ゴブリン
フィオナと共に街を出て、整備された道をひたすら歩く。依頼内容はゴブリン退治。依頼主はギルドである。
ゴブリンがこの道に出没するようになったためだそうだ。こういう整備された道は目撃情報を元にこうやって依頼として定期的に魔物を退治しているらしい。 だから、何体倒しても構わないということだった。
魔物は繁殖力が高い事が多いためで全て倒すとなるとキリがないそうだが、あまり近付いては来なくなるなので、やらないよりはマシらしい。なので、 少なくとも俺が歩いていた道なき道よりは、他を通るよりは安全な道であるみたいだ。
ギルドで書いていた用紙に何を書いたか少し気になったため、フィオナに聞くと名前や出身、魔法が使えるか、使えるなら苦手属性を書く欄があったそうだ。
そのついでにフィオナの魔法について聞く。よく使うのは水魔法。火魔法、光魔法が苦手だそう。光魔法についても聞くとやはり回復魔法の事だった。
俺の場合まだ魔力の底が見えた事はないが、この世界の平均的な魔力量がわからないためフィオナがどれほど魔法を使えるかわからない。
「それで、ゴブリンってどんなやつなんだ?」
「緑色の皮膚で、人型で二足歩行。大きさはそうですね……、私より少し小さいくらいでしょうか?」
俺の身長は175センチ、フィオナの身長は150センチ程だ。てことは、140センチくらいか? 大きさで言えば人間を相手にするのとあまり変わらんな。
「知能はそこまで無く、力もそこまで強くないですが、簡易な武器を持っています。あとは集団で生活をしている事が多く、集団に襲われると厄介な魔物です。集団同士で縄張り争いなどもするらしいですが。どことなく人間に似てますね」
フィオナはクスリと笑う。後ろから武器で頭をガツンとやられたらヤバいからな。
「そうだな」
居場所を求め争う。動物の本能。弱肉強食の頂点に立つのは人間であるが、唯一天敵の動物が居る。それは同族のはずの人間だ。身内で殺し合い、蹴落としあい、貶め合う。いくところまで行けば人類を滅ぼすのは人類自身だと俺は思っている。
なんて、今の俺にはどうでも良い、くだらない事だと頭から捨てて、ゴブリンを探す。
道の途中、馬車を引いている人達とすれ違う。三人が馬車を囲んで歩いている。受付嬢が話していた護衛をやってると思われる。依頼を受けるのは良いが馬車に乗せて欲しいところだな。それじゃあ、警護にならんか。
そうこうしている内に、俺たちが歩いている整備された道を横断する目当てである三体のゴブリンと出くわす。
フィオナの言う通り緑色で二足歩行、手には石や木の棒を持っている。なんていうかキモい。
顔は凶悪面、 落武者を連想させる髪型、腹だけが異常に出ていてその他はガリガリである。ゴブリンは俺達に気付くと各々に武器を構えジッとこちらを見つめる。さて、どうするか。
「フィオナ、何体やれる?」
「私一人で充分です。マコト様はここでお待ちを」
そう言うと同時にフィオナはゴブリンへ駆け出す。身体強化をしているため、異常な速さでゴブリンに詰め寄っていく。
一体のゴブリンが異常な速さで近付いてくるフィオナに狙い澄まし木の棒を降り下ろす。しかし、フィオナはそれを読んでいたのか、身体を捻り避け、そのまま懐に潜り込みゴブリンの腹に拳を突き刺す。
何かが破裂したような音が周辺に響き渡る。ゴブリンは唸り声を上げ、身体はくの字に曲がる。その後ろから二体目のゴブリンが石で反撃を試みようとしている。それをフィオナは後ろ回し蹴りで吹き飛ばし木に激突させると、ゴブリンはその衝撃でぐったりと倒れ込む。
三体目のゴブリンは一瞬で二体の仲間がやられた事に驚いたのか背を向け逃げようとするが、フィオナはそれを見逃さなかった。水魔法で細く長い槍を瞬時に作りそのゴブリン目掛けて投げつけると身体を貫通しその場で崩れ落ちた。
