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魔法少女のプロデューサー  作者: 立花KEN太郎
第1章 結成の前奏曲 Prelude of formation
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第4話 『Happy birthday, goodbye ordinary』

 今日、13時間ほど世界を照らしていた太陽はほとんど沈んでしまっていて、空は星々を映し出す準備をする様に、ほのかに暗闇がかっていた。俺達は近くにあった人気のない公園で、今日起こった摩訶不思議な出来事について議論をすることになった。この2021年、子供達は家でテレビやゲームやスマホに明け暮れるため、公園という場所は閑散としているのだろう。まあ、この時間は小さい子供は家に帰っているだろうが。


 ちなみに脚の傷は、『オルタナ界』から帰ってすぐに、保健室の上野先生に治療してもらった。俺は転んでできた怪我だと嘘をついたが、先生は「転んだだけではふくらはぎだけに傷はつかない」と尤もなことを仰ったので焦ったが、「次からはもう少し上手い嘘をついてくださいね」と何も追及せずに治療してくださった。あなたは女神様ですか。


「――それで、もう私と『契約』ってのはできないわけね」

「うん、アトマは一度契約すると最低でも5年は契約解除出来ない」

「……は!?じゃあお前、俺の大学受験にも付き纏うのかよ!」

「ダイガクジュケンってなんだよ!?『学園(プリストリ)』の入学テストみたいなものか!?」

「後回しにしてたけど、俺はまだお前に『学園(プリストリ)』がどんなもんか聞いてねえよ!」


 学校から10分足らずの公園への道中で聞いたことだが、アトマは契約した生物と3メートル以上離れられなくなるらしい。鬱陶しいことこの上ない。あのリスは俺と契約するつもりはなかったので、そのことは話さなかったが、もし俺が知っていたらあの場で契約なんてしなかっただろう。いや、追い詰められていたから、やっぱり契約していただろうか……


 ちなみにハルカにはレンタのことが見えている。レンタ曰く、『ミリス』契約をした人はフォロウ界でもアトマが見えるようになるらしい。ハルカは、レンタとは契約していないらしいのだが……


「まあでも、結果的には『ミリス』になれて良かったじゃないか、ハルカ」

「ちっとも良かないわよ!こう言うのって、自分の意思で変身するもんでしょ!?なーんで他人に変身『させられる』のよ!しかもアンタなんかに!」

「……き、気持ちは分かる。わかるけど、俺にだってどうしようもないことで……」


 俺だって、『仮面サイバー』か何かに変身するとして、自分でベルトを操作して変身したい気持ちがある。だけど、他の人に変身の手綱握られたら、仕方なく受け入れるだろう。


「でも……あの時変身できたのは、ちょっと嬉しいかも。ああなんだか、ワクワクしてきたわ!」

「俺はドキドキしてきたよ、不安と絶望でな。……どうだリス、何かわかったか?」

「ボクはリスじゃあないって……さっぱりだよ、『ミリスシステム』が故障した時のためにシステムの機能や修理法は一通り頭に入ってるんだけど……ボクの知らない構造が、なぜかたくさん生まれてる」

「おいおい、大丈夫かよ!?」

「結果的に『ミリス』になれたからオーケーなんて言ったのは、流星じゃないの」

「そうじゃなくて……」


 そういう心配をしたわけじゃなくて、暴走とか、イレギュラーの心配をしたわけで……でも、これから戦うことになるであろうハルカには余計な心配をかけたくなくて、俺は口をつぐむことにした。しかし、どうしたもんか、これは……


 ふと『起動器(デモクリト)』とやらに目をやると、赤色の玉が埋め込まれたかの様に付いていた。こいつに触れると、ハルカが『ミリス』に変身したのだが。ちなみに騒ぎが起こるのを防ぐため、『フォロウ界』ではモルクにある本部の許可がなければ『ミリス』になれないらしい。俺としては間違えて触って、ハルカがアイドルみたいな姿になるという心配がなくなるので、願ったり叶ったりだ。


