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処刑執行 上

 

 足音で目が覚める。小さな窓からは光が射し込んでいる。やっと朝か……。

 昨日はずっと寝てたからか、身体がだるい。

 足音は立ち止まり、牢屋を開ける金属音と男と女の声。

 逃げ出した奴隷が連れていかれるようだ。次は俺か。ベッドに座りその時を待つ。


 再び足音が響き出す。今度は徐々にこちらに近付いている。そして、俺が入っている牢屋の前に私兵が止まる。


「時間だ。来い」

 俺はその言葉を聞き、意気揚々と立ち上がる。


「待ってました」


 俺の手首の拘束具に付いている鎖を私兵が掴み引っ張る。


「そう急かさないでくださいよ」


「……ヘールリッシュ様がお待ちだ。早く来い」


 建物を出ると、棒に縄をくくられている人が三人。 三人共何故か目隠しをされていて、一人はあの逃げ出した奴隷。それに向かい合うようにまだ若い男と三十代くらいの女が力無く首を垂らしている。

 そこから少し離れたところにたくさんの私兵達が整列している。


「どうだ? よく眠れたかね?」


 二人の私兵を連れて、ニヤついた顔をしている領主が話しかけてくる。


「ええ。お陰様でぐっすりと」


「ほう。まだその態度を取れる余裕があるか。貴様が死に様を晒したいと聞いたから、兵をかき集めてやったぞ。クックックッ……」


「光栄です」

 やはり馬鹿だったか。有難い。


「……これを見てもそんな事を言えるか?」

 領主が手を上げると同時に、けたたましい男の悲鳴。視線を悲鳴の方へ向ける。

 一人の私兵が濡れ衣を着せられたであろう男の太ももに剣を刺していた。男は痛みにより汗を大量にかき、顔を歪めている。急な悲鳴に驚いた奴隷と女はびくりと身体を震わす。


「愉快だろう? あの顔が堪らない」

 領主は心地よさそうな声で話す。


「もっと愉快なことをしてやろう」

 そう言うと領主が三人の間に立つ。そして、逃げ出した奴隷に付けていた目隠しを外す。

 逃げ出した奴隷は目の前の二人を見るなり目を見開き、叫ぶ。


「おかあさん!!」

 あの三十代の女は母親だったか。領主が面白い物と言っていたのはこれのことか。


「……その声は!? あなたも捕まってしまったのね……」


「……おかあさん……っ……ごめんなさい……」


「では感動の再開をした所で私を楽しませてくれ」

 再び領主は手を上げる。


「きゃあああああ!!」

 今度は母奴隷の太ももに剣を刺す。子奴隷は先程よりも大きく目を見開く。


「やめて……いや……」


 子奴隷は涙を流し、懇願する。


「貴様が悪いのだ。 貴様が逃げなければ母親はこうならなかった。」

 領主はまた手を上げる。


「……いやあああ!!」

 もう片方の太ももにも剣を刺す。

 子奴隷はそれを見て血の気が引き身を震わし、唇が紫色に変わる。


「わかっているのか? 全てお前が悪いんだ」

 領主は子奴隷の頬を叩く。子奴隷の顔が力無く横に垂れる。


「やめろ!!私の娘に手を出すな!お前は悪くない!そんな奴の口車に乗るんじゃない!」

 母奴隷が痛みに耐え叫ぶ。


「私の娘でもあるがな」

 あの子奴隷は領主との間に生まれた子なのか。


「お前になんか私の娘を渡すものか!!」

 必死に食い下がる母奴隷。


「ほう。よく吠える」

 領主は母奴隷の太ももに刺さった剣を掴み、傷を広げるように動かす。血が滴り、地面を濡らす。


「……ぐっ、うぅう……」

 顔を歪めせて、必死に痛みに耐える。


「痛いか? 痛いよな? クックックッ……」


「もうやめてください……。なんでもしますから……。おかあさんを苛めないでください……」


「ほう。なんでもか。では貴様がこの剣を使ってあの男を殺してみよ」

 俺と同じ境遇である濡れ衣を着せられた男を指差す。領主は私兵から剣を奪い、縄を切り、剣を子奴隷の前に置く。


「……私があの人を殺せば……おかあさんは……?」


「貴様の大事な母を助けられるかもしれないぞ?」


 目の前に置かれた剣に手に持ちゆっくりと立ち上がる。目には一切の光はない。

 そのまま剣を引きずるように歩き出す。


「止めなさい! そんなことをしても無意味だ!!」

 必死な母の説得は耳に届いていない。男の目の前に立ち、剣を持ち上げる。


「……ごめんなさい」


「おかあさんを助けるためなの。ごめんなさい。せめて楽に逝かせてあげるね」


「や、やめてくれ!」


「ごめんなさい」

 小さな声で謝り、ゆっくりと剣を振りかぶる。


