第12話 守護者
約束から数時間が経ち場所は宿屋にて、誰かの怒号が聞こえてくる
「カイザーーーーー!お前はなんて事をしてくれたんだ!聖帝神様に決闘を申し込むなんて前代未聞だぞ!終わりだ……よし、現世に別れを告げる為に俺はこれからやり残した事をする旅に出る!さらば!」
「おいおい、まだ敗れると決まった訳ではあるまいし」
「じゃあ、どうするんだ!?今まで通り二人で特訓をしても一ヶ月でなんて強くなれるはずがないそれに、強くなったとしても神に勝てる筈が……」
ロジオンは絶望の淵に立たされた様な表情で椅子にもたれ掛ける
「いいや、とっておきの秘策がある!」
「秘策?」
「ああ、あの女狐と共に特訓するんだ!」
「よりによって彼奴とは……聖帝神様と決闘する前に死んでしまうわ!!それに魔界へは遠すぎる故に行って帰って来るだけで相当掛かるぞ?」
「そこは問題ない、光之転門!」
宙に光輝く魔法陣が形成される
「これは!?聖帝神様の!?」
「ああ、あれを見てオリジナルを試してみたんだが案外簡単に成せる様になった。この発想は俺には無かったからな。それに奴に出来て俺に出来ない訳が無いだろう!ハッハッハ」
ーーこいつどこまで傲慢なんだ……しかし、相変わらずこいつは天才か?少し嫉妬すら覚える程だ……しかし、それを台無しにするこの性格のせいで憎むに憎めないのも相変わらずだ……
「何か言ったか?」
「いいや、流石は相棒だ!」
「急にどうしたんだ……鳥肌が収まらないぞ。じゃあ、荷物を整えて出発だ!」
ーー前言撤回、俺はこいつが憎くて堪らない
「よし、行くとするか!」
宙に浮く光輝く魔法陣の中へ、二人は気持ちを新たに固め入って行く
ーー魔界ホラギニウスに在るとある城ーー
「この魔力は……彼奴か」
銀髪に獣耳を生やした女性が突然現れた領地に現れた魔力を察知する
「主人様どうかされましたか?」
部下の一人が話し掛ける様子
「うむ、どうやらカイザーがこの地に来た様じゃ、おそらく転移魔法の一種を使っての〜……彼奴めいつの間にそんな魔法を……」
「彼の方がですか!?」
「そういえば其方は彼奴に一度痛い目に合わされてたの〜どうじゃ、もう一度彼奴に挑戦してみるのは?」
「ご、ご冗談を……主人様には及びませぬが、私からしてみれば彼の方は十分に化物の類……今回は遠慮して置きます」
「其方の口から化物とは随分彼奴を買っている様じゃの〜」
ーーーー
「本当に一瞬だったな、成功して一安心だ……」
転移魔法にて魔界内のとある城近くに着いた様子の二人
「……おい、一安心ってこれがぶっつけ本番の転移だったと言う事か?」
「……そんな事言ったか?」
カイザーは白々しくロジオンの問いかけに答える
「お前と言う奴は……どうしていつも後先の事を……ハァ、もういい」
不満が尽きない様子のロジオンであったが、いつもの事だと無理やり自分を納得させる
「なに、目的地にはちゃんと着いたのだから問題ない」
そんな他愛ないやり取りをしている二人組みに城の方向から妖艶な女性の声が掛かる
「お主ら今日は何用で参ったのじゃ?」
「なっ、レスカ!?」
ロジオンは急に現れたレスカに対して驚いている様子
「何を驚いておる、妾の統治する領地なのだから妾がいても何ら不思議ではあるまい?」
「そ、それはそうだが心の準備と言うものが……」
「レスカ!単刀直入に!……頼みがある!」
「なんじゃ来て早々頼みとは?この前まで歪みあってた其方がどう言う風の吹き回しじゃ?」
「……俺たち……いや、俺の特訓の相手をして欲しいんだが……!」
「……いきなりの事で話が読めんのじゃが……は?何じゃ?つまり、やっと妾の部下になる決心が着いたと言う事か?」
「な、何を申しているのですか主人様!」
また一人城からレスカの後ろを追う様に四足歩行の鎧を纏う兵士が現れる
「おお!ギリエル!久々に会えて嬉しいぞ!」
「カ、カイザー殿お久しぶりです……」
素っ気なく挨拶を返すギリエル
「何じゃお主やはりカイザーに挑戦したくなったのか?」
「挑戦?」
