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 また街に鐘が鳴り響いている。

 宿に着く頃には日が落ちかけていた。女店主に奴隷を買ったことを話す。

 考えてなかったけど、そういえばこれ追加料金取られたら払えないじゃん……、と憂鬱になっていると、女店主は同じ部屋に泊まるなら別に良いと言ってくれた。さすがにご飯は一人前しか出してくれないようだが。

 部屋に入ると、窓から夕焼けが射し込んでいる。少女の顔を照らさないようにベッドにゆっくりと寝かせる。寝息を立て熟睡しているようだ。

 さて、少女が寝ている間にやっておきたい事が一つある。それは回復魔法だ。

 今までは回復魔法が存在しているのかすらわかっていなかったが、奴隷の契約の時に切った指を治癒してみていた。すると指は切った痕跡すら残らずにみるみるうちに治せることが判明。

 しかし、自分が出来ても相手に出来るのかは共限らない。そこでこの少女には悪いが腱を切られ歩けなくなったという足を使って実験しようと思っているわけだ。

 この世界の魔法、医療ではきっとこの少女の足は治せないんだろう。奴隷としての価値を上げるため治せるんだったらとっくに治しているはずだ。まあ、俺も治せる確証はないんだが。

 少女の傷を見るため起こさないようにそーっとうつ伏せにする。どこまで治せるのかわからない。だが、やってみる価値はあるだろう。


 傷跡にそっと手を当て、集中する。本来あるべき脚を想像し、魔力を少女に流し込む。衰えた筋肉の再生、切れてしまったアキレス腱の再生。

 なかなか治らない。というよりも何も起こらない。魔力が足りないのか? 少しずつ段階を踏んで流し込み魔力を調整すると、徐々に傷跡が逆再生されるように本来の皮膚へと戻っていくようになった。

 もう少しだ。そう思い少し出力を上げる。みるみるうちに再生し、傷跡が跡形もなく消え去る。

 ふう。ついでに、身体全体の筋肉の再生をやっておく。よし。 これで普通に生活する分には困らないだろうし栄養ある物を食べてればそのうち元気になるだろう。

 さすがに魔法では栄養まで補完できない。もし出来たらもう食事する必要なくなるだろうしな。

 今回わかった事は筋肉の再生には上限がある事。その人の体格等が関係しているのだと思う。回復魔法というより再生魔法と言ったほうが正しいのかもしれない。なので筋肉ダルマとかにはできない。

 それと、古い傷ほど治りが悪いのか大きい傷が治りにくいのかは今は判断できないが、多分両方関係しているだろう事。まさかこの街まで飛んできた時に使った魔力以上に使うとは思わなかった。

 腕をくっつけたり足をくっつけたりするのはもっと魔力が要りそうだ。機会があればやってみよう。

この少女が起きるまで何をしようか。

 そうだ、金がいるな。どこかで調達しなきゃならない。あの奴隷市場より良い暮らしをさせてやると啖呵をきった矢先、金が無くて御飯食べれません、なんて言えない。あの狼達の死骸が売れれば良いんだが…

 まだ少女は起きる様子もないし、 聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥。これから少女に一時の恥をしまくる訳なんだが、細かいことは気にしない。女店主に売れるか聞く事にする。

 俺は部屋を出て階段を降りると、女店主はテーブルを拭いていた。


「あの、狩った動物ってどっか売れるんですか?」

 テーブルを拭いている手を休めこちらを向く。


「動物? 魔物の事かい? ギルドに持っていけば売れるはずだよ。あんたの住んでた所にはギルドなかったのかい?」

 魔物で合ってたか、念のため動物と言ったんだが。


「はい。自給自足が基本の村でしたから。ギルドは何処にあるんです?」


「鐘を鳴らしてる所だよ」

 あれはギルドで鳴らしてたのか。


「そうなんですか。ありがとうございます」


「今からギルドに行くのかい?」


「ちょっと見てきます。あ、奴隷の子は寝てるんで置いていきます。もし起きてきたらあの子に御飯あげてください」


「あんた、変わってるね。わかったよ」

 奴隷の扱い方が変わってるのか? 御飯くらい普通に食べさせるだろうに。


「では、よろしくお願いします」

 そう言って、再び宿を出る。鐘の音はたしかこっちから鳴ってたかな。


 しばらく鐘の音が聞こえた方へ歩くと、上部に鐘の付いた平屋の大きな建物を見つけた。

 建物に近付くにつれ、鎧を纏った人や、図体の大きい人が多く目につくようになる。皆それぞれ武器を持っていた。

 入口は開放されていたのでそのまま入る。中は建物を分断するように横一列のカウンターが設けられていて、市役所を彷彿とさせる。部署によって分けられているのか一つ一つ看板が掲げてある。


 何処で聞けば良いかさっぱり。やっぱりあの少女が起きるまで止めとけば良かったかな。まあここまで来たんだから取り敢えず適当なカウンターで聞いてみよう。人が並んでいない所に行く。


「すみません。魔物を狩ったんで売りたいんですけどどうすればいいですか?」

 受付嬢に聞く。予想通りの怪訝な顔。


「……ギルドの登録はされてますか?」

 登録しなきゃならんのか?


「いえ、初めて来たんで仕様がよくわからなくて」


「では、まず登録をお願いします。あちらのカウンターですので」

 別のカウンターを指差す受付嬢。

 そこには用紙に何か書いている一人の男。これは駄目だ。登録するには何かを記入しなくてはならないようだ。今の俺には登録出来なさそうだ。


「わかりました。ありがとうございます」

 骨折り損だった。お礼を言って登録カウンターへ向かわず外に出る。あの受付嬢には変に思われそうだがまあいい。 少女に寝てろと言った本人が考えるのもなんだが、早く起きてくれないかな。そんな事を思いながらそのまま宿へ戻る。


「おや。もう戻ってきたのかい」

 カウンターで座っている女店主。


「はい、見に行っただけなんで」


「そうかい。ちなみに売りたい魔物ってなんだい?」


「四足歩行で白い毛の魔物です」

 名前がわからん。犬や狼で伝わらなそうなので形状を言う。


「ホワイトウルフかい?私が買ってやろうか?」


「良いんですか!?」


「そんなに高くは買えないけどね。それで何処にあるんだ?」


「ちょっと待っててください。今持ってきます」

 これはラッキーだ。階段を登り部屋に戻る。久々の転移魔法。村の近くの森の中、ホワイトウルフとやらを隠した場所へ転移する。


 現地に行くとそこはもう惨劇だった。肉の腐った臭いでひどい悪臭を漂わせていた。ハエや蛆が俺が大量に積んだホワイトウルフを蝕んでいる。三日も放置すればそりゃそうか……。仕方ない。今狩れば良いだけの話だ。


 少し探すと一匹見つけたので手早く風魔法で頭を切り落とす。脊髄反射でビクビクと動いた後、ぐったりとなる。血が吹き出終わるのを待ち担ぎ上げ、転移で川辺に移動し切断部分を少し浸ける。

 自負するほどの無駄の無い動き。感覚的に言えば十分程度。これくらいなら女店主には適当に言い訳しておけば良い。新鮮なままの方が高く売れるだろうしな。

 さて戻るか。ホワイトウルフを担ぎ転移魔法を使って宿に戻ると、寝ていたはずの少女がベッドに座っていた。俺を見るなり、目を見開くと


「きゃあああああああ」


 部屋中、いや宿屋中に響く悲鳴をあげた。


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