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村人A

 俺は今森を探索している。代わり映えしない風景、空気はひんやりと湿っている。足元は苔が生えていて枝や根っこが邪魔をして歩きづらい。

 実践しようにも相手が見付からない。テンプレ通りなら魔物がいるはず、そう思い探しているのだが。

 まず動物が住んでいるのか? と疑い始めた頃だった。ガサガサと茂みの中から音がする。

 お、きたか? と茂みを警戒する。茂みから顔を出したのは狼のような動物。色は白く地面に鼻を近づけ匂いを嗅いでるようだ。

 こちらに気付くと低く唸る。目が合う。様子を伺っているようでその場から動かない。このまま突っ立って見つめ合っていても埒があかない。先制攻撃してみるか。

 水の槍をイメージする。よし、成功。イメージ通りの水の槍ができた。次に右腕に魔力を流し身体強化。

 あとはこいつを本気で投げてみよう。と振りかぶる。


「よいしょ!」


 相手目掛けて強化された右腕だけの力で投げた槍は想像以上の威力だった。それは大きな破裂音と投げた自分が目で追えないスピード。

 一瞬で狼を貫くと勢いは止まらず後ろの木々を薙ぎ倒していく。


「やべえ」


 ドラゴン○ールかよ、と言いたくなるような光景。目の前が一本道のように開けてしまった。

 ようやく槍は止まったようで遥か先の木に刺さっている。少し経つと槍は消えてしまった。一定時間、術者から離れると消えてしまうらしい。

 この世界の人間が皆これが普通だったらやばい。まずは身体強化の調整や手加減が必要だな。

 取り敢えず、狼の様子でも見てみよう。

 狼は槍を綺麗に貫通していたようだ。白かった毛は赤く染まっていた。一瞬だったし苦しまず死ねただろう。

 この狼は地球の狼と同じく鼻が効くようだし血の匂いで集まってくるかもしれないな。それじゃあ、俺の練習台になってもらおうか。

 風の魔法を使い飛んで太い木の枝に座ってその様子を見ていた。予想通り狼の群れが集まってきた。

 地上に降り立ち、犬に自分の存在を気付かせる。さっきより魔力を調整して同じように投げつける。少しは威力が弱くなったかな? このぐらいかな? なんて事を数十回繰り返した。

 ついでに火、風も同様に調整する。火を扱えば森を燃やし尽くしそうになるわ、風を使えば木を何十本と切り落としてしまうわで大変だった。

 ある程度の調整、手加減が出来るようになり、自然を壊す事はなくなった頃。

 森だった更地に座り休憩していた。何個かクレーターを作ってしまったが気にしない。そろそろ街に行ってみるか。空を飛んでいる時、遠くに街を見つけた。まずそこを目指そう。

 俺は立ち上がり、尻の埃を叩いて落とす。街の方向に飛んでいくことも考えたが誰かに見られると厄介な事になるかもしれないので歩いていく事にした。

 森をひたすら歩く。半日くらい経っただろうか。森が開ける。少し歩くと街というより村に着いた。

 簡素な木造建築が並ぶ村。日が落ちる前に到着できて良かった。

 まずは言語が伝わるか確認、伝わらないとなると今後大分困ることになる。

 次に通貨は何か、そしてその通貨を手に入れなければ。狼の毛皮や肉を森に隠している。売れるようなら転移して取りに戻る予定だ。

 そして通貨を手に入れられたら寝泊り出来る所を探す。


 さてまずは村人Aだが…。

 村に入り歩きながら探すが田舎だからなのか人気がない。どうしたものか。

 家には人がいるだろうと思い適当な家の扉をノックする。返答がない。いないのか?

 取っ手を掴み押して見ると簡単に開いた。まさか廃墟じゃないよな?


「すみませーん」


 声をかけてみる。…返答なし。中に入ってみるか。

 家の中はテーブルと椅子、テーブルの上にはいくつか本が置かれている。他には釜戸があるくらいで生活感が皆無。

 廃墟という仮定が信憑さを増す。しかし、埃は被っていない。定期的に掃除でもしてるのか?


