影、祓い屋、そして狐。1-1
初投稿です…まだまだ拙い文章ですが、読んでいただけると嬉しいです。
感想やアドバイス、誤字報告など頂けるとありがたいです…
※5月10日 読みやすいよう修正しました。
昨日と同じ、月明かりの照らすあの暗い森の中で
突然襲いかかってきた“それ”と向き合って、俺は小さく呟いた。
「考え事をしながら歩くのは危険だな……」
感情の起伏が少ないというのは欠点でもあるが、こういう時には役に立つみたいだ。
……普通はこんな事に巻き込まれさえしないんだけど。
さぁ、どうしようか。
俺には彼女のような戦う力は無い。
……となれば。
「……逃げるしかないだろ……」
それに背を向けて全速力で走る。
〇
少し前まで寒さに震えていたのに、今ではもうコートが必要ないくらい暖かくなった。
帰り道の途中にある小学校では、もう桜が咲きはじめている。
空を見上げると、半分くらい欠けた月が見えた。
星が見えないのが残念なんだが……街中なのでしょうがない。
駅に向かうスーツ姿の人々が、歩道の真ん中で立ち止まった俺を避けていく。
……っといけない、いけない。
夜空を見上げて物思いにふけるなんて、柄じゃないことするとろくなことにならない。
目線を下ろして歩き出したその瞬間。
バキッ。
何か、硬くて乾いた物が折れるような音。
そう…… 枝のような……
枝?俺は歩道の真ん中にいたはずじゃ……
慌てて周囲を見渡す。
そして気づく。自分がとてつもなく深い森の中にいることに。
周囲を照らすのは月明かりのみで、とても暗い。……というか、生えている木々がとてつもなく大きい。あれだ、あの世界遺産の大木くらい大きい。
なんなんだよこれ。あのサラリーマン達はどこに行った?
とりあえず落ち着こう。焦ったらダメだ。
まずここはどこだ?森なのは間違いないけど、うちの高校から家までの間に森なんて無いし、第一こんな大きな木が生えている森が近くにあるわけが無い。
結論、さっぱり分からん。
これっていわゆる異世界転……いや、やめておこう。そんなラノベみたいな話が俺の身に起きるはずがない。
思考を止める。
「とりあえず、進んでみるか……」
自分に言い聞かせるように言って、歩き出した。
どれくらい歩いただろうか……
1時間近く歩いているかもしれないし、ひょっとすると5分しか経っていないのかもしれない。
同じような景色がずっと続いていて、時間も方向も分からなくなってきた。
「嘘だろ……」
ふと見上げた空には大きな満月が浮かんでいた。
大きさはともかく、さっき見た月は半分ほど欠けていたはずだ。
これはひょっとして…… ほんとに異世界転…… とか思った時、遠くから何か金属同士がぶつかる音が聞こえた。
俺は音の聞こえた方向へ走った。
木々の太い根を飛び越える。
幸い高い木が多いおかげか、枝が邪魔をすることも、背の高い草が生い茂っていることもなかった。
だんだんと音の発生源に近づくにつれて、遠くからは聞こえなかった音が聞こえてくる。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
誰か……女の子の声が聞こえる。
キラリキラリと月明かりを反射した何かの光が見える。何かと戦っているのか?
そして……少し開けた場所に出た。
女の子と……黒い大きな影……
狼のようでもあるが、背中から何本もの腕が生えていて、女の子を攻撃している。
腕が地面にぶつかる度、大きく地面が抉れていく
そんな所に飛び出せるはずもなく、俺は近くの木に身を隠した。
黒い大きな影が、前足で攻撃をする。女の子はバックステップで避けつつ何か──あれはお札?──を投げる。お札は一直線に飛んでいくと影に張り付き……弾けた
「グルォォオォォッ!!」
影は苦しそうな叫びを上げた。すると、遅れて衝撃波がやって来て、女の子はこちらに吹き飛ばされた。
俺の隠れている木まで衝撃波が届き、木の葉が吹き飛ぶ。
少し離れたところではあの世界遺産並の大木が倒れた。
ちょっとでもあれの近くに隠れていたら木諸共俺も吹き飛ばされていたかもしれない。
冷たい汗が流れる。
あ……やばいかも。
案の定彼女は俺の隠れる木の近くまで飛んできた。
思わず彼女を見てしまう。
ほら、やっぱ気になるじゃん?
まず目に入ったのは、真っ直ぐに伸びた綺麗な黒髪。
腰くらいまであるかもしれない。遠くからではわからなかったが、どうやら巫女服を着ているようだ。
彼女が立ち上がり影の方へ歩き出す。
角度が悪くてここでも顔が見えず、ちょっと残念、とか思っていると……
バチッ
火花が見えた
隠れている木の影から少し顔を出して覗く。
そこには、先程の黒髪の美少女(勝手な想像)はいなかった。
巫女服に身を包んだ透き通るような“金髪”。
月の光を反射し黄金色に輝く。
そして…狐の様な耳と尻尾が生えている。
彼女は何も無い空間に手を伸ばした。すると日本刀…よりは少し短い刀が現れ、それを手に取ると音もなく影に飛びかかった。
そこからは一方的な展開だった。
目にも止まらぬ速さで影の腕を切り飛ばしていく。
「綺麗だ……」
俺は柄にもなくそんなことを呟いていた。
彼女の動きがあまりにも速く、俺の目には影の周りを飛び回る黄金の光に見えたのだ。
影は彼女の動きが急に変化したことについていけなかったようで、彼女の攻撃を防ぐことが出来ず、とうとう背中から生えていた腕は全て切り飛ばされた。
「グルォォォォ……」
その唸り声も、もはや威圧感のない弱々しいものになった。
彼女は動きを止めた影に近づき……上段に構えた刀を振り下ろした。
「ギャァァァァォァァァ……!」
影は真っ二つに切り裂かれ、断末魔の叫びをあげる。
そして……黒い塊となり、爆発した。
「おい……さすがにやばいんじゃ…これ!?」
このままだと間違いなく爆発に巻き込まれる。走って逃げるべきか?いや、でもこのまま木の後ろに隠れていた方が…
迷っている間にその爆発は彼女や木々を巻き込み、俺の隠れている木まで吹き飛ばされ、周囲が真っ黒に───
気がつくと、歩道橋の上に立っていた。
1-2も同日に投稿しました。続きもよろしくお願いします…
毎日投稿…は難しいかもですが、頑張ります。