盗賊退治
俺専用の寝床を与えられそこで眠った。早朝、目が覚め屋敷の外に出て身体を伸ばす。
やはり辺境の村と言ってただけあって貧乏な村なんだろう。あってもなくてもあまり関係なさそうなくらい布団がぺちゃんこだったために体が痛い。
村人は皆、朝食を作ったり布団を干したりしてせっせと動き回っている。ご苦労なこった。
これだけ見ると平和そうな村だ。盗賊さえいなければこれが普通の日常なんだろう。
何かに怯え続けるのは誰だって疲れる。村人は肉体的にも精神的にも疲れを見せ、初めて来た俺にさえ目に見えてわかる。
力無いものは淘汰される。弱肉強食、それが世の常だ。地球でもこの世界でもそれは変わらない。俺と同じ人間なんだなと思う。
しかし、俺は善意でこの村を助けようと思わない。必要な物は利用し、見返りを求める。恩着せがましいと思われても構わない。
それがバランスを保つということでもあると思う。誰だって見返りなしで善意のみで動く人はいないだろう。
俺の場合そんなものには興味がないが、どこぞの勇者だって心の中では讃賞の言葉を心地よく思っているはずだ。
そんなどうでも良いことを考えていると、後ろから声が掛かる。
「起きたか。朝飯が出来た」
振り向くと昨日の村人Aが立っている。一度頷き、ついて行く。屋敷に戻り昨日と同じところで朝飯を食べる。
「で、どうすりゃいいんだ?」
村人Aに問う。
「昨日言った通り森に拠点がある。今日そこに案内する」
「了解」
すぐに終わるといいんだがな。この村にいつまでも滞在するつもりはない。これ以上に面倒事は御免だ。
朝飯を食べ終わり横になりくつろぐ。娯楽がないのは地球でも同じだったのでボーッとするのは苦手ではない。むしろ好きだ。
少し経つと村人Aがどこからか戻ってくる。その顔が険しいのを察するにもう行くのだろう。それに応じる様に立ち上がる。
「……」
村人Aは俺の前に立ち何も言わない。盗賊退治を頼んだ本人が今更、俺に気を使ってるのか。
「さっさと行こう。俺も早く終わらせたいからな」
屋敷の出口に向かう。すれ違いざま村人Aの肩を軽く叩く。
「……ああ」
村人Aと盗賊の拠点があるという森にたどり着く。やはり俺が最初に入った森だったか。半日以上歩かされた森。もし一から探すのとなったら相当苦労するだろうな。
終始無言の村人Aは森に入っていく。
「どんだけ思いつめてるんだ」
俺はその空気に耐えられず声を掛ける。
「……そりゃお前、村の存続とはいえ命を張ってくれって言ってるものだからな……」
初対面の時の気迫はどこへいったやら、しおらしい村人A。
「だから、言っただろ。死んだらそれまでだったって事さ。死ぬ気なんて毛頭ないけどな」
「一体その自信はどこから出てくるんだ」
無理やり笑っているように見える。何故俺が元気付けなければならないんだ。まったく面倒な奴だ。
それよりも俺が失敗した時の事を考えたほうが利口だと思うんだが。そんな事口が裂けても言えない。
何を目印にしているのかわからないが左行ったり右行ったりと歩く。すると岩でできた洞窟のような場所が見えてくる。
少し離れた所で立ち止まり姿勢を低くする。
「あそこが拠点だ」
村人Aは小声で話す。この馬鹿でかい森に雨風防げる洞窟。盗賊のような輩が拠点にするにはなかなか立地が良いように思う。
しかし、この辺りに村以外何かがあるのか? まあそんな事どうでもいいか。
洞窟の前には見張りをしているのか二人立っている。
「全員あの中にいるのか? 何人か外にいたらどうするんだ?」
「全員いるとは限らないが大半は寝てるだろう。夜の方がアイツ等にとって好都合だからな。」
「そうか。ちなみにあそこ以外の入口はあるか?」
「いや、あそこだけのはずだ」
「じゃあ終わらせるか」
さて、向こうがこちらに気付いていないうちにさっさと終わらしてしまおう。
「は? ちょっとま……」
村人Aが何か喚いているが無視する。
風を集め刃を二つイメージし見張りに打ち出す。風は視認しづらく、威力は人間より太い木を一瞬で切り落とす。木をそのまま通過したような綺麗な切り口。これだけの威力があれば人間など一瞬だろう。
予想通り、見張りの二人は一瞬で身体が二つに分離する。魔法に気付いたのか一瞬視線をこちらに向ける素振りをするが遅かった。
