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魔法少女のプロデューサー  作者: 立花KEN太郎
第1章 結成の前奏曲 Prelude of formation
14/55

第13話 『Goodbye holiday, gathering anyway』

 5月15日、土曜日。今日は部活の練習が無い日。俺は今、幸福と安寧の絶頂にいる。もう時計は午前10時となっているが、8時ごろにちょっと朝食を食べただけで、あとはずっとベッドの中。これほどまでにベッドの中が安息の温もりに満ちていると感じたことは無い。ああ、良い……


「……いやあ、こうして何者にも邪魔されず、眠りに落ちるのは気持ちいいね、流星」

「ははは、お前は結構寝てたじゃねえか、グータラリス」


 俺の隣で、眠りに落ちてないリスが布団にくるまっている。こいつも疲れてるんだろうな……と思っていた時期が俺にもあったが、よくよく考えれば俺が走って逃げてる時、こいつは肩に乗ってるだけじゃねーか。レンタにそのことを指摘したが、「しがみつくのも大変」などとあまり納得できない言い訳をされた。まあ、今はそんなこと考えるだけ野暮だな、ゆっくり休んでいよう、休む日を略して休日と読むんだからな。


「……クロマ……ジリカ……元気かな……」

「……そいつは、お前のアトマ友達か?」


 目を瞑りながら誰かの名前っぽい固有名詞を呟くレンタに、俺は何気なく尋ねた。


「うん、ボクの小さい頃からの友人だよ。クロマはボクにいつも突っかかっては、ボクにひどくやられていたね。彼ほどに鬱陶しいヤツは、この先出会わないだろうと思っていたが……」

「おい、何で俺の方を見る」

「お前の気のせいじゃないかな。――それでね、ジリカはおしとやかな女の子で、ボクがクロマをボコボコにする前に止めてくれる優しい子なんだ。ピクニックに行くときにはいつもボク達の分のお弁当を作ってくれて……」

「――待て、何だそれは」

「誕生日には手作りのピペルットを作ってくれたこともあったけど、その時は少し形が崩れちゃって、あはは」

「何だそれはああああああああああ!!」


 俺は嫉妬と憎悪に満ち満ちた叫び声と共にレンタの胸ぐらを掴んだ。


「ちょ、ちょっと落ち着こうよ、流星……」

「ご自慢の女友達だな!俺に付き纏っている女といえば体型や胸だけの良い、バカでドジで方向音痴のストレス源女だ!何でお前にそんな良いヤツがいて、俺はあんな色物女みたいなヤツとしか関係が持てないんだよおおおお!!!お前も俺と同じく、今週は疲れていたと思って、多少のお菓子の取りこぼしは許容してたよ、うるさいイビキも許容してたよ、でももう許さねえからな、さあベッドから出ろ!」

「うわああああああああ!待って、ボクから楽園を奪うなああああああああ!」


 暴れるレンタを何とか掛け布団から引き剥がそうとするが、予想以上の抵抗で、目的を達成するのに多大なエネルギーを消費してしまった。何だかまた疲れてきたような気がしたので、もう一度布団に潜って眠りにつくとしy


 ピンポーン!


 1階から呼び鈴の音が弱まって聞こえてくる。宅配なら家族の誰かが俺に代わって出てくれるだろう、今日は3人とも家にいるし。フッ、誰も俺の安息を妨げることは


「流星、ハルカちゃんが来たわよー!」


 母さんの俺を呼ぶ声で、俺は安寧の世界から放り出され、暗い不安の世界へと突き落とされた。母さんは全く悪くない、テニス部の練習が無いのにわざわざ俺のところに来るハルカが悪いのだ。


 俺は右手でレンタを雑に鷲掴みにし、部屋を出て階段の下へと降りていった。リビングに行くと母さんが玄関モニターの前で立っており、その画面には平日に散々見ている女子の顔が。俺の顔を見た母さんは、マイク越しに俺の到来をハルカに告げる。


「あっハルカちゃん、流星が降りて来たわよ!――さあ流星、玄関に行って出迎えしてきなさい」

「俺的には、一人でゆっくりしていたいから、帰ってもらいたいのだけど――」

「い い か ら 行 き な さ い」

「ハイイキマス」


 母さんが笑顔のまま強い口調で俺にハルカの出迎えを命じる。母さんは怒ると本当に怖いので、これ以上の拒否は選択肢に無い。ハルカは母さんの中では普通の女の子という印象だし、さぞ俺の言葉はワガママに聞こえたことだろう。俺は理不尽さを嘆きつつ、玄関のドアを開ける。――すると、待っていたのは一人どころじゃなかった。