 ――俺と同じ様に『起動器(デモクリト)』をじろじろと観察していたハルカが俺に尋ねてきた。


「……ねえ流星、気づいたんだけど、赤色の玉の他に4つの玉がないかしら?」

「ああ、この無色透明なやつらか。でも触ってもウンともスンとも言わねえんだよな」

「ボクも調べたけど、どういう機能かわからなかったよ」


「――あーっ!!」


 突然何かに閃いた様なハルカが大声をあげ、俺とレンタはビクッとした。俺は慌てて周りを見渡したが、幸いにも人影はみられない。


「びっくりしたな、どうしたんだよ!?」

「わかったの、この4つの玉はね、『あと4人分』って意味なのよ!」

「「……………………!!」」

「つまりね、あと4人『ミリス』って言うのになれるんじゃないかなって。キャー、仲間ができるのよ、すごくワクワクしてきたわ!他の子を誘いましょう!」

「お、おい落ち着けよ、まだそうだと決まった訳じゃ……」

「すごい、すごいよ流星!やはりお前と契約したのは間違いじゃなかった!それどころか、大当たりだ!ハルカを入れて、5人分の戦力だ!」

「お前まで……」


 しかし、ハルカの赤い玉を含めた5つの玉は、腕に沿って横1列に並んでいる。これが『同列』と言う意味だとすれば、この仮説に信憑性が出てくるな。


 ――この仮説が正しいとすると、問題が発生する。俺は舞い上がる二人にその問題を伝えた。


「なあ二人とも、仮にそうだとして、どうやって新しい子を『ミリス』にするんだ」

「……え、ええ……?」

「……それはまあ、さっき流星がハルカにやった様に……あっ」


 レンタは気づいた様だが、ハルカは唸るほど考え込んでいる。お前は2、3時間前のことすら思い出せないのか。


「思い出せよ、ハルカ。お前が『ミリス』になる直前、俺がお前に何を頼んだのかを」

「……!あ、あ……!」

「キスだよ。明らかに、俺とハルカがキスをした直後にこの玉が光った。だから俺は、他の子を『ミリス』にするために、キスしなきゃいけないな。うん。これは、不可抗力だ」

「流星。他の子を誘うのは、やめにしましょう」

「お前が言い出したんだろ、ハルカ。一人じゃあ難しいことでも、5人ならできる。何と素晴らしいことじゃないか」

「別にキスは関係ないんじゃないかな。アトマの契約は、お互いに心が承諾し合い、その上で直接触れ合って成り立つものだから、流星とハルカの契約もそれと同じものだと考えるとね」


 クソッ、このリス!余計なこと言いやがって。それを聞いて、ハルカが何やら勝ち誇った様子になる。暗くなってきて、表情がよく見えないのだが。


「残念だったわね、クスクス。あれがアンタの人生の最初で最後のキスよ、童貞」

「ふざけんな、人生はまだ長いんだ、俺にだってモテ期は来るし!」

「さあ、明日から『ミリス』になれる子を探しに行くわよ!一緒に頑張ろうね、レンタ!」

「うん、君みたいにミリム保有量が多いヒトには中々出会えないだろうけど、これからよろしくね、ハルカ!」

「……俺は仲間外れか?何で君達、そんなに親しくなってるの?」


 これからハルカ一人では対処できない敵も来るかもしれないのだが、正直、これ以上戦いに巻き込まれる人を増やしたくない。……アトマ達は世界各地に転送されたそうなので、4人どころじゃない人がさらに巻き込まれているのだが。


 ――別に負け惜しみとかじゃない。キスする大義名分が失われて悔しいとかじゃない。


 ……しかし、ここまで来て、自分が何なのかが分からなくなってくる。男なのにミリム保有量が多いし、その上契約したらシステムの構造が変わってしまうし、俺は凡人じゃなかったのか?物を覚えられる才能とか、絵が上手いとかの才能ならいいが、これは全然嬉しくない。むしろ、自分はこうなるべくしてなったのだという運命があるのだと思うと、吐き気すら感じる。俺は、自分の人生は、自分で切り開いていきたいのに……