凄いなおい。全員一撃で一瞬の出来事。俺いらないな。
フィオナは全く息を上げることなく笑顔で手を振り俺の方へ戻ってくる。
「終わりました!」
「お見事。凄いな」
もしフィオナと肉体のみで戦う事になったら俺には勝てそうもない。
「んふふ。実は私、魔法より体術の方が得意なんです!」
凄く嬉しそうに話す。そんなゴブリンを倒せた事が嬉しいのか。それとも暴れられたのが嬉しいのか。
「次見つけたら俺がやるからな」
これでフィオナは銅貨九枚手に入れた事になった。 俺の分も稼がなくては。
「はい!では、耳取ってきますね!」
なんかやたらテンション高いな。
次にでくわしたのは二体のゴブリン。それを瞬時に風魔法で首を飛ばし、耳を回収。風魔法便利すぎる。
「なんで、そんな風を圧縮出来るんですか……?」
「普通は出来ないのか?」
「出来ません。出来て肉をえぐるくらいです。風魔法は皆、牽制程度にしか使いません。マコト様の魔力量はおかしいです。もはや別魔法と言っていいと思います」
まあ、確かにこの世界の人間が目視しづらい事が利点であるこの風魔法の威力が俺くらいだったとすると大変だな。暗殺にもってこいだろうし。
「だがな、フィオナ。俺は体術については素人だし、武器なんて持っても使い方すらよくわからない。この魔力がなくなったらすぐ死ぬ自信があるぞ」
胸を張りどや顔してみせる。使えなくとも武器は威嚇として欲しい。
「そんな所に自信を持ってどうするんですか……。」
ドヤ顔をする俺を見て呆れた表情をするフィオナだった。
その後、二人で交互にゴブリンを倒していき、フィオナは十五体、俺は十体で合計二十五体分のゴブリンの耳を手に入れる。その頃には日が落ち掛けていた。
「さて、そろそろ帰るか」
暗くなる前に戻ろう。
「ですね」
フィオナは満足した様子で答える。
フィオナは愉しげに戦う姿はまるで戦闘狂であった。張り切りすぎていた気もする。
今後を考えて金を稼ぐというのも良いが、俺のためにも無理はしないで欲しいところなんだが。隙をつかれて即死……なんて事がないようにしてくれよ。俺の回復魔法がどこまで万能かはわからないんだからな。
こうして、街に戻る。俺はニート宣言したからギルドに入りづらかったので、外で待機。フィオナに村で貰った布袋を渡し、ゴブリンの耳を売りに行ってもらう。
フィオナは俺の所へ戻ってくると、袋を渡してくる。
「銀貨七枚と銅貨五枚です。少しギルドに人に驚かれてしまいました」
さすがに短時間でやりすぎたか。
「まあ、いいんじゃないか? フィオナはそれ以上の実力あるしな」
そう言い、袋から銀貨六枚と銅貨五枚を取りだしフィオナに渡そうとする。
「いりません」
「なんでだ? 朝言っただろう。お前の取り分はお前のだ。取っとけ」
「いえ、私は取り分に承諾した訳ではなくやり方に承諾しただけです」
ここでごねてくるか……。どうにか言いくるめたいが……。
「それに私がこのようなお金を手にいれても使い道がありません。なのでマコト様はお金に困らず、私を最低限の生活させて頂ける事へのお金の足しにしてください」
「そこまで言うならわかった。じゃあ明日はこの金で買い物に行くぞ」
「……? はあ、構いませんが、何か欲しいものでもあるのですか?」
フィオナは俺の脈略の無い唐突な申し出に戸惑いを見せる。
「まあな」
間違ってはいない。俺の欲しいものでもあり、強情なフィオナのための買い物に行くのである。
話を終えて、宿に戻る。女店主に明日の朝食はいらない事を伝えると、代わりとして二人分の夕食を提供してもらいフィオナと夕食を食べて床に就いた。