「おはよう流星、みんなを連れてきたわ!」

「おはようございます、リュウ先輩!素敵なお家ですね!」

「おはよぉ、りゅーくん、元気ぃ?」

「おはよう流星君、突然の訪問すまないな」

「お……はよう、流星、くん……いい天気、だね……」


 『ミリス』の5人揃い踏みの事態に、俺は胃の内容物が逆流しそうな気分になった。4人はモニターには映ってなかったが、隠れていやがったのか。しかし、俺はこいつらを家に上げるしか選択が無い。くそ、俺の部屋は狭いってのに。


「いらっしゃーい……って、あらあら、ハルカちゃん、お友達連れてきたのね!みなさんはじめまして、私が流星の母です。不束な息子をよろしくね。――流星も、こんなにたくさんの女の子が家に来るなんて、モテモテじゃないの!」

「冗談でも言って良いことと悪いことがあるぞ、母さん」


 俺は割と本気な顔で母さんに発言の訂正を求めた。母さんは俺が照れていると思っているような顔をしているが、俺は本気だってば。


 5色の「お邪魔します」の声が長谷川家に響き渡る。リビングでくつろいでいる父さんや自分の部屋にいる妹のキララにも伝わったようで、2人が玄関周りの廊下に出てきた。父さんは5人の女子中学生を見るなり、目線をちょっと下げた。女性の評価点は、俺に遺伝している。次いで腕を組んで俺の方に茶化すような笑顔を向けてきた。


「おっ流星、そんなに女の子をはべらしておいて、羨ましいじゃねえか。父さんは学生時代、恋愛には縁が無くってなあ……」


 黙れクソ親父。むしろ俺の方がこいつらにはべらされているまである。――そんな冗談をかます父さんとは対照的に、キララは俺の方に指をさしながら、信じられないと言った表情をしている。寝巻き姿が今日も可愛らしい。


「リ、リュウ兄……ああ、私、リュウ兄は一生童貞だと思ってたのに……」

「違う違う違う!待ってキララ、誤解だ!俺はこいつらの誰ともナニもヤってないし、これからもヤるつもりは無い!」

「失礼ね、キララちゃんには詳しく言えないけれど、私達と流星は、とってもすごいことをやってるのよ!!」

「黙れハルカアアアアアアアアアア!!!」


 キララの誤解を何とか解こうとしながら、俺は階段を指差し、2階の俺の部屋へと誘導した。すると、キナコが俺とキララの元に近づいてくる。


「ねぇねぇ、りゅーくんの妹さん?かわいいねぇ」

「えっ、カワイイだなんて……えへへ、私はそんな……」

「わかるか、キナコ。俺の妹は世界一だ」

「へぇー。お兄さんや、弟はいないのぉ?」

「いや、いないが……?」

「……そぉ……」

「おい、何で残念そうなんだ、何を想像してるんだ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 俺、レンタ、ハルカ、カエデ、キナコ、スイレン、ユカリ。これだけのメンバーがいつも俺一人のみで使用している部屋に一斉に入ったら、狭いに決まってる。俺はとりあえず、部屋主としてベッドの位置をキープし、ちゃっかり俺の隣に座ったレンタを除いた5人を床に座らせた。


「それじゃあ、私達の今後について話し合いをしましょう!」


 ほら、やっぱりこう来ると思ってた。俺だって、いつかはみんなで集まって話をしておきたいとは当然思ってたよ。でもさ、ハルカ、今は勘弁してくれ、せっかく休めると言うのに。


 こうなることを見越して、俺は家族に――特にキララに部屋に入ったり、話を盗み聞きしたりしないように厳命した。まあ、キララもバカではないので、俺のことを訝しく思っているようだったが、俺が何度も頭を下げたところで、しょうがないと言った感じで了承してくれた。ああ、妹よ、ありがとう。そして、隠し事をする兄を、許してくれ。