「俺は、一体何なんだ……」

「確かに、レンタが妖精(?)で、私が『ミリス』だったら、アンタの立場ってなーんなんでしょうね。


  ……『プロデューサー』?」

「よしハルカ、お前はアイドルということでいいんだな」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ハルカを彼女の家まで送り届けて、俺は帰路につく。なんかえらく『ミリス』適性者探しに自信満々だったのだが、アテでもあるのだろうか?俺が「優しくて普通の子だったらいいなあ」と言ったら、自分はそうじゃないのかと怒り出したが。


 街並みは、すっかり夜の帳に包まれてしまった。こんな夜に、俺一人の時に『サタンガルド』の奴らが現れたらどうしようと身構えたが、レンタによれば、日没の約1時間後から日の出の約1時間前は、『フォロウ界』と『オルタナ界』の『距離』が離れて転移出来なくなるため、奴らは活動しないらしい。裏を返せば、日の出ている内はいつでも奴らが襲撃してくる可能性があるわけだが。


 ぼんやりしながら道を進んでいくと、俺の帰るべき家に着いた。ああ、今日はひどく疲れた、早く寝てしまいたい――


「お帰りなさい、流星。今日は部活がないのに、遅かったじゃない」

「ただいま、母さん。うん、ちょっとね」

「わかった、リュウ兄、あのハルカって人とデートしてたんでしょ!」

「違う!断じて違う!」

「当たらずとも遠からずって感じだね。500点かな」


 黙れクソリス。俺は左肩に乗っているこいつに反応しない様に細心の注意を払っているが、鬱陶しくてついツッコミを入れてしまいそうだ。


「疲れているんじゃないのか、流星。ほら今日はお前の誕生日に、ケーキを買ってあるぞ」

「あ……誕生日……?」

「おいおい、本当に大丈夫か?今日は5月10日、お前の誕生日だろ。どうしたんだ流星?こりゃあ、余程のことがあったみたいだな」


 はい、余程のことがありました。父さんはいつもは頼りないのに、たまに核心を突いたことを言う。母さんも同じで、俺のことを心配そうに見つめていて、俺に何かあったのだろうという顔をしている。


「流星、もし辛いことがあったら、お母さんに相談してもいいのよ。お母さんはいつでも、流星の味方だからね」

「母さん……」

「違うよ、ママ、パパ。リュウ兄はね、ハルカって人と大人の階段を登ったけど、恥ずかしくて、言えないだけなのよ」

「違う、違う、違ああああああああう!!!」


 愛しい妹の誤解を解きながら、俺は家族と共に食卓につき、夕食やデザートの誕生日ケーキを食べた。本当に最悪な誕生日で、惨状日ともいうべきものだったが、この時だけは日常という幸せを噛み締めることが出来た。


 ご馳走を前に目を輝かせ、食べられないことを喚いている黄色いリスを全力で無視すれば。


「――そういえば、どうしてズボンが破けているの?」

「ああ、これは転んじゃってさ」

「それにしては、破け方が尋常じゃない……」

「盛大に転んじゃってさ」

「……そう。ふくらはぎに大きいバンソーコーが貼ってあるものね」


 ――やっぱり、母さんは優しい。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ううー、あんな美味しそうなものが、食べられないなんて……」

「我慢しろ、食いしん坊リス。お前は給食の時にも、煮干しを食おうとしやがって。宙に浮いているように見える煮干しをごまかすのは、大変だったじゃないか。……っていうか、なんでお風呂の時も俺と一緒に入っているんだ!?」


 俺はお風呂に入っていて、レンタと話せる状況にある。俺はたまに風呂の中で歌を歌うことがあるので、風呂の中で俺が独り言を言っているのを言い訳することができる。……それでも、俺は一人でお風呂でくつろぎたい。風呂場は、面積にしておよそ2メートル四方なのだから、こいつは風呂場の外で待っていてもいいはずなのだが……


