第08話 全貌
「魔封鎖!!」
それは黒偽鎧を雁字搦め(がんじがらめ)にして、動きを停止させた
ーーなっ、俺の黒偽鎧が!?ギリエルをも吹き飛ばしたんだぞ?
「余興は終わりじゃ、双方動きを止めい」
と狐の様な獣耳がアクセントで、タイトな着物を着ているスタイルの良い妖艶な銀髪の女性が話し掛けてくる
「……余興?こんな命懸けの余興があるか!?そしてお前は一体!?」
「随分と威勢の良い……はて?若造かの〜?」
「何でそこは疑問形なんだよ!まぁ、この見た目じゃそうだよな……けどな、間違いなく若い部類には入る!説得力は無いけど……」
「まぁ、お主の事はさて置いてギリエルよ、其方はこの城を吹き飛ばす気か?この阿保!あれ程やり過ぎるなと言ったであろう!だが其方が全力を持って敗れるとはの〜フッフッフ」
「ハッ、我が主人レスカ・ナインテイル様!お褒めの言葉有り難く頂戴致します!」
「別に褒めてはおらんぞ?」
ガーンと言うようにギリエルはうなだれている……と言うかあのギリエルが低姿勢になるという事はこいつがここの親玉って訳か!それに何故だか先程のダメージが嘘の様にギリエルの言葉には精力を感じる……自分の憧れの上司に無様な姿を見せない後輩サラリーマンの様に……
「カナタ!そいつは危険だ!今すぐそいつから離れろ!!」
「そう焦るでない、落ち着けアーサー姫よ」
何食わぬ顔でそう返答するレスカ……と言うか本当にお姫様だったの?いや、疑ってはいないよ?友達だもの!自称だけど……
〈………〉
ーーなんだiさん、その否定的な沈黙は?
〈……ナンデモアリマセン〉
相変わらずiさんはドライな性格をしていらっしゃる
「ほれ、お前さん!裏に隠れて居ないでさっさと弁明せんか!妾が悪者になってしまう!」
悪者だろどう見ても……いや、今は止しておこうギリエルの主人であるなら実力は確かだ、今はスルーしておこう……そうして、レスカが声を掛けると身を上品な金属の鎧で仕上げ、金髪オールバックで無精ヒゲを生やした男が物陰からあらわれたーー
「……なっ、ちっ、父上!?」
「え?親父さん?って事は王様?」
「何故魔帝王の領地に我が国の王が単身で……ど、ど言う事ですか!?」
アーサーは取り乱しながら訳を説明する様に声を荒立てる
「その前にレスカ、我が子の封を解いてやってくれ」
「分かったわい」
王様がそう頼むとレスカは片腕をアーサーへ向け次元の穴を出現させ、アーサーの腕を縛っていた鎖を解く様に鎖を吸い込んでいく
「ほれ、終わったぞ」
「……アーサー!大丈夫か!?腕は痛く無いか!?身体に異常はないか!?レスカの部下に変なことされてないか!?お腹は空いてないか!?良かったら今夜父と共に寝るか!?」
ゴッ!レスカがこの状況を見限ってパパアーサーの頬を力一杯グーで殴る……うん、敵ながら見事な判断だ……
「いい加減にしてやれ、其方は相変わらずの親バカじゃの〜今回の件とて次代の王として素質があるか確かめる為に行った事じゃ、痛めつけるつもりなど毛頭ない、むしろ美しいものを傷付けて妾になんのメリットがある?ほれこんなに美しいのにの〜ほれ〜」
と言いながらレスカはアーサーの頬を自分の頬でスリスリしながら嬉しそうに話す……
バッ!しかし、アーサーはそんなレスカを両手で押し退け怒りを秘めた表情で話し始めた
「離れろ!何が素質だ!そんなものを確かめる為に我が軍の兵士を殺したのか!?父上も父上です!何故我が国の兵を犠牲にする様な事を!?」
「だから落ち着けと言っておる……あれらの兵は妾の術であって、そこの黒い鎧がだしている分身の様なものじゃ。事前にそちらの国へ送っておいたのじゃ。よくできていたであろう?体の一部さえあればどの様なものにも化かす事ができる」
「な、内臓とかか?」
思わず俺は口を挟んでしまったが、レスカは笑いながら返答する
「フフフ、そんな物騒な話ではないわ、髪の毛とかそんなもので事足りる。ま、それは予めそちらの内通者……そこの王様が集めて妾に届けてくれたのじゃがな」
チラリ……アーサーの表情は先ほどまでの怒りが抜け驚きへと変わっていた
「で、では私が此処に拘束されていた事については……?」
「あ〜、あれはただ単に妾の趣味の一環じゃの〜少しの間でも飾れてよかったわ、願わくば飾らなくて良いから共にいてくれるだけでも……」
ハァハァ言いながらそんな事を口にしているレスカだが……アーサーは言葉を失い固まっている。それもそうだ、こんな変態滅多にお目にかかれない……
「なら俺とギリエルの戦闘もテストみたいなものだったのか?」
「其方は完璧にイレギュラーじゃよ……妾もカイザーもアーサーに変な虫が付かないように排除に向かわせたが結果、其方はギリエルを倒すとこまで漕ぎ着けた……まぁ、死ななくて良かったの〜フッフッフ」
ーーまじで巫山戯てやがる……と言うか一回死んでたよね俺……iさん本当にありがとう……
〈オ褒メニ預カリ光栄デスネ〉
にしても話は変わるが2人ともやけに美人だよな〜2人並んだ威力は計り知れない獣耳に姫とは……目の保養〜、目の保養〜っと、これで水に流してやるか……
するとシュッと俺の頭の両サイドを巨槍と見事な剣が突き出される……え?
