中編②
ルイゼルト・アルヴェンは今最高に不機嫌だった。
「機嫌直せって~、なあ」
「………」
「そりゃ愛する幼馴染から引き離しちゃったことは反省してるよ?でもパーティに出ないお前も悪いし」
「………」
「ルイくん聞いてる?」
「………」
「あれ、涙が出てきそうだ」
「………」
「………」
赤髪をオールバックにした男、フェスタは肩をすくめて手に持っていたワイングラスを傾けた。
今、この場にいる人間全て自分達に注目している。
そりゃそうだろう、フェスタ達は世界を救った"英雄"だ。
フェスタは魔眼師として、
目の前の男は聖騎士として、
そしてこちらにやって来る華奢な少女は姫巫女として。
「フェスタ、ルイ!」
「やあ、カノン。疲れてない?」
「うん、大丈夫。そっちこそ大丈夫?」
こてんと首を傾げる彼女はこの2年で初対面の時より、可愛らしく成長していた。
彼女を見る周りの男どもはほんのりと頬を染め見惚れてしまっている。
その視線にフェスタはついイラっとして、彼女の腰に腕を回し外に行こうと促した。
そんな自分の行動に照れる彼女が可愛くて、もうフェスタの目には愛しい君しか目に入っていなかった。
「あ、ルイも外行こう?疲れたでしょ」
「……ん」
俺の言葉には反応しなかったくせにカノンの言葉には反応するのかよ。
ブツブツ文句を言いながらも3人は会場を後にし、裏庭へと向かった。
「わあ、綺麗」
空を見上げれば、そこには美しい月が浮かんでいた。
3人揃って静かにそれを観賞していれば、ルイがポツリと零す。
「…いつ帰れんのこれ」
「んー、まあ今日中は無理だろうねえ」
そう言えばルイは思い切り顔を顰めた。
「私達お城に泊まるんだって、しかも明後日は凱旋パレードあるし、その後もお偉いさん達に挨拶に回らなきゃいけないんでしょ?あと一週間は会えないんじゃない?ルイの愛しい愛しい幼馴染ちゃんに」
「――――」
ガクリと項垂れたルイはもう何も力が入らないようで、カノンにいいように弄られていた。
「いやあ、でもビックリしたよ。帰国した瞬間幼馴染ちゃんの元に行こうとするし。ダメだって言ったら報告会が終わったらパーティほったらかして結局行っちゃうし」
「流石にアレは俺も驚いたわ」
「ダメじゃない、"英雄"の仕事はこなさないと」
「………アイツにもそう言われた」
「ほらね。あー、旅中にルイから幼馴染ちゃんのこと聞かされまくってたから、物凄く親近感を覚えるわ。会ったことも無いのに」
「…そんなに口に出した覚えはない」
すっとぼけたことを口に出す男に、「「(この無自覚男!))」2人は心の中で叫んだ。
それから3人はそよそよと優しく吹く風に身を任せながら、旅の思い出話をゆっくりと話し始めた。
初めて顔合わせをした時の事、美味しかった食事の事、大喧嘩した時の事、夜遅くまで故郷の事を話しあった時の事、辛かったこと、悲しかったこと、嬉しかったことを――…。
主役たちがいないのに気付いた王の従者が3人を呼びに来るまで、語り合った。
「さて、それじゃあ戻るか」
「そうだね、もう少し頑張ろう」
「…ああ」
穏やかな空気のまま、会場に戻る、"はず"だった。
何気なく放ったフェスタの一言がこの空気を壊すまでは。
「そういやあ、幼馴染ちゃん―――結婚するらしいな」
「――――――あ?」
心底侮蔑を込めたような絶対零度の声が魔眼師と姫巫女の耳に届いた。
失敗したとフェスタが悟る前に、聖騎士はこの場から消えていた――…。
残された2人はただ彼の幼馴染の安否を心配するしかなかった。
終わらなかった…。