表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女のプロデューサー  作者: 立花KEN太郎
第1章 結成の前奏曲 Prelude of formation
12/55

第11話 『Fifth, don't hurt me』

 昨日の雨の跡は校庭にぽつりぽつりと点在する水溜りのみとなっており、空は昨日から全くもって平穏であったことを主張しているようだ。しかし、どれだけ空が雨を隠そうとしてもその名残は残る。穏やかな晴天と激しい荒天、俺は曇りでもいいから人生に激しい爪痕を残す荒天とならないことを望んできたのだ。


ああ、静と動、天と人生、何故2種類があるのだろう。そして何故その差がこんなにも激しいのだろう。


「今、俺の人生は嵐の真っ只中ってわけだな」

「なーんの話をしてるのよ?嵐?――『嵐の前の静けさ』と言うじゃないの」

「ああ、確かに、この疫病神と出会う前は比較的平穏な生活を送れていたな」

「ボクのことを、疫病神と言ったか?失礼な!」


 俺にとって、お前は疫病神以外の何者でもないだろ。その疫病神は、現在、俺の側を通り過ぎる女子生徒を片っ端から適正を診断している。ハルカら4人には1分ぐらい掛かった筈だが、レンタによると基準値より上か下かは2、3秒で分かるらしい。正確に判断し、間違ってないかどうか更に調べるのに1分程掛かるのだ。まあ、普通は『ミリス』契約はたった一人の人間としか出来ないのだから、慎重になるよう教えられてもおかしくは無い。


 最後の5人目を探すため、俺は授業間の10分休みの間を縫って、3年生の教室の前の廊下を歩いている。今は5月中旬、ミリム保有量が最大になると言われる14歳は、2年生より3年生の方が多い筈だ。……仮に3年生の誰かが最後の一人になったとして、他が後輩ばかりじゃやりにくいだろう。カエデぐらいの図太い精神が必要になるな。


 廊下も端まで来て、2年生の教室のある階に通じる階段に到達した。レンタが帰ってくるが、あまり感触が良くなかったような顔をしている。


「おかえり。どうだ、良さそうな人見つけたか?」

「全然ダメ。かすりもしないよ。大まかに見ても、基準値の半分も行ってないヒト達しかいない」

「難しいわね……4日連続で見つかったから、今日も見つかると思ったんだけど……」

「俺の不運が今週はクライマックスに達してるんじゃないか?」

「幸運の間違いじゃないの?……とにかく、昼休みにまた探しに行きましょう!」


 これ程の『ミリム』多量保有者が集まるのは、街のどこかにいる目印をつけた1匹のアリを見つけられることよりも確率が低いと、レンタは興奮しながら言っていた。本当にどうしてしまったのだろうか、俺の人生……


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 昼休み。今日の給食は揚げパンで、男達による醜い余り物の争奪戦が繰り広げられた。最終的にその一個の余り物を勝ち取ったのは……俺でーす!俺はジャンケンに関する様々な勝ち筋をネットで情報収集していて、大抵のジャンケンに勝てるようになったのだ。


 しかも、俺には今、(ジャンケンにおいては)強力な仲間が付いている。俺と中村、最後の勝負になったとき、レンタに中村の拳が開くのを阻止させたのだ!その結果、パーを出した俺が揚げパンを勝ち取ることになった。席へ戻るとき、ハルカにボソッと「クズ(ぼし)」と言われたが。


 レンタが、自分への報酬を主張して来たので、増えた揚げパンを誰かに見られないように分けることにしたが、結果的にレンタは増えた分の4分の3は食べてしまった。このいやしんぼめ。


 そんなこんなで、今満腹で幸せそうに眠っているレンタを空のカバンに入れて、『適性者』探しを始めることにした。女子が4人、男子が俺1人の団体が歩き出す。道ゆく男子が俺を見るたびに舌打ちをするのが聞こえる。誤解だってば。