「貴様、我が娘を色目で見ていたであろう鎧であろうと我が目は誤魔化せんぞ!」
「我が主人とて同じ、先の屈辱死を持って償うが良い」
〈粉々ニナリナサイ〉
ーーちょ、iさんまで!!!
「父上!どうか剣をお納めください、そちらは我が友……知人のカナタです!」
「……え?友人じゃなくて知人?」
「私は男性の友人と言う存在が今までいなかった為、そう呼ぶのに少し抵抗があるのだ。父上を見れば分かるだろう?……それ位察したらどうだ……?」
ーーそんな無茶を……まぁ、あの父親を見ればそれも頷ける。如何にもな感じだからな。それはそれとして、抵抗があるのは同感だが、あの苦境を共に乗り越えた仲としては……俺少シ不満、iさん的な表現だとこうだろか?
〈本当ニ粉々ニシマスヨ?〉
ーーごめんなさい。
「知人と申すか……この空の鎧がか?それは些か言い過ぎではないか?ハハハ」
どうやらこのクソオヤ……パパアーサーは俺の事が気に入らないらしい……さっきいやらしい目で見たからかな?いや、男子(元)であるものそれは健全な証だ!
「いいえ、過言ではありません。試験的なものではありますがカナタは私の命の恩人です。私の為に身を投げ捨ててまで助けてくれようとしたのです。そんな存在は生きていて今まで父上位のものでした……だからこそ私はそんな彼とこの先、友と呼び合える存在に成りたいのです。いけない事ですか?」
ーー鎧の姿じゃなかったら泣いていたかもなこれ……こんな事生まれて初めて誰かに言われたよ……
アーサーの言葉に悶え苦しむパパアーサーであったが……
「……そこまで言うならば知人としては認めてやる。カナタとやら、もし娘にけしからん様な事をする様なら……分かっているな?」
「分かってますって!……と言うよりこんな姿で何を望めば!?」
「……それもそうだな、ハハハハハハ!しかし、真に妙な事だその様な体を持つ者がいようとは、お主はどうやって生まれたのだ?」
「そうだカナタ!貴方が最初私に姿を晒さなかったのもそれが原因だったのか?」
ーー此処にきてそれを思い出すとは……
「いや〜、仲良くなる半ばで化物扱いされるのも正直怖くてさ……この世界に来ても……また1人かって思うとさ……ハハハ」
「馬鹿にするな!命の恩人に向かってそんな無下にするような事をする訳が無いだろう!それにカナタ自身も言っていただろう?」
「ん?」
「信じたものを貫けって……私はカナタを信じるよ」
アーサーが何の迷いもなく笑顔で俺に向かってそう言う
……友達とかどうでも良い……恋人になりたい……とおれは心の奥底でそう思った
〈私トイウモノガ在リナガラ恋人等……アナタニハ百年早イデス〉
ーーなっ、iさん……まさかあなたが俺の恋路を邪魔するなんて……女性だったんでんすか!?
〈イエ、私ニ性別ハアリマセン。シカシ、物事ニハ順序トイウモノガアリマス〉
女性じゃないんかーい!と言う感じで俺の友達・恋愛事情には歯止めが掛けられた
「アーサー……ありがとうな!」
「ああ!どうと言う事はないぞ、フフフ」
「二人だけで変な感じになるでない!妾も話に入れろ!」
とレスカが話に割って入ってくる
「先程の続きじゃが其方はこの世界に来てもと言ったな?と言う事は何処からか別の世界から来たのか?」
「ああ、別の世界から召喚されたんだよ!」
「なんと!?実に興味深いの〜してして、何処の誰に召喚されたのじゃ?まさか自分自身をこの世界に召喚した訳ではあるまい?」
「うーんと、確か……カイゼル・ハウンズって奴に……」
「「カイゼル・ハウンズ!?」」
皆が体を乗り出す程に驚いている
「あ、ああ、そうだけど……そんなに有名な奴なのか?」
「有名どころでは無いぞカナタ……この世界レミニオンにいて彼を……元魔帝神を知らない者はきっとあなた位だ」
「あやつめ……まさか、まだこの世に存在していたとは……だが、なぜ奴はお前の様な者を……いや、ここは一国の主として態度を改めないといけないな……貴殿の事を軽視していた事、今までの無礼と共に謝罪する……どうか許して欲しい」
そう言うとカイザーは頭を深く俺に下げた
「辞めてくれよ敬語なんて……気持ち悪い……パパアーサー頭を上げてくれ。今までの言動で気分が悪くなったとか特に無いからさ、さっきのままで十分だ。それに俺はこの世界の新人だから謝るって言うならこの世界について教えて欲しい!」
カイザーは頭を上げて話し出した
「彼奴に似て態度は大きいらしい……まるで彼奴と話している様だ。改めて名乗らせて貰おう!私はカイザー・ナイツクラウン……アーサーの父にして聖界テークヒューサーの聖帝王が一人である」
ーーこの場にレスカも含めて王が二人に姫が一人か、正直スケールが大き過ぎて対話してるのが怖い……これが元魔帝神に召喚された特権か……
「それでは、これより説明するが……レスカお前も付き合え」
「何故妾がその様な面倒な事をしなければならんのじゃ」
「お前の方が魔界ホラギニウスには詳しいからな……それに先程のアーサーに対しての無礼な行為、見逃してはおらんぞ?」
「細かい男じゃの〜分かったわい後が面倒じゃし、それに先程堪能させて貰ったからの〜その礼として請負ってやろう」
そうして、俺はこの世界の全貌を知ることとなる




