第11話 約束
キンッ!カキインッ!キイインッ!
二人の刃は交わり激しく火花を散らし、攻防はより一層激しさを増していく
「あなた優秀ですね、ぜひうちの兵士に欲しい位です」
「それは光栄なお話ですね……ハアッ!」
ロジオンは大剣を力強く縦に振り抜くが、リンネはサッと横に躱し離れるように距離を取る。それを離れて見守るカイザーは固唾を飲んでその光景を見守っていた
「それはそうと、二人掛かりでなくて良いのですか?」
「御冗談を、それは私の騎士道に反します。それにあいつもそんな事は望んでいない筈です」
カイザーの方をちらりと見ると当たり前だと言う様にうんうんと頷く
「……そうですか。ならお言葉に甘えて」
リンネは刀を鞘に戻し柄を握ったまま目を瞑る……周りの空気が変わり、魔力を貯めている様に見える
「何をするかは分かりませんが、出される前に摘んでおきます!」
ロジオンはそう言うと地面を強く蹴りリンネの方へ勢いよく駆け出す
「遅いです!輪廻冥道!!」
その言葉と共にリンネは目を見開き居合斬りを放つ。繰り出だされた斬撃は轟音と共に前方広範囲を無数に切り刻む様広がりロジオンを呑み込む……その威力は城を半壊させる程だった。
「あらいけない、またやってしまったわ……まぁ、各兵士には退避する様伝えておいたから問題は無いかしらね」
リンネはキョトンとした顔で自分の行為を肯定した。そして、この戦いを終え次にいくかの様にカイザーへ声を掛ける
「次はあなたを始末して終わりですね」
「……俺の右腕はまだ終わってないぞ?」
すると崩れた瓦礫の中から黒髪の青年が瓦礫を退かす様に現れる
「ゴホッゴホッ……誰が右腕だ!」
「……大したものですね。あれを受けて息をしているのはおろか、五体満足あるなんて。しかし、先程の攻撃を防いだ影響で武器は刀身が砕けている様ですが……それにもう分かったでしょう?あなたでは私には及ばない事が?」
「確かに私ではリンネ様には勝てないでしょう」
「そうですね、それでは潔く負けを認めて……」
「……今のままではですがね」
ロジオンはリンネの言葉を遮る様に話し始める
「生憎、私には大剣しかなくてですね……」
「なんです?」
ロジオンがそう言うとバラバラに散らばった刀身の破片が宙に浮き、一片一片が光輝き始める
「確かにあなたも怪物ですが、身内の自己中な怪物の訓練に毎日欠かさず付き合っているとおかしな力が身につくこともあるんです……さぁ、参りますよ!群成指騎者」
ロジオンが握っている柄をリンネの方へ構えると散らばった光の破片が一斉にリンネめがけて飛んでいく
「くっ、小細工を!」
刀で打ち漏らしの無いように丁寧に捌いていくリンネだが、その隙を突くように、ロジオンは柄に集結させた残りの破片を細剣状に整え斬りかかる
「本命はこちらです!」
その剣先はシュッとリンネの頬を掠め、床に血が数滴垂れ落ちる
……するとリンネの顔から先程までの余裕ある表情は消え去り、凶々しい殺気が周囲に溢れ出る
ゾクッ!ロジオンはその殺気に当てられ額から汗が流れ悪寒が走る
ーーなんだこの殺気は……
「……これは頂けませんね」
「まさかこれ程とは……くっ」
此処に来てロジオンは自身と彼女との力量を思い知ることになる。それは自分では到底及ばぬ力だと確信する程に……
「もう手遅れですよ?絶望葬送道……」
ヂリリリリ、リンネがそう口ずさむ途中、腰に掛かっている銀時計のタイマーが鳴り響きハッと我へと返る様に、表情は先程までの冷静さと余裕のあるものに戻っていた
「いけない!お食事の準備の時間だわ!……この続きはまた今度に致しましょう。それでは急ぎますので」
優先事項を達成するためリンネは会釈を済ませ、急ぐ様にその場を去っていく
「……プハアアアッッ」
床に腰を下ろし今までのプレッシャーが解放されるかの様に安堵の表情で溜息を漏らすロジオン。それに駆け寄る様に傍観者は声を掛けてきた
「いや〜命拾いをしたな!」
「ぬかせ!あのまま戦っていたらきっとその名の通りあの世行きだったところだ!」
「そうなる前に加勢に入ってたさ」
「……どうだか」