「ふむ……やはり、流星君は皆からの好感度が低いようだな」

「何だスイレン、俺の好感度が低いのを前提にして俺と接していたのか」

「今日クラスメイトに流星君のことを尋ねたのだが……下品で卑怯、勝つためには手段を選ばない最低な男だと。女子と会うたび胸をいやらしい目つきで見ていると」

「ひ、人を憶測で評価しないでもらいたいものだな!」

「今もスイレンの胸をチラチラ見てるじゃない」

「流星、貴様には放課後私と付き合ってもらおうか」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 スイレンが俺のことを呼び捨てにした時点で、放課後の付き合いが残虐なものであると察知した俺は平謝りをした。『〇〇君』と読んでいるのは礼儀正しさを飾るためで、素は呼び捨ての方ではないだろうか。


「それで、今日は晴れなので、校庭に行くんですか?」

「いや、今日は図書室に向かおうと思っている」

「どぉしてぇ?」

「別に俺が優雅な昼休みを送りたいってわけじゃない。ただ……昼休みに図書室で静かに本を読んでるような、大人しいヤツが良い。やかましいのが5人いたら、俺はいよいよ死ぬ」

「ちょっとちょっと、なーによ、私達が大人しくないような言い方して!アンタだって、図書室通いしてるけど、全然大人しくないじゃない!」

「お前の前では、そうだろうよ。お前へのツッコミで忙しいからな」

「なーんですってー!?」


 図書室の前に来るまで、ハルカはギャーギャーと喚き続けていた。大人しくしろよ。


 ――正直、5人目がどんなに変態で、マトモじゃなくても良い。『ミリス』の適性があるヤツは漏れなくマトモじゃないんだろうなと、俺は諦めている。そんなヤツらに、世界の命運を託していいのだろうか……


 道の先に影がかかる。暗く、暗く。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 俺は4人に図書室の外で待機するように命じた。こいつらが中に入ったら、絶対騒がしくなるからだ。ハルカを筆頭に不満を露わにする女子達を放っておいて、俺は図書室へと足を踏み入れた。


 貸出受付の女子が「利用してくださり、ありがとうございます」と言ってきたが、明らかに感謝が別の事象に向けられていることが分かる。いい人だな。ジャージに書いてある名前を見ると、坂本さんのようだ。俺は、カバンから借りていた本を出すと同時に、中で眠っているリスを叩き起こした。レンタは寝起きで機嫌が悪いように見えたが、それでも状況を理解して目の前の女性の適性判断へと向かった。


 ――3秒後、レンタは短い両手でバツを作った。やっぱり、こんな物分かりの良い人が『ミリス』の適性者な訳ないんだ。


「――これ、貸出期限過ぎてますね。決められた期限、ちゃんと守ってくださいね」


 借りたものを返す時刻を守らなかったことに罪悪感を覚えつつ、俺は図書室の奥へと向かう。……一昨日の男子メンバーがそっくりそのままいる。キナコは、中には来ないぞ。しかも、たった一人の女子までいる。この人は関係ないのに巻き込まれて、可哀想だ。「キナコ様親衛隊」のメンバーは、キナコが入ってこないと分かると、ぞろぞろと外へ出て行った。


 お前ら、この女の子に謝罪したのか?俺はちゃんと謝る男だぞ。ぱっと見身長が少し低く、髪を両側にまとめて、コンパクトにしているその少女に、俺は謝罪の言葉を述べる。


「えーと……一昨日は、その、ごめんな。怖い思いをしてしまっただろう」

「……えっ、あっ、……いえ……大丈夫、です……気に、しないで……下さい……」


 内気そうだが、大人しそうで良いな。それに、身長が低そうなのになかなかのサイズの胸、ハルカを10として8点ぐらいだ。読書友達とかになっても良いかもしれない。


「俺は、2年1組の長谷川流星っていうんだ」

「あ……わ、私……2年、5組、の……野口(のぐち)……(ゆかり)……」


 すごくコミュニケーションを恥ずかしそうにしているが、面倒臭いとは微塵も思わない。大人しそうで、全くやかましそうじゃないな。


 既にレンタが調査を始めているが、まだバツサインは出ない。最後の最後で、大当たりキタコレ!?


