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説得

 

 予想が的中してしまった。

 気絶しているのかピクリとも動かないフィオナを担ぐフィリオを見つける。 周りには先程遭遇した複数のゴブリンの死体。


「おい。フィオナに何をしている」


「あ、お兄さん。ついてこないでって言ったのに。……お姉ちゃんが強情だから、気絶させちゃった」

 俺の声に振り返り、気味の悪い笑みを浮かべ答える。

 やはり、標的を俺ではなく、フィオナ本人に変えたか。


「最初からこれが目的だったのか?」


「まあね。でもあなたに興味を持ったのは本当だよ。お姉ちゃんが認めた人だからね。でも、全然駄目。あなたには全く魅力を感じないし、何が良いのかわからない。あれじゃあ、お金稼ぐのだってお姉ちゃんいないとあなたは何も出来ないじゃない。私、ずっとお姉ちゃんを探してたんだよ? お母様やお父様に聞いても知らないの一点張りだから、必死に根回ししてやっと見つけてみれば、あなたに騙されて、いろいろ勘違いしてるし」


「俺がフィオナを騙している?」


「そう。さっきお姉ちゃんがマコト様は優しくて凄い人だって言ってたよ。どう見たらあなたが凄い人なの? 騙されてる他にないじゃない。どうやっているかはわからないけど、お姉ちゃんはあなたの事を凄く大事に思っちゃってる。あなたはお姉ちゃんのそんな気持ちを利用してるだけなんでしょ?」


「利用しているのは事実だが、それはフィオナも重々承知の上だ」

 唯一、俺の事情を知っているフィオナ。奴隷として買った時、それはしっかりと話してある。


「何? お姉ちゃんがあなたに利用されたいと思ってるって言いたいわけ?」


「そこまでは知らん。しかし、フィオナが選んでやっている事だ。俺が強制しているわけではない」


「……ふうん。もしかしたら今はそうかもしれないけど、目を覚まさせてあげなきゃね。あなたみたいな人に、お姉ちゃんを預けておくなんて私が許せない」


 フィオナ当人は気絶してるし、このまま見過ごす訳にもいかない。……仕方ない。俺がどうにか説得するしかないな。


「いや、フィオナは返してもらう。俺にとって必要な存在だ。お前に俺達の事をとやかく言われる筋合いはない。それにフィオナがここにいるのも、お前から離れていったのもお前らの両親が原因だろう。文句を言うべき相手が違うんじゃないか? そんなにフィオナが好きならお前も奴隷にでもなって強引にでも一緒にいれば良かっただろう」

 喧嘩を売っているようにしか聞こえない言葉。我ながら非道な言葉だと思う。

 しかし、そんなにまでしてフィオナを求めるならばもっと早い段階でいろいろとやりようがあったはず。


「……あなたに言われなくてもそうしたかった! でもどうしようも出来なかった! あなたにはわからないよ! 私の気持ちなんて!」


「ああ、わからんね。お前も俺やフィオナの気持ちはわからんだろう。だが、これだけは俺にもわかる。お前のやり方はフィオナの気持ちを踏みにじる行為だ。わかっているのか?」


「……どこがよ? 私はお姉ちゃんを幸せにしたい一心でやっているんだよ?」


「勘違いも甚だしいな。そんなのお前の独り善がりじゃないか。自己満足であり、フィオナからすれば余計なお世話ってやつだ。昨日、しっかりと断っていただろう」


「そんなことない! 普通、家族と一緒にいた方が幸せになれるでしょう? 昔みたいに戻れるかもしれない。私はそれだけの力を手に入れた!」


「普通、家族が子を捨てるわけないだろうが。お前が世間知らずなだけだ。それに家族だからと言っても所詮は他人だ。必ずしも幸せになれるなんて事はないし、今フィオナは家に戻りたいとは思っていない。しかもだ。お前の話じゃ、両親はフィオナに一切の関心を持っていないじゃないか。気にかけているならまだしも、そんな所にフィオナを連れていく気か?」


