第13話 神ならざる者
「貴女が淹れた紅茶はやはり格別ですね」
「感謝致します」
リオン城王の間にて、嬉しそうに笑みを零すリンネと紅茶を嗜むルナ
「それにしても、あの者達は本当にいらっしゃるのでしょうか?確か本日でしたよね?」
「さぁ、どうでしょうね……」
すると、光の輪が突如出現し二人の青年が姿を現わす
「誰が逃げ出すって?なぁ、相棒!」
片方の青年は相変わらずふてぶてしい態度を取っており、もう片方の青年は顔が少し青褪めている
「……帰りたい」
「やっと、来ましたか。それに貴方も転移を使えるとは……まぁそれは置いておいて、取り決め事の上来ない訳にはいけませんよね。では早速……と言いたいところですが、場所を変えましょう。前回の様に城を壊されては堪りませんから」
すると、ロジオンはリンネを指差しあの時のことを明確に説明しようとするが、シュンッとリンネがロジオンの背後に回り込み口を手で抑え込む
「ゔーゔゔゔゔ」
「なんですか、ロジオンさん?そんなに私との再会が喜ばしいのですか?」
リンネがルナに仕えている限り、ロジオンの誤解は未来永劫続くのであった
「そちらの二人はいつの間にか仲が良くなった様ですね……では、場所を移しましょう。聖之転門」
王の間の四人は光の輪に包まれ姿を消していく
転移により着いた先はリンドルク国内の巨大な闘技場であった。その大きさは何万人もの人を収容できる程に広く頑丈な造りをしている様に見える
「此処なら多少派手に暴れたとしても被害は少ないでしょう。それにセバスチャンに此処の周りを包む様に結界を張らせています。なので周りへの被害は安心して下さい。まぁ、私が本気を出さなければの話ですが……」
ルナは説明の際にカイザーを挑発するかの様に話し始めるが…カイザーはそれを物ともしなかった
「……安い挑発だな。特訓を経た今の俺は過去とは違う……覚悟しろ!」
「今は肩書きが邪魔で仕方がないですね。一応神と名乗っているのでこんなはしたない事は今後できないかも知れませんね……失望させないで下さいよ?では貴方の特訓の成果とやらを試してご覧なさい」
距離を置き見つめ合う二人から異様な雰囲気が漂い、ピリピリとしたその空気に当てられた者は気を失う程であり、強者であるロジオンですら呼吸が乱れつつある……
そして、片方が平静に終止符を打つ様に動き出した
「最初から全力でいく!光之閃弾!」
高圧縮されたレーザーの様な光の束が、ルナへ一直線に放たれ、その衝撃で爆風が巻き起こり、チリが舞い視界が閉ざされる
「……この程度ですか?」
チリが落ち、視界が澄んでくると、そこには先程放たれた魔法を片手で止め、ボール状に圧縮している聖帝神の姿があった
「これはお返し致します!」
片手で軽く投げられたかの様に思えた光の玉は、高速で返ってくるが、カイザーはそれを剣でザンッと叩き斬る
「お見事です。それでは、此方はどうでしょう……聖之暴爆」
「ん?」
キュイィィン……ドカーーーン!
天より降り注ぎし光がカイザーを照らすと同時に大爆発が巻き起こり、辺り一面を呑み込んでしまう
「なっ……」
ロジオンは目の前の光景に絶句した。あの大爆発の中を生物が生き延びれる可能性はかなり低いと容易に判断できてしまったからだ
「私とした事が流石にやり過ぎましたかね……力を使うのは久々で加減の方が……!」
その姿は聖帝神でさえ、神々しさに見惚れてしまう程であった。白銀の光沢を持つアーマー、幻想的でダイヤモンドの様な翼、魔方陣から上半身だけだが天使を想わせる巨大で機械的なフォルム。それがカイザー背後に構えており、先程の爆発を防いでいた
「美しい……」
ーー我がいなければ貴様は跡形も無く消されていたな
「これしきの事俺一人でもどうとでも……」
ーー見栄は良くないな、素直に感謝せよ
そう言われ渋々頭を下げるカイザーであったが、終えると直ぐに再びルナへと意識を集中させ武器を構える
「ここからが俺の……いや、俺達の本領発揮だ!」
シュンッと素早い動きで今度はカイザーから攻める。ルナへ向けて剣を振りかざし二指で止められてしまうがそれも束の間、ウルスがカイザー後方より凄まじい拳を繰り出す。それは拳の衝撃波だけでその方向のものを一直線に粉砕する程のものだった。だか、ルナには相変わらず攻撃は当たらない……死闘は繰り広げられ技の応酬は続き三十分位たった頃である。闘技場は周りの結界を残して見る影もなく崩壊していた
「相当お強く成られましたね」
「当たり前だ!この日この時に勝利する為に鍛え抜いたものだ……通用しない訳がない!」
「なるほど。しかし、これでは埒が明きませんね……お互い高出力の技で決着を付けませんか?打ち勝った方が勝者……どうですか?」
「ああ、その提案は少し助かるな。このまま続けていたら闘技場どころか、この国が更地になってしまう。それにそっちの従者の結界ももう保つまい」
「……気付いていたのですね、お気遣い感謝致します」
「まぁ、お互いの最高出力を出して壊れないかは分からないがな……」
「それもそうですね、フフフ」
短い間だったが力を尽くして闘っている間にお互い妙な親近感が生まれていた
「……これを使うのはいつぶりでしょうか。聖帝神である私に認められた事を誇ると良いでしょう。貫くべき聖義として姿を現せ聖剣・エクスカリバー!!!」
ーーピリパリ、ピリ!