「……えっと、野口さんって、読書が好きなの?」

「……うん、読書を、してると……心が……落ち着く、から……」


 ユカリと下の名前で呼ぶと恥ずかしさで倒れてしまいそうなので、注意を払いながら会話を続ける。


「俺のことって、聞いたことあるかな?」

「……流星くん、は……いつも女子を……いやらしい目で、見てるって、聞いたことが……」

「うぐっ」

「それに……学年で、1、2の美人の秋山さんに……小学生の頃から、くっついていて……彼女がいるのに、他の女子のスカートを……覗き見ようと、してるって……」

「うぐぐ、あいつは彼女じゃねえって……」

「でも……ね、秋山さんが、とても方向音痴だって、聞いてから……流星くん、って……その……えらい、と、思うの。何年も、ずっ、と……秋山さんの、ために、側にいてあげる、って、すごい……こと、だよ……。……え!?」

「ありがとう、初対面の俺にそこまで。俺な、随分とハルカに付き添っているけど、あいつからは感謝の一つも無いんだよ。本当にありがとう……」

「……だ、大丈、夫……?」


 ヤバイ、この子優しすぎて、涙が出てきそう。俺は思わずユカリの両肩に手を乗っけているのに気づき、手を離して謝罪する。すると、彼女は「大丈夫」と言いたげに恥ずかしながらも微笑んで見せた。すごい、今まで会った女子でヒロイン力が最高だ!


 ユカリは本を閉じ、静かに席を立って本棚へと向かう。3メートル以上離れているので、レンタは調査を中断し、俺の元へと駆け寄る。


 ――レンタは、短い手でマルを作る。よっしゃああああああああ!!『ミリス』適性があると分かって、こんなに嬉しいのは初めてだ!!


「流星、君はやはり幸運だね。ただ、あのヒトはミリム保有量が基準値の6倍位と、少ないのが心配だけど……」

「あいつらがすごく多いだけで、あの子も多いと思うぞ」

「あっ、そうだね。ボクも、感覚が麻痺してきたかな……」


 ユカリが、本を携えて戻ってくる。彼女が『ミリス』になって、俺と行動をともにしてくれれば、どれだけ俺のストレスが減るだろう。……でも、彼女があいつら4人に振り回されるのは可哀想だn


 ……あれ、右手を机の下に置いて、左手でページをめくっているぞ、おかしいな。


「……どうしたんだ?何の本を読んでるんだ?」

「……えっ、と……『世界の拷問器具』……」


 ……おかしいな。何かがおかしいな。


「ご、拷問……見てて楽しいのか、グロくないのか……?」

「……その、ね、この……アイアンメイデンとか、あるでしょ……あの、中に……自分が、入って、身体中に、トゲが、刺さる……っ……のを、想像すると……はぁはぁ……。他に、も……いっぱい、あって……すごいんだよお……うっ、くっ、……ふう……」


 ……頑張れ、俺。覚悟はしてきたはずじゃないか。少々Mなところがあったって、誤差の範囲内だ――


「う、その……り、流星、くん……見ないで……」

「……ご、ごめん!恥ずかしいところを見ちゃって、誰にも言わないから許してくれ!」

「え……もう、見ないの……?」

「――は?」

「……私、気づいて、た……流星くんが、私、の……胸、を……チラチラ見てるって……そんな、いやらしい目で、見られると……くぅ……!そ、れに……みんなに、言って、も……良いよ……それで、私は……痴女だの変態だのって、みんなから、冷たい、視線を……はぁはぁ……」


 ダメだ。過去最高にダメだ、この女。


 第一印象でなんか良さげだと思って、ユカリを下の名前で呼ぶことに億劫になっていた数十秒前の俺にラリアットを食らわせたい気分だ。俺は中身で判断するって決めただろ。ダメだろこの変態痴女は。優しい性格だし気配りもできるのだが、かえって変態性が強調されてしまっている。2つの意味で俺はコイツを仲間に加えて戦わせたくない。


「よし、教室に帰るか」

「うん、そうしよう流星」

「ま、待って!……その、誰かとお話、するのが……久しぶり、だから……もっと、話を、したい……」


 そんなことを言っているが、右手で何やらまさぐりながらヤバイことを口にする女と、話を続けたくない。というか、読書で心を落ち着かせる気無いじゃん。レンタも訳のわからないモノを見たという表情をしているし、他に探すしか……


