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フィオナ視点②

 

 湯浴みを終えた私が部屋に戻ると彼は、話を始めた。

 彼は記憶喪失らしく簡単な質問、誰でも知っている当たり前の事を質問してきて、私はそれに答える。

 

 マコト様は私に気を使わなくて良いと言ってくる。この人は奴隷とはどういう存在なのかも忘れてしまったのか。奴隷の粗相は主人の名誉に関わる。私は彼の名誉を傷つけたくない。それと共に、彼の接し方が皆と違うのはそういう事かと納得する。

 私が彼の事を支えてあげられる、彼にとって私は利用価値がある。今はそれだけで私は充分だった。

 友達とまではさすがに無理だけど、仲良くなりたかった。


 彼はマコト、珍しい名前。

 名前を普通に教えてくれた。なんだか親近感が沸き、無性に嬉しくなった。名前で呼び合う事も許してもらえた。

 前主人の彼女は名前を教えてくれなかった。私が粗相した時の保険なんだろうと思う。


 転移魔法とやらを見せてくれた。この人は神様なんじゃないかと思うくらいの、尋常じゃない量の魔力を持っていた。いや、異常と言って良い。

 こんな魔力を持っているマコト様が記憶喪失になるほどの何かがあった事が不思議だった。


 記憶は戻らなくても良いらしい。私はマコト様に記憶が戻ってほしいと思う反面、戻ってしまったら今のマコト様がいなくなってしまうんじゃないか、とも考えてしまう。


 マコト様はベッドで寝させようとしてきた。その気遣いはすごく嬉しいけど、主人を差し置いてそんな事は出来ない。私は意地でもマコト様をベッドで寝るよう説得した。下でマコト様が話していた女性が布団を持ってきてくれた。どうやらこの宿の店主さんらしい。

 布団で寝るのもいつぶりだろう? 柔らかい布団の温もりを感じながら寝に入ろうとした時、マコト様は変な事を言い出した。

 私がギルドに登録するらしい。異議を唱えようと思ったけど、マコト様はこちらに背を向け寝てしまっていた。無理矢理起こすわけにもいかず、明日聞こうと思う。


 目が覚めると、まだ暗かった。マコト様はまだ寝ている。歩けなくなってから出来なくなってしまった瞑想をやろう。気を静め、何も考えない時間が過ぎていく。


 ベッドで動く音が聞こえ、目を開けるとマコト様が起きようとしていた。外はいつの間にか明るくなっていた。


 朝御飯まで食べさせてくれるらしい。だけどマコト様は昨日の夜と同じく、食べないそうだ。私よりもマコト様に食べて欲しかったし、どうせだったら一緒に御飯を食べたかった。

 私はマコト様に押し切られ、御飯を食べることにした。

 そのあと、寝る前に言っていた私がギルドに登録するのはどういう事かと聞いてみた。

 マコト様は目立ちたくないらしく、裏で私の手伝いをして、私に名誉と功績をくれるという事だった。完全に立場が逆だ。

 なんでこんなにも目立つことを警戒するんだろう? もし特級魔法師になれば、ほとんどの欲しいものが手に入るし、生活には一生困ることはない。欲がない人なのかも? 不思議な人だ。


 かく言う私も功績や名誉などいらない。マコト様が私を見てくれる、マコト様の役に立てる事だけで私は満足だった。

 それに、他の人の力で成り上がるのは嫌だ。そんな事をしてしまえば、本当に私自身の価値はなくなってしまう気がした。

 だから、マコト様にはしっかりとお断りした。


 怒るだろうか……? 奴隷の分際で、と言われるだろうか…?


 マコト様は私を怒るわけでもなく、妥協案を出した。私の力量に合わせてくれるらしい。自分の力でやってみろ、という事なんだろう。取り分まで私のもの、マコト様はマコト様で稼ぐらしい。

 

 なんだか少し距離を感じた。この奴隷の首輪だけがマコト様の繋がり。今まで外したいと思っていたこの首輪が外されたくないと思うようになった。


 そして、登録するべくギルドに向かう。身体強化をすれば普通に歩けるだろうけど、マコト様はそれを禁止した。理由は言わなかったけど、私のためなんだろうと思う。

 だからそれに応えようとまだ長距離歩くのはしんどかったけど、足手まといにはなるまいとマコト様の服を掴み必死に歩いた。マコト様はそんな私を気にしてくれていた。

 そんな時、突然浮遊感を感じる。マコト様が私を持ち上げたのだ。

 無理矢理私を担ぎ、椅子に座らせる。急な事で驚いて、反応出来なかった。マコト様は御飯を買ってくると言って、そそくさと人混みに入っていってしまった。

 

 わかってる。マコト様は記憶がないから私にこんな対応をしてくれている。

 だけどなんだろう、この気持ちは。男の人にこんな事をされたのは始めてだからか胸がざわめく。

 顔が熱くなるのがわかる、心臓の鼓動が早くなっている。しかし決して嫌な気分ではない。

 久し振りに人から優しさをもらえたからか、私はおかしくなってしまったのかもしれない。

 

 私をこんな形で休憩させなくても、命令して休憩させれば良いのに、と思うけど、そんなマコト様の行為が嬉しくてつい笑みがこぼれた。

 冷たいけど温かい、矛盾してるけど私はマコト様をそう思った。

 

 だけど、恥ずかしいし、私も一緒に行きたいので文句を言おうと思う。

 しばらくして、マコト様が戻ってくる。なぜかマコト様を見ると、また変な気持ちになる。顔が熱い。

 私が文句を言うと、手に持っていた串焼きを差し出してきた。別に食べ物に釣られた訳ではないけど、文句を言うのはやめる。串焼きは小さい頃食べた時よりも、ずっと美味しく感じた。

 無事、ギルドで登録して早速依頼を受ける事になった。一応私の専門分野である魔物退治。身体を動かすのは久し振りだけど、ゴブリン程度なら問題ない。

 マコト様に良いところを見せたい。そう思い、張り切る。私がゴブリンを倒すと褒めてくれた。嬉しくてつい口が緩みそうになる。張り切りすぎたかもしれないけど、喜んでもらえるならと私は頑張った。


 本当にマコト様は私の取り分を渡そうとしてきた。私にはお金などいらない。そう言うとマコト様はいきなり明日買い物に行くと言い出した。


 私にはマコト様の考えている事がよくわからない。


 宿に戻ると、マコト様は女店主さんに朝御飯はいらないと言った。明日は買い物ついでにどっかで御飯を食べるのだと思う。


 女店主さんは、朝御飯を食べない代わりに夕御飯を二人分作ってくれた。

 マコト様と一緒に食べる食事は一段と美味しかった。 誰かと一緒に美味しい物を食べれる事に幸せを感じる。まだたった二日目だけど、すごく楽しい。白黒だった世界が色付いていく感じがした。

 

 冷え切っていた私の身も心も温まっていくのがわかる。

 こんな日がずっと続けばいいのに。









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