10話 チーム結成
僕の目の前に白のワンピースを着た黒髪のボブカットの女の子がいる。
ただ普通と違うのは背中に小さな羽が生えているということ。
『きゃあぁぁぁー!!アンタ何すんのよ!!』
両腕を下に伸ばし、爪先立ちのまま、大きな黒目を見開きながら、僕に抗議してくる。
相当怒っているようだ。
『えっとやったのは正確には僕の体であって、僕ではないんだけど…』
しどろもどろにならながら弁解する。
『何わけわかんないこと言ってるのよ!早く戻しなさいよ!!』
すると、上からガルが降りてきた。
『来たか。早速用件を言うぞ!お前の羽を寄越せ!!』
呆気に取られる女の子。
『アンタ何言ってんのよ!!天使の羽をなんだと思っているの!?命と乙女の純情の次に大切なものなのよ!だいたいアンタは何者なの!?顔右側半分ないし、棒人間分際で!!』
『オレ様は、訳あって魔界人で大帝王のガルファンド様だ。直接口を聞けて光栄に思うがよい。』
何の説明にもなっていないようだ。
『バカじゃないの!?オレ様だかガルなんとかだか知らないけど、とっととここから出しなさいよ!!』
『それはできん相談だな。この体はこのままだともうじき死ぬ。もちろんオレもお前もだ。』
おいおいサラッと凄い事を言ったな。
呆れた様子で、女の子は言い返した。
『だから何なのよ。私には関係ないでしょ!早く出してくれれば、私は安全なんだから!フン!』
『そのとおりだ。だから出さん!!』
『はあぁ!????何わかんないこと言ってんのよ!?』
『貴様の羽を寄越せば、オレ様が生き残る可能性が出てくる。だから、羽を寄越すまで、出さん。
つまり羽を寄越さなければ、オレ様達と一緒に死ぬという訳だ。』
『…………。な、何言ってんの?アンタ頭おかしいんじゃないの?勝手に取り込んでおいて…それじゃまるで誘拐と脅迫じゃないのよ。』
『まるで…じゃない。正式な誘拐と脅迫だ。』
なんだソレ?正式な誘拐と脅迫って…。
『早く決断しろ!!もう時間がない。今脳神経細胞が高速回転になっているから、ここでの流れる時間が遅くなっているが、あと5分持たないだろう。』
おいおい重要なことをサラサラ混ぜてくるなよ。
『なんて奴なの!!私の命を人質に大事なものを寄越せなんて!!』
『その大事なものは、命と乙女の純情とやらの次なんだろう。良かったな一番と二番が守れて。』
『そんな事言ってないでしょ!!』
『じゃあどうする?ここで愚痴を言い続けて、俺たちと死ぬか?』
『ぐぬぬぬぬっ』女の子は歯ぎしりをするが、次の瞬間力を抜いたのか両肩がすっと下がった。
『分かったわ!羽をあげればいいんでしょ!だけど勘違いしないで!私は死にたくないからじゃない!!アンタ達のようなクズと一緒に死にたくないだけなんだから!!!』
結果は一緒だけどね…と思ったけど、それ以上に僕もクズ扱いなんだと落ち込んでしまった。
おもむろにガルは女の子のうしろに立つと、なんと左の羽を根元からもぎ取った!!
『きゃぁぁぁぁー!!!』
女の子の悲鳴が響きわたる。
『おいっガル!いくら覚悟を決めてくれたっていうにしても、いきなり女の子の羽をもぐことはないだろ!!』思わず僕がガルに詰め寄ると。
ガルは冷たい目をして、こう言った。
『覚悟が出来たなら行動あるのみ。覚悟がすぐに行動出来ないなら、それは覚悟とは言わない。』
『そこの棒人間の言う通りよ。私は覚悟していた。だから大丈夫!』涙目になりながら、彼女は言った。
『そして時間がない。』
そう呟いたガルが根元からもいだ羽を僕の背中の左に突き刺した。
『ぎゃっ!!!』僕は思わず叫ぶ。
前回と同じようにジュワァァァ癒着する感覚が続く…。前よりちょっとだけ慣れた自分に驚きだった。
『ううっ私の右の羽と左の羽が連動している感覚が気持ち悪い…。』慣れてない人は大変だろうな。
『おし!!これで可能性が出てきた!大家さんは目を担当!、お前は羽を担当、オレ様は頭脳兼右腕の担当だ!!』
『お前とは何よ!!私には、ノチュリーナって素敵で可憐な名前があるのよ!!』
『………。想像を超えた残念な名前だな…ノチュ』
『何をぉ〜!!!!』
『二人とも喧嘩はやめようよ!!』
僕は、思わず仲裁に入る。
『いかん、そのとおりだ!今やオレ様達は、生き残ることを共通の目的としたチームだ。』
ガルの言葉に二人は頷く。
『よぉし!みんなで行くぞ!!!』
『『おー!!!』』3人の声が初めて揃った瞬間だった。