下手な芝居
とある都市のとある高層ビルの屋上。
時刻は深夜。
そこに1人の中年男性が『KeepOut』の柵を越えて立っていた。
『あと1歩でこの世から去ることができる』
男は身を投げ出そうとしていたのだ。
しかし、最後の1歩を踏み出せずにいた。
いざ、決心をしたはいいが、これこれ2時間が経過していた。
「飛ばないのですか?」
突然、後ろから声をかけられた。
振り向こうとすると、
「振り向かなくても構わないですよ。人の顔を見ると思いとどまりますから」
男性の声だった。しかも、男を行為を止めるような感じはない。
「私が最後の1歩の手助けをしてあげましょう」
男の反応に構わず声の主は勝手に話続ける。
「さぁ、思い出してみましょう。会社では上司によるパワハラ。先方には、自分のミスではないのに頭を下げまくり罵詈雑言を受ける。辛いですよねー」
「・・・・・・」
「家に帰っても邪魔者のように扱われる。貴方は家族のために働いているのにも関わらず、感謝もされない」
「か、家族は・・・・・・」
男の言葉も聞いていない。
「さぁ、さぁ、さぁ!飛び降りて楽になりましょう!」
「家族は悪くない!!」
家族についてのことが逆鱗に触れて、男は振り向いた。
そこにいたのは、20代くらいの青年だった。見ると、黒色でボロボロのマントを纏っていた。
「誰なんだ、お前は!他人様のことを好き勝手言って、いい加減にーーーー」
怒りに身を任せて、青年を非難しようとしたが、彼が右手に持っているモノが見えて男は血の気がひいた。
"鎌"だった。
男は急いで柵を越えてその場をあとにした。
「行ってしまわれましたか。ならば、それはそれでよし。負の感情を大量に溜めた魂の方が価値がありますからね」
そう言い残すと、男の姿は闇夜とともに消えていった。




