街
格好付けて暗いうちに村を出てしまった俺は後悔していた。
村人Aが教えてくれた通り南に歩いて向かっている最中だが、また森の中を彷徨っている。森というより山と言ったほうが正しいだろう。
急な上り坂、木々が月明かりを遮断しているため火魔法を灯り代わりにしてひたすら登る。これ、魔物に襲われたらやばいんじゃないか?
夜行性の魔物も中にはいる可能性もある。警戒しながら歩かないといけないし、暗すぎるため先がほとんど見えずどれくらい歩けば良いかもわからないのも精神的に参る。
身体強化してるため疲れはほとんどないが、走れないほどの足元がおぼつかないさ。今思いっきり走ったら木と正面衝突するか、枝に足を取られて転ぶかの二択だろう。
街への道くらい整備しとけよ!どんだけ隔離された村なんだ!と嘆く。
風魔法を使って飛んで行く事を真剣に悩む。
こんな暗いところに人がいるとは思えないが、万が一人がいて発見されてしまったら、フライングヒューマノイドやら謎の飛行物体として祭り上げられてしまうかもしれない。
この世界の人間が飛ぶことが出来るとしたらそんな事にはならないだろうが盗賊退治に使った魔法で驚いていた村人Aを見る限り、より魔力を消費するこの飛翔魔法が誰でも出来るとは到底思えない。
いや、下手したら誰にも出来ないかもしれないレベルのゴリ押しに近い荒業である。やるなら早くやっておかないと日が昇ってしまえば今よりも発見される可能性がぐんと上がってしまう。
「あーもういいか」
別に都市伝説化した所で俺だとバレることはないはず。月明かりで逆光になるし、高く飛び上がれば見つかりづらい。よし、そうと決まればさっさと抜けてしまおう。
身体全体に魔力を行き渡らせる。風を下から上へ吹き抜けるようなイメージ。簡単に言うと身体を超強風で浮き上がらせる形。
髪の毛が浮き、スーパーサ○ヤ人風になる。服が荒れ狂う。寒いんだよなーこれ。ぐんぐんと高度を上げ丁度登っていた山よりも高い高さになる。今度は上からも強風を発生させ自分の身体に叩きつけるように調整し停滞させる。
ここまで飛んだのは初めてなので少し怖い。失敗して落ちたらと思うと足がすくみそうになる。
風の抵抗を考え、うつ伏せ状態になるよう調整。さて全速前進!
足元に強風を叩きつけ、前進する。前方からの風、身体への風をブロックしないと寒いし息がしづらいため風の盾を張っておく。
前以外全方向に当てている風を常に調整しながら進まなくてはならないので少し大変だ。何キロ位出てるんだろう、相当な速さで飛んでいる。山を超えるとまたしばらく森が続く。
どれくらい飛ばなくてはならないのか……。暗くて先はよく見えない。
一時間ほど経った頃、途中休憩を挟みひたすらに暗闇の中真っ直ぐ飛んでいる。調整にも慣れ、おもいっきり速度出していた。
方向を間違えてたらどうしようとか車かバイクでもあれば良いのにとかそんなこの世界にはオーバーテクノロジーな物が欲しくなっていた頃。
遥か向こうに微かに明かりが見えた。安堵し、その明かりへ一直線に進む。
明かりは街の明かりだった。あの村とは違い夜中でも明かりはついている。街のだいぶ手前で速度を落とし、周辺を確認、地面に足をつく。
さすがに疲れた。肉体的にではなく精神的に。早く街で宿をとって寝たい。街まではもう目前だ。さっさと行こう。再び歩き出す。
途中、整備された道に出る。道なき森ばかり歩いていたから新鮮に感じると共にこの世界の人間は出来る奴等だったと感動する。
整備された道は街に繋がっているようで道に迷わなくて済みそうだ。街の反対側は何があるんだろう?
