第09話 出会い
「さて、何処から話せば良いものか……時にカナタよ!この世界について何処まで知っている?」
パパアーサーは話し始めると共に俺に質問してくる
「うーーん、この世界の名称自体も知らないんだけど、ほんとついさっきこっちの世界に来たからな!」
「成る程な、良く分かった……ほぼ無知と言う事だな。まず、この世界の名はレミニオンと言う。そして、次に大大陸ヘカイトス、更にその大陸を大きく分けて三つ……まず東側が聖界テークヒューサー、中央が中央大陸シュナインテイン、そして西が魔界ホラギニウスに辺る」
「という事は今は大大陸ヘカイトスの西側にいる……って事か!」
「正確にはその中の魔界ホラギニウスだが、そうとも言うな」
「そうじゃ、その魔界ホラギニウスにある妾の城にいるのじゃぞ!」
エッヘンと言わんばかりにレスカは自慢げに話すが、生憎突っ込んだら負けな気がするので俺はスルーする
「大大陸の外には何が有るんだ?」
「大大陸の外には東西南北海が果てしなく続いているだけだ。一度無謀にも海の果てを見てくると冒険に出た者もいるらしいが結局は帰って来なかった……」
「うん?いやいや、おかしいだろ!」
「何がだ?」
「いや、だって大陸の右端から東にずっと進めば一周して反対の西側にたどり着くだろ?北も南も同じく!」
「何を言っている?……カナタ、お前の世界ではそうなのかもしれんが、此処レミニオンでは大陸はヘカイトスのみで他は聞いた事がないぞ」
ーーなるほど、要するに地球と同じ考えではいけない様だな……今後は常識が通じない場面もあるだろう……いや、既に元の世界とは色々とかけ離れていたな……
「そう言えば何処から流れた噂か分からんし、根拠は無いんじゃが、中央大陸シュナインテインの真上に位置するサンタージムーンの事なのじゃが……」
「サンタージムーン?」
ーーなんか太陽と月みたいな名前だな……
「半分が昼の間紅く超高温の熱を帯び大陸を激しく照らす役割があり、もう半分が夜の間蒼く超低温の冷を帯び大陸を静かに照らす役割がある球体状の星じゃ。其処に未踏の地があるらしいのじゃが……まぁ、迷信の類かの〜昼夜どちらにせよ近寄れぬからの〜」
ーー本当に太陽と月じゃねーか!
「なんで近寄れないんだ?」
「その表面を消滅空間が覆っているからの〜どんな原理かは分からんが……生き物であれ、どんな物質であれ近づけばたちまち消滅してしまう……一度目にした事はあるがあれは恐ろしいの〜」
ーー念の為、頭に入れておくか……
「他に何か知りたい事はあるかカナタよ?」
パパアーサーが親切に聞いてくれる本当に最初会った時とは別人の様だ……
「じゃあ、最後に王の数と……あ、パパアーサーとレスカの仲についても教えてくれ!」
「我等の仲も!?……良かろう!では王の数に関してだが、聖と魔二種の王を合わせて計十四人の王が存在する。勿論其処のレスカと私を含めてだ。それに、中央にも王の実力に近い者たちが数名いるらしいが詳しくは分からん……ところでさっきからそのパパアーサーとは何なんだ?威厳がなくなるからその呼び名は辞めろ!」
「え〜?なんでだよ、せっかくこの呼び方に慣れてきたのに。それにカイザーってなんかかっこよくてムカつく……まぁ、本当に嫌なら辞めるけど……それはそれとして、じゃあ次!二人の関係を!」
「ああ、辞める方向で頼む。それにしても関係か、あー、それはだな……この話は辞めないか?私の威厳が……」
カイザーの声が急に小さくなるが、レスカはそんな彼を見て俗に言う悪い顔をしながらニヤニヤしている
「何を躊躇っておる!早く言わんか!フッフッフ」
「お前と言う奴は……」
カイザーは観念した様に話を始めた
「あれは確か……そう、まだ私が聖帝王になる前……」
◆
聖界テークヒューサーのリンドルク国内宿屋にて
「また、お前は……今回で何回目だ?そろそろ殺されるんじゃないのか?」
とある兵士が、傷だらけで服がボロボロでになっている金髪の青年に向かって声を掛ける
「いいや、奴と俺の差は力の差では無い!経験の差だ!何回もやっているうちにコツは掴んできた、次こそは……あの女狐に勝つ!」
「無理だ、本当に命を落とすぞ?考え直せ!」
