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拘束

 

 目が覚める。部屋が薄暗い。早く寝てしまったからか日が出る前に起きてしまったようだ。二度寝しようにも目が冴えてしまっていて、二度寝も出来ない。どう時間を潰すか。

 上体を起こし、フィオナの寝ている布団を見る。フィオナは全身を隠すように掛け布団にくるまって寝ている。この間に奴隷の首輪を外しておくか。そう思い、フィオナの掛け布団に手を掛け、起こさないよう、静かに引き剥がす。


「……首輪を……外すんですか……?」

 フィオナは起きていた。寝ているものだと思い込んでいたため、少し驚く。


「……そうだ」

 俺はフィオナの首輪に手を掛ける。フィオナは特に抵抗する意思を見せず、俺の顔を潤んだ瞳、まるで捨てられた子犬のような瞳で見据えている。

 あれから寝ずにずっと泣いていたんだろうか。目は赤く腫れていて、頬には涙の後が見える。

 首輪はすぐに外れる。主人が外す意思を持って首輪に触れば外れる仕組みのようだ。随分と都合の良い首輪である。


「これで、お前は晴れて自由になった。泣くのではなく喜ぶべきだろう」

 ベッドに戻り、胡座をかく。


「……そうですね……」

 俺でなかったらまた奴隷市場に並んでいる可能性があるだろう。


「今日の朝、俺はこの宿を出ていく。それでお別れだ」


「……嫌……」

 か細い声。フィオナは布団を強く握っている。


「昨日言っただろう。もう用済みだ。お前に付いてこられちゃ困る。俺の事は忘れろ。」


「……っ……」

 嗚咽を漏らす。なんでこいつは出会って二、三日しかたっていない俺にこんなにも懐いているのか。謎である。

 私兵が来るのは早朝と言っていたか。早めに準備しておくか。そう思い、ベッドから立ち上がり部屋から出て女店主に会いに行く。


「おはようございます」


「……あんたか。説得は上手く言ったのかい?」

 女店主はカウンターに伏せて寝ていた。目にはうっすらと隈が見える。


「上手く言ったとは言いがたいですが、多分大丈夫でしょう。奴隷も開放しました」


「……そうかい。もうすぐ日が昇る。そしたら私兵が来るはずだ。それまでに準備しておいてくれ」


「はい。あと、わかっているかと思いますが、俺が捕まった事はフィオナには絶対に言わないでください」

 新しい奴隷というのが嘘である事がばれるし、自意識過剰かもしれないが、あの様子を見る限り俺が犯罪者になったとしてもついていくと言いそうな勢いだった。それだと、俺が最悪の場合転移魔法で逃げるとフィオナは考えて、同行すると言ってきそうだ。

 実験の為とはいえ、足も治して奴隷開放という自由になる権利まであげたのだから、俺のせいでまた縛られてしまっては意味がなくなってしまう。


「……わかってる」

 今の間はなんだ。本当にわかっているのか?


「フィオナに悲しい思いをさせたくないんですよね? 俺も悲しい思いをさせたくないから頼んでいるんです」


「ああ」

 その返事を聞き、では部屋に戻りますね。 と一言言って部屋に戻る。フィオナはまた布団にくるまっている。ベッドに座り今後を考える。


 さて、あとはどう切り抜けるかだ。領主は聞く限り、俺の見立て通り、立場に胡座をかいて、権力を盾に他を見下し、好き放題やっているようなやつというのは間違いないだろう。そんな奴に無実の証明など出来るのだろうか。 ……かなり、難しい。女店主が言っていたように無理矢理俺を犯罪者に成り立たせられるのが落ちだ。


 まずは様子見。何故俺に容疑がかかっているのか、それを知らなければならない。

 次に薄い希望を持って弁解してみる。成功すれば結果オーライ。

 それが無理だった場合、最終手段である転移で逃げる。これはあくまでも最終手段。犯罪者として生きるのはご免である。


 溜め息をつく。 ……何故俺がこんな事になっているのか。考えているうちになんだか腹が立ってきた。もう一層のこと力業で領主を脅した方が手っ取り早いのではないか。いや、しかし、俺の姿が見えなくなった所で何か仕掛けてくる可能性が充分考えられる。もし、国全体で指名手配されてしまったらさすがの魔力チートの俺でも厳しいし、やりたくない。


 そうこうしている内に、日が昇ってきたのか。部屋が明るくなり始める。窓の外を眺めると今日の空は分厚そうな雲が街全体を覆っている。この世界に来て初の雨が降りそうだ。一層、どんよりとした気持ちになる。


 再び溜め息をつく。昨日今日で何回溜め息をついたか。

 そろそろ下で待機していた方が良いか。そう思い、服の入った袋を持ち部屋を出ようと扉のノブに手を掛けた所で弱々しい小さな声が聞こえた。


「……行ってしまうのですか?」


「ああ」


「……私に何か隠していることがありませんか?」

 鋭いな。いや、俺が態度に出しすぎたか。


「なんでもない。お前には関係ないことだ」

 そう。関係ないことにしておかないと意味がない。


「私は今、マコト様の奴隷ではありません。そして、マコト様は自由にして良いと言いました。では私は自由にさせてもらいます」

 そう言ったフィオナはがさがさと物音を立てる。何をやっているのかと思い振り向いた瞬間、身体が暖かい物に包まれる。


「……何をしている」


「……ついていきます」

 顔を俺の胸に埋めているフィオナ。


「駄目だと言っただろう」


「私の自由です」

 俺の身体を強く抱き締める。


「足手まといはいらん」


「私は私で生きます。マコト様が私を気に掛ける必要はありません。たまたま行くところがマコト様と一緒というだけです」

 それは俗に言うストーカーではないか。


「それは駄目だ」


「何故ですか? マコト様には転移魔法があります。私から逃げれば良いではありませんか? 私はそれをどうにかしてでも追います」

 もし、俺がフィオナに言ったことが本当ならばそう出来る。しかし、事情が違う。


「私はあなたと離れたくありません。私はあなたと旅がしたい。私は……この三日間夢のような楽しい生活でした。私……は……もう一人には……なりたくありません……。わた……っ……」

 段々と抱き締める腕の力が強くなる。こういう時、どう言ってやれば良いのか俺にはわからない。

 もう方法はこれしかない。フィオナの背中に手を当てる。フィオナはびくりと身体を震わす。

 スタンガンの要領で動けなくなる程度の威力の雷魔法をフィオナに放つ。

 フィオナは足に力が入らなくなり、下にずり落ちていく。


「マ……コト……様……」

 身体に力が入らないだろうフィオナを布団に寝かせる。


「じゃあな。俺もお前を買って……」

 いや、これ以上は言ってはいけないな。そのまま、部屋を出る。


 階段を降りた所で、女店主が鎧を纏った人と入口で何かを話していた。


「来たか……」

 女店主は俺に気付くと同時に話していた鎧の人がこちらを見る。いきなり拘束されないのは女店主が投降の意思が俺にある、と伝えてくれたからであろうか。領主の私兵は女店主を退き、俺の前に立ち、口を開く。


「ハウネス・ヘールリッシュ様の命により、お前を拘束する」




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