「何で今日なんだよ。俺は5日連続で敵にエンカウントしたんだ、今日は休ませてくれ」

「……すまない流星君、剣道部の休みが今日の午前しかないんだ」

「強豪私立中学校かな?」


 俺のクラスで剣道部員の吉田が言ってたように、剣道部は練習が野球部並みに多いようだ。――ふと、俺は始業式の表彰でスイレンが呼ばれていたような記憶が浮かんできた。


「あれ、スイレンって、県大会とか出たことあるのか?」

「ふむ、自慢するわけではないが、新人戦では県で個人戦ベスト8に入って関東大会に出場したことがある」

「すげーな、お前強いじゃねーか!」

「いや、私はまだまだだ。私の母は、中1で全国大会で個人戦準決勝まで進んだと言っていたのだ、私は母の足元にも及ばない」

「比較する対象が強すぎるだろ」


 というか、こいつのストイックさで県大会ベスト8って、十分すごいのだが、上には上があるもんだな。


「……さて、仕方ないからここで話を始めよう」

「……あの……その、前に……伝えたい、ことが……あるけど、良いかな……?」


 ユカリが、俯きながら弱々しく手をあげる。こういう動作をするのは、すごく言いにくいが、言わなくちゃいけないことを言う時だ。ユカリが内向的で、意思表示が苦手なことを加味しても。こういう時は拒否せず、発言を促してやるべきだ。


「……ああ、良いぜ」

「うん、ありがとう……。私、ね、『解離性同一性障害』っていう……病気なの……つまり、『二重人格』なの。昨日の……、私が、『ミリス』になった時も……戦ったのは、私じゃ、なくて……『もう一人の私』なの……だから、私……役に、立たないと思うし……みんなに、迷惑、かけちゃうと、思う……」


 ユカリのカミングアウトに、ハルカ、カエデ、スイレンは何と声をかければいいか分からないと言った表情をしている。こういうものは、本人にしか辛さは分からないものであるし、下手な同情はかえってその人を自己嫌悪に陥らせるのだ。――しかしキナコ、お前は相変わらずニコニコだな、空気読めよ。


「……私は、そんなこと気にしないわよ!ユカリが迷惑かけてるとか、全然思ってないから!」

「そうですよ、私も気にしません!」

「自分を卑下しない方がいい、ユカリ君は素晴らしい人だ、私が保証する」


 3人が、精一杯のフォローをする。まあ、決して間違ってはいない方法なのだが、俺としては、言いたいことも含めて、もっと長い言葉をかけたい。


「……俺はな、正直言って、気にしてないと言えば嘘になる」

「……え?」

「ちょっとちょっと、流星、アンタ……」


 突っかかるハルカを右腕を伸ばして制止し、俺はユカリへの言葉を続ける。


「最初、もう一人のお前を見た時、度肝を抜かれたよ。迫り来る敵の脅威が、頭から吹き飛ぶぐらいにはな」

「う……」

「……でもな、俺は何よりも中身を重要視する男だ。女の評価基準で2位は言えないが1位は中身だ。それでな、俺が思うに、お前も、もう一人のお前も――すごいいいヤツだよ。だから、お前に2つの人格があることは、全然問題じゃない」

「え……?」

「だから、まあ、あとはこいつらと一緒になっちまうが……迷惑なんて、お前ももう一人のお前も、かけてねえよ」

「……あ、ありがとう……!」


 色々と言葉は選んだつもりだったので、こうしてユカリが明るくなって良かったと思う。俺が言いたいことも言えたし。


 お前に2つの人格があること()、問題じゃない。


「それにな、俺はお前に出会うまで、病気のヤツを4人は見てきたからな、お前のそれは些細なことだ」

「ふーん、私のいないところで。流星も、意外と対人経験多いのね」


 この鈍感女め。お前は自分をよく自覚しろ。


「ありがとう、流星、くん。こんな、こと……言われたの、流星、くんで……二人目だよ」

「へへ……そうか。……二人目?」


 えっこういうのって、初めてとかそういうんじゃないの?何かカッコつけたこと言ったので、今になって恥ずかしく思えてきた。あれかな、元カレとかかな?


