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道のり

 

 俺とフィオナは逃げるように街を出た後、整備された道をひたすらに歩いている。フィオナが言うにはこの道の先にこの国の王都であるブルート区があるという。

 ヘールリッシュ殺害の噂が王都に伝われば、きっと兵士を派遣してくるだろうが、この世界には遠くの人に伝達するような電話みたいな物などないだろうし、街の様子を見る限り発見も時間かかるだろう。そんなに滞在せず次の街へ行けばそれほど問題はないはずだ。


 ブルート区までの道のりは二日程度。途中休憩所があるらしく、そこで一泊出来るそうだ。野宿じゃなくて良かった。


「それで、お前は何をしているんだ?」

 ずっと気になっていた事をフィオナに聞く。


「何とは?」

 如何にも私は何もしてませんよ、という顔で首を傾げる。


「この手だ。ずっと俺の手首を掴んでるじゃないか」

 街を出てからこの状態である。いい加減離して欲しい。


「マコト様は前科がありますからね。逃がさないようにです」

 そう言って微笑みを浮かべるフィオナ。目が笑ってないぞ。


「もう逃げないって。犯罪者になってしまうかもしれないとわかっている俺についてくるんだろ? だったら俺にフィオナから逃げる理由はない」

 俺の補助をしてくれるなら、万々歳である。


「私は怒ってるんですからね。あんな危険な事に足を突っ込んだり、私を唐突に捨てたり、酷いことを言った自覚はあるんですか?」


「悪かったって。結果的には上手くいったし、ヘールリッシュの兵はほとんど壊滅させたから俺がやったとバレる確率も低いしさ」


「低いだけで無い訳ではないんですよ。それにあそこには生き残った者もいます。その者達が再び捕まり、マコト様の事を話したりでもしたらどうなるでしょうか?」


「二人共生きていたのか?」


「親子の奴隷の事ですよね? 生きてましたよ。マコト様が起きる前に逃げていってしまいましたが」

 そういえばもう一人、捕まっていた男はどうなったんだろうか。まあ、勝手に逃げ出してるだろう。


「そうか。生きていたか」

 神には禁止をされたが、生き返すことも出来る訳か。なんでもありだな。保持している魔力、ギリギリだったが。

 ちなみに今、俺の魔力はすっからかんである。フィオナに聞いたら寝れば自然と回復すると言っていた。あと数回魔法を使えばまた昏倒するだろう。情けない話、今はフィオナに護られている側なので逆らえない。


「まったく。魔力まで使いきって、自分が死んでいたらどうするんですか!」

 似たような事を神にも言われたな。


「悪かったよ」

 首輪外したのに、敬語と様付けは直さないんだな。俺に文句を言うようにはなったが。


「もうっ!」

 頬を膨らまし、怒るフィオナであった。


 それから、日が落ちるまで歩き続けた先に建物が出てくる。 身体強化すら出来なかったので、凄く疲れた。筋肉痛になりそうだ。

 休憩所は三軒の建物が建っていて、全て休憩に利用できるらしい。

 さすが王都付近。旅人にもしっかりとフォローしている。

 建物に入る。雨風を凌げれば良い程度の感覚なのだろう、建物内は何もなかった。俺達の他に人はいない。

 唯一、蝋燭が何個か保管されていたので、火を付け床に座り、壁に寄りかかる。


「やっと王都まで半分って所か?」


「はい」

 フィオナも俺の腕に当たるほどの近さで寄り添うように隣に座る。


「王都はどんなところなんだ?」


「そうですね……。当たり前ですがヘールリッシュ区より栄えています。人の出入りも多く、賑わってますね。この国の王であるブルート様が住んでいる城もあります」


「あまり人が多いところは好きじゃないんだがな」


「仕方ありません。近くの街はそこしかないですから。私もあまり行きたくないのですが……」

 フィオナも人が多いところは嫌いなのか。


「王都で、ギルドの依頼を受けて今後の金を稼いだらすぐ次の街へ行くぞ。」

 出来るだけ離れておいた方が良いだろうしな。


「はい。」

 フィオナは大きな欠伸をして、頭を俺の肩に預ける。


「眠いか?」


「ほとんど寝れませんでしたから」


「寝ていいぞ」


「は……い……」

 そう言うと寝息をたてる。

 そりゃ眠くなって当然だな。あの時のフィオナは寝てた雰囲気が全くなかった。さすがに疲れただろう。


 フィオナの体温を肩で感じながら一夜を過ごす。


 目が覚めると、隣にいたはずのフィオナはいない。

 座りながら寝ていたのもあって身体が痛い。

 案の定、筋肉痛になった身体を無理矢理動かし、外へ出る。外は快晴。一度伸びをして、フィオナを探す。

 フィオナは建物の裏手にあった井戸で水を汲んでいた。俺に気付き、汲むのを中断する。フィオナはよく眠れたのか、顔色も良くなり元気そうだ。


「おはようございます」


「おはよう」

 俺はフィオナに近付く。


「水飲みます?」


「ああ。もらう」

 フィオナは井戸から汲んだ水が入った木製のバケツを俺に手渡してくる。

 それを受け取り、その水を手で掬って飲む。冷たくて旨いな。ついでに顔も洗って、さっぱりした。

 寝たおかげで魔力も少しは回復した。しかし、まだまだ全快までは遠そうだ。全快になるまで、なにも起きなければ良いが……。


「どうしました?」


「フラグを建ててしまったような気がしてな」


「フラグ?」


「いや、なんでもない。そろそろ出発するか」

 まあ、漫画やアニメじゃないんだし、そんな事そうそう起きないだろ。


「はい!」

 フィオナは元気よく返事をする。


 それから、ゴブリンやホワイトウルフに襲われる事も何回かあったが、フィオナが全て蹴散らしていった。


 二度目の夕暮れ時に、やっと王都に到着する。

 王都はスケールが違った。まず、もの凄く高い塀に街ごと囲まれている。左を見ても右を見ても端が見えない。

 そして、大きな扉が開放されており、そこには行列が出来ていて、鎧を纏った兵士が立って検問のような事をしている。


「俺、身分証明とか出来ないんだけど、入れるのか?」


「私のギルドカードがあれば入れますよ。マコト様が何かやってしまったら私の責任になりますけどね」

 フィオナは俺に冷ややかな視線を向ける。全く信用されてないらしい。


「平和主義者である俺がそんな事をするとでも?」


「どの口が言いますか……」


 そんな事を話していると俺達の順番になる。フィオナは門番の兵士と話し、ギルドカードを見せる。兵士は俺を一瞥する。


「よし、入れ!」


 その言葉で、俺達は扉をくぐる。

 結構すんなり入れるものなんだな。フィオナがいなかったらこうもいかなかったが。


 中はフィオナの言っていたように賑わっていた。ヘールリッシュの街と同じように露店が並び店主達が客引きをやっている。


 違うのは人の量。人にぶつかりながら歩かなければならないほどの人混み。満員電車を思い出す。


「うわ……」

 素直に口に出してしまうほど、ここに入りたくなかった。


「さっさと抜けちゃいましょう」

 フィオナは俺の手首を掴み引っ張る。立場が逆なような気がする。なんだかフィオナ、男らしいな。

 無理矢理人混みを掻き分け進む。肘打ちや足を踏まれたり散々だった。

 入口が賑わっているだけで、そこさえ抜けてしまえば人混みは少し解消された。一番人が行き来する所だし仕方ないか。


「それで、どうしますか?」


「ふう。そうだな、まずは宿を探すか」


「わかりました」


 俺達は宿を探すため街の中心の方を目指して歩く。





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