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弱者

 

 俺の言葉をきっかけに、会話がなくなってしまった。やはり地雷を踏んでしまったらしく、うるさいくらいだったフィリオは不機嫌そうな表情で無言。

 それを察し、フィオナは気まずそうに俺とフィリオをチラチラと交互に見ていたが、その空気に耐えきれなくなったのか口を開く。


「さ、さて、マコト様! いつも通り一緒に頑張りましょう!」

 拳を握り、気合いを入れている。空元気なのは一目瞭然。もう少し上手く演技が出来ないのかと思えるほどに棒読みである。

 フィオナなりのフォローなんだろうが、俺が気付いてフィリオが気付かないわけがない。逆効果になりそうだ。 無視するわけにもいかず、簡潔に答える。


「そうだな」


 フィリオを見るが、俺達の会話に反応を示す様子はない。戦いを見ればわかるって所だろう。

 結局、フィリオの態度、フィオナの言葉により、俺もゴブリンを倒すのに参加しなければならなくなった。ゴブリン退治くらいなら俺が参加する必要ないと思うんだが、少しは働く意思を見せておかなければならない。

 俺がフィリオに言ってしまった後方支援。正直言って、出来る気がしない。あらかじめ、段取りを決めてる訳でもないし、連携等取ったことがない。

 まずなにより、一人で戦うならまだしも、こことは違う平和な地球生まれの戦闘経験がない俺がどう後方支援すれば良い? フィオナの動きを見極め、攻撃のタイミングを図るなんてのは到底無理だ。魔法で瞬殺とはいかない現状。

 火魔法はすぐそこに木々が生えているここでは使えない。

 地魔法は見たことがないし、雷魔法はこの世界にはないし、水魔法は、私兵は置いといて、水の剣でしか見たことがない。

 風魔法を使って、ゴブリンの頭を吹き飛ばしてしまったらどうする。ヘールリッシュ殺害の調査をするフィリオには出来るだけ見せたくない。

 フィオナ頼りじゃなく、俺一人で戦えるという事を見せなければフィリオは納得しないだろうが、接近戦なんてすれば戦闘のプロみたいな奴が見てるんだ。ボロが出るのは目に見えてるし、ゴブリン相手に苦戦するのは見せられない。

 身体強化、魔法共に、手加減しようにもどのくらい手加減すれば良いのかわからないのはまずい。

 全てに問題がありすぎる。


 だが、俺が招いてしまった事だ。こうなってしまったのでは仕方ない。この世界に来た時に練習台に なってもらったホワイトウルフを基準にやるしかない。

 俺が出来る最大限の後方支援はするが、あとはフィオナに上手くやってもらう。

 溜め息が出る。もうこのままゴブリンが現れなくて良いのに、とさえ思い始めた頃。


 俺の想いは届かず、二体のゴブリンを発見する。ゴブリンは木の棒を構え警戒態勢。

 俺がフィオナを見ると、フィオナは小さく頷く。

 取り敢えず俺が牽制をしておくか。

 本当に一摘まみ程度の魔力量を込めた二つの風の刃を打ち出す。ホワイトウルフならば、皮膚に裂け目が付く程度。

 その後をついていくようにフィオナは走り出す。


 足狙いの風魔法。一直線にゴブリンの足に直撃する。が、すぐに風は分散。ゴブリンの脛辺りに擦り傷程度の傷しかつかなかった。ゴブリンに効いた様子は全くない。何かがぶつかったくらいだったんだろう。少々手加減しすぎたが、注意は逸れた。

 風魔法についていっていたフィオナはそのまま空中に飛躍し、ゴブリンの顔面に飛び膝蹴りをお見舞いする。メキメキと音をたて、ゴブリンは地面を滑るように吹き飛ぶ。華麗に着地したフィオナは二体目のゴブリンを仕留めにかかる。

 予想外の攻撃に茫然と立ち尽くしていたゴブリンの腕を取り、背負い投げ。

 受け身を取れないゴブリンは思いっきり地面に叩きつけられた衝撃に呻き声をあげる。フィオナはゴブリンの喉元を力一杯踏みつけると、そのまま息絶える。


 しくじった。まさか、ゴブリンの皮膚がホワイトウルフより硬いとは思ってなかった。

 これでフィリオの俺への印象はもっと悪い方向へ向いてしまったかもしれない。

 フィリオを横目で見る。


「お姉ちゃん、昔と変わらないね」

 終わりを見届けたフィリオが懐かしむように話す。


「そうかな」


「うん。良かった。お姉ちゃんは変わらなくて」

 心底安堵したような表情を見せるフィリオ。

 意味深な言葉にフィオナは言葉を返す。


「フィリオは変わったの?」


「……どうだろうね。わかんない」

 今度は釈然としない言葉。


「……何か、あったの?」


「ううん。なんでもないよ! それより、次行こ!」


「う、うん」

 何かがあったとしか思えないフィリオの態度から一辺し、明るく振る舞う。困惑しながらもフィオナ頷く。

 フィリオがこうなってしまったのも、それが原因なのかもしれない。ただフィオナが好きだからって訳でもないのか?

