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頂点に立っていたプレイヤーが、最強の召喚獣として異世界に召還されたそうですよ?

 『リヴェリアルオンライン』

 三千万人ものプレイヤーを抱えた、世界的に有名なVRMMORPGの一つである。

 このゲームは、二百に及ぶ職業の中から好きな物を選択し、そのレベルを規定数まで上げることで転職が可能となる。

 転職後は前職のスキルを全て引き継ぐ事ができ、それらを利用することで自分のオリジナルの職業を作り上げていくことが可能となっていた。

 そのため、この圧倒的な自由度の高さから、我こそがと頂点を目指し、時間を忘れて研究し没頭するプレイヤーは後を絶たない。


 だが、そんな猛者達の中で、その圧倒的強さから『最強』という名の称号を手にしたプレイヤーが、たった一人だけいた。

 その存在はまさに、リヴェリアルオンラインにおいての頂――バランスブレイカーである。

 それ故に、彼の強さの全貌を知ろうと、ありとあらゆる事を調べ尽くされた。


 装備品や魔法は何を使っているのか?

 それ以前に、不正が行われているのではないだろうか?

 もしかすると、人間ではなく、超高度なNPCなのではないのだろうか?

 だが、そんな彼らの考えは杞憂に終わる事となった。


 ――彼の失踪によって。


 様々な思惑をリヴェリアルオンラインのプレイヤー達の中で巡らせた張本人は、彼らを持て遊ぶように、忽然と姿を消したのだ。

 彼は一体、何を思って消えたのか。

 今どこで、何をしているのだろうか。

 その答えを知るものは、誰一人としていない。



 さて――この物語は、彼が新たな世界に舞い降りた事から始まることとなる。

 彼はゲームであってゲームではないこの新たな世界で、どんな心躍る物語を見せてくれるのだろうか?

