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 朝、朝食を取り様子見で宿を出ることにする。

 昨晩はフィオナも俺に引け目を感じたのか布団に潜り込んで来なかった。

 今日は、ギルドでこの街最後の依頼を受け一日を過ごす。フィリオが現れなければ諦めたと判断し、明日の朝次の街へ出発する予定だったが、その判断は宿を出た瞬間崩れ去る。


 俺達が宿を出ると、出てくるのを待っていたのか建物の間からひょこりとフィリオが顔を出す。

 昨日は咄嗟の身体強化だったため遅れをとったが、今日はしっかりと身体強化を施しておく。しかし、殴り合いになったとして素人同然の俺に勝ち目はないだろうな。身体強化に施す魔力の差でフィリオの攻撃が俺に通らないと過程しても、俺の攻撃が当たらなければ意味がない。どんな作戦を立ててこようと柔軟に対応出来るようにしておく。警戒を怠らないようにしなければ。

 フィリオは俺達を見るなり手を振り笑顔で近づいてくる。


「おはよー、お姉ちゃん! お兄さん!」


「……おはよう」

 警戒しながらもフィオナが答える。


「もう、二人共そんな恐い顔しないでよー。もう昨日みたいな事はしないってー」

 昨日とはうってかわって友好的な態度のフィリオ。そんな言葉誰が信じるのか。何を企んでいやがる。


「……諦めてくれたの?」

 フィオナが問う。


「んー、お姉ちゃんが戻る気ないならしょうがないよ。それよりお兄さんに興味湧いちゃった!」

 フィリオは俺の腕を取り抱きしめるように組んでくる。


「な!?」

 フィリオの不可解な行動に驚きを見せるフィオナ。


「……何が目的だ?」


「目的? どうしてお姉ちゃんがお兄さんの事を特別視してるのか興味あるの! それが目的かな?」


「離れなさい!」

 フィオナが俺とフィリオを引き剥がそうとする。が、フィリオは力を込め引き剥がされるのを拒む。


「嫌だよー! 今日は私にお兄さんを貸して!」

 赤い舌を少し出し、意地悪そうな顔をしてフィリオは俺の腕を引っ張る。


「貸しません! マコト様も離れようとしてください!」


「お、おう」

 フィオナの勢いに狼狽えてしまう。


「なにー? お姉ちゃん嫉妬ー? かわいいー」

 クスクスと笑い、フィオナをからかう。


「な!? 違う! いや違わないけども! 私ではなくてマコト様に失礼でしょう!」


「お兄さん、私失礼な事してる……かな?」

 目をうるうるとさせながら、上目遣いで俺に聞くな。


「失礼なの!」

 フィオナ、俺が答える前に答えるな。


「ねえねえ、お兄さん何でそんな仮面つけてるの?」

 後ろからギャーギャーと喚いているフィオナを無視し、話を変えるフィリオ。

 完全にこいつのペースにのまれてるな。


「昔、顔に怪我を負ってな。それを隠すために仮面をつけてる」


「ふうん。お兄さんの顔見てみたいな! ちょっと見せてよ!」

 俺の顔に伸ばしてくるフィリオの手を払いのける。


「駄目だ。見せたくない」


「えー、隠されると気になるよー」


「駄目ったら駄目だ」


「むー」


「そういえばお前、仕事はどうした。ヘールリッシュ様がどうのって話してただろう」

 自分で思うのもなんだが、白々しいな。


「あー、いいのいいの。私が遅れても問題ないわ」


「そうなのか」


「うん。それはおいといて……」


「私を無視しないでください!」

 フィオナが若干涙目で俺とフィリオの会話に入り込み、存在感をアピールするが如く俺の空いている片腕を引っ張る。


「あ、いたんだ。お姉ちゃん」


「……」


「こらこら」


「ごめんごめん、でさこれから何処に行くつもりだったの?」


「ギルドで依頼を受けようと思ってな」


「じゃあ、私もついていく。良いよね?」

 この状態のフィリオならば問題ない……か?

 昨日の行動、言動が嘘のような変わりように違和感が残る。

 これが本来の性格なのか?

 本当にフィオナの事を諦めたのか?

 それとも何か別の目的があるのか?

 油断させといて隙あらば俺を襲う気なんだろうか?

