生き方
ギルドで鳴っている鐘の音で目が覚める。今日も快晴で日の光が部屋に降り注ぐ。
目を横にやると、フィオナ布団の上で正座をしていた。
「何してるんだ?」
「あ、おはようございます。マコト様。何をしてるとは?」
首を傾げるフィオナ。
「朝っぱらから正座なんかして、何かあったのか?」
「ああ、いえ。マコト様が起きるのを待ちながら瞑想をしてました」
「瞑想?」
「はい。歩けなくなる前は朝の日課だったので、久しぶりにやろうかと」
フィオナは微笑みながら言う。瞑想って胡座かいてやるものだった気がするが、この世界ではそうなんだろう。
「そうか。腹は減ってるか?減ってるようなら下で店主に朝食を作って貰うよう言ってきてくれ。まだ、それやるなら俺が行くが」
「マコト様は?」
「俺は腹減ってないから、いい」
物凄く空腹だが、我慢。
「マコト様、朝御飯はしっかり食べてください」
「あとで腹が減ったら食べる。フィオナは先に食べてくれ」
「なら、私もマコト様のお腹が減ったら食べます」
なかなかの強情さだ。
「フィオナ、お前は病み上がりだ。まずは自分の身体の事を考えろ。お前に元気になって貰わなくなくては俺が困る」
「し、しかし……」
フィオナは食い付く。
「良いから。な?」
「わかりました……。では頼んで来ます」
奴隷精神溢れる奴だな。
少し残念そうな顔をするフィオナは、立ち上がりまだ不安定足取りで部屋を出ていく。昨日より顔色も良いし、やる気に溢れてる印象を受ける。表情も心なしか柔らかい気がする。良い傾向だ。あとは少し肉を付けてもらいたい。あれでは、動いてもらいたい時に動けない可能性がある。
服も買ってやらないといけないな。あんなボロボロの布切れみたいな服でずっといさせるのもきついだろう。今は金ないけど。それとそろそろ服を洗いたい。新しい服に着替えるか迷う。
そんな事を考えながらベッドの上でボーッとしてるとフィオナが部屋に戻ってきて、頼んできました、と先程と同じように布団に座る。
「それで昨日マコト様が言っていた、私がギルドに登録するというのは……?」
「そのままの意味だぞ。俺の代わりにフィオナに登録してもらう」
最初は俺自身が仕方なしに登録する予定だったが、フィオナに頼んだ方が都合がいい。
「何故、私が……?」
「俺は表舞台には立ちたくないからだ。当事者より裏方の方が好きなんだよ」
俺は今テンプレファンタジーで生きている。しかし、いくらテンプレ的チートを持っていようが、ラノベによくいる正統派主人公にはならない。これは別に正統派主人公が嫌いという訳ではなく、俺自身がその生き方をするのが嫌なだけ。
今回はフィオナが主人公になってもらい、俺は補佐をするモブである。
人目を避け裏で生きる。裏方というより中立。
自分はいつでも逃げられる道は確保し、他力本願である。それが俺のモットーであり、生き方だ。 フィオナのような奴隷を使えば俺は目立たなくて済み、フィオナはフィオナで俺の力を利用出来る。うまくすれば名声を手に入れられるかもしれないし、お互いにデメリットはないだろう。
「は、はあ……」
呆けた顔になるフィオナ。
「簡単に言えばお前が俺の代わりに名を残してくれって事さ」
「わ、私が? そんな、無理ですよ!」
「大丈夫。厄介な物は全て俺が引き受ける。功績は全てフィオナの物だ」
「何故そんな回りくどい事を……? マコト様なら転移魔法だけでも有名人どころか国の特級魔法師にもなれるはずです!」
「特級魔法師だかなんだか知らんけども、俺は名誉も功績も興味ないんでな。さっきも言ったが、俺は注目されるのは嫌いなんだ」
人は勝手に理想を抱いて勝手に失望する。 そういう目線が一番嫌いだ。 そんな不条理は他の奴に押し付ける。俺は平凡に過ごしたいのだ。
「私も名誉や功績はいりません。今以上の事も望みません。昨日、私はマコト様に利用されるのは構いませんと確かに申しました。ですが、こういう事は自分自身の力で掴まないと意味ないと思うのです」