 最強のプレイヤーとして君臨し続けた彼――『ハルト』の、新たな物語が……今、幕を開ける。



 ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △




 爽やかで心地良い風が、ふわりと身体を包み込む。

 蒼空から照りつけてきているであろう、暖かな光陽は、瞼の鮮血を淡く光らせて瞳へと届かせる。

 ハルトは、そんな覚醒の予兆とともに目を開いた。


「ここは、どこだ?」


 ハルトは身体を起こし、きょろきょろと周囲を見渡す。

 地に着いている手からは、背の短な草々の柔らかな反発が伝わり。

 この辺り一帯に広がっている草原からは、青々しい香りが鼻をくすぐってくる。

 そして、自身を囲むようにして立っている、三メートル程の六つの石の彫刻と、足下で徐々に光を失っている青白い魔方陣。


 自身の服装もリアルで着ていた物とは違い、リヴェリアルでの衣装となっていた。

 腰に差されている白銀の剣と、身体を覆う黒いコート。髪の毛の色は黒いが、しかしリアルとは髪型が違う。

 右手には、剣を握るための滑り止めのグローブが着用されており、左手の甲には、なにやら見たことのない文様が(えが)かれていた。


 さらには、ゲームの中にしては妙にリアルな五感と、一体どれほどのスペックの機材ををサーバー側が用意すれば可能になるのか……鮮明すぎるこの景色。

 ハルトはそれらを見て、ここが夢でない事だけは判断できた。


「なにが起きてるんだ?」


 ポツリと口を零しながらハルトは蒼天を見上げ、どこまでも抜けているように見える途方もない蒼色を眺めた。

 すると。


「成功……した……?」


 ふいに、背後から声が聞えてくる。

 その声色には、喜びが、驚きが、悲しみがあった。

 ありとあらゆる感情が、短い言葉に集約されているようだった。


 ハルトは、声のした方へとゆるりと振り向く。

 その視線の先には――ひどく。ひどく美しい少女が立っていた。

 見ていると吸い込まれてしまいそうな、エメラルドグリーンの煌めく瞳と、流れるように腰まで伸びている、雪のように美しく柔らかな白い髪。

 人間離れしたその整った顔立ちには、多少のあどけなさこそ残ってはいるが。それを加味してさえ、まるで女神のよう。


 白と水色の服から覗く、傷一つ無い艶美な肌は、触れれば壊れてしまいそうで。

 起状のある、女性特有の美しい肢体は、それだけで艶かしくも見えた。


「やっと……やっと……っ!」


 少女の顔がだんだんとほころんでいく。

 少女は感情に身を任せるようにして、駆け足で少年の元へと寄ってきた。

 ハルトはそんな少女に向かって、口を開く。


「君は誰……?」


 ハルトの問いを聞いて、少女は一瞬考えるように指を顎に当てたが、すぐさま優し気な微笑みへと変わり、言葉を投げ掛けてくる。


「私はアルセリア。親しい人は私のことをセリアって呼ぶわ!」


 胸に手を当てて、はきはきと少女は告げる。

 かわいいな……そんな感情をハルトは抱きながら、どこか慣れてなさそうに再度訪ねた。


「そ、それじゃ、アルセリアさん。なんで俺はこんな所に居るん、ですか?」

「それは、私があなたを召還したから。あなたは私の召喚獣よ!」

「召喚、獣?」

「えぇ、そうよ。その左手の紋章が証拠ね!」


 ハルトは左手の甲を眺める。


(いやいやいやいや! え、俺召還されたの!? プレイヤーなのに!?)


 動揺と共に、ハルトはもう一つの可能性……いや、予感にしたがって甲を抓る。

 もちろん、痛みが伝わってくるわけで。


「いてっ」

「ふふっ、当たり前でしょ? 何してるのよあなた」


 ハルトの行動を見ておかしそうに小さく笑うアルセリア。

 だが、ハルトはそれどころではない。


(まってくれ。ここが夢で無い事は分る。だとしても、この痛み……ゲームの中ではあり得ない。もしかして、俺。ゲームの中の召喚獣としてじゃなくて、異世界に召還されたのか!?)


 改めて周囲を見渡した後、少女を見つめる。

 異世界に召還されたと言うのなら、少しだけ納得がいく。

 このリアル過ぎる景色と五感。

 そして、プレイヤータグが無い事からNPCと分るが、それにしては表情が豊かすぎるこの少女。

 

 ――まさか、本当に?


「もう、まじまじと見つめないでよ……恥ずかしいじゃない」


 アルセリアは頬をわずかに赤らめ、顔を逸らす。

 考えすぎるあまり、ついつい見つめていたようだ。

 いやしかし、訪ねなくてはいけないことがハルトにはある。

 ハルトは口を開いた。


「この世界はなんていう名前なんですか? それに、俺を召還した理由はなんでしょうか?」


 はっきりとさせたいことは、この二つ。

 この世界がもしも、リンドブルムという名前意外なら……リヴェリアルオンラインの設定とは異なっており、ここが異世界であるという可能性が高くなる。

 なぜなら、ハルトはリヴェリアルオンライン以外のゲームはしていなかったからというのと、痛覚設定はVRMMOでは御法度であるからだ。

 それと召還された理由。

 ――やっかいごとはごめんだなぁ……。

 ただそれだけであるである。


「召喚獣なのに変な質問をするわね? まぁ、いいわ、答えてあげる。この世界の名前はシェルネスタよ」

(やっぱり……でもまぁ、ここはまだ確信するには早い。もう少し様子を見よう)

「それで、あなたを召還した理由だけど……妹を助けたいからよ」


 苦渋に満ちた表情で、アルセリアは言った。


「妹を助ける?」

「うん。私一人だけの力じゃ無理だから……」

「周りの人に頼むことも出来たはずじゃ?」

「それは……ダメだったわ。妹が捕らえられてるのは、この世界で最大の犯罪組織なの……赤の他人が頼んだところで、まず取り合ってすらもらえない」


 拳を振わせながらアルセリアは顔を伏せる。

 しかし、「だけど!」と力のこもった声で、ハルトを見た。


「あなたを召還できた。お願い、協力して」


 無理矢理作ったであろう笑顔を浮かべ、手を差し出すも、震えは隠せてはいない。

 ハルトは頭を掻いて、少女を見つめる。


「……わかった、協力するよ」


 そう言って、ハルトは差し出された手を握った。

 暖かく柔らかな感触が伝わってきた。

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