眩ゆい光を帯びた剣がルナの手元に召喚される……それは肌で感じられる程人外で膨大な魔力が漏れ出ていた
「まさか、そんな奥の手があったなんてな……でもな!奥の手があるのはそっちだけじゃ無いんだよ!ウルス!!!」
ーー良かろう
機械天使は呼び掛けに応じ、自らの姿を変形させていく……そして、一本の剣へと巨大な力を凝縮させた
「守護光剣・ウルス!!!……これが俺の最後の奥の手だ!!」
「……凄いですね、この短い期間で私の想像を超える程の逸材へと進化している……もしかしたら貴方になら任せられるかもしれませんね……」
「ふっ、その言葉ありがたく貰っておこう。だが、任せられるとはどういうことだ?」
「いえ、この場においては少々野暮でしたね……せいぜい、お互いこの一撃で後悔しない様に致しましょう」
「ああ、言われるまでもない!」
「いくぞ(いきますよ)!」
自分と初めてここまでやり合える人物に出会ったルナはいつしか、カイザーの事を対等の相手と認めていた。それに対しカイザーも最初に感じた負の念はどこかへ消え、尊敬すべき相手として認識し出していた。
そして、お互いの全べてが込められた莫大な魔力を帯びた剣は同時に相手へ向かって振り切られると、激しい光に包まれ戦いに終止符が打たれた
一年後、リンドルク国のリオン城
夜が明け小鳥のさえずりが聞こえる中、一人の女性が自身の寝室に向かい相方をそっと揺さぶり起こす
「聖帝王ともあろうものが寝坊とは……今度は私が一から鍛え直さないといけませんかね?」
「……う、うーん、もう朝か……」
「本日はこの世界の頂点の集会……神の集い(ゴッドサンクチュアリ)にどうしても連れて行って欲しいと昨日せがんできたのに、その体たらくとは私の勘違いだったのでしょうか?」
「……!!そうだった!今日はそれがあった!すぐに用意するから少し待っててくれ!」
「随分自分勝手ですね……改めて伴侶を探すことも今後検討しないといけないかもしれませんね」
と軽く愚痴をこぼし呆れた態度で女性はその場を後にしようとしたが、それに対し金髪の男性は女性を抱き寄せ耳元で少し寂しそうに呟く
「……ルナ、聖帝王としても一人の人間としても俺はまだまだ未熟だが、問題があるならその都度直す努力はする!……だからそんな事は言わないでくれ。それに共に過ごした時間は短いかもしれないが、正直もうお前無しでは生きてはいけない」
男性の愛は天よりも高く海よりも深いそれ程強い想いが伝わってくる。その反面ルナはなんだかクスクス笑っている
「フフフ、冗談ですよ。それにもう私たち二人の問題ではありません。三人の問題です」
「……え、なっ?三人?も、もしかして……」
「ええ、カイザー。あなたと私の子がお腹にいます」
「うおおおおおおおお!!ルナーーーーー!」
カイザーは顔に喜色を浮かべながらぎゅっと力強く抱きしめ、ルナの表情からも笑みが溢れ出ており、二人揃って幸せそうにみえる
「産まれるのはまだ先ですので、それまでに一人前の父親になる様努力してくださいね?」
「ああ!どんな事でもするさ!安心してくれ!!」
「その言葉を信じております。それでは私は屋上の庭園で待って居ますので準備の方を始めて下さい」
と言うと今度こそルナは部屋を出ていく
ーーバタッ!