「なるほど、『風呂』というものは気持ちいいね。ボクの故郷では、体を洗うのにこんなことはしないけど、これは身体が中からあったまるようだ」

「なんだ、お風呂入りたかっただけか。風呂は地球の……日本という国の誇りだからな。――それにしても、『起動器(デモクリト)』が出し入れできるというのは、便利だな」


 家路でレンタに教えてもらったことだが、『起動器(デモクリト)』は装着者が「入れ」と願えば腕の中に光になって入っていくし、「出てこい」と願えば輪郭を作って出てくる、便利な機能がある。まあ、万が一着けているところを見られても、普通の人にはただの腕時計にしか見えないらしい。腕時計に見える機能に関しては、26年前のときの情報から取り入れた『ミリスシステム』の新しい機能の一つらしい。


「腕時計だって着けっぱなしじゃ蒸れるし、何より風呂で洗いにくい」

「……なあ流星、ボクはお腹が空いたよ、何か食べさせてよ」

「しょうがねえな、隙を見て俺が冷蔵庫から夜食としてかっぱらってやる。あんまり多く食うなよ」

「ありがとう流星君、君は命の恩人だ!」

「今更そんな調子のいいこと言っても、俺のお前に対する好感度は上がらねえぞ」

「ちっ」


 あちらも俺に対する好感度を上げる気はないらしい。


 ――しかし、こいつは初めてこの地球に来たと言った。自分で言うのもなんだが、右も左も分からないようなところで、俺に出会ったのはハッキリ言って幸運なのかもしれない。それでも、見知らぬ土地で空腹に襲われたら、俺だって慌てるだろう。こいつは俺の言葉で、心底助かったと言う表情を僅かながら漏らしている。安心していて、何だか眠たそうな顔をしている。こいつも、少し可愛く見えてきたな。


「おいおい、風呂で寝ちまったら溺れちまうぞ」

「……ああ、ありがとう。そういえば、ボクがお前とお風呂に入ったのは確認したいこともあったからなんだ」

「ん、何だ?」

「――やっぱり、お前は男なんだな」

「ああそうだよ、今更だな!」


 やっぱり、こいつに可愛い所なんて微塵もない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 明日は火曜日で、テニス部の朝練があるので、目覚ましを6時にセットする。そろそろ寝ようかと思うと、レンタが俺の持ってきた甘いお菓子をボリボリ食べながら、何やら液晶ディスプレイのようなものを空中に映し出し、俺の知らない言葉で何かを口にすると、その画面は丸まった光になって上空へと消えた。


「なあお前、何を喋っていたんだ?」

「)’(&$$&(&@・……ああ、今翻訳の魔法を切っていたから、お前には伝わらなかったんだな」

「ああ、それで初めて会った時、突然俺と会話できるようになったのか」

「それで、これは定時連絡だよ。今日一日どんなことがあったか、ってね」

「……言ったのか、『ボクは男と契約して、そしたら契約していない女の人が『ミリス』になりました』って?」

「……出来事は嘘偽りなく話すのが義務なんだけど、これはちょっと信じてもらえるか疑問だよ」

「そうか、お互いこれから大変だな」


 今日はめでたい誕生日のはずなのに、極めて予想外のことが起こり続けてしまった。その上、この状況は色々と詳しいはずのレンタにとっても予想外なのだ。これから何が起こるか、全くもって予想がつかない。不安で眠れなくなるかも知れん。


 ――ただ、ハルカのように、前向きな気持ちになれたら。悩みなんてないような表情で、突き進んで行けたら。そんな風になるには、俺はこれまでの短い人生で、現実を見すぎてしまった。


 ……やめよう、そんな風に考えるのは。俺は今日と言う日を必死に生きた。それを誇りに思って、明日も生きるだけだ。


 俺は、今日の疲れを癒す眠りに入るため、部屋の電気を消した。


 さよなら、俺の日常。


 街の明かりで、星空が見えない。

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