28歳、バンド、クビ。
「あ~腹減った。」
ここ2、3日ろくな飯を食ってない。
ってか金がない。
俺、「加藤一歩」は今日バンドをクビになった。理由は音楽性の違い・・・って言えば聞こえはいいが俺以外のメンバーが俺抜きでオーディションを受けて見事大手レーベルと契約しやがった。
それを先程練習スタジオで急に言うんだから奴らの性格の悪さが滲み出てやがる。でもまぁあんな中身スカスカの愛だの恋だのほざく音楽をやるくらいなら1人で「ロック」を歌い続けてやるさ。
ま、負け惜しみなんかじゃねーからな!って誰にツッこんでるんだか。
「財布の中身は690円か。いいねぇロックじゃん。」
・・・はぁ。虚しい。もう今日は帰ろう。帰って曲作って路上でもどこでもいいからライブして日銭稼がないと本当にやばい。
そんなこんなで相棒のアコギとエレキの2つを抱えながらバス停でバスを待っていた。
16歳の頃に必死こいてバイトして買った相棒の2人だけが俺の味方だ。名を「ボブ(アコギ)」と「ジミー(エレキ)」という。
いつかこいつらと一緒にスターダムにのし上がってやる!!
っと今は遠い夢を妄想しているとバスが来た。だがいつも使ってるのと違い真っ赤なカラーリングの古いタイプのバスだ。行き先も表示されてない。それでも目の前で扉が開き俺が入るのを待っている。
「まぁいっか。行先なら~どこでもいい~ってな。」
(かしこまりました。)
ん?なんか声が聞こえた気がしたけどバスの中には俺以外の乗客がいないようだ。
「発車します。」
これからまたメンバーを集めるかそれともソロでしばらくやるか。などを考えながらバスに揺られてるうちにウトウトし始め睡魔に負け始めてきた。
・・・
「は・・・さ・・」
「はじ・・さ・・」
「はじめさん。」
「かとうはじめさん!」
「んあ!!」
なんだ?まさか寝過ごして終点まで来てしまったか!?
なんて思いながら瞼をあけるとそこには何も無い空間が広がっていた。