「貴様、親友の窮地に手を貸さない筈無いだろう……しかし、あの豹変振りにはいささか慄いたがな」
「おい!」
「冗談だ冗談、さてと……では先に向かうとするか!」
ロジオンは更に深い溜息を吐きカイザーと共に聖帝神の居る場所を目指すーー
「此処か……」
他の部屋の入り口とは比べ物にならない程の豪華な造りが施された大きな二つ扉が二人の前にそびえ立つ
「カイザー心の準備は良いか?」
「ああ、必ずリベンジを成功させる」
「違ーう!!此処には無礼を働いた事への謝罪に来たんだ!」
「お前さっき全力で戦っていただろうに……」
「あれはリンネ様が……いいから第一声は申し訳ありませんだ!約束だぞ?」
「……ああ」
「信用しているからな?……よし、開けるぞ!フンッ」
ロジオンは掛け声と共に重く閉ざされた扉を開く。すると、銀髪の女性が華やかな椅子に腰掛けており、老執事が横で待機しているのが目に入る。そして、王の間に入ると同時にロジオンは喋り深々と頭を下げる
「私はロジオン・クラメルと申します。この度はこちらのカイザー・ナイツクラウンが無礼を働き大変申し訳御座いませんでした!」
「……侵入者というから何処の世間知らずの賊かと思えば、貴方は確か昼間の……」
ルナはカイザーを一目見て自分の記憶を辿る様に言う
「おい、お前も頭を下げろカイザー!」
カイザーはその場で悩む様に深く考え込みやっとの思いで頭を下げようとするが……
「……昼間は申し訳……いや、やはりどう考えても非はそちらにある!」
「お、おい!カイザー約束しただろ!」
ロジオンは焦った様にカイザーへ謝罪を促すが聞く耳持たず話続ける
「聖界の守護者である神があの様な傲慢な態度を取ることがそもそも間違いだと俺は思う!聖界の王、ましてや神なら万人に対して節度ある態度を取るべきだ!決して俺は貴様をこの国の王、そして、神とは認めぬ!」
「随分な言い草ですね、ですがあの時私にも非が有った事を認めましょう。ではあなたへ誠実に謝罪をすれば気が済むのですね?」
「な!?ルナ様あの様な輩にそんな事をする必要はありません!私が排除致します!」
セバスチャンはルナの非を否定する様に自らが排除すると説得を試みるが、それはカイザーのある提案で中止となる
「いいや、謝罪は今ではなくて結構だ」
「どう言うことですか?……貴方はそれが望みではないのですか?」
「一ヶ月だ……一ヶ月でお前を超えて今日の敗北の借りを返す決闘を申し込む。謝罪はその決闘で俺が勝利してからだ!今簡単に謝られてもどこか腑に落ちないからな!」
カイザーは清々しい表情で自論を展開するが、セバスチャンはその言葉に激昂し近づいてくる
「貴様!無礼にも程があるぞ!?」
「フフフフフ」
「ルナ様?」
ルナの笑い声に困惑しセバスチャンは歩を進めるのを辞めてしまう
「つまらない人かと思っていましたが……その覚悟だけは見事ですね、良いでしょう。一ヶ月後楽しみにお待ちしております。」
「ルナ様!一ヶ月後など猶予を与えず今まここで打ち首に致しましょう!」
「良いのですセバスチャン!それに期間を与えたとして私が敗れると?」
「それは万が一にもあり得ないと思いますが……」
「それでは決まりですね。もし、期限内に現れないのならこの城に無断で侵入した罪として貴方達二人を必ず見つけ出し監獄に入れますのでそのおつもりで、意見はないですね?」
「ああ、問題ない!」
「え!?私はそんな事望んでいません!お願いですルナ様、どうかお許し下さい!!」
すかさずロジオンはそのことに納得できないと弁解しようとするが……
「ロジオンさん……その願いはお受け出来ません、貴方も無断で侵入した罪、それに城を半壊させた罪がありますので実を言うとそちらの方より罪は重いです」
「あれはリンネ様がしたことで……」
ロジオンの渾身のお願いも通用せず、敢え無く同罪となり石化する様に固まってしまう
「それでは、また会う日まで御機嫌よう……聖之転門」
「何だこれは……!」
ルナが手を振りかざすとカイザー達の足元に魔法陣が形成され、一瞬で城の外まで転移させられてしまう
こうして彼らは期限付きの無理難題な約束を自ら取り交わしてしまうのだった




