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少年Aの異世界漂流  作者: 樹実源峰
第一章 第二部 冒険者ヤンシング編
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第八話 少年Aと冒険者デビュー

「ヤンシング様、昨日はお楽しみでしたね」


「は?何を言っているんだ?」


「ほら、昨日部屋でガタゴトやっていましたし」


 ニコニコと笑いながら全てお見通しですよとばかりに笑う宿の主人にそう言われて、昨日あった事を思い出す。

 昨夜、冒険者用の宿とギルドに紹介されたこの宿に、とりあえずしばらくのところ宿泊する事にしたのところ、六人部屋をあてがわれたのだ。実のところ、この宿が冒険者用とされているのには理由がある。


 まず、一つめは宿泊費用の安さである。これは駆け出しの冒険者にとって大変助かるものだった。やはり、冒険者になったとは言え、皆が皆資金潤沢で訪れている訳ではない。なかには病むに病まれぬ家庭の事情で冒険者を始めた者もいるくらいだった。やはり、そう言った人々にとってはお金をできるだけ節約する傾向にあり野宿などして野党などに身ぐるみを剥がれる事だって珍しくはないのだ。


 二つめとしては、部屋で六人部屋であるという事。実のところ、冒険者は複数人からなるパーティーがあり、そのパーティー単位でクエストを受けるのだが、そのパーティーの上限が六人なのである。そのため、この宿は敢えて部屋を六人部屋にし、初心者同士心通わせ合う事によって信頼できる仲間を得られる、という仕組みが成り立っているのだ。無論、人には相性というものがあるため中には険悪になるものもいるが、そういったものは部屋を移る事もでき、そこで新たな仲間を捜す事もできるというわけだ。


 さて、ここで問題だったのは、昨日から宿泊を始めた二人にとっては恐らく不幸な事に現状六人部屋に空きはない状態だったのだ。しかも、険悪さはまるでなく、どの部屋も固い絆で結ばれたパーティーの部屋となっていたのだ。そのため、二人が宿泊する事になった部屋は二人だけとなっているということだった。

 ちなみに部屋には2段ベッドが三つに宝箱が六つ置いてある。2段ベッドなのはスペースの関係上であり、宝箱は個人用の大切な物を仕舞う為のものだ。宝箱自身は部屋の床に固定されている為に持って行くことはできないし、それぞれに貸し与えられる鍵があるため安全である。

 そして、昨夜は部屋に二人しかいない事をいいことにアンジェラが慎也のベッドに潜り込もうとしてきたのだ。『添い寝は従者のつとめです』と豪語する彼女をベッドから蹴り落とすが、その度にめげずに上ってくるのでこちらも再び蹴り落とす・・・という攻防が展開されてそれが『ガタゴト』に結びつけられたのだろう。

 余談だが、ついにキレた俺はアンジェラの体を動かないようにして手を後ろ手に縛って下のベッドに転がしておいたのだがいつの間に起きたのか隣で寝ていた。なまじっか顔が良い所為で俺の脳裏に般若を背負った春香が登場したため本当に心臓に悪かった。


「・・・いや、あれは別の音だがまあいい。出かけてくる」

「おや、連れの女性はどうなさるので?」

「部屋に転がしてある」

「・・・へ?」


 間抜け顔の主人をその場に残して俺は宿から出た。雲一つない空に昇る太陽がまぶしく、目を細める。


「・・・しかし、綺麗な空だ」


 そう独り言ちて歩を進める。向かうはギルドである。


「らっしゃいらっしゃ安いよ安いよ〜」


 そういって客寄せをする老人が開いてる露店の商品に興味を持ち立ち止まった。ずらっと並ぶ剣や槍などの武器。そこには異世界の魅力がつまっているような気がしたのだ。と、そこでふと一つの武器が目に入った。それは一振りの日本刀であった。簡素な塚と漆黒の鞘をもつソレは、何故か俺の目を強く引きつけるので、思わず立ち寄ってしまった。


「んぉ?アンタ、冒険者かい?」


 近づく俺をその目に認めたのか老人がこちらに目を向ける。その老人はひどく貧相な身なりをしていた。まとっている服はすこしすれており年季を感じさせるし、どこか全体的に薄汚れているからだろうか。なぜかそう言う印象を受ける。


「あぁ。俺は冒険者だ。ただ、なりたてだがな」

「ほう、そうかそうか。それで、アンタの目に叶うものでもあったのかい?」

「・・・そっちの刀をみせてくれ」


 そう言った俺を一瞬老人は怪訝な顔で見たがすぐに接客スマイルのに隠れた。まあ、俺は気付いたが。


「どの刀じゃ?」

「それだそれ。そこにある黒い鞘のやつだ」

「・・・ほれ」


 そして、俺は老人に手渡された刀を鞘から抜く。その鞘から現れた刀身は鞘と同じく黒であり、同時に透明性も持っていた。例えるなら黒い水晶の剣・・・だろうか?そこからはそこはかとない『力』のようなものを感じた。