「滅相もありません!カイザー殿に挑戦など命がいくつあっても足りませぬ……」
「フフフ、冗談じゃ。してカイザー、お主が何故その様な頼みごとを妾に?」
「ああ、実は……」
事の顛末をレスカに語るカイザー
「ほうほう、成る程それで先ほどの様な事をぬかしておったのか……相変わらず面白い男だの〜しかし、聖界神とは物騒な話じゃの〜」
「何とかして借りを返したいんだ、頼むレスカ……」
「仕方ないの〜今日までやり合ってきた其方と妾の仲じゃ、受け持ってやろう。しかし、それには一つ条件がある」
「条件?何だそれは?」
「それは今後すぐではないかもしれんが、妾がいつか逆に願い事をした時にそれがどんな願いであっても拒否しないで受諾すると言うものじゃ。因みに命に関する事ではないぞ。どうじゃ?」
「……わかった。約束しよう」
「よし、取引成立じゃな!それでは早速手合わせといきたいところじゃが今はこっちではなくあっちじゃの!」
「あっち?一体なんの話だ?」
「其方の力を無理やりこじ開けてやろうと言う話じゃ……では参る……これに関しては死んでも恨むでないぞ?真淵解鎖」
カイザーの胸部に禍々しい鎖が次々に刺さるが、外傷はみられない様子
「ぐぅっがあああああああああああ!」
「何が起きている!?カイザーは大丈夫なのか!?」
ロジオンが心配してレスカを問いただす
「なに、此奴の深層心理にあるものを無理やり表に引きずり出しているところじゃ、これは妾も多少神経を使うのでな邪魔するでない!」
カイザーから強力な閃光が漏れ始める
ーー前々から此奴の中に何かが潜んでいることは分かってはいたが、これ程とはの……だが其方が自分の力に呑まれて身を滅ぼす事は許さぬ、今後つまらなくなるからの〜。必ず帰って来るのじゃぞカイザーよ
ーーカイザー深層心理内部ーー
「此処は……」
透き通る様な純白が果てしなく広がる世界が眼前には映っていた
ーー貴様の深層心理内部だ
どこからともなく響く声
「誰だ!?」
ーー我は永い間貴様と共にいた
「どう言うことだ!?」
するとカイザーの頭上高くに魔法陣が形成され、隕石に似た勢いでカイザーの目の前にとてつもない輝きを放つ球体が降ってくる
ーー我は守護者ウルス、貴様は何故力を求める?
「光の球体が喋っている……?」
ーーもう一度問う……何故力を求める?
「……それは、どうしても勝ちたい相手がいるからだ!」
ーー下らん、私利私欲の為に我の力を振るう事は許されない。貴様が真に我の使い手として相応しいか確かめさせて貰う
突如目の前に自分の姿を模したクリスタルが出現する
「これは……俺か?」
ーー準備はいいか?ここでの代償は……貴様の命そのもの
「……ああ、おれは必ず乗り越えてみせる。そして、お前を従える!」
こうして、ウルスとの攻防が始まった
ーーーー
「レスカ様、本日はシュナインテインよりをご用意した紅茶を淹れましたので冷めぬ内にお召し上がり下さい」
「うむ、思ったよりも美味しいの〜身に染みる」
「ハッ!ありがたきお言葉!」
城の庭ではいつしかティータイムが行われていたが、それに対し一人の青年はやり場のない感情をふつふつと燃やす
「レスカ!カイザーはあれで大丈夫なのか!?さっきから寛ぐばかりで何もしていないが!」
「何を言うておる、妾の鎖は未だ奴の深層心理と繋がっておるだろうに」
「さっきは神経を集中させるから邪魔するなと言っていただろう!なのに今は集中している様には見えんのだが……?」
「妾は天才だからの〜慣れれば紅茶を飲む余裕も出てくると言うもの」
ーーやはり、私は此奴がどうにも昔から苦手だ……的を得ない答えを毎度の様に返して来るし、天才理論によって凡人である俺を罵るところはカイザーと似ている……あれ?もしかして私はカイザーの事もひょっとしたら苦手……いやいや、今はこの事について考えるのは止そう
ロジオンは煮え切らない感情を呑み込み再度レスカに問う
「しかし、これを始めてから随分経つがカイザーの意識はまだ戻らないな……本当にあいつは大丈夫なのか?」
