第07話 何事も容易ではない
「貴様は先程、我が完膚なきまでに粉砕した筈だが?何故生きている……それにこの魔力は一体……」
ギリエルは少々困惑している様子だが冷静に此方を観察している
〈当然デス、私ガ力ヲ解放シタノデスカラ……1割程〉
ーーえ?……聞き間違い?大丈夫?また、粉々にされない?なんだかものすごくアーサーに申し訳ない気持ちが芽生えたんですけど……
〈「力」トハ成長ノ過程デ得ルモノ、ソウ簡単ニ手ニ入ルモノデハアリマセン。ソレニ、ソノ件ニ関シテハ問題アリマセン、現在ノ主ノ力量ハ先程迄トハ比べモノニナリマセン〉
ーーほほ〜つまり、俺の時代とい事か、フッフッフッ参ったなあ
「まぁ、さっきまではお遊びだったって事さ!」
〈……〉
iさんは呆れているが問題無い筈だ、何しろあれだけの自信家が相手の力量とこちらの力量を計り間違える訳がない!
「貴様、我を侮辱するか、よかろう貴様の体が一片も残らぬ様に灰に変えよう、そしてあの世で懺悔するがよい!ハアアアアァァーー!」
全身に紅い炎が瞬く間に広がり、ギリエルの姿を覆い隠す程の大きさへと膨れ上がる。そしてそれは徐々に静まり姿を現した……
ジェット機のターボエンジンを思わせるものが両肩から生え、そこからは近づいただけで燃えてしまいそうな程の炎が噴出し、どこか翼を思わせる形をしている。不覚にも少しかっこいいと思ってしまった事は内緒である
「此れが我が真の姿、この姿を見て生き残った者は未だかつて我が主人のレスカ様のみ、大人しくしていれば一瞬で楽にしてやろう」
巨槍が炎を纏い、背中のターボエンジンの様なものがゴオオオと音を上げ始め此方に突進する構えを取っている。素人目に見ても明らかだ、躱せるか躱せないかは別として……そして期待通り奴は高速移動し目の前にいる。またも一瞬で間を詰められた。巨槍は俺をめがけて一直線に伸びてきている。粉々ルートを察した俺はその瞬間恐怖のあまり目を瞑ってしまった……
ーーガンッッッ!
「……何だこれは!?」
「……ん?」
ゆっくり目を見開くと何故かそこには俺そっくりの鎧が出現していた。そして腹部が巨槍に貫かれている……というか俺自身も先ほどの場所より後ろに移動している様な……
「此方は偽物で、本体はそこか……貴様にこの様な能力があったとは驚きだな……」
あちらはあちらで困惑しているが、こちらもこちらで覚えのない事に困惑している……恐る恐る、恐らく原因であろう容疑者iさんを尋ねてみた
ーーiさん……あれは一体何ですか?
〈嫌デスネ、私ヲ疑ウノデスカ?私ハ何モヤッテマセン〉
白々しい……実に白々しくはぐらかしてきたが大方この方で間違い無いだろう……犯人は皆「やってない」と口走るのはお約束である
「少し寿命が延びただけで状況は変わらんぞ、次こそ貴様を……むっ!?」
ギリエルは突き刺した巨槍を鎧から抜き取ろうとするがなかなか抜けない……
〈黒偽鎧戦闘形態起動〉
iさんがそう呟いた途端に鎧の目が赤く光りだし腹部に刺さった巨槍を鷲掴みにし、その手でいとも簡単に砕いてみせた
「なっ!?」
ギリエルは一瞬唖然としたが瞬時に片手に持っていた盾でタックルを繰り出すが……
ーーガッッ!
今度はそれを片手で軽々と受け止めてしまう黒偽鎧、さらにその状況に追い打ちをかける様に乱打を繰り出した
ーーゴッゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!……バキッッ!
見事にギリエルへクリーンヒットする。その威力はギリエルが身につけている鎧を砕き、1トンはあるであろう体を軽く吹き飛ばしていた……これを見て俺は体の大きさと強さは関係ない事が改めて身に染みた
「ぐはーーっ、何故この我が……我が、この様な無様な姿を」
その差は傍から見ても一目瞭然であった、先程まで涼しい顔をしていた敵が俺の黒偽鎧の乱打によって、見るからに瀕死の一歩手前位の状態でぜえぜえ言って吐血している……黒偽鎧強過ぎる……鬼畜であるが今が畳み掛けるチャンスである、がしかし根の優しい俺は慈悲を与えることにした
ーーiさん、黒偽鎧の戦闘形態とやらを一旦止めてくれ
〈了解シマシタ、戦闘形態解除〉
黒偽鎧の目が赤色から緑色へと変わって待機している……どうやら命令には忠実に従う仕様であるらしい、少しホッとした……でだ!
「お前がこの姫様を解放してくれるなら、今回だけは見逃してやっても良いけど、どうする?」
ギリエルは乱れた呼吸を整えて話し始める
「……巫山戯た事を抜かすなーー!」
ギリエルが天井に手の平を向けると、みるみる巨大な炎の球が形成されていき、直径10メートルほどの大きさまで広がっていく
「我は貴様等に屈しはしない、貴様らもろとも冥土へ道連れにしてくれよう」
ーー往生際が悪いな……iさん、iさんあれってどれ位の威力だ?と言うかあれは魔法なのか?
〈明ラカニ魔法デス、予測……予測……現在イル、コノ城ガ跡形モ無クナルデショウ〉
ーーそんな悠長な事言ってる場合か!一変してピンチだろ!戦闘形態を起動してくれ!
〈既ニ起動シテオリマス〉
ーー優秀過ぎて涙が出そうです
しかし、予想を超えて敵の魔法の完成は早かった……
「消え去れ!紅炎玉!!」
ーー終わった……黒偽鎧も排除しようと向かうがもう間に合わない……炎の玉はギリエルの手を離れ俺へ投擲された
〈仕方アリマセンネ……地黒箱起動〉
iさんが面倒くさそうにそう呟くと紅炎玉を包むように、空間に四角く黒い薄透明な箱がウイーーンと現れた……そしてそれは爆発の衝撃を抑える様に消滅させたのだった
「なっ!我の最大火力が!?」
ーーあの箱が何だったのか分からないが、今が好機!
「やれ!黒偽鎧!」
「己ーーーーーー!き、貴様風情にーー!」
慈悲を与えたのに歯向かってきたあいつはもう救いようがないな、最後の断末魔とかも知ったことではない……俺はギリエルが次の技を出す前にボコボコにしようとしたがそれは、ある女性の妖艶な一声で食い止められた