 テーブルの上に置いてある本を手に取り捲る。

 …うん。読めない。あの神様も融通聞かないな。文字が読めないのはまだいい。話せなかったら面倒だな。そう思い、元の場所へ本を置く。


「貴様、この村に何の用だ」


 …声を掛けられた。言葉がわかる。一安心。後ろを振り向こうとする。


「動くな。動いたら殺す。何が目的だ」

 なんでこんな殺気立ってるんだ。取り敢えず弁解しよう。両手を上げ抵抗しない意思をアピールする。


「俺は旅をしている者でたまたまこの村に訪れたんだ。泊まる所を探していてね。それで誰かいないか探していたんだ」


「ほう。こんな辺境な村にたまたま訪れたと」


「ああ。恥ずかしい話道に迷ってしまったんだ。それで丁度この村を見つけたってわけさ」


「ふむ。その軽装で一人ここまで来たと?」

 面倒くさい。


「腕には自信があるんだ」


「自意識過剰だな」


「死んだらそこまでだったってことだ」


「肝が座ってるのか、ただの馬鹿なのかわからんが、いいだろう」

 ふう。なんだこの村。自分で言うのもなんだが今ので納得してくれたことに驚きだ。


「動いてもいいか?」


「変なことしたら即殺すからな」

 物騒な奴だな。振り返ると男が鎧を纏い剣を構えてこちらを見据えていた。


「質問していいか?」


「いいだろう」


「何故この村はこんなに人気がない?何かあったのか?」


「この村は二度盗賊に襲われている。国に助力してもらえるよう依頼したがゴロツキ相手に軍は動かせんと一点張り。ギルドにも退治依頼をしているが場所が悪いせいか、依頼を受けてくれる人などいなかった。仕方ないから女子供は避難させ男達で警備している」

 男は悲しげに話す。質問するんじゃなかった。なんだかフラグを建築してしまった気がする。嫌な予感が的中する前にさっさと退散しよう。


「そうか。大変だな。それじゃ他を当たることにするわ」

 外に出ようと扉へ歩きだそうとする。


「待て。さっき腕には自信があると言っていたな?」

 それ以上言うな、やめろ。


「頼む。この村を救ってくれ!」

 武器を捨て頭を下げる男。


「嫌だね。救う義理なんてない」


「礼は幾らでもする。男共も疲弊しちまってる。次襲われたらこの村は終わりだ」

 頭を下げたまま泣き出してしまった。まるで俺が悪役みたいじゃないか。

しかし、礼か。金が手に入るのは目的に含まれている。少し危険なルートを選択する嵌めになったが、本当に危なくなったら転移で逃げてしまえば良い。


「その盗賊とやらは、何人構成で何処にアジトがあるかわかってるのか?」


「およそ十人程度で村の北にある森の中に拠点があるみたいだ」

 涙を拭い顔を上げる。


「十人程度ならどうにかならんのか?」

 男たちで逆に襲撃したらいいだろう。


「盗賊のリーダーが魔法を使うんだ。うちの村に対抗できる人間はいない……」


「そうか。まあそこまでわかっているならどうにかしてやる。」

 こいつらなりに偵察したのだろう。いつ来るかわからない盗賊が来るのを待つのは御免だ。

 魔法は使える人間と使えない人間に分かれてるのか?


「ありがてえ。だが今日はもう遅い、飯と寝床の提供させてくれ」


「ああ」


 この後、村に似つかわしい大きな屋敷に案内される。そこで他の村人を紹介され御飯を提供された。

 最初に会った村人Aが盗賊退治をしてくれる男が現れたと言うと皆泣きながらお礼を言ってくる。

 俺が旅人のフリをした盗賊の仲間だったらどうするんだ? と聞いたら、お前はあいつらと違う感じがすると言っていたがどんだけ初対面の俺をかっているんだ。ていうか返答になってないぞ。

 まあ、形振り構ってられないのだろう。村の存続がかかってるんだ使える物は使う、良いじゃないか。

 御飯は日本で食べていた物と比べたら味が薄いものばかりだったが、味の濃いジャンクフードがあまり好かない俺にとっては旨いと言えるレベル。ポテチは例外である。

 素材その物を楽しむ料理という事で言えばある意味、日本料理に近いのかもしれない。大きい街の料理や身分の高い人は地球に近い物を食べているのだろうか。材料があるようなら作ってみてもいいな。

 最初の殺伐とした空気と打って変わって大歓迎ムードの村人達に少し戸惑いながら一夜が過ぎる。


 そんなこんなで盗賊狩りを引き受けたわけだが、力試しには丁度良い。この世界の人間の強さも見れる良い機会だ。

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