カイザーの方を一目見て不安な表情をするロジオンだったが、次の瞬間カイザーの体は強烈な光を放ち辺り一面を包み込む
「何が起こっている!?」
光が収まると其処には金髪の青年が俯きながら立っていた
「カ、カイザー!大丈夫か?」
「……」
金髪の青年は自分の身体を確かめる様に拳を握り、問いに答える
「この身体は実に心地良いな、久々に現世へ降臨できた様だな」
「誰だお前は!?」
「我か……我はウルス、この身体の持ち主を破り新たな持ち主となった者」
「あの馬鹿者め自らの力に敗れるとは、仕方ない此処は妾が……」
「待ってくれ!」
ロジオンはレスカを止める様に叫ぶ
「この馬鹿の目を覚まさせてやるのは、相棒であるこの私が引き受ける!」
「魔力を感じれば分かるが今のあやつは前の時より強いぞ?其方にはちと荷が重いと思うが?」
「心配無用、どれだけ強くなろうがカイザーはカイザーだ。それにこれまでの恨みも此処で晴らしておく!」
「だと良いがの〜」
「話はまとまった様だな、邪魔をするなら相手になろう」
カイザーいや、ウルスが話し合いに割って入る
「ああ、その顔殴って私への貸しを思い出させてやる!」
ロジオンは背負っていた大剣を友に向け迎え撃つ体制を整えるーー
ーー二人の闘いが始まってかれこれ五分程が過ぎていたが、お互い一歩も引かない状況は続いていた……しかし、片方のある一言で決着は迫る
「この身体にも大分慣れてきたな……」
「その割には貴様の攻撃は私に掠りもしないがな!」
「……では、貴様の期待に沿ってやろう!」
ウルスの動きは先程までとは比にならない程に速くなりロジオンの元に一瞬で近づき、城壁まで吹き飛ばす
ーーゴッッ!
「ぐわっ!」
「あーーー!妾の城が!」
ーーくっ、一撃でこれとはカイザーめ相変わらず無茶苦茶だな、それにレスカの奴め私の心配より城の心配とは……奴の好感度メーターは苦手のその先へと変更だ!
瀕死に近い様子のロジオン……
「そろそろ、本当に妾の出番かのう」
前に出ようとするレスカだったが……
「待ってくれレスカ!もう少しだけ時間をくれ!ゴホッ!」
「其方のその身体ではもう無理じゃろうて、諦めよ」
「頼む!」
「……分かったわい、じゃが、手遅れになっても知らぬぞ?」
「ああ、恩にきる」
「ロジオンとやら本当に死ぬつもりか?友はもう戻っては来ない」
「……あいつはそんなタマじゃない。たかだか……力如きに支配される訳がない!それがどんな力だろうともあいつは力になんて屈しない!いつも共に乗り越えてきた……私が、あいつの隣にいた私がそれを知っている!」
ロジオンはカイザーと二人で訓練をしている情景を思い浮かべる
ウルスはロジオンの首を掴み持ち上げると剣を喉元に近づける。それを見てレスカは手を前に掲げ魔法を行使しようとするが……
「これは万事休すかの……!鎖……」
「……さらばだ」
ウルスは剣をロジオンへ向けて振りかぶる……
「……告白する相手を間違えてるぞ?相棒」
「ふっ、彼奴め焦らせおってからに」
レスカは何かを感じ取り手を止め、安堵の表情で愚痴を溢す
ウルスの手は止まり、ロジオンを離しよろめく
「な、何故貴様が出てくる!?」
「カ、カイザー、いるのか?」
ロジオンは驚きながら恐る恐る話し掛けてみる
「お前の熱い告白に返事をしようと思って出てきたんだ……答えはNOだがな」
「な!?まさかさっきのを聞いていたのか!?」
「残念ながら一文字一句逃さずな……本来ならお前ではなく女性に告白して貰いたいところだが……冗談も此処までにして。さて、ウルス!俺の身体を返してもらうぞ。ハァァァァ!」
カイザーは魔力を逆流させウルスを追い出そうとするが抵抗される
「この程度の魔力で我を支配しようなど笑止!貴様は自分の身も、友の身も守れんのだ!」
「ああ、ここまではな……まさか俺の体で相棒を傷つけるなんてな……自分で自分が情けない。お前深層の中で俺に言ったよな?私利私欲では力は貸さないと。でもな、俺はなんと言おうと自分のために力を振るう」