「ふむ・・・、なかなか良さそうな刀だ。これをもらうぞ」


 と、そう言って視線を老人に戻した俺は、疑惑の目を向けている老人と目が合った。しかし、目が合っても尚老人はその疑惑の目を隠そうとせず、寧ろ強く見て来た。


「なんだ?俺の顔になんかついてるのか?」


 そう言った俺に対し、老人は重苦しく口を開いた。


「アンタは、その刀を知っておるのか?」

「は?どういうことだ?」


 そんな風に答える俺をみて老人は俺が本当に何の事か分からないのが分かったのだろうか、疑惑の目を少し和らげる。


「黒刀ノワール。この名前に聞き覚えは?」

「ないな。それがどうかしたか?」


 俺が少しイライラしてそう問いかけると老人は苦笑した。


「伝説の武器の名だが知らんか?」

「生憎と記憶喪失なものでね」

「ほう・・・、それは知らずとも道理かの」

「それがどうかしたか?まさかこの刀がそうとでも言う気か?」

「その通りじゃ。・・・その刀こそ黒刀ノワール。かつて英雄が振るったと言われる刀での。十五分に一度使える特殊攻撃の『漆黒の死(ブラック・エンド)』は負の力で相手の心に深いダメージを負わすことができる」

「・・・はン、ジジイ、嘘はそこまでにしとけよ。そんなモンをどうしてアンタが持ってるって言うんだ」

「・・・ま、それは言えんの。流石に儂はもう世と関わりたくないのでな。老骨は去り、若き者たちが道を切り開くべきじゃろう」

「どうせ、そうやっておだてて俺に大金を吹っかけようってことか」

「否。そうではないな。この刀の所有者となれるべき者を探しに来た儂はその刀だけは売らぬ。譲るだけじゃ」


 その老人の言葉に俺はすっと目を細くした。相手が嘘を言ったらすぐに分かるように。


「だいたい、伝説の武器の所有者をそう簡単に決めちまっていいのか?というか、そう簡単に決まるのか?」

「それは大丈夫じゃ。その刀は正統なる所有者となれる資格を持つものに所有されるまで他のものには見えぬのでな。見えた時点で資格はあるのじゃ」

「・・・じゃあ、どうしてアンタは見えるんだよ?」

「これはやられたの・・・。ふむ、まあそれには答えるしかあるまい。それはの、その刀の前の所有者が儂であるだけの話じゃ」

「・・・ジジイ、まさかアンタ・・・」

「おっと、お喋りの時間はここまでじゃ。役割を果たした老人は去る事としよう。では、汝の道の先に光りあらん事を」


 そう言って老人はぱちんと指を鳴らす。すると、老人と、その露店の商品がすぅーっと次第に消えて行った。後には俺と刀が残された。


「・・・どうなってやがるんだ?」


####


 数分後、ようやくギルドへ俺はたどり着いた。尚、先程の刀は腰に差してある。日本人であるからかなんか落ち着く気がする。

 そして、酒場のような喧噪に顔をしかめつつ奥野カウンターまで行き着くとそこには昨日とは違う受付嬢がいた。一見すると中学生くらいの背丈で顔も童顔な少女とでもいうべき受付嬢だった。この若干暗いギルド支部でも目立つピンクの髪が印象的だった。


「昨日登録したヤンシングだ」

「あ、はい。少々お待ちください」


 そういって一旦奥にひっこみ、彼女が持って来たのは文庫本くらいのサイズの薄いカードのようなものだった。おそらく、これこそがギルドカード。


「では、ギルドカードについての説明をします。えと、冒険者は通常六つのランクに分けられています。上からABCDEFです。たかければ高い程難度の高いクエストが受けられ、その多大な報酬を得られると考えられて結構です。そして、このギルドカードは所有者のランクを見極めて自動的に色が変化します」

「ん?自動的に色が変化?それってかなり貴重な道具なのでは・・・」


 大概、ゲームなどでこういったものはレアリティが高いものだ。それを彼女に尋ねると


「はい。たしかに、これは神業級ゴッズのアイテムですが量産できるんです」

「量産?」

「はい。・・・もちろん神業級ゴッズのアイテムなのにこのアイテムだけは量産が可能なのです。・・・それで話を戻しますと、このギルドカードは所有者の実力を見極め、緑、青、赤、銅、銀、金の色に変化して行きます。これに対応するのは、緑の方からE,D,C,B,Aですね。では、所有者登録を行います。このカードに触れてみてください」


 そういわれ、カードに触れてみると次の情報が出て来た。



名前:シンヤ・アメカワ

性別:男

種族:人間

年齢:17歳

出身地:不明

職業:冒険者(剣士)

