第10話 罪状は
「……此処は……?」
意識が戻るとそこにはいつもの見慣れた宿屋の天井が見える
「おお、やっと目を覚ましたか」
聞き慣れた声の元を辿ると、先程助言をしてくれた黒髮で短髪の青年がコーヒーを片手に椅子に腰掛け呆れた様に此方を見ている
「俺は一体……それにロジオン、お前が此処まで運んでくれたのか?」
「ああ、何も覚えていないのか?お前が湖の傍で気を失ってることを城下町の人が教えてくれたんだ。此処までおぶって来るの大変だったんだぞ?無茶しやがって……それにお前がこんなになるなんて、一体今度は何をしでかしたんだ?」
「……聖帝神と戦り合ってきた」
パリンッ、ロジオンは持っていたコーヒーカップを床に落とし、唖然とした表情で此方を少しの間凝視していたが、すぐに焦った様に話を聞いてきた
「お、お、お前今なんて言った!?聞き間違いか!?聖帝神と戦っただって!?」
「ああ、この俺が手も足も出なかった……もしかしたらあの女狐より強いかもしれないな。あんな奴が此処らにいたなんて知りもしなかった……」
「そんな事を聞いているんじゃない!それにお前、聖帝神ルナ・オメガリオン様を知らないのか!?この国を納める聖帝王でもあるんだぞ!」
「ああ、名前はなんとなくうる覚えだったが……いつも表にはあまり出てこないし今日会って初めて知ったよ。あんなに強い奴がこんなに近くにいただなんて……もう一度手合わせできるなら今度は互角までには持ち込みたいな」
「この戦闘狂がっ!あのまま野垂れ死ぬまで放って置けば良かった……そんなことより俺はお前の手配書が出てないかが心配だよ!」
「悲しいな……親友にそんな事を言われるとは……それにこの国、この世界を守る聖帝神がそんな一度や二度無礼を働いただけで……」
ーーいや、奴なら有り得るな。景観を損なうとかいちゃもんを付けて失せろと言った位だからな
「善は急げだカイザー!城へ謝罪に向かおう」
「そこまでする必要はあるか?俺なんてこんなにボロボロなんだぞ?謝罪なら向こうが取るべき行動だ!」
「いいや、理由は知らないがどうせ原因はお前にある……来い!」
駄々をこねるカイザーはロジオンに無理矢理城へと連れて行かれるのであった
ーー何故俺がこんな所へ……
眼前には大きく見事な城壁が城を中心として囲む様に建ち、あらゆるものの侵入を拒む様に警備が敷かれている。城門の前には屈強な警備兵が二人程常駐し警戒を続けている
「ロジオン帰ろう……どうせ中には入れない、こんな所に突っ立っていたら逆に怪しまれるぞ」
「しかし、それではお前の弁解の余地が……」
「そもそも、どうせあっちも気に留めてないんじゃないか?」
「いいや、そんな考えではお前の事を任された俺はお前の両親に顔向けできん!」
ーー相変わらず正義感だけは人一倍強いな。それに任せた覚えもないのだが……
「おい!そこの者たち!さっきからそこでこそこそと何をしている!?」
警備兵怪しいものを見るかの様に此方へ近寄ってくる
ーーそらみたことか
「申し訳ありません。怪しいものではありません!此方の者が聖帝神様に無礼を働いてしまったので謝罪と弁解のため訪れた次第です」
「聖帝神様に無礼……?城から出たとは聞いていないが……さてはその様な虚言を吐き我らを欺こうとしたのだな。許せん。ましてや聖帝神様の名を語り侵入しようなど貴様等の罪は重い。話は地下牢の中で聞いてやる!」
警備兵は二人へ向かって槍を振り回し攻撃を繰り出してくる。それを見ていたもう一人の兵士も続け様に此方へ仕掛けてくる
「話を聞いてください!」
「問答無用!!」
ロジオンの呼びかけも虚しく二人の兵士は躊躇いもなく得物を振り抜いてくる
ーー城の兵士だけあって中々訓練されているな……仕方がない
「ロジオン!目を閉じろ!」
「あ、ああ!」
「光之閃!!!」
カイザーの放出したその強烈な光は辺り一面、空に浮いている雲を突き抜ける程に広がった
「くあっ!?なんなんだこの光は!?」
ーー加減を間違えてしまった……
兵士達は目を塞がれ身動きが取れない様子
「今だロジオン捕まれ!」
ーー調整、調整……閃光迅動!!
カイザーは光を纏い、ロジオンの手を掴みながら城門を光に近い速さで飛ぶ様に超え、城内への侵入に成功する
「結局こうなってしまうのか……どうしていつも……」
ロジオンは残念そうに壁に手を付け項垂れている。どうやらこの状況になる様な気は薄々していたのかもしれない
「少し面倒なことになってきたな……本当に罪に問われそうだな」
「お前が言うなお前が!」
「まぁ、聖帝神にもう一度会って誤解を解いて貰うしか道は無いな」
「なんでお前はそんなに呑気なんだ!少しは緊張感を持て!下手したらこれは国家反逆罪だぞ!」
「まあまあ、その時は俺が責任を持ってお前を守ってやるよ!」
その言葉に少し感動を覚え立ち尽くすロジオンであったが、ハッと正気に戻り前へ歩き始めているカイザーに追いつく様に歩き出した……
ーーリオン城王座の間ーー
「先の大きな光はなんなのですかセバスチャン?」
「はい、先ほど城内の兵士より城へ数名の侵入者が現れたとの報告がありました。もしかするとその者達が原因かと思われます」
「なるほど侵入者ですか、私が居るこの城……いや、あなたが守護するこの城へ侵入するなどさぞ勇気のある方達なのでしょうね」
「ルナ様、お戯れはお辞めください。守護をすると言っても今は命令を下すばかりの年老いた執事でございます、昔程の実力はありません」
「フフッ、嘘はいけませんよ?現状この城での実力なら私に次いであなた以外は有り得ないでしょう」
「そこまで言って頂けるとは……ではそのお言葉素直に頂戴いたします。もしもの時は私が排除致しましょう。まぁ、そんなことは万に一つも無いと思いますが……」
「頼もしいわね」
ーーーー
「流石に簡単には、聖帝神様には会えないか……争う気は本当に無いのだが……」
城の二階エントランスに到着すると黒いメイド姿の女性が二人の到着を待っていたかの様に佇んでいた
「仕方がないのです、これも命令ですので……私以外全員が退避していると言うことが、どう言う事だか理解できますか?」
「ええ、あなたはメイド統括のリンネ様……またの名を死に送りのリンネ。この国でも屈指の実力者だとか」
「あら、詳しいのですね……してあなたは?」
「申し遅れました、私はロジオン・クラメルと申します。本日は此処にいるカイザーが犯した罪の弁解に参りました!」
「おいロジオン!まだ罪と決まったわけでは無いぞ?」
「いいや、私が審判者ならあれは紛れも無い罪だ。だがら友として共に罪を償おう!リンネ様そこを通して頂きます!」
ロジオンは背中に背負っていた大剣をリンネに向けて構える
「残念ながら、それは叶いません……何故ならあなた達の行き先はこの先の王座ではなく、牢屋でもなく……冥土に変更になったのですから」
リンネはスカートの両はしを摘み軽く会釈を済ませ、腰にかけてある刀を抜刀する
「それではお客様……逝ってらっしゃいませ!」




