものなのだろう。治す努力はしてほしいが……
「とにかく、私の座右の銘は、『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』なんです!私、気になるものを放置してはいられないんです!」
「お前の場合、聞きすぎて恥の長さがほぼ一生分に積み重なってると思うんだけどな。それで、モヤモヤの原因に心当たりがあるか?」
「その……すごく現実離れした話を聞かせてもらったのですが、あまりに現実離れしていて、心のどこかで信用していないのかもしれません、すいません」
「いや、そうなって当然だな。となると、話は簡単だ。おいリス、『鏡界転移』とやら、出来るか?」
「ボクはリスじゃないし……良いよ、それでそのヒトの気が晴れるならね」
「やっぱり、そこに誰かいるんですか!?それと、ガリ……なんとかって何ですか!?私、気になります!」
「後にしてくれ!おいハルカ、お前も行くか?」
「当たり前じゃない!私を置いていくなんて論外だわ!」
俺は右手にハルカ、左手にカエデを掴んだ。俺の頭の上で、レンタが魔法の準備をしている。
「じゃあ、お願いします、リュウ先輩、ハルカ先輩!」
しれっと名前呼びになってるし……俺も初対面でこいつを下の名前で呼んだので、お互い様だが。
レンタが『鏡界転移』を発動する。夕日の差した世界から、3人と1匹の影が消える。
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――世界が消え、代わりに青みがかったモノクロの世界が再構築される。そこで、俺は重大な問題に気づく。前回、ハルカは別のところに飛ばされたじゃないか!
「ハルカ、ハルカーッ!」
「なーによ流星、うるさいわね」
「あれ、いた」
「なーにそれ、私がここにいちゃおかしいって言うの!?」
「前回は座標を乱されたけど、対策をしといてよかったよ」
「サンキュー、スッキリス」
「なぜだろう、褒められているのにあんまり嬉しくないな」
さらに見渡すと、周りをキョロキョロしているカエデの姿が。ただし困惑していたのは数秒だけで、その後目を輝かせ、よだれを垂らすほど興奮した様子だった。やっぱり病気だな。
「すごいすごい!モノクロっぽい!この世界はどうなっているのでしょう、先輩!」
「初めまして。ボクの名前はレンタ、アトマの一人だ。妖精じゃないけど、君が見たがっていた者だよ」
「うわあ、喋るリス!初めまして、私は桐谷楓です、その、『アトマ』っていうのについて、詳しく教えてください!」
「えっと、アトマと言うのはボク達の総称のことで、モルクに住んでる……」
「『モルク』!!何ですか、どういうものですか、レンタさん!私、気になります!」
「た、助けて、流星〜!」
このままカエデのことはレンタに待たせておいて、カエデのモヤモヤが解けるまで待とう。それにしても、こう言うめんどくさいことが、『サタンガルド』の連中がいないところで良かった。
――俺は、またしてもフラグを立ててしまった。それまで律儀にカエデの質問に答えていたレンタが、突然俺に話しかけてきた。
「流星、サタンガルドを感知した。この近くにいる!」
「はあ!?またかよ、運が悪すぎるだろ!」
「大丈夫、また私が奴らをけちょんけちょんにしてあげるわ!」
「悪の組織、『サタンガルド』の怪人ってどんなものなんでしょう!私、気になります!」
俺達の、2回目の戦いが始まった。