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フィオナ

 ひとしきり悲鳴をあげた少女は俺から遠ざかるようにベッドの端へ手の力だけで退いて、まるで化物を見るような目で身体を震わせていた。

 どこかわからない場所で目を覚ましたら突如、首のない魔物を担いだ変な男が部屋に転移したら俺でもびっくりするだろうな。しかし、そんな精一杯悲鳴をあげなくてもいいだろうに。

 女店主が悲鳴を聞き、何事かと部屋に訪ねて来たので起きたばかりで混乱してるようです、と適当な理由を述べておいた。変な誤解を生まなければ良いのだが。


「それで、身体は平気なのか?」

 少女はあの悲鳴を聞く限り元気そうだが、一応聞いておく。


「……は、はい。そんな事より今のは……?」

 やはり転移魔法を見られてしまったか。なんてタイミングで起きるんだこの子は。


「転移魔法。」

 バレないならバレないでそれに越した事はないが、バレてしまったのなら仕方ない。別にこの子にバレた所でどうにかなるような物でもないだろう。一応俺は主人な訳だしな。


「……転移魔法?」

 俺の言葉を復唱する少女。


「特定の場所に移動出来る魔法と思えばいい。」


「……え?そんな魔法聞いたことないですが……」

 予想通り転移魔法もこの世界にはないか。て事は転移タクシーなるものを起業すれば手っ取り早く億万長者になれるんじゃないか。邪な考えが一瞬頭に過るが、絶対普通の生活出来ない事が目に見えてる。


「そんな事はどうでもいい。腹は減ってるか?」

 強制的に話を辞めさせる。


「どうでも……。いえ、お腹減ってます。」

 転移魔法より空腹を取ったか。それで良し。


「ちょっと待ってろ。」

 部屋をでて女店主の所へ向かう。


「大丈夫だったのかい?すごい悲鳴だったけど。」


「はい。落ち着きました。それで、御飯を用意と風呂の用意をしてもらいたいのですけど。」


「ああ。了解。少したったら降りてきな。」

 そう言って厨房へ向かう女店主を見送ったあと部屋に戻る。


「さて、お前の名前は?」


「……フィオナです。」

 なんだか距離を感じるな。


「じゃあフィオナ。まずは立ってみろ。」

 そう言うと、フィオナはこいつ頭おかしいんじゃないか、と思ってそうな表情をする。仮にも主人に対してしていい表情ではない。


「えっと……。私は立てません。あの商人も言っていたはずですが。」

 少し棘のある声。馬鹿にしていると思って怒ってるのか?意外とプライド持ってるのな。人間だしそりゃそうか。


「良いから、人間やってみないとわからない事もあるぞ。実は治っているのに治ってないと思い込んでいたりな。身体を支えてやるからやってみろ。」


「……はい。」

 手の力だけでベッド縁に足を垂らす。足に力入るはずなんだが、気付いてないようだ。少女の脇に手を入れ持ち上げる。


「いいか。絶対立てると信じろ。お前が立つ気がないとどうにもならん。しっかり支えてやるから安心しろ。」


「は……い……。」

 不安げな表情。無理もないがやってもらう。

 フィオナの足を床につけ、徐々に手の力を抜く。フィオナは目を瞑り俺の服を強く掴む。


「自分を信じろ。」

 励ましの言葉を掛けてやる。

 すると、どうだろうか。俺は手に力を入れるのをやめている。フィオナは不安定ながらもしっかりと自立している。手を脇から抜き、念のため二の腕辺りに手を添えてやる。


「どうだ?久々に立った感想は?」


「え?」

 力強く目を瞑っていた目を開けると、驚愕の表情になる。必死すぎて気付いてなかったようだ。


「ゆっくり手を離すぞ。」

 支えていた手を退ける。ふらふらと身体を揺らすし、まるで立つことを覚え始めた赤ん坊のように直立する。


「なんで……私……?」


「良かったな。晴れてお前は立てるようになった。次は少し歩いてみろ。」

 フィオナは無言に頷き、顔を引き締ませる。ゆっくり摺り足で一歩、二歩、三歩。

 俺の顔を振り向くなり、驚いているのか喜んでいるのかわからない表情を浮かべる。


「ご主人様が治して下さったのですか?」


「違う。お前は治っていたのにそれに気付かなくて歩けないと思い込んでいたただけだ。」

 例え相手が奴隷であってもこういう事での貸し借りは嫌いだ。下手に恩返しを意識されても困るので、秘密にしておく事にする。実際の目的は実験だったしな。


「……。」

 疑いの視線、さすがに無理がある嘘だったか。


「……ありがとうございます。」

 フィオナは無理矢理納得したように、本当に微かな声でお礼を言った。聞こえなかった事にする。


「じゃあ、まず御飯を食べるか。先に下行ってるからゆっくり歩いてこい。」

 階段には手すりが付いているし大丈夫だろう。再び魔物を担ぎ上げ、部屋を出て下に降りる。


「御飯出来てるよ。」

 テーブルに食事を並べている女店主。香ばしくいい匂いがする。


「ありがとうございます。もうすぐ降りてくると思うんで。あとこれ。」

 ホワイトウルフを見せる。


「すごいね。まるでさっき狩ってきたみたいに新鮮で、しかもこれだけ外傷が無く綺麗に殺しているなんて。 あんたすごい奴だったんだね。」

 今さっき狩ってきたんだもの。なんて言えないので、たまたまです、 と笑って誤魔化しておく。


「じゃあ少し高めで銅貨五枚で買ってやろうかね。」

 よし、一文無しからの脱出。


「ありがとうございます。」

 銅貨五枚を受け取ると、フィオナがゆっくりと降りてくる。


「そこにある御飯食べていいぞ。」

 テーブルに用意された食事を指差し、食べるよう促す。


「え?ご主人様は?」


「俺はもう食べたから大丈夫だ。」


「いえ、しかし……。」


「良いから冷めちゃう前に食え。」


「……はい。」

 命令と受け取ったのか、テーブルに近付く。すると皿を取り床に座って食べようとする。


「おいおい。椅子に座って食べて良いから。」

 この世界では普通の事、俺にとっては異常な事だ。逆に俺にとっては普通の事だが、この世界にとっては異常な事なんだろう。しかし、そんな事はどうでもいい。俺はそれを恥ずかしいと思うから辞めさせる。 周りがどう思おうと知らん。


「良いのですか?」


「良いも悪いも強制だ。」


「わかりました。」

 椅子に座り食べ始めたので、俺もフィオナに対面するように座る。


「旨いか?」


「……とても美味しいです。温かい食べ物を久しぶりに食べました。」


「そりゃ良かった。身体に悪いからあまり一気に詰め込むなよ。ゆっくり食べていい。」


「……はい。」


 その後、綺麗に残さず食べたフィオナを風呂に入れ俺は部屋で待つ事にした。これなら心配無さそうだな。途中、女店主に変な男、と小声で言っていたのは華麗にスルー。


 風呂を出たフィオナが戻ってきたのでベッドに座らせ、俺は椅子に座り話を始める。





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