初日(夜)
午後6時。もう外は暗くなっている。
ファルコンが死んだ。俺の目の前で。人の目から光が消える瞬間。あれが頭から離れなかった。
最初の椅子がある広場に皆集まり、話合おうという事になったのが、誰も何も口にしなかった。一つ空いた席、あそこにファルコンが座るはずだった。
ペプシ「…8時にはまた集まって話し合いするんでしょう…?で9時までに投票して…それで…」
のえる「誰を処刑するか、自分たちで決める…」
ギルベルノ「それって…今日もう一人死なないといけないんだ…」
オサシミ「…きっとそういうドッキリとかだよ!全部終わったらドッキリ大成功!とか言ってきてさ…それで」
かしわもち「…そうであって欲しかった…」
かしわもちが話を遮るように言った
かしわもち「…僕は…二回目です…。僕もただのゲームだと思ってました…。でも一人ずついなくなっていって…。やっと終わったと思ったら…最後の最後で首輪が絞まって…。目覚めたら…」
のえる「…前のゲームの役職はなんだったの?」
のえるがかしわもちに問う。
かしわもち「…"妖狐"でした…。あの時生き残ったのは僕だけで…」
妖狐。妖狐が生き残っている間、人狼か村人のどちらかが全滅した場合、妖狐が勝利になる。言うなら第三陣営。
よざくら「前のゲームは妖狐?…なんでこのゲームに妖狐がいないんだ…」
確かに。妖狐という役職があるなんて見なかった。
かしわもち「わからないです…。ただ、前のゲームは"双子"がいなかったので、たぶんゲームによって違うんだと思います…。」
ペプシ「ゲームによって違う…ね。こういう人狼ゲームみたいな事が何回も繰り返されてるんだ…」
のえる「…。とりあえずかしわもちくん、前のゲームでわかったルールとか、そういうの教えてほしい」
かしわもち「…わかった」
かしわもちは前のゲームについて話してくれた。禁止事項、ルール違反のこと。役職のこと。細かい事まですべて教えてくれた。
よざくら「…首輪を破壊しようとしてはいけない…そんな事までは聞いてないぞ…」
ログア「…きっと犠牲者を多くするためだ。ルール違反で誰かが死ねば、言う事を聞かせられる…。勝手な行動も減らせる…」
オサシミ「そんな…理不尽だよ…」
かしわもち「そうだよ…。このゲームは理不尽なんだ…。人の心を弄ぶ…。」
のえる「…あんまり迂闊に行動できない…慎重に行動しないと…」
ログアがアイランドの方を見る。顔色があんまりよくないようだった。ボソボソと何か呟いている
のえる「とりあえず全員、役職について話しておこう」
確かにそうだ。今のうちに推理する材料を集めておこう。
のえる「俺は占いだ。対抗は?」
対抗は…誰も名乗り出なかった。
ペプシ「…俺は、双子。…相方とはもう打ち合わせした。相方が誰とは言わないでおく」
双子の対抗も出ない。
この状況で冷静さを保てる二人。逆に怖く感じた。
のえる「よし…あとは、まあまた8時の会議で話そう。とりあえず俺らの白が確定してよかった」
あの二人、手を組んでいるのか…?お互い何を確証に信頼しあってるんだ…。
のえる「とりあえず今は自室に戻ろう。8時になったらまた集まって話し合おう」
あおい「…わかった。8時に…」
のえるの言葉で全員解散していく。8時になったらまた、誰を処刑するか話さないといけない。誰を"殺す"か。死ぬのは自分かもしれない。決められなくて皆死ぬかもしれない。
一人でそんな事を考えながら、ギルベルノは自室に戻っていった。
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ログア「アイランド…大丈夫かな…」
明らかに様子がおかしかった。目の前で人が死んだ。無理もないかもしれない。
『ログアさんのせいだ』
アイランドのあの一言が頭から離れない。もし自分が、ファルコンの首輪を削らせたと皆に言われたら…。
きっと皆は俺に投票するだろう。それだけは絶対に避けないといけない。死にたくない。
削らせたのは俺…。ヤスリを見つけたのはアイランド…。同意の上で削ってもらったのはファルコン…。
仮に全責任をアイランドに擦り付けても、ギルベルノが俺とアイランドの会話を聞いてるから…。
だめだ…どうすればいいんだ…。これじゃあ初日で死ぬのは俺…。
ログア「…」
いや、俺は何考えてるんだ。アイランドに責任を擦り付ける?…俺がアイランドにやらせたんだろ…その事実は変わんないじゃん…。
殺させたも同然…それなのに自分だけ助かろうとしてるって…。そんな助かりたいのか?そこまでして生きたいか?
