8 騎士(仮)の誕生
どのお姫様に仕えるべきだろうか。どの姫様もなんだか個性豊かで、それぞれに魅力があるように思える。この人達の騎士になったとしても、退屈とは無縁の騎士生活を送れるのではないだろうか。
しかし、どの姫にも共通して言えることがある。それは、俺を呼んだ人ではないということだ。それははっきりと分かる。夢で聞いた声、そしてそこから伝わる雰囲気。この6人の姫達から発せられる声も雰囲気もそれとは似て非なるものだ。
「俺は、俺を呼んでくれた人の騎士になりたい。その人の助けになりたいんだ」
「デジレ殿を呼んだ人?」とシンデレラさんが俺に尋ねる。
俺は、夢の中で呼ばれたこと。そして、塔の夢を見たこと。声の呼ばれるままに旅をして、いばらの森でエインセールに出会ったこと。教会の町アルトグランツェにたどり着き、いばらの塔ピリシカフルーフが、自分の夢で見た塔であるということを確信したこと。そして、その塔の中に入りたいという気持ちから騎士になろうと思ったこと。それらを俺は、6人の姫達に話をした。
「そういう事情があったのか。いばらの塔から呼ばれたということであれば、お前を呼んだのはルクレティア様の可能性が高いであろう。だが、デジレ殿。彼女の騎士となるためには、デジレ殿が彼女の騎士となることを認めてもらわねばなるまい。それには、まず彼女に目覚めてもらう必要がある。そういう意味では、私達と君の目的は一致している。そう思わないか?」とシンデレラさんが言った。シンデレラさんのサファイアのような瞳は、まっすぐに俺を見つめていた。
確かに、シンデレラさんの言うとおり、ルクレティア様という方が俺を呼んだのであれば、保守派の人たちが主張しているように、ルクレティア様を目覚めさせる方法を探すべきだろう。もしかしたら、俺は、ルクレティア様を目覚めさせるために、呼ばれたのかも知れない。
「くだらない。お姉さまは呪いにかかり、お眠りになられているのよ。誰かを呼べるはずがないじゃない。それに、お姉さまがいばらの塔にいるという保証もないわ。どこの誰があなたを呼んだのかは知らないけれど、あなたを呼んだのは、この世界を覆う呪いによって恐れ慄いている誰かよ。その人を助けたのであれば、私に従いなさい。今、世界は混乱している。実際に助けを求めている人達の為に行動を起こすのが、筋というものなのではないかしら。暢気に居眠りしている人が、誰かを呼ぶ必要なんてないもの」とアンネローゼさんが言った。アンネローゼさんの黒曜石のように輝く瞳が俺を見つめる。
確かに、俺を呼んだ人がルクレティア様だと早合点し過ぎてもいけない。困っている人達を助けていけば、いつか俺を呼んでくれた人にたどり着けるような気がする。いばらの森で助けたエインセールには、オズヴァルトさんやこの6人の姫達と知り合いになったりと、俺の世界は、山奥で生活していたころに比べて一気に広がっている。困っている人を助けていけば、俺を呼んだ人の心当たりがある人に出会えるかもしれない。もしかしたら、俺を呼んだ人に辿りつけるかも知れない。
だけど……。俺はまだ、いばらの塔の中から呼ばれているように感じる。俺は、そこに急がなくてはならない。根拠は無いけれど、そう感じる。
「俺は、いばらの塔の中へ入りたい」と俺は言った。
「デジレさん。その為には騎士にならないといけないのですよ?」とエインセールが俺の右肩に座りながらそう言う。
「それは分かっている。騎士にならないと茨の塔には入れない」と俺は言った。
「デジル殿、それならば私の騎士になればよかろう」
「私の騎士になって、私のために働きなさい」
シンデレラさんとアンネローゼさんが同時に言った。
その時、後ろから声が聞こえた。
「お取り込中の所、申し訳ないです。みなさん、お久しぶりです」
オズヴァルトさんが感情の読めない笑顔でそこに立っていた。
「オズヴァルト、やっほー」とリーゼロッテがオズヴァルトさんの前に進み出て、挨拶をしている。
「アリスつまんなくなっちゃった。もう帰ろうかなぁ――。アリス的に大、大、大嫌いな人が着ちゃった――」と、オズヴァルトさんの顔を見たアリスさんは不機嫌な顔になっていた。明らかに、オズヴァルトに向けた皮肉だった。
「お邪魔して申し訳ないです。実はデジレさんに、騎士の証をお渡しするのをすっかりと忘れていたことに気づきましてね。それを届けに来たのですよ。デジレさん、これをどうぞ。これを身に付けて、仕える騎士を見つけられたらあなたは騎士です」と、薔薇の形を模ったバッチを俺に差し出した。
「ありがとうございます」と俺は言ってそれを胸につける。。
「オズヴァルト殿。ルクレティア様を目覚めさせるにはどうしたら良いのだろうか?」とシンデレラさんが言った。
「そんなことよりも、この世界を覆っている呪いの解除方法を教えなさい」と対抗するようにアンネローゼさんが言った。この二人、本当に仲が悪いのだろう。
「それはお答えできません。私はこの世界の営みを観察し、傍観し、記録し続ける役割を与えられています。この世界に過度の干渉をすることはできません」と、申し訳なく思っているような、笑っているような笑みでオズヴァルトが答えた。
「まったく、役に立たない賢者ね」とアンネローゼさんがため息交じりに言った。
「それで、デジレさんはどの方の騎士になられるのですか?」とオズヴァルトさんは、アンネローゼさんの嫌味を特に気にした様子もなく、俺に話しかけた。
「実は……」と、俺はオズヴァルトさんに話をした。俺を呼んだ人の騎士になりたい、だけど、いばらの塔には姫に認められた騎士しか入れない。俺は、我儘な事を言っているということは分かる。
「そうだったのですね。ただ、塔の中にデジレさんが仕えるべき人がいる可能性は高いが、騎士でなければ塔には入れない。ジレンマですね。分かりました。一時的に、ということでしょうが、仮の騎士として特例を認めましょう。塔が呼んでいると言うのなら、君は塔へ行く運命なのだろう」
「分かりました。ありがとうございます、オズヴァルトさん」とお礼を言った。
「そうだエインセール。しばらく同行して手助けしてあげなさい」
「はわぁ~!! もちろんです!! このエインセールにお任せください!!」
「よろしくな、エインセール。早速、いばらの塔へ向かおう」
「はい。導きのランタンがデジレさんの行きたい場所を指し示しますよ!!」
俺とエインセールは、いばらの塔へと駆け出した。