所持金:6,784,000C

登録称号:ー



「なんだこれは?」

「それが貴方の情報になります。また、この情報は開示されてどなたにも見れるようになっています。・・・偽名を登録したいならその名前を思い浮かべると変更されます」


 そのまま頭で『ヤンシング』と思い浮かべると、名前の項目のところが変更された。


「そして裏にはステータスが表示されて、自分の能力を見る事ができます。こちらは任意で他人に見せられます」


 そして裏には次の情報が書かれていた。



Lv.1

HP:42/42

PP:60/60

ATK:39(195)

DEF:21(28)

AGI:27(44)


装備品:冒険者の帽子(DEF+3)

   :冒険者の服(DEF+4)

   :俊足の靴(AGI+17)

   :黒刀ノワール(ATK×5)


特殊能力スキル】:『近神者』(パーフェクト)-{スロット1}


称号:異世界人・人殺し・シスターの主人・近神者・悪魔



 ATKは攻撃力、DEFは防御力、AGIは敏捷力というところか。しかし、称号欄の人殺しって・・・もう少しオブラートに包もうとは思わなかったのだろうか?あと、MPが多い。普通HPとMPて同程度じゃないのか?この世界では違うのであろうか?


「それでどうなさいます?クエスト受けて行かれますか?」


 そう言う彼女だが、受けてみたいのは山々だがもう一人のパーティーメンバーのアンジェラがいないのだ。・・・置いてくるのか悪手だったか?


「あ、どうするんですシンヤ様?私はいつでもどこでも絶好調です!」

「・・・え」


 チラッと後ろを、向くとアンジェラがいた。・・・ありえない、今回は後ろ手に手を縛るだけでなく足もしばり、猿ぐつわを噛ましてきたというのに。・・・どうしてなんだ?


「ふふーん、シンヤ様が困る予感がしたので『神の導き(ガイダンス)』で抜け出してきました」


 こいつの能力は万能か?人を助けるという観点において。

 だが、まあ・・・しゃくだが、困っていたのでそこは追求せずに受ける事を決定した。


「とりあえず、ゴブリン討伐なんかは・・・」

「へ?いきなりですか?」

「シンヤ様を侮辱なさらないでください。ゴブリン討伐なんてシンヤ様にとって・・・」

「お前は黙れ」


 俺のリクエストに疑問を感じたらしい受付嬢につっかかるアンジェラ。・・・うざいことこの上ない。

 さて、受付嬢の懸念も分かる。だいたいは採集系のクエストで体を馴らせてから討伐系に踏み出すのだろう。・・・まあ、俺に限って必要あるまい。いざという時は『近神者パーフェクト』がある。


「まあ、腕には多少自信があるからな。この前も・・・アンジェラあのモンスターの名前はなんだったか?」

「あのモンスターですか?」

「この前の酢豚にしたやつだ」

「ああ。アングリーピッグですね」

「え!?アングリーピッグですか!?」


 ふむ、アングリーピッグというのかと思った俺と同時にそう叫び声にににた声を上げる。受付嬢。なにかあったのだろうか?


「アングリーピッグってゴブリンよりも強いじゃないですか!!それが本当ならギルドカードの色は緑じゃないですよ!!」


 一週間も経たずに倒せたからそんな強くもないと思っていたがここまで驚かれるとは。・・・異世界人補正というやつだろうか?

 さて、それはそれとしてギルドカードをとりだすと、その色は確かに変色していた。


「そうです、そうです変色してるじゃないですかって銅!?アングリーピッグなら青のハズですよ!?」


 そう言われて思い出すのはあの下衆ども。・・・ああ、ムカムカしてきた。


「・・・賊を殲滅した事もあったからな」

「殲滅!?ってことは複数相手ですか!?期待のルーキーじゃないですか!!」


 ぎゃあぎゃあ騒ぎ立てる受付嬢の声が耳に入ったのか、視線を感じる。・・・イライラが募って来た。


「ふぅん、銅ってことはCランクだったか。じゃあ、そのランクのクエストを受けよう」

「あ、はい。どれになさいますか?」


 そう言って彼女はCランククエスト一覧と書かれたファイルを取り出し、俺に渡す。俺はそれをぱらぱらとめくったところ、良い依頼を見つけた」


「とりあえず、このサラマンダーでいいか」

「はい、お願いします!!」


 その後、俺はサラマンダーの討伐におもむいた。全身が燃えているので、火を消したらどうなるのだろうかと思い、首から下を酸素0の空間にすると炎は消えてすぐに絶命した。ヒ◯カゲみたいだな、と俺は思った。

アンジェラのステータスのせときます。


名前:アンジェラ

性別:女性

種族:森林種エルフ

年齢:185歳

出身地:エルフリア森林国

職業:シスター


Lv.5

HP:83

MP:60

ATK:12(17)

DEF:16(46)

AGI:18(56)


装備品:風の護符(DEF+14,AGI+20)

   :王家の指輪(DEF,SPD×2)

   :木の弓(ATK+5)


【特殊能力】:『神の導き』


称号:一途なるもの・悪魔の従者

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