…とんだクズ野郎だ…。
もういいんだ、ファルコンは俺が殺した。その事実は変わらない。それ相応の罰を受けるべきだ。
俺は今日の投票で死ぬ
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ギルベルノ「…」
未だに信じられない。ファルコンさんが目の前で死んだ。これからまた人が死ぬんだ。かしわもちかもしれない、ログアさんかもしれない。
俺かもしれない。
こんこん
誰かがドアをノックしてきた。
かしわもち「ギルベルノ?」
ギルベルノ「かしわもち?…何か用?」
ドア越しに声をかける。
かしわもち「今日の投票で話したい事があるんだ…」
ギルベルノ「…わかった、入って」
ドアを開けてかしわもちを迎え入れる。
かしわもち「…実際会うのは初めてだな…」
ギルベルノ「あ、まあ…そうだね…。こんな形では会いたくなかったけど…」
かしわもち「まあ…ね…」
かしわもちとは、ネットでは割と仲が良かった。それこそリアルで会ってもいいと思ってた。でもこんな形で対面するとは…
かしわもち「…今日の投票どうする?」
ギルベルノ「どうするって言っても…判断する材料がなさすぎて…」
かしわもち「のえるさんとペプシさんは…対抗出なかったし白で見てもいいと思う…」
ギルベルノ「そうだね、まあでも…この状況だし、出なかったんじゃなくで、出れなかった可能性もなくはないし…」
かしわもち「まあ…確かに」
ギルベルノ「…なあかしわ」
かしわもちに聞いてみたいことがあった。
ギルベルノ「今日の夜の投票、誰か一人は必ず死ぬのか…?もしそうだったら…俺投票できないかもしれない…」
かしわもち「ん…なんで?」
ギルベルノ「間接的にだけど…それでも、人を殺す事になるんだよ…。かしわも二回目ならわかるよな…」
ファルコンさんの最期。目から光が消えるあの瞬間。それをこれから何回も見る事になるんだ…。そうなるなら俺は耐えられないかもしれない。
かしわもち「うん…。でも投票しないと自分死ぬんだよ…」
ギルベルノ「それでもだよ…」
かしわもち「生きるために、殺すんだよ」
ギルベルノ「…」
かしわもち「人が苦しみながら死んでく…。俺はもう何回も見た…。でもその人たちのおかげでまだ生きてるんだよ俺は…」
かしわもち「その人たちのために生きなきゃいけない。このゲームの主を突き止めて、理不尽なゲームを終わらせる。そのために殺すんだよ…」
ギルベルノ「…わからない…。なんでお前はそんな風に考えれるの…。なんで殺さなきゃなんないんの…。人が死ぬのなんて見たくない…もう耐えられないんだよ…」
かしわもち「…明日になったらわかるよきっと…」
かしわもちは立ち上がって、部屋を出て行った。
俺は一人震えて、時間がくるのを待っていた。
――――――――――――――――――――――――
夜8時。もう皆広場に集まっていた。
あおい「ログアさん最後か…。じゃあそろそろ会議始めよ?」
ここで誰を殺すか話し合い、その誰か一人に投票する。
人狼ゲームが始まった。
のえる「まず、ファルコンが死んだ時、周りに誰がいたんだ?判断材料になるかもしれない」
イリ―「はい、確か…ログアさんとアイランドさんとギルベルノさんがいたと思います」
ペプシ「らしいけど、それは本当?」
ログア「うん、間違えない」
他の二人も頷く。
あおい「で…アイランドさんがなんか様子がおかしいけど…大丈夫?」
アイランド「…!」
アイランドがあおいの言葉に反応する。
アイランド「俺は知らなかったんだ…人が死ぬなんて…本当に首輪が絞まるなんて知らなかったんだ…!」
あおい「まあ落ち着いてよ…」
アイランド「俺は…俺は…」
なにかぶつぶつ呟いている。かなり精神的に不安定らしい。
オサシミ「じゃあ首輪を外そうって言いだしたのは…?」
アイランド「ログアさん…ログアだ…!ログアがやれって!」
あおい「だから落ち着いてって…」
アイランド「俺は悪くないぞ?!関係ないんだ…そう…関係ない…全部ログアさんが…ログアが…」
だいぶ取り乱している。
よざくら「って言ってるけどログアさん、本当?」
ログア「…」
そうだ。俺がやらせたんだ
ログア「…間違いない」
あおい「…今日一人投票しないと…」
イリ―「それじゃあ今の所ログアさんが候補かな…」
オサシミ「で…でもさ?首輪壊そうとしちゃいけないって、ルールにもなかったじゃん…!それだけで決めつけるのは…」
イリ―「でもオサシミさん。今の所ログアさんがヘイト溜まってるんだよ。間接的にとは言え、人一人殺してるわけだし」
弁明のしようがない。俺は確かにアイランドに首輪を削らせた。他に黒い人もいないし…。俺に票が行くのもおかしくない。
ログア「そうだよ…。俺はアイランドに削らせた。文句ないよ…」
よざくら「だとさ…。俺だって死にたくない。今日はログアさんに投票するよ…」
これでいいんだ。これで。
かしわもち「でも待ってください」
かしわもちが声を大にして言う。全員の視線がかしわもちに行く。
かしわもち「あの場には三人いたはずですよ…?…ねえギルベルノ」
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かしわもち「あの場には三人いたはずですよ…?…ねえギルベルノ」
全員の視線が俺に向く。
ギルベルノ「ん…俺…?」
あおい「なんか言いたい事ありますか?ないなら今日はログアさんに投票でいいですよね?ね?」
なんだこの空気。なんで皆。殺気立ってるんだ?