充分構ってるじゃないか。このメリットしかない交渉が決裂するとは予想外だ。
一生奴隷に戻らなくても良い、きっと俺の力を使えばそんな未来がほぼ確定するはずなのに。
「じゃあ、こうしよう。ギルドに登録して貰うのはフィオナだ。それは変えられない。だが、俺はお前の力量に合わせてついていく。そして、自分の分だけ稼がせてもらう。お前はお前で自分で稼げ。例えば、魔物を狩りに行くにしても一匹や二匹増えるくらい変わらんだろ?」
「……私の取り分はマコト様の物だと思うのですが」
「フィオナが稼いだんだ、好きなように使えば良い。自立出来るようになっとけ。正直俺は飯さえ食えて、いろんな所に行ければそれで良い。表面上は俺の旅に同行する奴隷。これでどうだろう?」
「自立……。本当によろしいのですか?私は奴隷ですよ?ギルドに登録する奴隷など聞いたことがありません。普通は主人が登録して奴隷にやらせます。勿論、功績は主人の物です。別の意味で注目を浴びそうです」
「本当は首輪を外してやりたいがそうもいかんからな。そこは妥協するさ。お前と俺の繋がりと言って良いからな。世の中物好きはいるだろ? その一人が俺ってことさ」
「……わかりました」
首輪を細い指でなぞりながら小さな声で承諾する。
良かった。交渉成立。
「それじゃあ、フィオナ朝食食べてくれ。その後すぐにギルドへ行く」
「……はい」
なんでそんなテンションが低いんだ?
フィオナが朝食を食べ終わり、そのままギルドに向かう。フィオナに服屋で買ったフード付きマントを着させ、身体強化は禁止した状態で足のリハビリのためにも歩いてもらう。フィオナは俺の服の袖口を掴みゆっくりと歩き、俺もそれに合わせる。
半分くらい来た所で、フィオナの額から汗が滲み出て少し息を切らし始めていた。
「大丈夫か?」
「は、はい。服を掴んでしまって申し訳ありません……」
「気にするな」
端から見たらこの状況どう思うだろうか。苛めてる? 寄り添ってる? 引きずってる? ともかく目線が痛い。
「少し休憩するか?」
「いえ、大丈夫です」
全く大丈夫に見えないんだが。本当に強情な奴だ。丁度ベンチのような物が見える。
「あー、腹減って来たな。朝飯食べるかな」
「え?」
「我慢出来ん。御飯買ってくる。お前は椅子に座って待っててくれ」
そう言ってフィオナを肩に担ぐ。
「えっ、ちょっ! マコト様!?」
「暴れるな暴れるな」
ベンチのような物に座らせ、そこで待ってろ、と言い放ちその場から離れる。
香ばしい匂いが漂ってきている方向に向かい適当な露店を探す。
「今ならホワイトウルフの串焼きが焼きたてだよー!」
そんな女の人の声が聞こえたので、声のした方へ行く。おばちゃんが焼鳥みたいなのを何本も焼いている。匂いで腹が鳴る。あれにしよう。
「おばちゃん、一本いくら?」
「銅貨一枚だよ!」
「じゃあ三本ください」
銅貨三枚を取り出しおばちゃんに渡す。
「はいよ! 毎度あり!」
両手で三本受け取る。そのままかい。
両手が塞がったまま一本目を食す。
熱々で油が滴る肉、甘辛いタレが塗ってある。見た目通り味は焼鳥だな。まさかこの世界で食べれるとは思わなかった。なかなか旨い。食べられるようならフィオナにも一本やろう。そう思い、残りの一本を歩きながら完食する。
フィオナの所に戻るとちゃんとベンチに座り待っていたが、何故か頬を膨らませていた。
「お待たせ」
「お待たせ、ではありません!」
「何を怒ってるんだ?」
「いきなりああいう事をするのは止めてください!」
怒ってるからか顔が少し赤い。
「まあまあ、そんな怒るな。これやるから」
残り一本の串焼きをフィオナの顔の前に差し出す。
「……」
フィオナは無言で串焼きを受け取る。
朝飯食べたのにまだ食べられるのか。まあ食欲があるのは良いことだ。これでご機嫌を取れるといいんだが。
「さて、行くか」
少し寄り道をしたが、再びギルドへ歩き出す。