 いくつもの疑問が沸き上がる。


 しかし、これが本来のフィリオだったとしたら面白い奴なのかもしれない。

 少し悪戯が過ぎるが、仲の良い姉妹にしか見えないし、今も俺を間に挟み、フィオナはフィリオに説教のような事をしているが、そのフィオナはいつもより生き生きしていて、楽しそうに見える。

 やはり、血の繋がった家族といるべきなのかもしれないなとふと思う。すべての元凶である親をどうにかしないといかないが。

 フィリオは両親の事をどう思っているのだろう。


「お兄さん!」


「マコト様!」

 二人の俺を呼ぶ声に、考えることを中断する。


「ん?」


「ん? じゃありません! 聞いてなかったのですか?」


「ああ。フィリオが同行したいってことか?」


「そうです。連れていくんですか?」


「まあ、良いんじゃないか?」


「やったー!」


「……本当によろしいのですか?」

 はしゃぐフィリオを横目に、俺の耳元に顔を近づけ小声で話すフィオナ。


「警戒はしておけ」

 そう言うとフィオナは小さく頷く。


「じゃあ早くギルドに行こ!」

 フィリオは俺の腕を引っ張り歩き出す。


「……そうだな」


 ギルドへ歩きながら、二人は俺の腕をずっと引っ張りあっていた。フィリオがおちょくりフィオナがそれを真に受けて反論する。

 フィリオの笑顔は作っているようには見えない。フィリオは素直に楽しんでいる?

 怖いくらいに俺とフィオナの輪に溶け込んできている。油断するなよフィオナ。


 フィリオの謎の行動の理由がわからないまま、ギルドに到着する。

 いつも通りフィオナに依頼を探してもらい、俺とフィリオは食堂の椅子に腰を下ろす。


「お兄さんはギルドに登録してないんだ」

 テーブルに頬杖をついたフィリオが口を開く。


「ああ。そこら辺はフィオナに任せてある」


「なんでお姉ちゃんにやらせてるの? 自分でやればいいじゃん」


「人見知りだからな。目立ちたくないんだ。」


「仮面で充分目立ってると思うけど。しかも人見知りには全然見えないし」


「これは仕方ない。外せないものは外せない。人見知りに見えないのは仮面のおかげだ」


「ふうん。それでさ、お姉ちゃんって奴隷だった筈なんだけどなんで今は奴隷じゃないわけ?」


「俺が首輪外したからな」

 嘘を言うか少し迷ったが、フィオナと口裏を合わせていないし、正直に話す事にした。


「じゃあやっぱりお兄さんがお姉ちゃんを買ったんだ。なんで外したの?」


「まあ、いろいろとあってな」


「いろいろって何?」


「事情があってフィオナと離れなければならなくなったんだ。それで、首輪を外した。それでもフィオナは俺についてきてくれた」


「なにそれ。離れなければならないのに、お姉ちゃんはついてきたの? 自由になったのにお姉ちゃんがお兄さんについてきてる理由が私には理解できないんだけど。はっきり言ってお兄さんに何の魅力も感じないし」

 こいつ、本当に失礼な奴だな。


「解決した後、フィオナとまた会ったんだ。ついてくる理由は俺にもわからん。フィオナに直接聞け」


「……そうする」


「話が変わるが、お前はギルドに登録してるのか?」


「うん。修行の一環でね」


「ランクは?」

 武道の家系の当主だ。相当なものだろう。


「Aだよ。お姉ちゃんは?」

 おお、すごいな。Aランクの実力を見る機会を得られて俺は嬉しく思うぞ。


「Eだぞ。上がったばっかりだ」


「まだ登録したばっかなの? お姉ちゃんならBくらいはいけそうだけど」


「そうだ」

 フィオナの実力はBランク相当なのか。

 確かに素人の意見だが充分凄い身のこなしだ。あんな芸当出来たら魔物に怯えることもないなと思うレベルではある。

 それでも奴隷だったブランクも考えれば鈍っている部分もあるだろうし、今は全盛期より劣っているんだろうな。


 そんな話をしているとフィオナが受付から戻ってくる。


「マコト様、依頼受けてきました。ゴブリン退治です」


「えー、ゴブリン退治ー? つまんないよー」


「文句言うなら来なくて良いぞ」


「文句言いません! ついていきます!」



 こうして、三人でゴブリン退治をするため街を出ることになった。






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