ログアさんの方を見た。
ギルベルノ「…っ」
助けを求める顔をしてた。俺に何ができる?ログアさんの白を俺が証明しろって?俺が?
オサシミ「ギルベルノさん…」
よざくら「なんか言う事は?」
わからない…なんで…なんで俺なんだ?俺ができる事は…
かしわもち「ギルベルノ」
かしわもちの声が耳に入る。
かしわもち「本当にこれでいいの?何か見落としてる事本当にないの?…ログアさんが死ぬよ?」
ログアさんが死ぬ。この言葉に突き動かされた。ログアさんが死ぬ…。一瞬体が固まる。
イリー「…ないっぽいね」
のえる「じゃあ今日はログアさん…」
ギルベルノ「待って!」
大声で叫んだ
ギルベルノ「…待って…。ヤスリを見つけたのは…アイランドさんだよね?」
アイランド「え?いや違う…いや…いやそうだけど…」
ギルベルノ「…ログアさんに全部擦り付けて責任逃れしようとしてるように見えるよ…俺は。」
アイランド「え…待ってなんでそうなるの」
ギルベルノ「ヤスリを見つけたのはアイランドさん。それはログアさんも知ってるはず。俺も聞きました。あの時食堂でアイランドさんが"俺が見つけた"って」
アイランド「待ってって…!」
ギルベルノ「ヤスリ見つけたなら自分で試せばいい話じゃん…しかもログアさんに命令されたとかそんな事言って…」
アイランド「でもログアさんがやれってお前も聞いたじゃんかよ!」
ギルベルノ「…いいや、聞いてない」
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数時間前
ギルベルノ「それって…」
アイランド「俺が倉庫で見つけたんだ」
ファルコン「そう、それで首輪を外せないか試してみたいんだ」
首輪を外す?削ってって事か?でも…ワイヤーだよね…そう簡単にいくか…?
ログア「で、これをファルコンの首輪を外したいんだ」
ギルベルノ「でも何が起こるかわからないよ?もしかしたら誤作動で…」
ファルコン「いいっていいって、俺が申し出たんだから」
ファルコンがそういうと、ログアはアイランドにヤスリを渡した
ログア「うまくいったら、俺とか、ギルの首輪も外したいんだ」
ギルベルノ「うまくいったら…」
嫌な予感がする
アイランド「よし、じゃあ削るぞ」
アイランドがファルコンの首輪をヤスリで削り始める。
ガリガリと音がなっている。手応えはありそう。
ギルベルノ「…」
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ギルベルノ「俺はログアさんが命令した所なんて一言も聞いてない。首輪を壊すってアイデアはログアさんのだと思うけど、ヤスリを見つけたのはアイランドさんですよね?」
ログア「…」
ギルベルノ「それに…削って言ったのは…ファルコンさんだったはずだよ」
アイランド「…なんで…。ログアさんじゃん…。ねえ…。ログア…」
アイランドが膝から崩れ落ちる。
イリ―「…ログアさん、間違いない?」
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ギルベルノ…なんで…
…ありがとう
ログア「確かに俺は首輪を外そうって言った。でも命令はしてない。俺の首輪削ってって言ったのはファルコン自身だった」
イリー「…じゃあアイランドはログアさんに責任転換しようとして?」
オサシミ「でも目の前であんな事があったんだし、気が動転するのも…」
ギルベルノ「ファルコンさんは…俺に助けを求めて来ました…。でも何もできなかった…。あの人は最期まで苦しんでた…」
よざくら「オサシミはどっちの味方なんだ?」
オサシミ「…ごめんアイランドさん…」
オサシミは下を見たまま黙り込んだ。
あおい「…この流れは…今日の投票はアイランドって事?」
アイランド「…違う…違うんだよ…。ログアが…俺に…」
『そろそろ投票の時間です。指名できなければ、全員死亡します』
アナウンスが部屋に響いた。
ギルベルノ「…ごめんアイランドさん…。でも…」
アイランド「待って…」
あおい「俺はアイランドさんに入れる」
アイランド「なんで…」
ログア「…ごめん」
アイランド「待ってって!!!」
のえる「いっせーのーせ!!!!!」
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…全員アイランドを指を指していた。
アイランド「なんで…俺なんだよ…おかしいって…」
首輪が絞まり始めた
アイランド「俺は…違う…村人だよ…」
ワイヤーがアイランドの首を絞める
アイランド「俺…が…むら"…あ…が…っ…」
じりじりと音を立てて絞まっていく
バタッ
アイランドは力が抜けたように、弱々しく、その場に倒れこんだ。アイランドはもう既に動かなくなっていた。
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「人狼ゲーム」
生存者 10名
ログア
のえる
ギルベルノ
オサシミ
あおい
よざくら
いちか
イリ―
ペプシ
かしわもち
死亡 2名
ファルコン 死因:ルール違反
アイランド 死因:投票による処刑
だいぶ遅れて申し訳ないです