5 賢者オズヴァルト
エインセールは、アルトグランツェの町を飛び回り、騎士試験の試験官をやっている人を見つけ出してくれた。その人は、アルトグランツェの町でもっとも立派な建物、教会の前にいるらしい。
「はろはろ〜」
「やあ、エインセール。こんにちは。おや? こちらの方は?」と教会の前に立っている男が言った。赤茶色の短い髪。手には本を持っていて、どうやら教会の前の階段に腰をかけて読書をしていたようだった。
「こっちは、いばらの森で私を助けてくれたデジレさんです。ピリシカフルーフに入りたいから騎士になりたいってことで、オズヴァルトの所に連れてきたんだよ」
「なるほど……。私はオズヴァルト。デジレさん、初めまして」と、オズヴァルトは眼鏡の奥の両目を少しだけ細めて俺を見ていた。口元は笑っているが、目は俺を測っているようだった。
「デジレです。よろしくお願いします」と俺は答える。
「どうして貴方は騎士になりたいのですか? 青年は幻を見、老人は夢を見る。夢や幻は、現実ではありませんよ」とオズヴァルトが口を開いた。
「どうして夢のことを?」と俺は驚いた。エインセールも、俺が夢で呼ばれてこの町、そしていばらの塔に辿り着いたことを彼に話してはいない。
「驚くべき事ではありませんよ。少年が夢見て、騎士になることは珍しいことではありません。私は、騎士試験の試験官をしているので、そういったことが分かるのです」とオズヴァルトは笑顔で言うが、目は笑っていないように俺は思えた。
「騎士は、憧れの職業の一つだもんね」とエインセールが言った。
「俺を呼んでいる人が、ピリシカフルーフにいると思うんです。だから、俺は騎士になりに来ました」俺は、まっすぐにオズヴァルトの目を真っ直ぐに見て答えた。
「そうですか。分かりました。いばらの森でエインセールを助けたとのこと。エインセールを助けられる技量があるのであれば、騎士としてもやっていけるでしょう。騎士になることを認めましょう。それに、今日は良き日です。騎士が仕えるべき姫達がこのアルトグランツェに集っています」とオズヴァルトは言う。
「凄い! 無試験で騎士に合格なんて、さすがデジレさんです。新しい騎士の誕生です!!」とエインセールは嬉しそうに俺とオズヴァルトの周りを飛び回っている。
「エインセール。そんなに慌ててはいけませんよ。騎士は、仕えるべき姫を見つけ、剣を捧げてこそ騎士ですよ」
「そうだね。じゃあ、デジレ。姫さん達の所に行こう。ばいばい〜。オズヴァルト」とエインセールは、町の泉の方へと飛んでしまった。
「オズヴァルトさん、ありがとうございます」と俺は言って、エインセールを追いかける。
「貴方の曇り無き眼で、貴方が真実を見つけ出せることを願っていますよ」とオズヴァルトが呟いたのを、俺は背中で聞いた。