4 いばらの塔ピリシカフルーフ
「この先のいばらの塔ピリシカフルーフですよ。お探しの塔はここですか?」
夢に見た通りの塔だった。塔の外見だけでなく、塔の入口に彫り込まれているレリーフも、夢で見たのと同じだ。塔の外壁に巻き付いている茨の蔓がどのように塔に巻き付いているか。そんな細かいところまで記憶なんかしていないのに、この目の前の塔を見た瞬間、あ、こんな感じに茨が塔に巻き付いていたなとはっきりと思い出せた。
「間違いない。俺が夢で見た塔はこれだよ! この中に、俺を呼んだ人がいる。中へ入ろう」と俺は、興奮して言う。あった。俺が夢で見た塔は必ず存在すると思っていた。そして実際に俺の目の前にその塔はある。
「あの……。残念ながら、私達では中に入ることは出来ません。塔の内部は呪いが濃くて、資格のない者は立ち入り禁止なのです。私達が強引に入ろうとしても、塔の入口の前で見張りをしている衛兵に止められてしまいます」
「夢では、俺に助けを求めた人は、最上階にいるはずなんだ。そう強く感じる。俺は行かなきゃならない。誰にも邪魔はさせないよ」と俺は興奮が冷めぬままに言って、俺は塔の入口へとかまわず進んで行く。
「ちょっと待ってください」とエインセールは俺の肩から飛び出す。そして、俺の前で羽を羽ばたかせながら両手をいっぱいに広げて、俺を進ませまいとしている。そして、「でもそんなことをしたら、犯罪者になってしまいますよ? デジレさんを呼んだ方だって、デジレさんが捕まって牢屋に入ってしまったら悲しむと思います」と言った。
俺は、エインセールの言葉で冷静になった。確かに衛兵を張り倒して、塔の中に侵入するなんてのは無茶だ。俺を呼んでいた人、悲しい声の人が、もっと悲しむのではないか。そう思うと、先ほどまでの興奮が、落胆へと変わっていく。
「エインセール。すまない。少し興奮して短慮になっていたようだ。どうしたら塔の中に入れるのかな?」
「この塔に入れるのは、騎士の人だけです。この塔の中は魔物が住み着くようになってしまって危険ですからね」
「魔物が? あの塔の中に?」と俺は驚く。魔物がいるなら、夢の中で俺を呼んでいる人は、危険な状況にあるのではないだろうか。
「そうなのです。いばら姫が呪いで眠りに入られてから、世界に魔物があふれ、このピリシカフルーフにも魔物が住み着き始めたんです」
「それはいつから?」
「3週間程前からです」とエインセールは答えた。3週間程前というのは、俺が俺を呼ぶ声と、そしてこの塔の夢を見た時と重なる。偶然の一致のようには思えない。俺を呼んでいる人に身の危険が迫って俺を呼んだのではないだろうか。
「俺は、俺を呼んでいる人に会いたい。その人は俺の助けをきっと待っている」と俺は言った。その人が、父の言っていた『お前を本当に必要としてくれる人』なのだろう。
「では、デジレさんが騎士になる必要がありますよ。騎士試験の試験官をやっている人を、なんと私は知っているのです。その人の処へ行きましょう! アルトグランツェにいますよ」とエインセールは言った。
「そこに行こう。俺は、塔に入らなきゃいけない」
俺達は、アルトグランツェへと足早に向かった。