 もういいよな。子奴隷と母奴隷は報いを受けた。もう俺の怒りの矛先はこいつらではない。助けるつもりはないが、この領主の好きにさせるのは許せない。


 俺に付けられている拘束具の鎖を持っている男の首を風魔法で斬り落とす。血が吹き出し、そのまま倒れ込む。


 この拘束具は魔力を吸収するようだ。しかし、俺の魔力は吸収出来る容量を越えたためかヒビが入り壊れる。


「な、なんだ?」

 倒れこんだ音を聞いて領主と私兵達は何の音かわからずどよめきが起こる。


 転移魔法を使い、奴隷達を背に私兵達の前に移動する。


「皆様、ご注目ください。ここでヘールリッシュ様開催の糞のような処刑を強制的に中止させて頂きます。」


「き、貴様! どうやって移動した!?」

 そう言って、突如目の前に現れた俺を私兵が皆、警戒し後退る。


「代わりまして、私の殺戮ショーをお楽しみください」


 言い終わると同時にいつもより魔力を込め、大体の首の高さに狙いを合わせ、大型の風の刃を繰り出す。

 私兵達は俺の大型の刃を避けられず、次々と首が落ちていく。最後まで威力は殺されず、塀にぶつかり音を立てて傷痕を残す。


「な、何事だ! 貴様! 何をした!?」


「さあ、なんでしょうか?」

 肩をすくみ、笑みを見せる。


 では、次は火炙りにしてやろう。掌を私兵達に向け、超大型の火炎放射器の要領で放出する。


「頑張って抵抗してくださいね」


 速度を保って火が私兵達を襲う。それに合わせ、私兵達が皆で水魔法を使い抵抗する。

 俺の火と私兵達の水がぶつかり合う。もの凄い熱をもった水蒸気が塀の中全体を覆い尽くす。ほんの少し先すらも見えない。

 俺は風魔法で強風を巻き起こし、水蒸気を吹き飛ばして視界が晴れさせる。

 視界が晴れると、私兵達は皆息を切らせていた。どうにか俺の火魔法を相殺したらしい。


「どうしました? まだ始まったばかりですよ?」


「な、なんだ貴様の力は!」


「あなたたちより魔力を持っているだけの事ですよ」


「あんな威力の魔法など見たことがないぞ!!」


「事実、出来るのだからしょうがないでしょう? え? もう一度見たいって? 仕方ないですね」


 先程よりも多く魔力を込めた火魔法を放つ。また私兵達は水魔法を使って抵抗するが、今回は水魔法の威力が足りなかったようでそのまま私兵達に直撃する。

 火が身体に移り必死に消そうとする者、呻き声をあげ火炙りにされている者、膝をつき息を切らす者が見てとれた。


 俺の火魔法が通った所は完全に焼け野原になっている。あんなに手入れされず、生えっぱなしだった雑草は見る影もない。


「どうだ? 見下していた馬鹿な愚民にやられた気分は? うん?」

返答はない。皆、自分が生きる事に必死である。


「無視はよくないな。」

風の刃で、目に入った私兵一人の首を落とす。


「聞こえてるかー? 自分より下の人間にやられた気分はどうだって俺は、聞いてるの」


 私兵の一人が必死に這いつくばりながら俺に言う。


「……た、助けてくれ! 俺は、領主に命令されただけ……」


 最後まで言わせない。風魔法で首を撥ね飛ばす。


「俺はそんな言葉を聞きたいんじゃない。命乞いは無意味だと知れ。確かに領主がほとんど悪いのはわかる。もしかしたら、ここに来るのが本当は嫌だったが領主の命令で仕方なく、という奴もいるかもしれない。しかし、この場にいる奴らは同罪だ。どうだ? 理不尽だろう?」

 俺は意地悪な笑みを私兵達に向ける。


「き、ききき、貴様! 私にこんな事をしてタダで済むと思っているのか!?」

 この状況を見てもまだ威勢が張れるのか。

 領主の膝は笑っている。何やら下半身も濡れていて、顔は鼻水で、より一層醜いになっている。


「ほう。もしこの場にいる人間、俺以外死んだらどうなるんだろうな」


「そんな事をすれば貴様は、この国、いやこの大陸中に指名手配されるぞ!」


「で、俺が殺ったという証言は誰がするんだ? 俺はここの人間を全員殺すと言っているんだぞ? お前らを全員殺した後に、俺が死んだように見せかけたら皆は誰を疑うんだろうな? 第三者の仕業にでもなるのかね?」

 まさに死人に口なし。


「き、貴様……! お前ら何をやっている! 何のために大金を叩いてお前らを雇っていると思っているのだ! 私を守れ! 私を逃がせ!」


「そうか。お前が威勢がいいのはこいつらのおかげなんだな」

 私兵全員を巻き込む威力の火魔法を放つ。私兵達は抵抗せずに、その場で小さく呻き声を上げ、火炙りになる。


「これで……」


「きゃあああああ」



 話の途中で後方から甲高い女の悲鳴が響いた。





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