視察2
洞窟を進み、最深部へ到達すると、そこには以前無かった黒い球体が、宙を浮いていた。その中心に生け贄の彼が寝ている。何故、何の力もない彼が平然とあの中で寝ているのか。私は、これ以上近づいたら死んでしまう。あの障気に毒される。そしてその球体を愛でるように優しく撫でている悪魔がいる。そのテリトリーに無断で入ってしまえば、どうなるかわからない。
「よくきたな。オリアスの加護を受けし巫女よ。」
どうやら、私の状態を一発で読まれた。読まれた感覚がないのがこれまた怖さを倍増させる。それから来る震えを押し殺し、問う。
「どのようなご用件で?」
「いや、そんな緊張しなくてよい。用事と言うのは、弟が目覚めたとき、この世界の常識を教えてやって欲しいのだ。」
あなた自覚ないんですね。その緩んだ顔とは裏腹に禍々しいオーラがだだ漏れなのを。緊張したくなくてもしてしまうのに。
「分かりました。ところで、その弟にあなたは何をしているんですか?」
「ん?ああ。色々と我の加護を与えているのだ。弟はスゴいぞ。普通の人間なら、パンクして発狂しているのに、平然と眠っているだけだ。弟を寿命なんかでいなくならせはしない。不慮の事故で死なせることはあってはならない。ずっと、ずっと我の器であり続け、愛しの弟なのだ。」
これは、マズイ。あの指先ひとつで世界を滅ぼす悪魔が、ヤンデレブラコンと化している。生け贄の彼次第で、この世界は滅ぶ。この任務は、重要だ。
「彼が目覚め次第にそうさせて頂きます。」
「そうか。下がっていいぞ。」
「失礼します。」
そう言って私は、洞窟を抜けた。抜けると、オリアス様が私を待っていたようだ。
「君の眼を介して情報を得れたよどうもありがとう。」
「わざわざ、お礼を有り難うございます。」
「いや、君にはお礼をする働きと仕事をえてくれたからね。」
「彼に常識を教えることですか?」
「そうだよ。お陰で、世界が滅ぶリスクが幾分か減った。僕が思うに彼は、兄をキチンと制御してくれるよ。そこでなんだが、君が知識を教え終えたら、僕が経営する学園に呼んでくれないかな?」
「分かりました。」
「すまないね。んじゃぁ、僕は僕で用事が出来た。これで失礼するよ。あぁ加護はそのまんまつけておくから。」
「分かりました。では、次は学園でお会いしましょう。」
「ああ。君達が来るのを待っているよ。」
そう言い残すと一瞬で消えてしまった。さて、まずは、彼を住まわせる環境を整えましょう。