やっとこさ街の着く。
定番である検問はなく、普通に入れた。一安心。早速宿を探そう。夜中でもまばらに人が歩いていた。
建物は簡素な木造であることには変わりないが、昼間は露店でもやっているんだろう屋台がいくつも並んでいる。一つ一つには看板が掲げられているが読めないため、何が売っているかはわからない。道には等間隔に何かの灯りが灯っていて明るく照らしている。ロウソクではなさそうだがなんだろうか。
そんなことは置いといてキョロキョロと周りを宿っぽいのを探し奥へ進む。んーわからん。
やはり歩いている人に聞くしかないか。丁度すれ違おうとしていた顔を隠すようにフードを被る怪しい人に声を掛ける。
「あのー、すみません。この街に初めて来た者なのですが……。この辺でおすすめの宿ってないですか?」
微笑み、出来るだけ丁寧な言葉で怪しい者じゃないですよアピールする。完璧だ。どこからどう見ても弱々しい好青年に見えるはずだ。
「は、はあ?」
ん? 聞こえなかったのか? てか女の人だったか。
「えーと、ですから、おすすめの宿をさがしてるんですけども……」
これで確実に聞こえただろう。
「あ、ああ。二本先の路地を左に行ったところに飯の旨い宿屋がある。」
それだけ言うと顔をひきつらせたまま急いでいるのかそそくさとどこかへ行ってしまう。
なんなんだ? 一体。見た目通り怪しい奴だ。
疑問は増えるばかりだが今は寝たい。
女に言われた通り二本目の路地を曲がるが、いくつもの建物が立ち並んでいるためどこが宿だかわからない。
くそう、案内してもらいたかった。うろうろとしていると、若い女の人に声を掛けられる。
「ちょっとあんた。こんな夜中にうちの前ウロウロして何の用だい」
傍から見れば確かに怪しい人ですわな。
「すみません。この辺に宿があるって聞いたんですけど……」
「この看板が見えないのかい?」
女が指を指す先に何か書いてある看板。これ宿の名前だったのか。しかも目の前。
うちの前って言ってたしこの人が経営者なのか?
「あ、全然気付きませんでしたー。ありがとうございます」
「どこ見て歩いてんだい……」
呆れ顔の女の人。そんな顔しないでくれ。
「で、うちに泊まりたいのかい?」
「はい」
「金は持ってるんだろうね?」
やばい。完全に不審者扱いされてる。
「持ってますよ。ほら」
村人Aから貰った袋の中を見せる。どれほどの価値があるかわからないが、さすがに一泊くらいはできるだろう。
「おいおい。貧乏そうな顔してる割には結構持ってるんだね。入りな」
余計なお世話だ。
中に入ると暖房がかかっているように暖かく丁度良い温度。蝋燭が何本か立てられているだけで薄暗い。カウンターで女の人と話す。
「で、何泊するんだい?」
どうしようか。どれくらい泊まれるかもわからない。俺なりに苦労してせっかく大きな街に来たことだし色々見て回らないと損だろう。
「えっと、一泊いくらになります?」
「朝夕食事付きで銅貨5枚だ」
袋の中をチェックする。中は金色の硬貨が二、三枚と銀色の硬貨が五枚ほど入っている。
「計算が苦手なんで……、これで何泊出来ます」
銀色の硬貨を三枚出す。これで足りなかったら凄い気まずい事になりそうだがイチかバチか賭けるしかない。
「銀貨三枚なら六泊だね」
「じゃあそれで」
やはり予想通り銅貨、銀貨、金貨の順に価値が上がるっぽいな。単純計算で銅貨十枚で銀貨一枚相当か?
「毎度。部屋は二階に上がって突き当たりだから。朝起きたら朝食作ってあげるから下に降りておいで」
「はい。ありがとうございます」
そのまま二階に上がり部屋に入る。大きさは六畳ほど。ベッドが置いてあるだけ。鍵は内側から木を引っ掛けるだけで、少し不安だな。
まあこんなものか。文句を言っても仕方ない。さっさと寝ることにする。
ベッドに入ると疲れからすぐに寝てしまった。