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正義

 

 太陽の日が眩しくて目が覚める。

 昨日と同じくフィオナは俺の布団に潜り込んできたが、今日は既に起きていた。

 フィオナはフィオナが寝るはずだったベッドの上で正座している。


「おはよう」

 俺が朝の挨拶をすると、フィオナは閉じていた目をゆっくりと開ける。


「おはようございます」


 俺は上体を起こしベッドの縁に座り、フィオナと顔を見合わせる。


「今日も一つ目ゴブリンの依頼受けるのか?」


「そうしたいです」


「そうか。じゃあ朝飯食べたらギルドに行こう」


「はい」


 一つ目ゴブリンを退治するのは構わないが、数体退治したところではした金である。どうにか金貨二枚くらいは手に入らないものか。ここから次の街へどれくらい掛かるかはわからないが、道のりで食べる物や次の街での宿泊、仮面。

 この辺りのゴブリンを狩り尽くせたら良いんだが、それだけのゴブリンを探すのも時間がかかるし、あまりにも狩ってしまうと注目されてやりづらくなってしまう可能性もある。あくまで表向きはフィオナが依頼を遂行しているため、フィオナだけでも遂行出来る範囲でなければならない。


 朝飯を食べギルドへ向かい、依頼を受け、街を出る。


 昨日と同じ所へ向かうため、整備された道をしばらく歩いていると、道のど真ん中を無人の馬車が猛烈な勢いで俺達を無視し、走り抜けていく。俺達を通り過ぎ、少し走った所で石に引っ掛かったのか車の部分が盛大に左右に揺れ始める。馬車は体制を立て直せないままひっくり返り、粉塵を撒き散らしながら停止する。


「い、一体なにが」


「さあ?」

 俺が聞きたいわ。

 馬車に近付く。 馬は未だに興奮していて暴れまくっている。乗っていた荷物はひっくり返った拍子にほとんど飛び出していた。


「商人の馬車でしょうか?」


「そうかもな」

 荷物は、大量の野草や何かの干し肉、生肉だった。一般人が運ぶ量ではない。


「何かあったのかもしれません。急ぎましょう」


 この道の先で何かがあったのは間違いない。フィオナが商人を助け、お礼として金を貰うってのも有りだな。


「ああ」


 そこからしばらく先に進むと、道が真っ赤に染まっていた。地面が抉れ、木が薙ぎ倒されていて、人の腕や足が無造作に転がっている。 傷口には無理矢理引きちぎられたように他の部分の皮膚までくっついていて、人間の仕業とは思えない状態。胴体や頭は見つからなかった。 ここで馬車の持ち主、他複数人が何かに殺られたのだろうか。


「これは……」

 フィオナはこの無惨な光景に唖然し立ち尽くす。


「何があったんだろうな」


「……この辺りでこんな事が出来るとすれば一つ目ゴブリンかと思います」


 まあそうだろうとは思ってた。Eランクを改正した方が良いんじゃないかと思う。


 すると、道を外れた森の中から男の悲鳴が聞こえる。瞬間、フィオナは悲鳴が聞こえた方向へ走り出す。

 おいおい、やる気満々だな…… 俺は仕方なくフィオナについていく。


 一つ目ゴブリンは背中をこちらに向け何かを食べていた。悲鳴を上げた男は見当たらない。

 もしかして一つ目ゴブリンが食べてるのは悲鳴を上げた男か? 魔物は人を食べるのか? 魔物が人を襲うのは食べるためなのか?

 頭の中をいくつもの疑問が生じるが、それ所ではない。


 そいつから離れた所に数体の一つ目ゴブリンが歩いているのが確認できる。襲われた奴らは一つ目ゴブリンに囲まれてしまったのか。相手は動きが遅いとは言え、力は桁違いだ。ふとした瞬間に、掴まれば死ぬ。そんな相手に囲まれればどうなるか安易に想像ができる。


 突如フィオナは、何かを食べている一つ目ゴブリンへ駆け出す。


「おい!」

 俺はフィオナを制止させようと叫ぶが、フィオナは止まらない。

 走るフィオナは昨日と同じく水の剣を精製し、背中を向けている一つ目ゴブリンに斬りかかる。

 フィオナの剣は背中に突き刺さり、一つ目ゴブリンは悲鳴をあげるように雄叫びを上げると、前のめりに倒れ込む。フィオナの攻撃はそれで終わらせず、何度も一つ目ゴブリンの背中に剣を突き刺す。


 仲間の悲鳴を聞いたからか、他の一つ目ゴブリンがふらふらとフィオナに向かって歩き出している。計五体。

 フィオナは目の前の一つ目ゴブリンに集中していて、それに気付いていない?