「強欲な者め!このまま呑み込んでくれる!」
ウルスは魔力を強めカイザーを再度取り込もうと試みる
「ああ、俺は強欲かもしれない。俺自身を守るために、俺のプライドを守るために、俺の好きな世界を守るために、俺の仲間を守るために……力が必要だ……だからお前が、元は俺の一部なら、俺の大切なものを守るために力を貸せーー!」
「くうっ、ぐあああああ」
カイザーが限界まで己の魔力を高めると、一心同体となっているウルスの魔力が包み込まれ消失する……そうして、どうにかウルスの魔力を抑え込む事に成功する……
するとカイザーの身体から球体状の光が離れ、ウルスが現世に降臨し姿を顕にする。その姿はまるで機械で創造された天使の様に美しく神々しいものだった
ーー真に強欲なる者よ。その力が個のためではなく公を守護する事を信じよう。我は現在この時より貴様を主人として認め力を授けよう。だが、この先道を踏み外す様なら今一度相見えるであろう
そう言い残しウルスは再び光の球体状になりカイザーの中へと消えていく
「それは勘弁して欲しいがな……これからよろしく頼むもう一人の相棒!」
「全くヒヤヒヤさせおってからに、それが其方の新しい力なのか?」
「まぁ、そんなところだな……」
ーーバタッ
「カイザー!?」
「先の魔力解放で力を使い果たしたんじゃろうな……此奴目、なんて顔をして寝てるんじゃ」
「……心配掛けさせやがって。でもまぁ、嬉しかったよ相棒」
その視線の先では金髪の青年が安堵の表情と共に泥の様に眠りに就いていた
日は経ち、約束の日当日
ーーキイイン、キン、カキイイン
金髪の青年が多数の鎖の猛撃を弾き防いでいる様子
「ほ〜妾と闘りあってもまだ余裕が残っている様に見えるの〜見違えたの〜」
「そこに気づくとは流石はレスカ!これも俺が天才であるが故か、恐ろしい実に恐ろしい……」
「調子に乗るな、粉砕鎖!!」
ドムッッッ!鎖に繋がれた巨大な分銅がカイザーの真上に召喚され圧し潰すように襲い掛かる
「ぐううううおおおお、潰れる!潰れる!レスカさん!俺の新たな力も共に!」
「そんなもの一掃、潰れて仕舞えば良いのではないか?」
するとそれを見限ったロジオンがカイザーの代わりにレスカへ謝りなんとか許して貰う
ーー共に乗り越えて来たと言ったが、私が此奴の尻拭いをしてきただけの気がしてきた……ハアッ
「どうかしたかロジオン?」
「……何でもない」
「そ、そうか!まぁ、なんだかんだで世話になったなレスカ!それとギリエルもな!」
「滅相もありません!また、いつでも!」
「なら、又近々世話になるから宜しく頼む!」
「なっ!?」
言ったそばから後悔するギリエルはさて置き、レスカはなにかを思い出したように話し掛けてくる
「なんだよレスカ俺達と離れるのが寂しいのか?」
「それはありえんな……カイザーよ今回のことでの妾との約束はきっちり果たすのじゃぞ?」
「あ、ああ、どうせ綺麗な物とか美しい物が欲しいとかだろう?」
「それは其方が決めることでは無い、まぁ、追々じゃの〜今は特に無いからな、それにこれに関しては期限は設けぬからな」
「相当面倒な案件だなそれは……まぁ、頑張れカイザー」
ロジオンは他人事の様に言ってくる
「お主も同じじゃぞロジオンよ?」
「なっ!?」
そう、彼らの運命はどこまでも共にあるのだとこの時証明された
「光之転門!」
魔法陣が宙に形成されていく
「カイザーよ!最後に一つ忠告じゃ」
神妙な表情のレスカ
「何だ?」
「あの聖帝神から其方と同じ、いや、それ以上の気配を持つ何かを感じた事が過去に有るのじゃ、用心するに越した事はない……まぁ、妾には関係の無い事じゃがの〜」
「俺以上の何かか……腑に落ちないが用心はしておく、ありがとう」
「ほれ!話は終わりじゃ!さっさと行くが良い!」
カイザーの急な礼に戸惑い、レスカは赤面した顔を下へ向け魔法陣へカイザーとロジオンを押し込む
こうしてレスカとの特訓を終え新たな力と共にリベンジが始まる
もう少々カイザーの過去編にお付き合い下さい




