【月読】2-1
書いてたこと忘れてたので……
それなりに書いてたのでそのまま投稿します……
こっちは、気が向いた時に書きますね……
当分、というか、基本的には空に描いた、虹の向こうに。を書いてます……
よろしければ、そちらも読んでいただけると嬉しいです。
低血圧気味な俺は朝が辛い。
朝、目が覚めても、頭はしばらくボーっとしたままで、気を抜くと2度寝してしまいそうになる。
起きてしばらくは、このボーっとしたままの頭と 格闘するのだが、俺はそんな時、たまに幻覚を見る。それは、ただの白いふわふわしたもやだったり、はっきりと人間や動物だったり。RPGにハマってた時は、ぼんやりと部屋の床に剣が刺さっているのが見え、それを抜こうとして転んで目を覚ます、なんてこともあった。
「あー……なんか幻覚が見える」
俺が昨晩帰ってきてから、ダンボール箱の奥から引っ張り出してきたアルバムが勉強机に開いたまま置いてある。
途中で眠気に耐えられず、ベッドに入って寝てしまったようだ。
だが、そのアルバムを、椅子に座って眺めている少女がいた。
透き通るような銀髪は腰まで伸び朝日を反射してきらきら輝いている。写真を眺めるその瞳は、大海原のように深い蒼色だった。
「へぇ……孝介さん、ちゃんとおじいちゃんしてたんだ……」
そう少女は呟いた。
……うん、ちょっと顔洗って目を覚ました方がいいかもしれない。きっとまだ夢を見てるんだろう。
俺は彼女の後ろを大きな欠伸をしながら通り過ぎ、部屋を出る。そのまま洗面所へ行き、顔を洗い、壁に掛けてあるタオルを取り顔を拭く。冷蔵庫から麦茶を取り出し1口飲んだ後、大きく伸びをして、部屋に戻る。
部屋の前に立ち、扉を開ける。
「あ、おはようございます、新さん」
彼女は椅子から立ち上がると、こちらを向く。
「初めまして。私の名前はツクヨミです。数年ぶりに目が覚めました。これか……」
バタン!
俺は勢いよく扉を閉める。
「……何だ、あれは……?幻覚じゃない……だと……いや、落ち着け、新。きっとまだ夢を見てるんだ、そうに違いない」
俺は1発、自分の頬を殴る。
……痛い。 せめて平手打ちで留めておくべきだった。
「あのぅ……現実ですよ……?」
少女……『ツクヨミ』と名乗った彼女は、扉を少し開き、隙間から覗いて言った。
○
「取り乱してごめん……えっと……ツクヨミさん……だったっけ?」
俺は椅子に座り、彼女に尋ねる。
彼女は、頷く。
「ツクヨミ、と気軽にお呼び下さい」
「えっと……じゃあ、ツクヨミ。まず、君は何者なんだ?」
俺は、この少女に出会ったことは無い。銀色の髪に、蒼い瞳と、特徴的な外見をしている彼女を、1度でも見たら忘れないと思う。
俺はこの家で一人暮らしを始めてから、まだ誰一人他人を家に入れたことは無い。あの広輝や(友人B)でさえまだ入れていないのに、そんな見ず知らずの、謎の女の子を入れるとは思えない。
それなのに、彼女は俺の部屋に居た。しかも、俺は“穢れ”騒動に絶賛巻き込まれ中なのだ。
「私はツクヨミ……天照大御神の弟、スサノオノミコトの兄、月の神として知られている『月読命』」
「……え?……君は……神様ってこと?」
思わず聞き返す。
「いえ……私は『月読命』という神話上の存在がこの世界で実体化したものです。」
彼女は続ける。
「そもそも、神とは曖昧なものなんです。元々存在する力に、人が名前を付け、神話になったんです。でも、普通の人間には私達の存在を見ることも、感じることも出来ない。なので、性別が違ったり、同じ力に名がいくつもあったり、逆に別々の力が一つになったり……実際、私は女の子なんですけど、男の子に間違われてしまったみたいなんです」
彼女は困った様に笑う。
こんな突拍子もない話、以前であれば、全く信じなかっただろう。
でも、俺は“穢れ”や“祓い屋”という、非現実的なものに出会った。世の中には科学で説明出来ないものが実在すると知った今、彼女の言葉を、抵抗なく受け入れることが出来た。
「私達のように、力がこの世界で実体化した存在は、自身だけでは力を使うことが出来ません。なので、私達のような者達は、人間を通して力を振るうんです」
俺はそこで疑問に思った。
「“何”に対して、力を振るうんだ?」
彼女は、俺が疑いもせず質問してきたことに少し驚きつつ、答える。
「……“穢れ”です。穢れにこの世界がのまれてしまえば、私達も消えてしまいます……それに」
朝日が窓から差し込み、彼女を照らす。
彼女は右手を軽く握り、胸の前へ持ってきて
「私は、この世界を、この世界の人達を守りたい」
彼女の優しい微笑は、とても輝いて見えた。
○
「悪い、いつも朝は簡単に済ませるから、こんなものしかなくて……」
俺は、そう言ってリビングのテーブルに、オムレツとトーストを置く。
「えっと……いただきます」
彼女は恥ずかしそうに頬を少し赤らめ、トーストをかじる。
──あの会話の後、彼女のお腹がキュルルっと可愛く鳴った。
ちょうど朝食の時間だったので、普段は適当に済ませるところを、ストックしてある卵を使ってオムレツを作り、トーストも丁寧に焼いたのだ。
「君もお腹は空くんだね」
彼女の向かい側に座り、トーストにマーガリンを塗りながら尋ねる。
「はい……私達の体は人間より頑丈だったり、老化しなかったりしますけど、基本的には人間と同じですから」
そう言うと彼女は箸を使ってオムレツを一切れ食べる。
「──おいしい」
彼女は嬉しそうに微笑む。
それを聞いて、俺の頬が緩むのを感じる。
──誰かに自分の料理をおいしいと言ってもらえるのは、こんなに嬉しいものなのか。
「そう言えば、君はこれからどうするの?」
肝心なことを聞き忘れていた。
数年ぶりに目覚めた、と言っていたし、行く宛はあるのだろうか。
彼女は最後の一切れをつかもうとした箸を空中で止める。
「あっ……」
窓の外から、鳥達のさえずりが聞こえてくる。
朝だと言うのに、元気な事だ。
「……考えてなかったのか」
「……あはは……」
大丈夫だろうか、この神様は。