「――ねえねえ、あなたが最後の『ミリス』!?よかったわね、私達と一緒に来ましょう!」

「辛いことも、みんなでやれば乗り越えられますよ!」

「ゆかりん、楽しいからぁ、一緒にやろぉ!」

「最初は戸惑うこともあるだろうが……なに、私が付いてる」


「えっ、あの、その……?」


 痺れを切らした4人が、俺とユカリの方に突撃し、『ミリス』の勧誘をしてきた。くそ、図書室の外で待っとけって言ったのに……


「図書室では、静かにしてください!」


 坂本さんの尤もな注意に、俺達は皆謝罪の言葉を述べた。


 ……ああ、それにしても、最後の一人も変態か……うっ!


「……すまん、トイレに行ってもいいか?」

「相変わらずデリカシーの無い男ね。良いわ、行ってきなさい」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「――ウオロロロロロロロロ!!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 俺がトイレから戻ってくると、5人の女子は図書室前の廊下で『ミリス』についての話をしていた。と言っても、ユカリは本当に当惑しているような顔だ。すると、ユカリが俺の方に気づいて、救済を求めて駆け出してきた。


「……あっ、流星くん……その、みんなが、世界を救うために戦っている、って言うんだけど……正直、本当の、こととは、思えなくて……」

「うん、大丈夫。それが普通だ。それは普通だ」

「…………?」


 とりあえず、隠し通そうか。ユカリはハルカ達よりもミリム保有量が低いから、レンタのことを感じることが出来ない筈。そうなれば、このまま4人が訳のわからないことを言っている、で押し通せるはずだ。


「そのな、あいつらはちょっと、今読んでいるネット小説に感化されすぎているんだよ」

「流星君、君はユカリ君を最後の『ミリス』に加えるんじゃなかったのか?」

「スイレン、君が何を言ってるのか、分からないな!」

「ちょっとちょっと、ユカリは内気で喋るのが苦手だけど、大人しい子っていう、アンタのお望み通りの女の子じゃない!」

「最初はそう思ったよ、最初はな!……こいつの正体は、救いようの無いドMの変態なんだよ!」

「変、態……うっ……ふうぅ……」


 喜ぶな!ヤバイ、また気持ち悪くなってきた……


「りゅーくん、そんなこと言うなんてひどいよぉ!ゆかりん、嫌がってるでしょぉ!」

「よく見ろ、どこが嫌がっているように見えるんだ!?お前が男子同士でイチャイチャしているのを見るときと同じだよ!」

「だってぇ、ゆかりんも悪口を言われたら嫌だもん……うぅぅ……」

「泣くな、泣くな!分かった、俺が悪かったから!ユカリ、ごめんな」

「あ……名前、で……呼んでくれた……友達……」


 ……やってしまった。ああ、これで付き纏われる。そしたらもう『ミリス』になるしか無いじゃん。というか、こいつ、友達いないだろ。言葉が上手く言えなくて、言えたとしても変態発言で敬遠されて……クラスで地味な存在になるだろう。ハルカの顔の広さでも把握出来なかったぐらいだしな。


「もう、流星、手っ取り早く見せた方が早いわよ!ガリ何とか、しましょ!」

「お前、今が昼休み残り20分だって、考えろよ!」

「じゃあ、昨日と同様に放課後にしましょうか、場所も同じ公園で集まるんです」


 ――結局、昨日と同じ流れになってしまうのか。……と思いきや、ユカリが思いも寄らないことを口にする。


「あ……あの……私、流星くんと二人きりで……お話、したい……」

「…………え?」

「……えっと、流星くんが、はっきり言ってくれれば……私も、信じられると、思う……でも、流星くんって、きっと……優しいから、女の子達に、合わせちゃうから……だから、二人きり……」

「お、おう……」


 何だよ、もしお前が変態じゃなかったら、ドッキリさせること言いやがって。……それに、俺は優しい人間じゃない。人の悪口は容赦無く言うし、譲歩も余程のことが無い限りしない。最近、その余程のことが起こりすぎな気もするが……


