街おこしの為、ブサメンを「男の娘」に次々改造して百合園を造ろう
僕は昔から、不細工な容姿のせいで、周囲からしつこくいじられていた。
小さい頃は言葉で済んでいたのが、徐々に小突かれる様になり、中学にあがる頃には殴る蹴るの暴力も日常茶飯事だった。
同級生達にとって、僕は人間では無かった。うっぷん晴らしの玩具だったのだ。
中二の冬、インフルエンザに罹って一週間休んだ事をきっかけに、僕は治った後も学校へ行く気力を無くした。
僕の容姿が原因だという事を承知していた両親は、無理に登校させようとはせず、学校からも強く復帰を促されたりはしなかった。
そのまま僕は不登校となり、家から一歩も出ない日が続く。とうとう、進路が定まらないままに卒業を迎えた。
そして、中学卒業から一年後。
流石に、一生このままという訳にはいかない事は解っていたので一念発起し、インターネット予備校で自宅学習して高認の資格を取り、大学受験にも臨んだ。
地元ではない、地方の県立大に何とか合格出来た僕に、立ち直った事を喜んだ両親は、お祝いに何が欲しいかと尋ねてきた。
僕が願ったのは「美容整形」だ。
醜く生まれたからといって、現代では諦める必要は無い。医学の力で、新しく生まれ変わる事が出来るのである。
自宅から離れて進学する機会に、僕は自分を作り替えたかったのだ。
ダメ元で言ってみたのだが、両親は僕の願いを聞き入れてくれた。醜く生んでしまった事で、ずっと負い目があったらしい。
専門医と相談の上で僕が選んだ新たな容姿は、可愛らしい女の子の様な顔だ。
自宅にこもっていた時、勉強以外での僕の気晴らしは、ネット通販で購入する漫画やラノベだったのだが、少なからぬ作品の主人公が、女性的な容姿と服装の少年、いわゆる「男の娘」だった。
僕はすっかりそれに魅せられ、自分もこうなりたいと思う様になっていたのである。
それに、普通に男性的なイケメンよりも、この方が皆に「愛される」のではないかとも思えた。
手術を終え、僕は可愛らしく生まれ変わった姿に満足した。
* * *
大学では狙い通り、僕の容姿は注目の的になり「リアル男の娘」としてもてはやされた。
舞い上がった僕は、先輩女子が薦めて来るまま、普段から女装してメイクも施し、すっかり学園のお姫様と化した。
サークルを問わず、コンパにもよく誘われた。アルコールが入って盛り上がると、僕を賭けたゲームが始まるのが恒例だ。
相手は女性だけでなく、時には男性もいたが、僕は一切拒まず、望まれるままに勝者の「景品」として、ベッドを共にしていた。
最初の男性相手は酒の勢いだったが、素面に戻った後も嫌悪感はわかなかった。
むしろ、僕を可愛がって気持ちよくしてくれるなら、性別なんてどうだって良いとおもえる様になれた。
子供を作る訳ではないのだから、男だ女だという縛りなんて無意味だ。心から取り払えばいいのである。
夢の様な四年間のキャンパスライフだったが、お姫様生活に充分満足した僕は、卒業と共に皆との関係を清算し、再び新しい生活を求める事にした。
* * *
僕が就職先に選んだのは、高度成長期に整備された、都市郊外にあるベッドタウンの商工会議所職員だ。
この地域は哀しい事に、人口の半分以上が六十代以上を占め、さらに空き家も多い。
酷い物になると、バブル末期に建てられ、買い手が付かないままに二十年以上、不動産屋のデッドストックになっている物件すらある。
そういった家々には「売り家」「入居者募集」の古びた看板が掲げられているが、人々は見向きもしない。
どうしてこんな事になってしまったのかと言えば、少子化の影響に加え、都心回帰指向が強くなった事も大きい。郊外の一戸建てより、都心のマンションの方が便利という訳だ。
確かに今はネットショッピングの時代で、どこに住んでいようと買い物は出来るのだが、都心には様々なサービスが整っているのである。
そんな街の商工会勤務は、はっきりいって閑職なのだが、僕は気に入っていた。給料はそれなりだが、家賃は安いし転勤もない。
ここでの僕は女顔というだけの、ごく普通の職員として勤めていた。勿論、学生時代の様な「夜の生活」も送っていない。
