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処刑執行 下

 

 悲鳴を聞き、振り返る。

 一人の私兵が生き残っていたらしく、子奴隷を盾にしている。私兵は子奴隷の首に剣を押し当て、震えた声で叫ぶ。


「う、動くな! 動いたらこいつの命はないぞ!!」


「人質か。俺がそんな事で動揺すると思ってんのか?」


「う、うるさい! ヘールリッシュ様早くこちらに!」

 放心状態だった領主は我に返ると、俺を避けるように私兵の所へ走る。


「でかしたぞ!私を見事逃がすことが出来たら褒美をやろう!」

 私兵の後ろへ隠れ、興奮したように領主は言う。

 少しずつ、少しずつ俺から目を逸らさないように退いて行く。


 さて、どうしようか。このまま奴等に風魔法を当てれば三人共真っ二つにすることが出来るが、面白さにかける。奴隷ごと殺してしまえば、領主に負けた気分になるし、そんなあっけない終わり方は避けたい。


 そう悩んでいると、母奴隷が視界の隅に入る。

 俺と私兵の戦闘で縄がほどけたのだろう。苦痛の表情で地を這いつくばり私兵達の所へ向かっている。

 領主達は俺に集中していて母奴隷に気付く様子はない。


「ここから逃げてどうにかなると思ってるのか?」

 俺は母奴隷が気付かれないように領主達に話を振る。


「貴様は、この大陸にいられないようにしてやる!!」

 俺に指を差し、声を荒げる領主。


「俺がお前らを生かしてここを出すと?」


「奴隷を人質にとられて動けない貴様がどうやって私を殺すのだ?」

 その奴隷、俺のじゃないし。自分が自分の奴隷を人質にして助かるっていうのは何かおかしい感じがするな。

 普通、相手の身内を人質にとって俺が躊躇するのがセオリーではないのか? まあ、殺さずを誓っている主人公ならともかく俺は違うし、奴隷ごと殺すのもやぶさかではない。何か勘違いをしてるなあの領主は。


「そんな事より、周りをよく見た方が良い。」


 そう言ったと同時に、母奴隷は私兵の足を掴み、子奴隷から強引に引き離そうとする。


「私の娘から手を話せ!」


「き、貴様!」

 私兵は驚き身体を揺らす。


「何をやっている! 早く殺せ!」

 領主は私兵に命令すると、私兵は子奴隷から手を離し、母奴隷の背中に剣を刺す。子奴隷から離れ、私兵の身体が丸見えになった所で私兵の首を風魔法で撥ね飛ばす。


「……え? ……おかあさん? 」

 子奴隷は母奴隷に狼狽えながらゆっくりと近付き腰を落とす。


 残るは領主のみとなった。

 領主は尻餅を付き、身体を震わせている。俺はゆっくりと領主に歩き出す。


「く、来るな! わ、わかった! お前の望む物をやろう!」

 尻を引きずりながら、逃げるように後ろに下がる。


「望むもの? それはお前の命だ」

 片足だけ切り落とす。


「ぎゃああああ!痛い!痛い!痛い!」

 足の切断部分を抑え、泣き叫ぶ。


「これは愉快な遊びだな」

 そう言ってもう一方の片足を切り落とす。


「ぐううう……。ば、化物めが! 私をこんな目にしたこと絶対に後悔させてやるぞ!」


「そうか。精々、地獄で頑張りな」

 領主の首を切り落とす。これで終わった。

 辺りを見回せば、地獄絵図が広がる。頭と身体のみの死体が転がり、焼身死体の山ができ、生えている雑草には血潮がかかり、真っ赤に染められている。

 服にも、いつの間に返り血を浴びたのかわからないが、赤い斑点のようになっている。達成感はなく、虚無感だけが残る。

 こんな事をして俺は何を得たのか。

 領主の外道なやり方に俺は腹が立っていたのか? 奴隷たちが可哀想だと思ったのか? フィオナのため? 自由を奪われそうになったから? 何か他にやりようがあったんじゃないか? なんのために慎重になり、フィオナに押し付けたのか。俺は主人公ではなく、モブキャラを目標にしていたはずだ。 明らかに主人公がやることを俺がやってしまっている。自分の考えていた事と、矛盾している行動。

