影、祓い屋、そして狐。1-2
同日投稿です…1-1もよろしくお願いします…
※5月10日 誤字などの細かい点を修正し読みやすくしました……
オレンジ色の柔らかい光が照らす落ち着いた雰囲気の喫茶店。
ゆったりとしたBGMの流れるこの空間は、そこで過ごす人達に癒しの時間を提供してくれる。
「……っていうことがあってさ」
次の日、学校帰りに俺はいつものように甲斐良介、吉田広輝と3人で喫茶店、ブルーマウンテンに来ていた。
俺はそこで、昨日あった出来事を2人に話した。
「「夢だろ」だね」
「……だよなぁ」
お前らならそう言うと思ったよ。
「そもそも、最後の爆発に完全に巻き込まれたのに、お前全然怪我してないだろ。ってことはそういうことなんじゃないか?」
広輝は俺の姿を見てはっきりと言った。
「ですよねー」
「でも、昔から肝が大きいって言われ続けてるあの新が、そんなファンタジーに巻き込まれても冷静沈着なのはらしいと言えばらしいよね、どうせ夢なんだろうけど」
ウインナーココアなる激甘のドリンクをかき混ぜながら笑って言う。
良介、遠回しに俺をけなしてないか?
2人の意見を聞き、自分の中でもう一度あの出来事を思い出してみる。
……うん、やっぱ夢かな。
「そうだな、新は銀行強盗に遭遇しても、落ち着いてたんだもんな。そりゃ夢ならなんでも出来るだろ」
おい、広輝。お前俺をなんだと思ってるんだ。ムカついたので足を思いっきり蹴ってやる。
「いってぇな……!」
たしかに小学5年生の時。母親と一緒に行った銀行で強盗に遭遇した。
でも、あれは近くに警察官がいたのを知ってたから落ち着けたのであって、別に特別俺の肝が太いわけではないのだが……
まぁ、夢かもしれないしな……落ち着けたのは、あまりにも現実感がなかったからかもしれない。
「……そう言えば、影みたいなやつだったんだよね? その美少女と戦ってたやつって」
良介が俺に聞く。
「ああ、そうだよ。狼みたいだったけど、背中から腕が何本も生えてた」
いや、ほんとあの腕はやばかったな……地面に衝突する度、思いっきり抉れてたもんな……
あの影を思い出していると
「確か、昔からあるけどマイナーな都市伝説があるんだけど」
来ました、良介の都市伝説披露。良介はオカルトが大好きで、こういう系の話を本当にたくさん知っている。本人がふわふわとした女子っぽい雰囲気を纏っており、噂好きの女子達から街中の奥方まで、幅広い情報源を持っている。
「題して、『闇夜の影』」
「影……俺の見たやつの事か?」
噂や都市伝説は、必ず何かしらの原型となる出来事が存在する。火のないところに煙は立たないのだから。
だとすると、ああいうのを見たのは俺だけじゃないことになる。ひょっとして、夢じゃないのか?
広輝は黙ってカップを傾け、続きを促す。
「確か……駅の近くの路地や夜の公園とかで、何もいないはずなのに犬とか猫とか……人みたいな影が現れる、みたいな感じの話なんだけど……」
「そんなのよくある話じゃないか?」
俺はそう返したが、良介は、面白いのはここからだよ、と続ける。
「その現れる影っていうのが、どうも普通じゃないみたいなんだよね」
「普通じゃない?」
「そう。例えば、腕がたくさん生えてたり、頭が2つあったりって感じでね。しかも、実体があって物を壊したとか、誰かと殴り合いの喧嘩をしてたとかいうのも聞くね」
音を立てないように静かにカップを置いた広輝は
「見間違え、もしくは気のせい。あとは思い込みだろ。」
と否定する。
「いや、でも……」
見間違えにしてはやけにリアルだ。それぞれの目撃談には、実際に物が壊されているものもある。
それに、俺の見たものは見間違えでは絶対に無い……と続けようとしたが、夢の可能性があるのを思い出してやめる。
「何やら面白そうな話をしているね」
そう言って俺たちの前に淹れたコーヒーを置いていくれたのは、この店のマスターの青山さんだ。
ちなみに本当の名前は青山ではないらしいのだが、何度聞いても、『私は青山ですよ、ふふふ』と笑って答えるだけだった。
俺は簡単に昨日あったあの出来事について話した。
青山さんはとても物知りだ。ひょっとすると、俺の見たものについて何か知っているかもしれない。
「影……巫女服の女の子……大きな木々の森……すまない、私にはちょっと分からないな……」
ですよね……
「まぁ、夢だったんでしょうね…疲れてたのかもしれません。」
あれは夢だ。そう自分の中で結論づける。
「マスター、ごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
「今日もコーヒー美味しかったよ〜」
広輝、俺、良介の3人はマスターにお礼を言って店を出る。
俺たちはみんなここから帰り道がバラバラなのでここで解散する。
「んじゃ、また明日な」
俺はいつものように別れの挨拶をして帰途につこうとした。
「おい」
広輝に声をかけられる。反射的に振り向く。
「気をつけろよ……道の真ん中で寝てたらさすがに危ないからな」
そう言って広輝は自分の自転車に乗って行ってしまった。何だったんだろう?いつもはあんなこと口が裂けても言わないのに。
元が割とイケメンなので、ちょっとカッコイイと思ってしまったのが悔しい。
少し遅くなってしまったので近道をしようと大通りを離れて、路地裏に入る。
照明の少ない、薄暗い路地。
聞こえてくるのは近くの大通りの喧噪とエアコンの室外機の音。
換気扇から流れてくる色々な食物の匂いで胃の内容物が逆流しそうになるが耐える。
吐かない、絶対に吐かないぞ。
路地の奥の方に目をやると、ふらふらとおぼつかない足取りでこちらに向かって歩いてくる人がいる。
「うわ……酔っ払いかよ……今日は運がないな。」
この路地を抜けると居酒屋やクラブなどの立ち並ぶ繁華街に出るので、こういう酔っ払いはここを通る時たまに遭遇する。
さっさと脇を通り抜けてしまおう。
ため息をついて路地の奥に向かって歩き出す。
ふとあの時見た女の子のことを思い出した。
狐耳、尻尾……そして月の光を反射して輝く金髪。どうしても目の奥に焼き付いて忘れることが出来ない。
どこかで、会ったことがあったり……いやそんなことは無いはずだ。俺の知り合いに耳の生えるやつなんているはずがない。
……って夢だった、って結論づけたのに何考えているんだ。
その時、世界が反転した。
1-3は頑張って明日投稿します……
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