6 誰が為の剣
俺が、オズヴァルトのいた教会の前から泉の方へと向かっていると、エインセールが俺は呼びにやってきた。
「デジレさん、お姫様たちはこっちです。なんだか、眠りについてしまった、いばら姫、ルクレティア様の事で揉めているようなんです」
「いばら姫?」と俺は、エインセールに尋ねる。
「あれ? ご存じ無かったのですか? いばら姫であるルクレティア様は、この世界の均衡を保ち人々を導く『聖女』様なのです。3週間ほど前から『呪い』によっていばらの塔のどこかで眠りについているのです。そして、塔の中で眠っているルクレティア様の御姿を見たものが無く、今必死に騎士が塔の中を探し回っているという状況なんですよ? 塔の中に魔物が現れてしまって、捜索は思うように進んでいないようですが……。デジレさんは、声に呼ばれて、いばらの塔ピリシカフルーフにたどり着いたのですから、いばら姫、ルクレティア様に呼ばれたのだろうと思っていたのですが」とエインセールは、首を傾げている。
「う~ん。呼んでいる人の姿を見たわけじゃないからなぁ。声ははっきりと覚えているのだけど。いばらの塔が、ルクレティア様のいる場所なら、俺はルクレティア様に呼ばれたんだと思う」
「まぁ、いばらの塔にデジレさんは入るわけですから、デジレさんを呼んだ人に会ってみれば分かりますね。ただ、ルクレティア様もいばらの塔のどこかで眠っていらっしゃるということなので、ルクレティア様がデジレさんを呼んだという可能性は高いかもしれません」とエインセールは、俺の視線の前で、両手を腰に当てて胸を張り、自分の名推理を誇るかのように言った。
「まぁ、それが誰だったとしても、俺を呼んだ人の助けになりたい」
「『呼んだ人の助けになりたい』ですかぁ。なんだか、デジレさんは、その人に恋をしているみたいですね」とエインセールが俺をからかう。
「親父が死んでから、ずっと一人で暮らしていたからね。誰かに必要とされるってことが嬉しかったのかも知れない。あと、死んだ親父から、『いつか、お前を本当に必要としてくれる人が現れる。だから、強くならなきゃいけない』って何度も言われていたからね」
「そうだったんですか。それでデジレさんは、あんなにお強いんですね! そろそろ泉に到着しますね」とエインセールは嬉しそうに空を飛び回りながら言った。