「うん、キナコちゃんにも……同じ、ようなこと……言われた」

「はいはぁい、キナが一番!」


 お前かい!ますます恥ずかしくなって来たじゃないか。キナコなら、ユカリにそんな言葉をかけてもおかしくはないが。しかし、ユカリはここで3人に初めてカミングアウトしたっぽいので、キナコが昨日言ったという訳ではなさそうだ。


「えっお前らってさ、前に会ったことあんの?」

「あのねぇ、キナとゆかりんは保育園の頃から友達だよぉ!水曜日の時もねぇ、一緒に本を読む約束してたんだぁ!」

「なるほど、それで水曜日……いや、だったら俺に構うなよ!親友との約束優先しろよ!」

「えへへ、ごめんねぇ、ゆかりん」

「……わ、私は……別に、気にして、ない……」


 ユカリが心底困った様子で苦笑いした。俺が邪魔して、本当に、申し訳ございませんでした。


「……ふう、そろそろ、本題に移ろう。お前らには、詳しい事情はまだ説明してなかったから、ここで、この『首席』のリスに詳しく話してもらおう」

「褒めるのと貶すのを同時にやるなんて、流星もある意味天才だね。じゃあ、まず……」


 皮肉の香りを放ちながら、レンタは自分達のいる世界とか、『サタンガルド』のこととか、戦いの歴史とかを諸々話し始めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「はあ、そういう訳でボク達がこの地球に来たわけなんだ。分かった?」


 お疲れ様。新しい固有名詞が登場するたびカエデがすごい勢いで追及してくるので、俺に話していた時は10分もかからない話が30分もかかってしまった。そのくせ、キナコに至ってはほとんど話の内容が理解できてない様子である。俺はこんなやつらにも全力で納得させようとした小さな勇者に大いなる敬意を表する。


「分かったわ、私達がその『サタン』をサクッと倒せば万事解決ね!」

「ちっとも分かってねえだろ。前回も前々回も、当時の『ミリス』達はサタンを倒せずに封印するしかなかったんだぞ。それぐらいの強い奴、俺達が簡単にどうにか出来るわけねえだろ」

「『ミリス』は君達だけじゃない。他の『ミリス』とも協力して、サタンの脅威を退けるんだ」

「……そう言えばリス、地球に来るアトマって何匹いるんだ?」

「……大体1000人ぐらいじゃないかな」

「そんなんで広い地球を守れるのか?」


 やっぱり、不安になって来た。それでも、過去2回の『サタンガルド』の襲来を対処できたというのは希望の一つだ。すると、俺に一つアイデアが浮かぶ。


「なあリス、前回の『ミリス』の人の名前とか、知らないか?」

「……え?」

「いや、前回は26年前だったんだろ?『ミリス』の適性者は14歳前後、それなら今は40歳ぐらいになってるはずさ。その人に出会えれば、戦い方についての有益な話が聞けるかもしれない」

「……うーん……」

「まあ、お前は18歳だから、その時は生まれてなかっただろうけど、お前の親、もしくは親世代から何か聞いてないか?」

「…………!」


 そう俺が言うと、レンタは少々動揺した後、思い出すと言うよりは何か迷っているような様子で俯いた。俺、何かマズイこと言ったか!?


「お、おい、レンタ?もし俺が気に障ること言ったんなら……」

「ううん、別に、そうじゃないよ……。――うん、君達なら信じてくれそうだし、ボクはある重要なことを打ち明けようと思う」


 レンタがそう言うと、カエデを筆頭に5人が興味のある様子をしている。かく言う俺も、どんな情報か、期待を胸に踊らせている。


「重要なこととは、大きく出たな、リス。それで、どんなことだ?」

「26年前の『サタンガルド』の侵攻……それを退けたのは、ある()()の『ミリス』の力に依るところが大きかったらしい。それは、通称『ゴールド』と呼ばれる『ミリス』で、そのヒトと契約していたのは……ボクの父さんだった」

「『ゴールド』?そいつが、お前のお父さんと?」

「うん。『ゴールド』は、圧倒的な強さで『サタンガルド』の連中をバッタバッタとなぎ倒していって、そのままほとんど一人でサタンの封印までこぎつけた!!――って、父さんが言ってた……」

「そうか。それで、そいつの本名は?」

「……分からないんだ。父さんは、ボクに『ゴールド』の本名を教えることは無かった。そしてそのまま、ボクが10歳の頃に病気で死んだ」

「……そうか」


 『ゴールド』。――金色の『ミリス』?彼女のおかげで26年前の戦いに勝利することが出来たってわけか。……しかし、本名が分からないんじゃ、探しようがないな。


「とりあえず、何らかの拍子に『ゴールド』ってヤツの本名が分かったら、そいつを探しに行くか。圧倒的な強さの『ミリス』、彼女が敵の親玉と接触したってんなら、その親玉を倒すヒントが聞けるかもしれねえ」

