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奴隷

 だいぶ街の奥まで来た所で、いつの間にやら雰囲気が変わる。歩く人はまばらになり悪臭が立ち込めていた。

 ゴミは散乱、人が横たわっていたり、 体育座りをして自身の前に袋を開いたまま置いている人、金を恵んでくれということなんだろう。

 これはひどい。掃き溜め状態である。人が多く活気があり良い街なんだと思っていたが、内部に入ってしまえばこんなにも治安が不安定なのか。あの領主様とやらはこの状態を野放しにして権力を盾にやりたい放題してるみたいだ。

 この国はこんなのを放置してるのか? それともあのおっさんの権力はそこまで大きいという事なのか。

 さらに奥へ進むと檻がいくつも立ち並ぶ道に着く。中には衰弱し寝ているのか座ってもいられないのか、横たわっている奴隷と思われる人間が何人も入っている。野ざらしで晒し者かよ。なんかこう他にやりようがあるだろう。

 これを見る限り売り物というより人権は一切ない、ただ生かされている見世物、と言ったほうが良いかもしれないな。 言うなれば荒みすぎた動物園状態である。 仮にも売り物なんだからもう少し丁寧に扱って欲しいものだ。

 檻の中を一つ一つ確認しながら歩く。奴隷達は俺の顔を見てはまだ元気がありそうな奴隷は泣きそうな潤んだ瞳で見つめてくる。しかしほとんどは虚ろで全てに絶望したように下を俯いていた。年齢は様々で、幼い子供から年配の人までいる。

 テンプレ的に想像するならば、親に売られた子供、行く宛もなく身売りした人、犯罪者、借金辺りなんじゃないかと思う。この世界でもあながち間違ってはいないだろう。

 檻には何か書いてある看板が立てかけれている。値段だろうか? やはり字が読めないのは痛い。どれくらいかかるかもわからん。くそう、あの神様に今度会う機会があったら文句を言おう。

 頭の中で再びあの神様がドS説が浮上した所で、デ…… ぽっちゃりした男が話しかけてきた。


「奴隷商人をしている者です。お目当ての奴隷はいましたかな?」

 大層なヒゲを生やしていて、身体に合っていない窮屈そうなスーツにネクタイ。

 何処の成金だよ、てかスーツなんてあるのか。微妙に地球に似てるところがあるなこの世界。

 

「いえ、お勧めあります?」


「お勧めですか……。ではあれなんてどうでしょう?」

 一つの檻を指す。中には女の子座りをしている女の子。言うまでもなくガリガリで顔色もよくない。


「あれは、魔法が得意でして一緒にいれば護衛にもなります」

 ヒゲを撫でながらそう言う男。

 この世界の事を教えてもらえるのであれば、正直言えば誰でもいい。いや、男はちょっとお引き取り願おう。


「そうですか、ちなみにおいくらですか?」


「金貨十枚ですね。女、実用性、それに顔も良いので」

 うわたけえ……。軽く予算オーバー。


「うーん。予算が少ないもんで…金貨二枚以内で買える奴隷なんていないですか?」

 一瞬蔑むような目を向けられる。


「……では、こちらに来てください」

 奴隷商人がさらに奥へ歩き出す。ついていくとこちらの商品です、と指を指す。檻の中には金色で腰まで伸びた髪の少女が横たわっていた。他の奴隷と変わず、衰弱している。しかし、足首にある大きな傷が目立っている事が唯一違う所だった。


「金貨二枚だとこれしかありません。顔は良いのですが、足の腱を切られ歩けなくなった奴隷のため格安になっております」

 なるほど。奴隷として使い物にならない訳か。


「少し話しても?」


「ええ。構いません」

 俺は少女の前まで行きしゃがみこむ。


「お前、話せるか?」


「……はい」

 弱々しく微かな声。声を発するのもつらそうだ。


「一つだけ質問に答えてくれ。変なことを聞くようだが、文字は読めるか?」


「……はい」

 よし、合格。自分で言うのもなんだがだいぶ適当である。

 立ち上がり奴隷商人に買うことを伝える。


「……本当によろしいのですか? うちとしては大変喜ばしい事なんですが、私個人の意見としてお客様の為に言いますがきっと使い物になりませんよ?」


「良いんです。金貨二枚ですよね?」


「はい。」

 袋から金貨二枚取りだし手渡す。これで一文無しだ。何かで稼がなくてはならなくなった。


「毎度ありがとうございます」

 そう言うと、鍵を取りだし檻を開ける。


「お客様、奴隷は初めてでいらっしゃいますね?」


「はい」


「では、簡単に説明を。こちらに付いているのは服従の首輪です。主人と契約し、逆らうと首が締まる設計になっております。死ぬことはありませんが一日三回逆らうと気絶するほど締まります。それから、奴隷には最低限の人権が保証されています。知っているかと思われますが、主人でも第三者でも奴隷を傷付けたり殺してしまうと罰せられるのでご注意下さい。あと、奴隷を開放する場合のお話もしておきます。首輪は主人が外そうと思えば簡単に外れますが、主人以外には絶対に外せないようになっています」

 なんとなく想像していたが、やはりそういう首輪か。人権、最低限過ぎるだろう!

ていう事は見た目通りここの奴隷は生かされてるだけなんだな。死ぬことは許されず、生きることは苦痛しかないだろう。


「契約をするためには主人の血を首輪に付けるだけですのでこれをどうぞ」

 男は懐からナイフを取りだし俺に渡す。

 指を少しだけ切り、少女の首輪に押し付ける。これといって実感はない。


「これで契約完了です。どうやってお持ち帰りになりますか?」

 これで良いのか。やけに簡単だな。


「おぶっていきます」


「そうですか。では、今後ともヘールリッシュ奴隷商会をよろしくお願い致します」

 深く頭を下げ何処かへ歩いていってしまう。

 さて……。


「おい、起き上がれるか?」

 少女に話しかけると、手を使いゆっくりと上体を起こす。


「あまり乗り心地は良くないだろうが、乗れ」

 しゃがみ、背中を向けると首に手が回る。


「ちゃんと捕まってろよ」

 少女が落ちないように両手で押さえる。

 よいしょ! って軽っ! 勢いをつけたため危うく前に倒れ込みそうになる。身体強化せずともこれである。予想以上に軽いな。見える腕は骨と皮しかない。これはリハビリが必要だな。宿へと戻るべく歩き出す。


 帰りの道中は視線を集めた。当たり前か。さっさと戻らないとな、と思い少し早足になる。

 すると、おぶっている少女の声が微かに聞こえる。


「本当に……よろしいのでしょうか……?」


「なにがだ?」


「私はあの商人が言うように使い物になりません……」


「いや、お前は俺にとって重要だ。」

 それはもう死活問題レベルに。


「私が御主人様の役に立てるとは到底思えません……」


「お前は嫌でも俺の役に立つぞ。あそこよりは良い暮らしも保証してやる。お前はなにも気にしなくて良いから寝てろ」


「…っ…はい」

 そう返事をすると、少女は抑えるように嗚咽を漏らす。より注目されるから泣くのはやめてくれ。そう思うが、気付かないふりをして何も言わないことにした。


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