「あの馬鹿」


 俺は、すかさず五体の一つ目ゴブリンの首目掛け、風の刃を放つ。

 俺の魔法に気付いた一つ目ゴブリン達は両腕を上げ、防ぐ。緑色の体液を吹き出し片腕が切断される。

 一撃で仕留める予定だったが、片腕を切断するだけで、威力を殺されてしまった。

 片腕を失った一つ目ゴブリン達は先ほどの一つ目ゴブリンのような雄叫びを上げる。

 雄叫びで我に返ったフィオナは、五体の一つ目ゴブリンの存在に気付き、立ち向かうように剣を構える。


 フィオナが気付いたので、俺は補助に回る事にする。今の魔力量でアイツ等を倒すことも出来るが、使いすぎればまた振り出しに戻ってしまう。それは避けたい。

 魔法が使えなくなってしまった時、俺はフィオナのように接近戦はできない。

 それほどに魔法の威力を上げるのは、魔力を使っていた事を実感する。俺が元々所有していた魔力が多すぎたから、僅かすぎる変化だったためわかりづらかった。


 フィオナにはさっさと終わらしてもらおう。


 俺は魔力を相当節約した風の刃を一つ目ゴブリン達の足目掛け放つ。

 一つ目ゴブリン達の足を傷付ける程度の魔法。しかし、転ばせる事が出来るだけで充分。

 予定通り前のめりに倒れ込む一つ目ゴブリン。

 それを見たフィオナは駆け出す。片腕だけになった一つ目ゴブリン達は必死に腕を動かし、どうにか立ち上がろうとしている者、匍匐前進をしてフィオナに近付く者もいたが、フィオナは次々と首に剣を突き刺し、仕留めていった。


 最後の一体を仕留めたフィオナは立ち尽くす。

 俺はフィオナに近付き、一度溜め息をつく。


「馬鹿フィオナ」


「……すみません」

 フィオナは顔を俯かせ謝る。


 正義感溢れているのは構わないが、勝手に死んでもらっては困る。もう少し冷静になってほしいものだ。


 改めて主人公、勇者向きの性格だなと思う。

 フィオナには、なんらかの補正があるわけでもない訳だし、ミイラ取りがミイラに、なんて事も充分に有り得る話だ。

 いや、実はフィオナの補正は俺なのか?

 表舞台に立ってくれているフィオナを補助するのは俺だから間違ってはいないのか?


 俺はそれ以上は何も言わず、一つ目ゴブリン一体一体の耳を刈り取る作業に入る。計六体、銀貨六枚分。


 まだまだ資金が足りない。そろそろヘールリッシュが死んでいるのが見つかる、いやもう既に見つかっていてこちらに来てるだろうな。

 ヘールリッシュの残党で、俺の顔を見てる奴が俺を探している可能性もある。

 どうするか。


「帰るぞ」


「……はい」


 助けられなかったのが悔しいのか、暗い表情でついてくる。

 馬車に戻ると馬は冷静さを取り戻していたが、動けないでいた。


「これ持って帰って売れば金になるだろ?」


「……なると思いますが……」


「が?」


「……あの人の物かはわからないですし、仮にあの人のだったとしても、人の物を取るというのは……」


「持ち主が生きてようが死んでようが、あれに出くわしたんだ。荷物なんて二の次だろう。もし、なくなってても諦めがつくんじゃないか? ここに放置した所で誰かに奪われるか、腐っていくのがオチだろ?」


 命があれば儲けものだし、仮にケチな奴だったとしても転移魔法で帰れば俺達を特定することは絶対に出来ない。

 魔力をだいぶ使ってしまうが、街の方が安全だし、金のためだ。


「それはそうですが」


 フィオナにこういう事を話すのが間違いだったか。これから関係がギクシャクするのも困る。転移魔法で帰るとはいえ、下手にリスクを負うのもどうかと思い悩んだ結果、仕方なく俺が折れることにした。


「わかった。荷物は諦めるとしよう」


「はい。ありがとうございます」


 馬車は名残惜しいが、街に戻る。

 俺は先に宿に戻り、フィオナのみギルドに向かわせる。

 フィオナが一つ目ゴブリンの事、あの惨状の事を話すと言い始めたからだ。放っとけば良いものを……


 フィオナが宿に戻ってきたのは夕方だった。


「だいぶ時間かかったな」


「ギルドの人と現場に行ってました」

 行かなくて良かった。商人を助けられなかった事を気に病んでいる様子は見られない。


「何か言われたか?」


「いえ、目撃情報より数が多かったため、驚いていました。Dクラスに匹敵する依頼だったと」


 昨日と今日で七体。駆け出しの人じゃきついわな。


「それでEランクを上げて貰えました。」


「ほう。良かったじゃないか」


「……はい」

 暗い表情をするフィオナ。情緒不安定な奴だな。


「なんだ?」


「私がとどめを差したとはいえ、マコト様がほとんどやったわけですし……」

 自分の力ではないと言いたいのか。


「そんな事気にするな。一から闘っていてもお前一人でも倒せたんじゃないか?」

 無言で頷く。


「なら良いじゃないか。お前に合ったランクに近付けるのは喜ばしい事だと思うがな。実際に俺も嬉しいし」

 依頼を受けられる幅が広がるし、相手は強くなるが報酬も上がる。俺的には万々歳だ。


「……はい!」


 少し考える素振りを見せたが、少しだけ元気になってくれた。くよくよ悩んでも仕方ないだろう。誰にも過去には戻れない。後悔したってしょうがないじゃないか。

 

 「知らないおじさんについて行っちゃ駄目だぞ」

 唆されたら誰にでもついて行ってしまいそうだったので子供を諭すように俺はフィオナに注意しておく。






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