綺麗に切断された傷口からは血が勢いよく出ている。中の奴らに気付かれているかもしれないのでさっさと次の行動をする。
それなりに強く魔力を込め火魔法を洞窟の中へ投げつける。瞬間、洞窟の中で爆発音と共に火が吹き出し、木々がなぎ倒されそうな強烈な風を生み出す。
その衝撃で入口の岩が崩落し、入口を塞ぐ。中の大きさはわからないが火に焼かれて死ななくとも酸素がなくなり直に死ぬだろう。
あまり達成感はないが終わった。手をパンパンと二度叩き、ドヤ顔で村人Aを見ると洞窟があった方を向いて目を見開き口を魚のようにパクパクさせている。
「おい、終わったぞ? 喜べよ」
村人Aの肩を叩く。
「いやいやいや! 無茶苦茶すぎるだろう!!」
我に返った村人Aは叫ぶ。耳元でそんな叫ぶな。
「手段はどうあれこれで脅威はなくなったんだから問題ないだろ?」
「ま、まあ確かにそうだが……、それにしても……」
腑に落ちないのか何か考えている様子。俺は正々堂々闘うなんて一言も言ってないぞ。
「まあまあ、いいじゃないか。細かい事は気にするな」
「う、うむ」
無理やり納得したようだ。細かくないと思うけどな。自分で言って自分で突っ込む。
「さて戻るか」
「な、なあ。さっきの魔法だよな…?」
村人Aがぎこちなく話しかけてくる。
「そうだ」
魔法以外なんだと言うんだ。
「あんな威力の魔法見たことがないぞ。お前何者だ?」
こいつは俺のやり方にビビっているわけではなく、俺の魔法にビビっていたのか。やはり魔力量は普通ではないらしい。それともこの世界の人間の魔法とは違ったりするのか?
しかしこの反応だけでもこいつに魔法を見せた甲斐があった。気を付けて魔法を使わなくちゃな。
「ただの旅人だ」
「ただの旅人があんな魔法使えるわけないだろ!?」
声を荒げる村人A。どう説明したものか。困った。
異世界から来たら魔力をすごい持ってましたなんて言えない。
「……すまん。言いたくない事もあるよな」
言い訳を考えていたら勝手に勘違いしてくれたようだ。これなら口止めも出来るかもしれない。
「そう言ってもらえると助かる。それとこの事は他言無用にしてもらいたい」
注目をされるのは避けたいからな。
「……わかった。約束しよう」
よし、上手くいったな。
そのあと、村に戻り盗賊を退治した事を説明すると村人達は泣いて喜んでお礼を言われる。盛大なご馳走を振舞われ、宴が開かれる。皆酒を浴びるように飲み、騒いでいたが今はもう熟睡していた。
屋敷の外に出て外の空気を吸う。いつの間にか日は落ち暗くなっていた。
夜外を歩く場合、この世界は地球のように電気が通っていないため蝋燭を使っているようで、頼りになるのは蝋燭か月明かりのみ。
魔法が使えれば代用できるだろう。空を見上げると地球ではなかなか見る事ができない満点の星空。
もしかしたら異世界じゃなく、地球とは違う星なだけなのかもしれないなと思える程に多くの星が光っている。神がいる時点で否定されていることなんだけど。
ふと後ろの扉が開く音。振り向くと村人Aが立っていた。
「寝ないのか?」
「目が冴えちゃってな」
ふう、と一度ため息をつき俺の隣に胡座をかく村人A。
「お礼を言えてなかったな。ありがとう」
「どういたしまして」
何度言われたかわからないお礼。
「これは少ないが村からのお礼だ」
そう言い、布の袋を渡される。中を確認するとこの世界の金だろう硬貨が十枚程入っていた。
「確かに」
ポケットにしまう。
「もう行くのか?」
「ああ、明日の朝には出る。大きい街に行きたいんだが一番近くはどこだ?」
「そういえば道に迷っていたんだったな。一番近い街だとここから南に二日程歩くとあるぞ」
二日か。だいぶ歩くな。南ってことはあの森の反対側を行けばいいんだな。
「わかった」
「お前なら大丈夫だと思うが、気をつけてな」
「言われなくても、わかってるさ」
「じゃあ俺は寝る。本当にありがとう」
「ああ」
村人Aは立ち上がり、屋敷に戻っていく。
さて、朝出るとは言ったが貰うものも貰ったし村人達が俺に恩に着る必要もなくなった。見送られるのも面倒なんで早々退散するかね。
突如現れ村を救った謎の男ってのも格好良くていいじゃないか。とクスリと笑い、暗闇の中歩き出す。