だが、そんな安穏とした生活も長くは続かなかった。
財政難から、商工会のリストラ案が出始めたのである。地元出身でない僕は、真っ先に対象となりかねない。
助かる方法はただ一つ。街を再び活性化する事だ。
市の担当者を交えた、商工会での市街地活性化会議で、僕も若手の一人として出席を求められた。これが起死回生の機会である。
* * *
会議の当日。
居並ぶ偉いさんを前に、僕は意を決して、美容整形を受けた過去を告白した。
「つまり君の顔は、作り物だと?」
「はい。美容整形を受けると、その、ばれないかと思って、真剣な付き合いとか、まして結婚とか怖くなるんですよ。ですから…… 容姿に恵まれない人へ美容整形を勧めて、そしてこの街に集め、そういう人達同士で家庭を築いてもらう事って、出来るんじゃないでしょうか」
出席者一同、僕の提案にうーむとうなったが、他に妙案もない。
そして、商工会と市の共同事業として、僕を担当責任者とし、美容整形被術者の街への勧誘が始まった。
僕の密かな個人的目標は、自分のあるべき姿、男の娘として生活出来る環境作りだ。立場を使って、美容整形を受けた内でも、特に僕の同類を集めていけばいい。
そして、この街を男の娘の楽園にするのである。
* * *
計画には美容外科の協力がかかせない。まずは心当たりとして、僕の手術を行ったクリニックに相談する事にした。
美容整形手術を機に、新天地で人生をやり直す。その為の新たな住まいを斡旋し、家庭を築く伴侶を得る為の結婚紹介事業も行う。
院長は僕の企画に大いに賛同してくれた。
やはり、美容整形に対する偏見から、せっかく綺麗になっても中傷の的になっている患者は多いという事らしい。
そういう心配を緩和できれば、手術を受ける決心のつく人も多くなるという物だ。
「悪くないね。そういう悩みは良く聞くから、患者のアフターケアを兼ねて、声を掛けてみるよ」
「有り難うございます!」
話が通って僕はひとまず安心したが、続く言葉は思いがけない物だった。
「どうせなら、うちも君達の計画に一枚噛みたいな」
「と言いますと?」
「最近は美容外科業界も競争が激しくね。この機にうちも、君の街に移転しようかと思うんだ。過疎化で空き店舗とか、多いんだろう? 居抜きで使える医療施設とかあったら、紹介して欲しいな」
「え、ええ。喜んで!」
この美容外科は、それなりに規模が大きい。丁度、閉院した個人病院がうちの市内にあり、建物用途が宙に浮いていたので、そこを斡旋できるだろう。
美容外科が直接に進出してくれるなら、こちらとしても好都合である。
「それと、その、何だ。君みたいに、女性的な容貌に造った男性を主に集めたい訳だね。女性は駄目なのかな?」
過疎化対策なのだから、移住者には所帯を構えてもらう方向に誘導する為、結婚紹介事業は前提である。そして、美容整形に偏見がない相手となると、やはり同様に手術を受けた人が一番だ。
つまり、女性的な容貌に作り替えた「男の娘」だけでなく、相手に女性的な容貌を望む、自身も美容整形を受けた女性も勧誘の対象という事になる。
「あ、いえ。勿論、大丈夫です」
「そうか、良かった。なら、私も該当者だからね」
「え、先生も?」
確かに院長は容姿端麗な女性だが、本人が美容整形を受けていたとは知らなかった。
「君と似た様な物さ。不細工でいじめられて不登校の身。それが美容整形で救われたから、自分も美容外科医を志したんだよ。稼げるんじゃないかと思ってね」
「不登校ですか。そういう人、存外といるものですね……」
話がスムーズに進んだのは、院長本人の経験もあるのか。
商売っ気もある辺りが何ともだが、こちらとしても、かえってその方が話がしやすい。
「後、君達の計画に乗るなら他にも、美しさを保つ為のエステサロンとか、フィットネスクラブとかも需要がありそうだね。そういう業者も私の友人に多いから、声を掛けてみてもいいかな?」
「勿論です!」
そういった業者が、寂れつつある街に出店してくれるなら、商工会としては願ったりかなったりだ。
話が少し大きくなるが、計画により光明が見えてきた。