「っ!?待って、信じてくれるのか、流星!?」

「いや、そもそも俺達が信じるだろうって、お前が話し始めたんじゃないか。確かに、お前の言うことには証拠がないが……嘘という証拠もない。だったら、お前の希望通り信じてやろうと思っただけさ」

「あ、ありがとう、流星。ボクの故郷では、散々『嘘はもうやめろ』とか『話盛りすぎ』って言われて……」


 何だかレンタが目に涙を浮かべて来たので、優しい俺はその小さい背中をさすってやる。すると、女子達もこぞってレンタを撫でて慰め始めた。良かったなレンタ、ここにはこんなにお前の話を信じてくれる人がいたぞ。


「それでそれで、その『ゴールド』の話を詳しくお願いします!」

「……あ、ああ、ボクも父さんから聞いただけだけど、『ゴールド』が初めて戦った時……」


 また、長い話になるな。今度から集会にカエデを呼ばないでおこうか。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 『ゴールド』の武勇伝は、一発のパンチで敵30人を一気に倒したとか、人睨みで幹部が泣いて謝ったとか、グッとガッツポーズしただけで5人倒したとか、盛りすぎと言われてもおかしくないものだった。申し訳ないが、俺も大袈裟なんじゃないかと思えて来た。


 しかし、もしこれが本当のことだとすると、別の問題が発生する。『サタンガルド』の首領『サタン』は、めちゃくちゃ強い『ゴールド』をもってしても倒しきれず、封印するしかなかったということになる。26年前にに撃退したことを根拠とする希望的観測も出来なくなる。そんな強いヤツがいなければ、『サタンガルド』を止められないということか。


「――それじゃ、私達のグループ名を決めましょう!」


 そんな俺の心配をよそに、レンタの『ゴールド』に関する話が終わったところで、能天気なバカが訳のわからないことを言い出した。だから、お前は『アイドル』で良いのかって。


「グループ名ですか、どんなのが良いでしょう!?」

「キナ、カッコいいのが良い〜!」

「なるほど、そのためにハルカ君は私達をここに集めたのだな」

「……いいグループ名、考え、ましょう……」


 おいお前ら、何でノリノリなんだ。乗り気じゃない俺がおかしいのか!?


「あのさ、グループ名なんて必要ねえだろ」

「バカね流星、私たちが変身した後、敵に名乗る名前が必要じゃない!それに『プリセラ』だって、『ドギマギ』とか『スマイルチャージ』とか色々あるでしょ、単に『ミリス』ってだけじゃダメだと思うわ」

「……そもそも名乗る必要は?つーか『プリセラ』のそれはサブタイトルで、グループ名って訳じゃ……」

「じゃ、いい案が浮かんだら挙手ね!――はいはい!『ハルカとゆかいな仲間たち』はどう?」

「おい聞けよ」


 残念な女が残念なことに俺の意見を聞かないし残念なグループ名を提案しているし残念ながらその名前は却下だ、残念。


 他4人はさすがにハルカの案を却下したが、いい感じのグループ名を決めるために色々意見を出し合っている。どうやら俺の疑問点を気にしているヤツはいないらしい。全く、アイドルは世間に認知されるために名前を付けてるのであって、俺達がグループ名を持っても、敵に分かりやすく覚えられて狙われるだけじゃないか。それだったら、せめてカッコいい名前にしてほしい、どうせ俺の言うことなんて聞かないだろうけど。


 ――ん?アイドル?そう言えば……


「……おいハルカ、お前月曜日にさ、俺のこと何だって言った?」

「え?……えーっと確かアンタが、私が『ミリス』なら自分は何だ、って私に聞いてたわね。それで私が、『プロデューサー』って……」


 ハルカがちゃんと思い出してくれたようで、俺はほくそ笑んだ。コイツらの暴走を止めるすごく強引な方法を発動できるのだ、と。


「そう、『プロデューサー』。俺、『プロデューサー』。ということはさ、お前らの『ミリス』の活動に関する諸々の決定権は俺にあるんだよ、ということでグループ名がどうとかは俺が決める」