 ……俺は気付かぬうちに冷静さを失っていたのか? ……わからない。


「……おかあさん! ねえってば!」


 耳に入る子奴隷の声。子奴隷の方を見ると、母奴隷に寄り添い泣いている。

 母奴隷は剣が刺さったままうつ伏せに倒れている。血溜まりができ、母の血で子奴隷の身体は赤く染まっている。


「……起きてよ、おかあさん……」

 俺は子奴隷に近付く。


「来るな! 私の母に近付くな!」

 俺が近付くのを察知して母奴隷との間に割って入ってくる。


「どけ」

 俺は子奴隷に雷魔法を使い、動けないようにする。


「……っ……母に……触るな……!」

 地面に倒れ込む子奴隷。

 俺は子奴隷を無視し母奴隷の前で座る。首筋に手を当て脈があるかを確認するが、心臓は停まっているようだ。

 生き返らせるかはわからないがやってみよう。 なにか、達成感が欲しかった。それだけの理由。


 背中の傷口に大量の魔力を流し込む。傷口は治る気配はない。やはりフィオナの時よりも数倍は魔力が必要か。自分の底の見えない魔力を全て使いきる勢いで注ぎ込む。

 膨大な魔力の放出により俺の手からは光を放ち始めている。これを見て、回復魔法は光魔法と言ってもいいのかもしれないな、と俺は考える。

 膨大な魔力に反応するように地響きがなり、一帯を轟かせる。


 ようやく、傷口が塞がってきた所で魔力の底が見える。目が霞んでくる。頭が痛い。気持ちが悪い。身体が異常を訴える。それを無視して注ぎ続ける。間に合え!


 最後の力を振り絞ると同時に俺の視界は真っ白になった。


 ……ふと、気付くと見覚えのある真っ白な空間にいた。またもや動けない。


「馬鹿かお前は」

 聞き覚えのある声。第一声は神様が言う台詞ではなかった。


「魔力が完全に枯渇していたら死ぬところだったぞ。お前には死なれては我の暇潰しがなくなってしまうではないか」

 そりゃ申し訳ない事をしたが、魔力が枯渇したら死ぬなんて聞いてないぞ。


「あれだけの魔力与えてやったのだから教える必要もないと思っていたんだが、まさかお前があんな事をするとは予想外だった。」

 気まぐれさ。人を生き返らせるかどうかも試してみたかったしな。


「……まず、お前には今後またこんな事をされては困る。先に忠告しておこう。人を生き返らせる事はやめろ。そして、慢心しすぎだ。」

 ……慢心?俺が?


「気付いてないのか? 今回、お前は何故あの領主に捕まる事にしたのだ?」

 そりゃあ、犯罪者になりたくなかったからだ。希望は薄かったが。


「希望が薄い。そんな僅かな希望にすがり付く必要はあったのか? お前にとってあの世界の魔法はまだまだ未知な物だ。もし、あの魔力を吸収する拘束具が壊せなかったらお前は今頃殺されていたぞ? 不意討ちをされたらどうする? お前は対応出来る自信があるのか? 我には愚かで軽率な行動をしているようにしか見えなかったぞ。」

 ……言い返せない。確かに俺は心のどこかで魔法、魔力に慢心していたようだ。馬鹿で愚か者だな俺は。


「我の忠告はここまでだ。お前の事を心配している人間もいるという事も知っておけ。さらばだ。」

 そう言うと、白かった空間は黒く染まっていく。

 俺を心配している人間? どこにそんな人間がいるんだ?


 何かが顔に落ちてくる。水? 雨か?

 身体が何かに包まれているように暖かい。


「ーー様! ーーコト様!」

 

 何かが聞こえる。

 重い瞼を開けると、フィオナが泣き顔が目の前にあった。


「マコト様!」

 安堵の表情を見せ、俺の胸に顔を埋める。


「……よかった! ……よかった!」


「……なんでお前がここにいるんだ?」


「女店主さんに聞いてすぐさまここに来ました……っ! あなたは馬鹿です!! 大馬鹿です!!」

 まさか元奴隷にも馬鹿扱いされるとは。

 ……女店主め。これじゃあ、俺のやった意味もなくなってしまうし、今以上に馬鹿扱いされてしまうじゃないか。

 

 しかし、フィオナの優しい愚痴は俺にとってなんだか心地よく感じた。


「……フィオナ、俺は下手すると犯罪者になってしまうかもしれない。それでも……ついてくるか?」

 この言葉は俺に言う資格等あるのだろうか。


「……っ……はい……どこまでもついていきます。」


 それからは、泣きじゃくるフィオナを宥め、服を着替える。地球から着てきたスウェット燃やし、逃げるようにフィオナと街を出る。領主が秘密裏にやっていたためまだ誰にも知られていない様子で、俺が発生させてしまった地響きで皆慌てていた。

 すぐにあの惨殺現場を誰かが発見し、騒がれるだろう。俺がやったと足がついてしまう可能性もある。充分に気を付けなければな。


 肩身が狭くなってしまったが、この世界はまだまだ俺の知らないことばかりだ。

 


 俺はこの世界を自由に生きたい。






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