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THE TOWER OF PRINCESS タワーオブプリンセス  作者: 池田瑛
1章 冒険のはじまり
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3 教会の町アルトグランツェ

「デジレさん。着きましたよ。ここが、教会の町アルトグランツェです。そしてその先に、いばらの塔ピリシカフルーフがあるのです」とエインセールが俺に教えてくれた。


「これが町かぁ」と俺は驚く。今まで俺が住んでいた小屋とは比べものにならないくらいの大きな家が建ち並んでいる。そして、その家々には茨が巻き付き、まるで茨の中に町を作ったようだった。


 町の中心には泉が湧いているらしく、その泉が太陽の光を反射して眩しい。泉の周りでは、泉の水を汲んでいる人や、その周りでくつろいでいる人達が見える。のどかな町だと思う。


「あのデジレさん。泉まで私を連れて行っていただけませんか? 体に付いた泥を落としたいのです」とエインセールが言う。


 泉に向かう俺を呼び止め、俺が進もうとする道を塞いだ。「おい。お前。見かけない格好だが、どこから来た?」と全身を金属製の鎧に身を包んだ男が言った。その口調にはどこか緊張感のようなものが感じられる。その男は、右手に切れ味が良さそうな槍を持っている。そしてその槍は、俺の方向を向けてはいないが、いつでも俺に向かってその槍を突き出すことができる体勢のように思えた。、自然と俺も身構える。


「あ! 兵士さん、こんにちは。私です。私。エインセールです。この人は、いばらの森で私を助けてくれた旅人さんです」と俺の肩に乗っかったままのエインセールが言った。


「おお。エインセールか。また、何処かで迷子にでもなっていたのだろう。そうか、エインセールを助けてくれたのか。感謝するよ。この町でゆっくりとしていってくれ」と、先ほど緊張感と打って変わって、友好的な雰囲気に変わり、その男は塞いでいた道を空けた。


「よろしくお願いします」と俺は言って、その男を通って、泉へと向かった。


「ごめんなさいね。今は、『呪い』の影響で、みんなピリピリとしているのです」とエインセールが小声で言った。俺の右肩に乗っている状態だから、小声でもはっきりとエインセールの声はきこえる。


「さっきの人は?」と俺は聞いた。


「え? 町の入口を守る兵士さんですよ? 町に怪しい人が入ったりしないかとか、魔物が進入してこないように見張っている人です」


「あれが兵士なのか」と俺は少し驚く。俺の親父も兵士だったが、姿形が大分違っている。親父はもっと、薄っぺらい感じの姿形だった。親父は俺の外見とも全く似てはいなかったが、それはてっきり親父が元兵士だからなのだと思っていた。兵士はみんな親父の様な姿になるものだと思っていたが、どうやらそれは違ったらしい。


「泉だぁ」と、俺が泉に着くとすぐにエインセールは俺の肩からジャンプして、泉の中に飛び込んだ。妖精って、泳げるのか? 飛び込んで大丈夫だったのか? 溺れていないか? と心配していたとき、水面からエインセールが顔を出した。


「あっはぁ。やっぱり水浴びは最高ですね。生き返りますって、デジレさん! 何を見ているんですか? 乙女の水浴びを凝視するなんて、破廉恥ですよ。破廉恥。あっちを向いていてください」と言って、エインセールは両手で俺めがけて、泉の水をかけ始めた。俺は、たまらないと思い、泉に背を向ける。


 しばらくして頭に突然、重さを感じた。


「うーん。デジレさんの頭の上もなかなか座り心地が良いですが、右肩の方が私は好きですね。決めました。デジルさんの右肩は、私の専用の座席ということにします!」と、エインセールが俺の頭上で宣言をして、俺の右肩にまた座った。


「なにそれ。勝手に決めるなよ」と俺は反論するが、「もう決まった事なのです」とか言ってエインセールは、泉に飛び込んで解けた黄金色の髪を、再び後ろで鼻歌を歌いながら機嫌良さそうに縛っていて、俺の不平を聞いている様子はない。


「そもそも、泉で泥を落とせたんだから、もう羽根で飛び回れるんだろ?」と俺は更に反論する。正直、右肩に座られていると、気になって歩き難い。


「必要があれば飛び回ります。ですが、デジレさんの右肩は、なぜか落ち着くんです。私が右肩に座っていちゃ駄目ですか?」とエインセールは言う。


「別に構わないけど」と俺は答えた。


「ありがとうございます。では、さっぱりしたことですし、いばらの塔ピリシカフルーフに向かいましょう。こっちですよ」と、エインセールは右手に持ったランタンで方向を示すが、さきほどランタンを持ったまま泉に飛び込んだので、ランタンは相変わらず湿っていて、まったく明かりが灯っていない。

 妖精というのは、夏の夜の蛍火のように、進むべき道を示してくれる存在だと親父が教えてくれたことがあったが、エインセールのランタンは湿ったままあかりがともる気配もない。まったく、不思議な妖精に懐かれてしまったなぁと思いながら、俺は歩いた。

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