「えっ、いや、その、流星?あれは、そう!言葉のあやで……」

「ははは、ハルカ、お前が言い出したことじゃないか。いいよ、百歩譲ってグループ名付けても。でも、そいつが採用かどうかはお前らの投票じゃない、この俺の、『プロデューサー』の判断によって決めることにする。さあ、どうしてもグループ名付けたいなら、この俺を納得させてみろおおおお!」


 俺はゲスな笑みを浮かべて、目線はハルカの方ながら女子全員に向けて暴論を展開した。女子達が心底呆れ顔をしているが、とりあえずはハルカの言い出しっぺという俺の論拠に反論できず、沈黙の肯定をしていた。ふう、これで少なくともトンチキな名前が付くことは回避出来たな!


「……分かったわよ。じゃあ、『ハルカフレンズ』でどうかしら?」

「却下、お前の名前がついてるヤツは全部却下」

「では、『インフィールドフライ』ではどうでしょう!?」

「何で野球なんだよ、却下」

「じゃぁ〜、『ニコニコとつげき団』にしよぉ!」

「ダサい、却下」

「ふむ、『玉龍会』というのはどうだろう?」

「暴力団か、却下」

「……その……『ウルトラM同好会』……」

「公序良俗に反する、却下」


 ――ヤベエ、こいつらからいい名前が浮かんで来そうもねえ!もう百歩譲るのは無しにして、名前付けること事態を無しにしようか。大体、敵に名乗るってのはそもそもテレビの中の世界の話で……いや、『サタンガルド』の奴らは、自己顕示欲が大きいのか知らんが、全員もれなく名乗ってたな。しかし、こっちが同じことをする必要はないわけで……


「もう、流星ったらワガママね!だったらアンタが名前考えなさいよ!」

「はあ!?ワガママって、お前らの案を採用するヤツなんてただの物好き……」

「そうですよ、ハルカ先輩の言う通りです!リュウ先輩は『プロデューサー』なんですから、いかした名前を考えるのも仕事でしょう!」

「そうだそうだ、りゅーくんが考えてよぉ!」

「偉そうにするだけでなく、君も一緒に考えるべきだ」

「……お願い……」


 やっべ、『プロデューサー』の肩書きが完全に裏目にでた!きっとこいつら、俺がどれだけダサい名前付けたとしても、腹いせにその名前で通すだろう。そして、『サタンガルド』の連中の前でその名前を……ああああああああ、恥ずかしい!!これは、恥ずかしくない名前を考えなければ、でも名前を付けるなんてこと人生で一度も経験したこと無い!


 隣を見ると、レンタが心底関わりたくないと言った態度で、リスなのに狸寝入りをしている。ちくしょう、関係ないみたいに寝るんじゃねえ!お前は目の前でクソダサい名乗りを見てもいいってのか!?――くそ、考えろ、何かいい感じの名前を、最低限恥ずかしくない名前を……


「……『ミリスターズ』」


 頭にふわりと浮かんだ名前が、そのままぽろっと口から出てしまう。


 ヤベ、もうちょっとよく考えてから言うべきなのに、つい口に出してしまった!どうしよう、こいつらに鼻で笑われたらどうしよう、こいつらも大概なのにバカにされたらどうしよう――


「……『ミリスターズ』――良いじゃない!!」

「カッコいいですよ、リュウ先輩!それで行きましょう!」

「りゅーくん、すごぉい!」

「『ミリス』を名前に入れつつ、スタイリッシュにするとは見事だな!」

「……うん、良いと思う……!」


 ――おや、意外にも高評価だな。あまり考えないほうが上手くいくこともあるもんだ。『ミリスターズ』。うん。どこかで聞いたような語呂だが、割とカッコよくなったな。俺の名前『流星』の『スター』を組み込めば、大体カッコよくなるな。……あれ、俺ってハルカと同じ思考回路じゃないか!?