「それはその時また考えるさ!俺の本能がそう言っている……善は急げだ!!」
「あっ!まだ傷も癒えきってないのに……あー、行っちまった」
金髪の青年は助言を振り切り宿屋を後にして飛び出していく……
この負けん気が強く、人の話を全く聞き入れない金髪の青年こそ後の聖帝王カイザー・ナイツクラウンその人である……
同時刻ーーリンドルク国内リオン城内
「ルナ様!ルナ様ーー!あの方は見つかったか!?」
気品漂う上品な燕尾服を身に纏う老執事が誰かを探している様子で、近くにいたメイド服を纏う女性達に声を掛ける
「私が一瞬目を離した隙に……申し訳ありません」
「ハァ……ハァ……、城内の何処にも見当たりません」
「いつもの事ながら私達では手に負えませんね……お茶にしましょう」
老執事は呆れたかの様に深いため息をつき、メイド達に喝を入れる
「お茶などしている場合ではないわ!あの方に何かあったらどう責任を取るつもりだ!?」
メイド長らしき人物は紅茶ををティーカップに注ぎつつ、冷静に意見を返す
「まぁ、あのお方に何かあるなど万に一つもございませんわ。そんなことが起きたとしたら、それはこの世界の滅亡に関わりますもの……」
「それはそうだが、もしもと言うこともある……」
「そんな気遣いばかりしていますと、気疲れして禿げますわよ?さあさあ、お茶にしましょう。捜索はその後にでも」
「禿げ!?」
老執事は諦めたかの様に言われるがままティーカップを口に運ぶのであった
場所は移り国内の隅にある湖ほとりにて、一人の銀髪の若い女性が湖を眺めている
「相変わらずここは美しいし、空気が綺麗ね……長らく外に出ていなかったから気持ちがいいわ」
若い女性はうーんと体を伸ばし、眼前の風景を満喫している……しかし、その空間へ水をさす様に金髪の青年が声を掛けてくる
「先客か、珍しいな……」
「あなたは一体……ここに何の用ですか?」
「ここは俺にとって特別な場所だ……ここに来ると自分の中の無駄な雑念を払える気がするんだ、それに戦いの前には此処で精神統一を行うのだ」
若い女性は一瞬深く思考してから、口を動かし始める
「ふ〜ん、そうなのですね、分かりました。でもここは私にとっても大切な場所なので……ここの景観を損ねるから今は帰って貰えないですか?私がいない時にその雑念を払って戦いとやらに臨んで下さい」
「何だと!何様のつもりだ!?」
「私のことを知らないのですか?」
「俺は世俗には興味がなくてな、俺の興味を引くのは力のみ……残念ながら貴様のことなど知りはしない!」
「変な人ですね……そして、つまらない人……」
「何だと!?力を求めて何がいけない!?」
カイザーは反論するが、相手方は気にも留めず煽る様に話続ける
「いけないとは申しておりません……つまらないと申したのです……」
「それは俺にとって同義だ!撤回しろ!」
「なら、その力とやらで覆してみてはいかがですか?」
「……いいだろう、女だからと言って容赦はしないからな!辞めるなら今の内だぞ!?」
「いいからさっさとして下さい……時間は有限なので」
「減らず口を!」
こうして二人の戦闘の火蓋は切って落とされたーー
「ぐっ!」
カイザーは倒そうになるがギリギリのところで意識を保ち膝を地に着けた
「どうですか?これで分かったでしょう?力なんて誰かを傷つけるだけで虚しいだけ……」
「貴様は一体何者だ?」
「名乗るなら先ずは自分から名乗るのが礼儀なのでは?……やはり、いいです。別に興味も無いですし。私はルナ・オメガリオン……聖界テークヒューサーの聖帝神にして聖帝王の一角を担う者です。今後同じ過ちを犯さない様に世間にも目を向けるべきですね……まぁ、これに懲りたらこんなつまらない事なんて辞めて真に意味のある事を探しなさい」
「聖帝神!?」
「どういう存在か位はあなたにでも分かるのですね。でも、もう会う事はないでしょうがね……」
そう言うとルナは背を向け城のある方角へ歩を進める
「待て!……!?」
彼女を引き止めようとして言葉を放ったがカイザーの意識は限界を迎え視界は闇に包まれていく
これがカイザー・ナイツクラウンとルナ・オメガリオンの最初の出会いであった