 勿論フィオナもそれに気付いている。だがフィオナはそれ以上追求しなかった。

 もし原因があったとして、その原因が分かれば何かしら対応が出来るかもしれないが、昔の二人を知らないし、二人の家の事情もわからない。そんな俺が首を突っ込むのは野暮ってものだろう。フィオナがこれ以上聞かないのであれば仕方ない。


「それにしてもお兄さんの魔法、何あれ。もう少しなんとかならないの? 弱すぎ」

 やはりきたか。


「言っただろう。俺は後方支援だと。今のは気を逸らすのが目的だったしな」

 もっともらしい言葉を言うが、見栄を張っているようにも聞こえる。


「それにしても、あれはないね。もしかして、ゴブリン程度も倒せないの?」

 蔑むような目に、見下すような言葉。俺への印象は堕ちるところまで堕ちたらしい。


「マコト様がゴブリンを倒せない訳ないじゃない。これは私を思ってやってくれてるの。これが私達のやり方なの」

 聞いていたフィオナが口を挟む。


「意味わかんない。倒せるなら倒せば良いじゃん。なんで、お姉ちゃんばっか負担かかるやり方してんの?」

 端から見ればそう見える。いや、実際そうだが。特にフィリオから見れば気分が良いものではないだろう。


「そう私が御願いしたからよ。それでも、後方支援してくれるのは何もしないのは忍びないというマコト様の気遣い」

 フォローのためとは言え、持ち上げられ過ぎるのはさすがに気持ち悪いな。


「報酬はどうしてるの? まさかお姉ちゃんがお兄さんに貢いでる訳?」


「言ったでしょう。私はマコト様に遣えているの。私がマコト様のために働くのは当たり前の事よ」


「あ、そう。もういい。……あ、ゴブリン発見!」

 突然指を指すフィリオ。指し示す先は、木々しかなく、目を凝らしても俺にはゴブリンの姿は確認出来ない。


「本当にいます」

 俺が見つけていない事に気付いたようで、フィオナが教えてくれる。


「お姉ちゃん行こ!お兄さんは待ってて!」

 フィリオはフィオナの手をとり、無理矢理引っ張る。フィオナは一瞬だけ振り向き俺を見るが、引っ張られるがまま連れていかれてしまった。


 一人、置いてきぼりにされ、立ち尽くす。

 俺は足手纏いになるからいらないってか?


 このまま待ってて良いんだろうか。

 フィリオとフィオナを二人きりにして本当に良いのか?

 どの程度力の差があるかはわからないが、本人が言うからにはフィリオの方が強い事は明白だ。もし標的を俺からフィオナに変えていたら?

 俺を狙えばフィオナは守りに入る。その状態のフィオナが一瞬でやられるとは到底思えない。

 ならば、フィオナと二人きりになった方が隙を作りやすく思える。気絶でもさせ、強引に俺から離す。 もし、この予想が当たっているなら近付いてきたのはやはり、油断させるのが目的だった訳だ。

 確かに無理矢理自分の近くに置くなら、俺を抑え込むよりフィオナ本人を抑え込んだ方が手っ取り早い。家に連れてかれてからでは後の祭。フィオナはフィリオの監視下で、家から出れなくなってしまうかもしれない。

 もし後先考えなくて良く、やらねばならない状態ならば俺でもそうする。


 しかし、フィオナが敵対する可能性がある事はわかってるんだよな……?

 どう丸め込むつもりかはわからないが、昨日のフィリオみたいに形振り構わない昨日のような状態になったら、やっても不思議ではない。


 俺を弱いと思っているフィリオは、きっと俺がフィオナを取り返しに来るとは思っていないだろう。もし来たとしてもどうにでも出来ると考えているはずだ。


 この予想が当たらない事を願いながら二人が向かった方へ俺は歩き出す。




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