「弱いあなたに言われたくない! お姉ちゃんを守れるのは私だけ! だから、私がどうにかしてみせる!」

 頭を抱え、大きく首を振り俺の言葉を拒絶し、感情が剥き出しになっている。


「殴り合いの強さが全てじゃないだろうが。上手くいく保障がどこにある? 仮に力でねじ伏せたとして、本当にお前の言う昔とやらに戻れるのか? フィオナが悲しむ事になるとなぜわからん。フィオナの態度を見て気付かないのかお前は。自分の思い通りにならないからって感情的になって、都合の悪い言葉に耳を塞いでしまうお前が一丁前に、フィオナを幸せにさせる? 寝言言ってるんじゃねえ。お前に守られてフィオナが喜ぶと思っているのか? 仮に、上手くいったとしても作られた居場所は嫌だと言っていただろう。昔は知らんが、少なくとも今のフィオナは自分の力で歩もうとしているぞ? わからず屋のガキはさっさと家に帰ってお前の大好きなお父様とお母様に良い顔でもしてろ」

 失敗すれば、二人同時に傷付く事になるだろう。

 フィオナが家に戻れば昔に戻れると信じきっている。他人である俺が見ても、戻れる可能性なんてないように思えるのに。

 フィオナはフィリオの幸せを願っている。きっとそんな結果は許せないだろう。


「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい! 私がどれほど苦労してきたか知らない癖に!」


「お前も苦労してきたかもしれない。だが、お前にフィオナの苦労がわかるのか? お前の親に捨てられ、奴隷になったフィオナの何がわかるって言うんだ? 今はお前と環境や立場が違う。それくらいわかれ」


「お姉ちゃんのことは私が一番知ってる! 偉そうに話してるあなたは、お姉ちゃんを幸せに出来るって言うの!?」


「幸せは他人に与えてもらう物じゃない。幸せは自分で掴むものだ。お前のやり方は、はっきり言って押し付けがましいんだよ」


「……どんなに求めようとも、どんなに努力していても、掴めない人もいるんだよ……。だから私は……!」

 辛そうな表情。小さな声で感情を抑えるように呟き、少しの間を置き考える素振りを見せた後、冷静になったフィリオが話を続けた。


「……私には戦いしかない。そう育てられてきた。そういえば、お姉ちゃんがもう一つ可笑しな事言ってたなー? お姉ちゃん任せでゴブリンすらまともに倒せないお兄さんが私より強いとかどうとか。笑っちゃうよね。やっぱり騙されてるんだよ。私が騙されてるって事を証明してあげるね? お姉ちゃん」

 フィオナに語りかけるようにそう言うとフィオナをゆっくりと優しく地面に寝かせ、立ち上がるとフィリオは虚ろな目で俺を見据える。


 駄目か。自分の世界からどうも抜け出せないようだ。さすがは姉妹と言ったところか。強情さは引き継いでいるようだ。フィオナとは強情さのレベルが違うが。

 自分の考えに真っ直ぐすぎる。他人の話に耳を傾けない。この件に関して言えば、まるで、やらなければならない義務であると言わんばかり。無理矢理押し通そうとしている。

 フィオナが好きなのはわかる。しかし、ここまでいくと強情の一言では済まされない何かが、フィリオにはあるんじゃないかと思うほどに異常だ。


「お姉ちゃんがあなたに騙されてないと証明して見せて? 私を倒して、お姉ちゃんに幸せを掴ませてみて? この場合、お姉ちゃんにとって私は悪役で、あなたが正義って所かな? あなたの言ってる事が本当だとしたら、ここで私が勝ったらお姉ちゃんは不幸になっちゃうのかな? どうする? お兄さん?」


 言い終わると同時に、表情を引き締めたと思うと異常な速さで突進するようにこちらに走ってくる。


「結局こうなるのかよ! このわからず屋が!」

 フィオナめ、余計な事を言いやがって。どんどん面倒な事になっていってるぞ……。いや、俺のせいでもあるか。

 まあ、どちらにせよ今はこの危機をどうにか回避しなくては。



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