 少し気持ちが沈んだが、ここでふと、昨日の夜ぐらいからやりたいことがあったのを思い出した。どうやってこいつらを説得しようかと悩んでるうちに忘れてしまったが、今の流れならきっと言う通りにしてくれるだろう。


「そうだ、俺さ、今からやりたい事あるんだ」

「何よ、ポ○モンでもやるの?」

「違うわ!お前らの『ミリス』の能力を測定する。出来ることと出来ないことをしっかり把握しておかないと、本番で無茶して怪我をしちまう」


 と言うか、俺がこいつらを制御出来なくなる。何かマズイことをやらかしてしまう前に、予測して止めておきたい。

「別にそんなことしなくていいわよ、面倒臭い」

「そんなことをしていたら、午後の稽古に間に合わなくなってしまうではないか」


 ハルカとスイレンが難色を示す一方で、


「確かに、『ミリス』になってどれだけのことが出来るのか、気になってきました!」

「わぁい、測定、やるやるぅ!」

「……うん、必要……だと思う……」


 カエデ、キナコ、ユカリは乗り気のようだ。このまま、多数決を理由に残る2人を説得してもいいが……


「おいハルカ、面倒臭いって何だ!?面倒くさがって命落としたら世話ないわ!スイレンも、今午前11時だ、今からなら稽古にも間に合うだろ!」

「えー、でも……」

「しかし……」

「うるさい、ぐちぐち言うな!『プロデューサー』命令だ、黙って従え!」

「「…………」」


 ハルカとスイレンが不満を露わにしている。まあ、俺の言い方は明らかに横暴だが、要求は理にかなっているもんだ。俺だって、こいつらの意見をまるっきり無視するつもりは無い。別に『プロデューサー』権限で生乳見せろとか言うつもりは無いし。言ったら殺されるし。


 多数決を材料にしなかった理由は、今後こいつら全員がポンコツ作戦に賛成したら、俺の反対が通らなくなるからだ。その結果、目も当てられない惨事になる可能性がある。それは是非とも避けたい。


「……分かったわよ、仕方ないわね」

「……ここは、流星君に従おう」


 何とか納得してくれたようだ。場所は……あそこでいいか。俺はまだ狸寝入りをしている――と言うか、そのまま本当に寝てしまっているアホリスを引っ叩いて起こした。


「――いてて!何するんだ流星!」

「寝たふりで、そのまま寝るヤツがあるか。――よしみんな、外に出るぞ」

「えっ、なーんで出る必要があるのよ?ここで『オルタナ界』とやらに飛べば良いじゃない」

「バカか、ここで転移したら、もし母さんか誰かがこの部屋を覗いた時、いきなり消えたようになるじゃないか。外に出ておけば、30分ほど居なくなっても不自然じゃない」

「りゅーくん、頭いいねぇ!!」

「…………そうだな」


 頭の良さを褒められても微塵も嬉しくないヤツに褒められた俺は、押入れから昨日準備していたバッグを引っ張り出す。


「流星、それはなーに?」

「これはなハルカ、能力測定器具だ。現代科学の力だ。測定場所に着いたら教えるよ。さあお前ら、出てった出てった!」


 5人を急かして部屋から出した後、俺は右肩にバッグの紐を引っ掛け、左肩にものぐさリスを乗せて部屋を後にした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「「「「「お邪魔しましたー」」」」」

「あらあら、みんなもう帰るのね。……って、流星、どこ行くの?――ああ、外に遊びにいくのね」

「遊びってわけじゃないけど、まあこいつらと外へ。12時までには帰ってくるよ」


 リビングにいた母さんがこちらに気付いて声をかけて来たので、俺は5人と外へ行く旨を告げた。勿論詳細な内容を伏せて。


 ――母さんが、俺が戦いに巻き込まれていると知ったらどうなるだろう。母親なら、止めにくるだろうか。……だけど、もしそうなったとしても、俺は全てが解決するまで、やめることはないだろう。俺は、自分で未来を掴み取る。だから、俺の未来を脅かす『サタンガルド』は、俺が、俺達が潰す。


「分かったわ、行ってらっしゃい」


 ずっと、そう言い続けていてほしい。


「リ、リュウ兄、その女の人達と外へ!?まさか、ホテルに……」

「何を言っているのかな妹よ!?今は真昼間で……じゃなくて!そんなところ行くわけねえだろ!俺達は中学生なんだぞ!俺はこいつらと公園に行くんだよ!」

「公園?……流星、お前は見られてるほうが興奮するタイプだったのか」

「父さんは黙ってくれ!」


 俺は5人を玄関の外へと押しやり、次いで俺も逃げるように日のさす外界へと飛び出していった。


 公園へと向かう道を歩く俺たちを、母さんが玄関のところに立って、俺達を後ろから見送っていた。見られると困る、早く母さんの視界から外れなければ。

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