ベットに倒れこみ押さえ込みきれない嬉しさでじたばたしてしまうカイザーであったが、思い出したかの様に急いで準備へ取り掛かる
カイザーが城の屋上の庭園に着くとルナは大きな魔法陣を生成している様子
「聖帝神に仕えし眷属よ我が力に呼応し召喚に参じよ!!」
すると光の柱が天を突き抜け巨大で胴の長い一体の竜が魔法陣から生える様に出現する
ーーグオオオオオオオオオ!!
「驚いた……こいつは一体!?それにこの規模の竜は初めて見たぞ!」
「聖帝神に代々仕える神竜……ウロボロスです、この子の力で集会へ行きます」
「でも何故今この竜を召喚する必要があるんだ?転移魔法を使えば良いんじゃないのか?」
「その場所は特殊な力が張り巡っているので私の力でも簡単には辿り付けないのです……それに聖帝神と言っても聖帝王の中で一番力を持っている者が格上げされただけの名称なので実際はそんなにあなたと他の王とも変わりません、天からの使いかなんかだと思っていましたか?」
「……そ、そんな事はないぞ!ちゃんと分かっていたさ!(そうだったのか!!)」
ルナはそんな知ったかぶりしているカイザーをクスクスと笑いながらウロボロスの頭へぴょんと飛び乗り、カイザーにもそうする様に指示を仰ぐ
「それではウロボロスお願いいたしますね」
ルナから合図を受けたウロボロスは自身の目の前に巨大で大きい円型のゲート魔法陣を三重に生成し、その中の闇へと二人を乗せて消えていく
「ここは……」
視界は深い霧のせいで閉ざされ辺りを見渡しても中々把握できない様子
すると、前方に進むに連れて視界が明るく開けてくる
「もうすぐ着くので安心して下さい」
ルナはカイザーの片手を掴み手を繋ぎにこりと微笑む、それに気づき緊張が解れたカイザーも彼女と視線を合わせてぎゅっと手を握り返す
ウロボロスの前進が止むとそこには白く光る大地が辺り一面に広がる無機質な世界があった
「着きました。ここは聖邪地アヴァロン……神のみぞ侵入できる場所です。今回は例外ですよ」
「済まないルナ恩に着る」
「ですが、この様な場所へ来たかった理由はなんなのですか?」
「……うーん、一言で言うとルナが感じているものや見ているものを共有したかった……それと一度他の神とも手合わせを……」
「呆れました……ですが、前者の理由を踏まえてここは聞かなかった事にしてあげましょう」
「流石聖帝神様!!」
「持ち上げても何も出ませんよ?」
二人がウロボロスから降り大地へ足を踏み入れ歩いていると、少し離れた場所に真っ白な巨樹が見えてくる
「なんだこの巨樹は、葉が一枚も付いていないし……それにとても嫌な感じがするんだが」
「ああ、これはユグドラシルと言うらしいですよ。遥か昔の遠い過去に……まだ魔も聖もない時代に生物の命をむやみやたらと狩る連中がいたのとの事です。その大元がその時代の神によってこの巨樹に封印されているとの言い伝えです。まぁ、私も近頃そのことを知ったのですけれど。それとその封印を解くものが簡単に現れない様にするために神のみぞこの大地に足を踏み入れることができるらしいです」
「なるほどそんな事が大昔にね……ってそう言うことなら魔帝神とかはこの地に入れたらダメだろ!」
カイザーのダメ出しに思わぬ方向から返答が飛んでくる
「ほう、汝は良くて我はダメか……本人の前でそれを言うとは肝が据わっているのか、それともただの馬鹿か?」
「ふっふっふ、魔帝神さんは散々な言われ様ですね」
ふと声の元を辿るとそこには全身黒塗りの鎧に赤いマントを羽織った人物と、分厚い辞書の様な物を持ち大柄スーツ姿で頭部に西洋風の兜を被る二人組が現れた
「お久しぶりです、魔帝神カイゼル・ハウンズ様に次元神オルグニスト・ギオルギー様」
「……なっ、魔帝神に次元神!!!!?」
この世を統べる頂点三名と若干一名が一同に勢揃いした奇跡の瞬間である