 4人を見ると、無言の了承を示している。あいつらも信じてもらえなくて辛いだろうに、あれが本物の優しさだと俺は思うぞ。色々と面倒臭いヤツらだが、ああ言うところだけはちゃんとしているんだよな。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 俺とユカリは図書室前廊下から曲がったところにある、階段の踊り場まで来た。ここら辺は、本当に人が通らないな。おかげで二人きりの状況を作れる訳だが。…………。


「あのな、実を言うと、ハルカ達の言ってることは本当だ。信じられないのは分かるが、これが嘘なら俺はもっとマシな嘘をつく」


 俺は、やはり打ち明けることにした。もう、性癖が何だってんだ。こいつは、俺の話をちゃんと考えて聞いてくれたし、俺の印象だって評判に惑わされずにちゃんと考えて評価してくれたじゃないか。そんな子が、俺の言葉なら信用できるとか言われたら、俺が嘘をつける訳ないじゃん。


「……うん、分かった。流星くんの、肩に……乗ってるんでしょ、その……妖精、さん?が……」

「まあ、そんなもんだ。そいつはリスみたいな生き物で、食いしん坊のいやしんぼで、イビキが煩くて、ガキのように現代社会の建物に興奮して、挙句うっかり車に轢かれそうになるいてててててててて!」

「それは少し言い過ぎじゃないか、流星」


 レンタが俺の左頬を引っ張ってくると、ユカリはクスリと笑った。


「ふふ……本当に、いるみたい……。それに……悪口を、躊躇いもせず言える、なんて……仲が、良いんだね……」

「……そうか?……なあ、何で俺のことを信じるんだよ、俺ほど不誠実な人間はそういないぜ」

「……それ、こそ……私に、はっきりと……変態、だって……言ってくれたから……きっと、私に、本当のこと、が、言える人、なんだろうな……って……」


 はっきりと悪口を言われた方が信じられる?あまりよく分からないな。しかし……これはマゾとはまた違ったものに見える。俺がもうちょっと頭が良ければ理解できたかもしれない、ごめんな。


「……それで、どうだ?『サタンガルド』と言う悪の組織と戦うために、あいつらは『ミリス』になって戦っているが、お前は?一緒に戦えるか?正直、何度も命が危なくなると思うし、お前みたいに良識のあるヤツには思い留まって欲しいが……」

「……私に、戦う資格が、ある……の?」

「適性なら、ある。お前には見えていないヤツが、それを保証している。だけど、ユカリ、お前は……優しいから、戦いには、向いてないんじゃないか……」

「……向いてる、と、思う。多分……」

「…………?いや、お前は内気だし、敵の攻撃に呑まれちゃいそうで……」


 突然、俺の足元が光り出した。俺はまさかと思い、レンタと顔を見合わせる。


「「……『強制召喚(ラボ・アージ)』だ!」」

「……え、流星、くん……何が……」

「ユカリ、俺から離れろ!ヤバイことになるぞ!」

「……ヤ……ヤバイ、こと……?……ど、どんなこと、だろう、はぁはぁ……」

「うわあ、しまった!おいくっつくな!」


 不用意な発言で、ユカリを喜ばせてしまった。こうなったら絶対離れないだろうから、俺は次の対処に移る。


「ハルカああああああああ!!!早く来てくれええええ!!!」


 確実に戦えるヤツを呼ぶ。これが最適な対処法だ。


 光がどんどんと強まっていく。呼んでから20秒ほどで、ハルカは俺の見えるところまで来た。


「ちょっとちょっと、アンタ達、二人きりで話をするんじゃなかったの!?……って、なーによ、この光!」

「『強制召喚(ラボ・アージ)』って言って、『サタンガルド』の奴らに『オルタナ界』へ飛ばされるんだよ!お前が必要だ、俺の手を取ってくれ!」


 俺がハルカに触れていれば、ハルカも来ることが出来て、敵に立ち向かえる筈なのだ。ハルカは、悪態を着きながら、階段を降りて俺の方に近づいてくる。


「しょうがないわね、アンタは私がいないと……」


 ――が、俺の伸ばした右手にハルカが掴まる直前に、俺達は『オルタナ界』へと飛ばされた。つまり――間に合わなかったのだ。


 世界が、目の前の希望と共に――崩れ去っていく。


 崩れ落ちた地面の先には、暗澹とした虚空の奈落が、深く、深く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